兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ

文字の大きさ
上 下
39 / 58

京都旅行がタノシスギル件−危−

しおりを挟む
二泊三日の京都旅行当日。
行きの新幹線の中で、あたしと早月くんは目の前の光景に思わず唖然と口を開いた。

「……」

「はい、健くん。あーん、」
「や、自分で食べるからいいよ」
「やだぁ。そんなこと言わないで。あたし悲しくなっちゃう~」
「あぁわかったわかった、」

この席は、兄貴が手配してくれた指定席。そして目の前には、新幹線に乗る前に皆で買った駅弁。
あたしと早月くんが隣同士に座っていて、その前にあたし達と向かい合う形で健と玲香ちゃんが並んで座っている。
だけど、玲香ちゃんはどこにいてもやっぱり玲香ちゃんで。
他のお客さんに見られていようが、健にさっきからずっとべったりだ。
まるで二人だけの世界。
こっちを見ようともしない。
そんな様子にさすがの早月くんも圧倒されているようで、隣にいるあたしに言った。

「…何か、話で聞いてたよりも……だいぶスゴイね」
「でしょ?たぶん旅行中はずっとこんなだよ。玲香ちゃんは健が大好きだから」
「…へぇ」

そしてそんな会話をさりげなくしている最中も、玲香ちゃんは満面の笑みで健にべったり引っ付いたり、窓の外の景色で何かを見つけてははしゃいだりしている。
健は健で一応こっちを気にしてはいるけど、結局玲香ちゃんのペースに巻き込まれてるし。
そんな二人を呆れながら眺めるあたしの横顔を、早月くんが切なく見つめていたことに気づかずに、その後もしばらく新幹線に揺られ続けた…。

…………

その後、数時間くらい新幹線に乗って、目的の京都駅に到着したのは昼過ぎだった。
兄貴が予約してくれたのは旅館で、どうやら駅からほんの少し離れた場所にあるらしい。
とりあえずは先に荷物を置いてから、皆で観光に行く話をして、バスに乗って移動した。
しかし、移動したそのあと。

「ね、部屋わけどうするの?」

その旅館にようやく到着して、チェックインを済ませた直後に。
ふいに早月くんが、何気なくそう言った。
今回兄貴は二部屋手配してくれているらしく、二人ずつで泊まれるようになっているらしい。
あたしは、兄貴から何度も「部屋分けは同性同士やで」と言われて来たけれど。
早月くんの言葉に、即座に玲香ちゃんが言った。

「もちろん!あたしと健くんがおんなじ部屋。ね?健くん!」
「や、部屋は男同士女同士で別れるだろさすがに」
「あ、じゃあ世奈ちゃんと僕がおんなじ部屋ってことで。了解、」
「いや待て待て。聞けよ」

すると、玲香ちゃんの積極的すぎるその言葉に、早月くんが健の言葉をスルーしてそう頷く。
その時ちょうど宿泊する部屋の前に到着して、部屋の中に入ろうとする早月くんを健が引き留めて言った。
あたし達女子には、聞こえないように。

「玲香が言うこと本気にすんなよ!俺とお前が同じ部屋で当然だろ、」
「何を今更。新幹線の中であれだけイチャついてたくせに。っつか男と二人きりで旅館に泊まるなんてゴメンだね」
「いや俺だってゴメンだよ!っつか、新幹線のことはっ…しょうがないだろ!」
「しょうがなくないよ。…まぁごちゃごちゃ話してても拉致があかないし、ハイ。ジャンケンポン!」
「えっ、」

…?
何をこそこそ話してるんだろう…?
たぶん…いや絶対部屋のことなんだろうけど、よくわからなくて首を傾げるあたし達の前で、やがて早月くんが何故か独りガッツポーズをする。
そしてその横で、健が片手をパーにしたままガックシ肩を落とすから。
どうしたのかと問いかけようとしたら、早月くんがふいにあたしの方を振り向いて言った。

「っし!じゃあ世奈ちゃん、僕と同じ部屋ね」
「えっ」

あ…そうなの?
旅行中は玲香ちゃんと…じゃないの!?
いや、確かにこっちとしてはあの女と一晩一緒にいるのは控えたくはあるんだけど。
でも早月くんのその言葉に、ビックリしているあたしの隣で玲香ちゃんが嬉しそうに言った。

