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早月くん家に行った件②
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「で、実はそのことで世奈ちゃんに話があるんだけど…」
早月くんの何気ない言葉を耳にした瞬間、あたしの中でサーっと血の気が引いていくのを感じた。
だって、いきなりこんな展開ってどうなの?
っていうか、何でそもそも早月くんはあたしに兄貴がいること、知ってるの!?
…え、もしかして校内で流れてる噂、聞いた!?
あたしはそう思うと、早月くんが言おうとしてる“話”が怖くて、鞄を手に取ると言った。
「っ…あ、あたし急用思い出したから帰るね!」
「えっ、」
「じゃあまた明日学校で!」
とりあえず今はもう逃げるしかない。
そう思って即座にソファーから立ち上がったのに、だけどその手を早月くんにすぐに掴まれてしまう。
「っ、待って!」
「!」
「待って世奈ちゃん。お願い、逃げないで」
「~っ、」
それでも、あたしの「急用」が「嘘」だということは早月くんにとっては百も承知らしくて。
そう言われて、「座って」と促される。
…だけど、嫌だ。
早月くんが兄貴に会ってしまったなら、今早月くんが言おうとしてる話の内容はもう一つしかないから。
あたしは早月くんの言葉に渋々腰を下ろすと、言った。
「…早月くんが言いたいことは、話さなくてもなんとなくわかるよ」
「え、」
「だって皆んな、そうだもん。兄貴に会った人は皆んなそう。急にあたしと一緒にいたくなくなるの。あんなに好きだって言ってくれたのに」
「…世奈ちゃん、」
「いいよ、早月くん。あたしもうわかってるから。それにこういう展開も慣れてるし、多分傷ついたりしない」
あたしは説得力がないなかでそう言うと、はぁ、とため息を吐く。
その最中は、早月くんの方は見れなくて、ただ意味もなく目の前のレモンパイだけを見つめる。
…やっぱりあたしには健しかいないみたい。
いいやもう、帰ったらこのまま健と付き合っちゃおうかな。
しかし、そう思っていた時だった。
「…そうなんだ、」
「…?」
「あ…だから世奈ちゃんには、元カレが20人もいるんだ。“イケメンのお兄さんに会っちゃうから”」
「…え、」
早月くんは気づいたようにそう言うと、「そういうことか」とソファーの背もたれに背中を預ける。
だけど一方、そんな早月くんの言葉を聞いたあたしは、頭の上に疑問符を浮かべる。
…あれ?何その反応。早月くん、あたしと付き合う気が無くなったとかじゃないの?
しかしそう思って早月くんに目を遣ったら、その時早月くんがまた背もたれから背中を離して、あたしの目を真っ直ぐに見つめながら言った。
「っ…世奈ちゃん、」
「?」
「僕、もっと世奈ちゃんのことが知りたい」
「!」
「世奈ちゃんは何か勘違いしてたみたいだけど、僕が話したかったことってそれなんだ。
僕らってまだお互いに知り合ったばかりだし、お互いに知らないことが多すぎるでしょ?
僕は、僕が知らない世奈ちゃんをもっと見てみたいんだよ。相沢さんなんて比じゃないくらい」
早月くんはそう言うと、その意外な言葉に少しビックリしているあたしに真剣な目を向ける。
ああ…話って、そういうこと?