「っ…じゃあ、ほんとにあたしと健くんが同じ部屋!?」
「そうだよ。もちろん二泊ともね」
「やった!ね、健くんよろしくね!」

玲香ちゃんは本当に嬉しそうにそう言うと、早速健の元へと駆け寄る。
…ああ、「泊まるのは女同士で」っていう兄貴との約束が…。
だけど正直気が進まなかったし、内緒しておけば別に平気か。
……早月くんと一晩、二人きりで過ごすのはちょっと緊張するけど。
あたしがそう思いながらも健の方を向いたままでいると、そのうちに早月くんがあたしに言った。

「部屋行くよ、世奈ちゃん」
「あ、うん」

しかし、あたしが早月くんの言葉に頷くと…

「っ…早月!わかってると思うけど、絶対手出すなよ!」
「!」

するとその時、部屋に入る直前で健が早月くんにそう言った。
そしてそんなことを言われた早月くんは、その言葉に一瞬目をぱちくりさせたあと、ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべて言う。

「あれ、ナニ相沢さん。負け犬の遠吠えってやつ?」
「ちがっ…じゃなくて!お前が信用できないんだよ!」
「君に信用なんかして貰わなくて結構。僕が欲しいのは世奈ちゃんからの信用だから」
「!」

早月くんはそう言うと、健に見せびらかすようにあたしの手を握って、ようやく部屋の中へと入っていく。

「じゃあまた後でな、ライバル」
「~っ、あーやべぇムカつく!」

……だけど何か、側から見てると仲が良く見えてしまうのは何でなんだろ。
あたしはそんな二人の様子に内心そう思いながらも、それは口にせずに早月くんと一緒に部屋の奥へと進んで行って…
そしてようやく早月くんが襖を開けた途端、目に飛び込んできたのは、和と洋を交えたような部屋のお洒落な空間だった。

「…!わぁ、綺麗…!」
「すご、思ってたよりも広いね」
「うんっ!…あ、しかも露天風呂つき!」
「!」

え、何だか兄貴から聞いてた話よりも広いし快適なところじゃん超良さげじゃん。
あたしはそう思いながら、また近くにあった部屋のドアを早速開けていく。

「…あ、ここは普通のお風呂!」
「え、でも結構大きいお風呂だね」
「うん。あ、こっちはトイレでー…ここが…んん?この部屋何だろ」
「?」

そして何気なく開けたその襖の先。
何もない畳の部屋があって、広いし綺麗だけど何の部屋なのかはよくわからない。
しかしあたしが首を傾げていると、早月くんがあたしの隣にやって来て言った。

「…ここは寝室」
「!」
「二人じゃ勿体ないくらい広いね」

相沢さん達のとこも同じなのかな?と。
そう言いながらも、また部屋を見て回る早月くん。
…寝室。
って、そんなことはっきり言われたら何か余計に緊張しちゃうな。

だけどあたしはそんな早月くんに、ふいに目を遣って思い出してみた。
この前、ゴールデンウィークに入る前にカフェで言われた、兄貴の言葉を。

「…、」

『…もうええやん。早月くん、知ってもうたんやで“世奈と俺のこと”』
『っ…義理の兄妹だってこととか、二人暮らしのことも!?』
『そう、それもさっき知ってもうたよ』

……あれから、ちょっと身構えて早月くんと一緒にいるけれど、早月くんがあたしを避けるような素振りを見せたり、告白を無かったことにするような言葉なんかは言われていない。
不思議なくらい毎日がいつも通り。
もしかして、平気…だったのかな?
それともまだ言わないだけ?
確かに、何日か経ったあとにフラれたことも、過去に何回かあったわけだし。
まだわからないよなぁ。
あたしがそう思っていろいろ考えていると、そのうちにそんなあたしの様子に気がついたらしい早月くんが言った。

「…どうしたの?世奈ちゃん。さっきから寝室のとこで」
「え、」
「あ、もしかしてちょっと心配してる?一晩一緒に過ごすわけだし、露天風呂付いてるけど、仕切りとかは全然ないもんね。全面ガラスだし」
「…!あっ、」

…ほんとだ。露天風呂が完全オープンになってる。全然気づかなかった。
早月くんのそんな言葉にあたしがちょっとびっくりしていると、そのうちに早月くんがまた言葉を続けて言った。
今度は何故か…少し、ほんの少し悲しい顔をして。

「心配とかしなくていいよ。僕は世奈ちゃんが大事だから」
「…ありがと」

………だめだ。
早月くんの心が、どうしても読めない…。







しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます! 神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。 美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者! だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。 幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?! そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。 だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった! これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。 果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか? これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。 *** イラストは、全て自作です。 カクヨムにて、先行連載中。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

私の隣は、心が見えない男の子

舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。 隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。 二人はこの春から、同じクラスの高校生。 一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。 きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...