あたしはてっきり…。
それでも早月くんの変わらないストレートな言葉が嬉しくて、あたしも思わず笑顔を浮かべてしまいそうになる。
…でもね、あたしはコレも知ってるんだよ。
「…まだ知らないから、聞く前だからそういうことが言えるんだよ」
「え、」
「確かにあたしの兄貴に会って、早月くんの気持ちが変わってないことは正直あたしも安心してる。でも、多分早月くんはただ兄貴に会っただけで“それ以上”を知らないから、まだ平気でいられるんだよ」
「…“それ以上”…?」
「そう。もし本当に知ったら多分…いや絶対、早月くんはあたしを好きになったこと、後悔すると思う」
あたしはそう言うと、早月くんから目を背けてまたレモンパイに視線を戻す。
自分から早月くんを突き放すようなことを言うのも本当は嫌だけど、でもいま以上好きになったら後が苦しいから。
…きっと、離れるなら今のうち。
だけどあたしがそう思っていると、早月くんが言う。
「…後悔、か」
「…、」
「でも、それでも世奈ちゃんのこと、もっと知りたいって言ったら、世奈ちゃんは教えてくれる?」
「!」
「…僕が知らない世奈ちゃんのこと、今ここで教えてよ。好きになったことを後悔なんてしない」
「…っ」
早月くんはそう言うと、まだ躊躇うあたしを見つめる。
“後悔なんてしない”
だけどその言葉も、これまでにもういっぱい聞いてきた。
それでも皆んな離れて行ったんじゃない。
早月くんのこと、信じたいけど今は無理だ。
これ以上ショックを重ねたくない。
だって早月くんのことも大好きだもん。
「…ごめん」
「え、」
「それは、また今度ね。今はまだ言える勇気がないから」
「でも世奈ちゃっ、」
「ごめん、あたしやっぱり帰る、」
あたしは早月くんの声を遮るようにそう言うと、即座にソファーから立ち上がる。
そんなあたしを早月くんが慌てて引き留めようとするけど、それもなんとか擦り抜けた。
だけど玄関で靴を履いて、急いで出て行こうとしていた時、そんなあたしに早月くんが言う。
「……さっき言ってた…言える勇気がない、ってことは」
「…?」
「少なくとも、世奈ちゃんは僕に多少それなりの“好意”は持ってくれてるわけだ?」
「!」
「僕が世奈ちゃんからあっさり離れるのが怖いってこと、でしょ?」
早月くんはそう言うと、思わずピタリと動きを止めるあたしを見つめる。
そしてその直後に目が合うから、早月くんが「ビンゴだ」なんて呟いた。
「…ちゃんと話くらい聴いてあげるのに」
「…話す勇気なんてないよ」
「じゃあ相沢さんに聞いてもいい?」
「っ、だめ!」
そんな早月くんの急な言葉に、あたしは思わず慌ててそう言う。
すると早月くんは「わかったよ」と渋々返事をしたあと、やがて帰ろうするあたしに言った。
「でも、いつかちゃんと話してくれる日を待ってるから」
「……うん」
「僕は世奈ちゃんのこと本気で好きだから、それだけは信じてて」
あたしはそんな早月くんの言葉に頷くと、やがて彼のマンションを後にする。
外に出ると、そんなに長時間滞在していなかったからか、まだ空は明るくて。
…さ、兄貴のカフェに寄って帰ろうかな。
あたしはそう思うと、重たい足取りでいつものその場所に向かった…。
早月くんの何気ない言葉を耳にした瞬間、あたしの中でサーっと血の気が引いていくのを感じた。
だって、いきなりこんな展開ってどうなの?
っていうか、何でそもそも早月くんはあたしに兄貴がいること、知ってるの!?
…え、もしかして校内で流れてる噂、聞いた!?
あたしはそう思うと、早月くんが言おうとしてる“話”が怖くて、鞄を手に取ると言った。
「っ…あ、あたし急用思い出したから帰るね!」
「えっ、」
「じゃあまた明日学校で!」
とりあえず今はもう逃げるしかない。
そう思って即座にソファーから立ち上がったのに、だけどその手を早月くんにすぐに掴まれてしまう。
「っ、待って!」
「!」
「待って世奈ちゃん。お願い、逃げないで」
「~っ、」
それでも、あたしの「急用」が「嘘」だということは早月くんにとっては百も承知らしくて。
そう言われて、「座って」と促される。
…だけど、嫌だ。
早月くんが兄貴に会ってしまったなら、今早月くんが言おうとしてる話の内容はもう一つしかないから。
あたしは早月くんの言葉に渋々腰を下ろすと、言った。
「…早月くんが言いたいことは、話さなくてもなんとなくわかるよ」
「え、」
「だって皆んな、そうだもん。兄貴に会った人は皆んなそう。急にあたしと一緒にいたくなくなるの。あんなに好きだって言ってくれたのに」
「…世奈ちゃん、」
「いいよ、早月くん。あたしもうわかってるから。それにこういう展開も慣れてるし、多分傷ついたりしない」
あたしは説得力がないなかでそう言うと、はぁ、とため息を吐く。
その最中は、早月くんの方は見れなくて、ただ意味もなく目の前のレモンパイだけを見つめる。
…やっぱりあたしには健しかいないみたい。
いいやもう、帰ったらこのまま健と付き合っちゃおうかな。
しかし、そう思っていた時だった。
「…そうなんだ、」
「…?」
「あ…だから世奈ちゃんには、元カレが20人もいるんだ。“イケメンのお兄さんに会っちゃうから”」
「…え、」
早月くんは気づいたようにそう言うと、「そういうことか」とソファーの背もたれに背中を預ける。
だけど一方、そんな早月くんの言葉を聞いたあたしは、頭の上に疑問符を浮かべる。
…あれ?何その反応。早月くん、あたしと付き合う気が無くなったとかじゃないの?
しかしそう思って早月くんに目を遣ったら、その時早月くんがまた背もたれから背中を離して、あたしの目を真っ直ぐに見つめながら言った。
「っ…世奈ちゃん、」
「?」
「僕、もっと世奈ちゃんのことが知りたい」
「!」
「世奈ちゃんは何か勘違いしてたみたいだけど、僕が話したかったことってそれなんだ。
僕らってまだお互いに知り合ったばかりだし、お互いに知らないことが多すぎるでしょ?
僕は、僕が知らない世奈ちゃんをもっと見てみたいんだよ。相沢さんなんて比じゃないくらい」
早月くんはそう言うと、その意外な言葉に少しビックリしているあたしに真剣な目を向ける。
ああ…話って、そういうこと?
あたしはてっきり…。
それでも早月くんの変わらないストレートな言葉が嬉しくて、あたしも思わず笑顔を浮かべてしまいそうになる。
…でもね、あたしはコレも知ってるんだよ。
「…まだ知らないから、聞く前だからそういうことが言えるんだよ」
「え、」
「確かにあたしの兄貴に会って、早月くんの気持ちが変わってないことは正直あたしも安心してる。でも、多分早月くんはただ兄貴に会っただけで“それ以上”を知らないから、まだ平気でいられるんだよ」
「…“それ以上”…?」
「そう。もし本当に知ったら多分…いや絶対、早月くんはあたしを好きになったこと、後悔すると思う」
あたしはそう言うと、早月くんから目を背けてまたレモンパイに視線を戻す。
自分から早月くんを突き放すようなことを言うのも本当は嫌だけど、でもいま以上好きになったら後が苦しいから。
…きっと、離れるなら今のうち。
だけどあたしがそう思っていると、早月くんが言う。
「…後悔、か」
「…、」
「でも、それでも世奈ちゃんのこと、もっと知りたいって言ったら、世奈ちゃんは教えてくれる?」
「!」
「…僕が知らない世奈ちゃんのこと、今ここで教えてよ。好きになったことを後悔なんてしない」
「…っ」
早月くんはそう言うと、まだ躊躇うあたしを見つめる。
“後悔なんてしない”
だけどその言葉も、これまでにもういっぱい聞いてきた。
それでも皆んな離れて行ったんじゃない。
早月くんのこと、信じたいけど今は無理だ。
これ以上ショックを重ねたくない。
だって早月くんのことも大好きだもん。
「…ごめん」
「え、」
「それは、また今度ね。今はまだ言える勇気がないから」
「でも世奈ちゃっ、」
「ごめん、あたしやっぱり帰る、」
あたしは早月くんの声を遮るようにそう言うと、即座にソファーから立ち上がる。
そんなあたしを早月くんが慌てて引き留めようとするけど、それもなんとか擦り抜けた。
だけど玄関で靴を履いて、急いで出て行こうとしていた時、そんなあたしに早月くんが言う。
「……さっき言ってた…言える勇気がない、ってことは」
「…?」
「少なくとも、世奈ちゃんは僕に多少それなりの“好意”は持ってくれてるわけだ?」
「!」
「僕が世奈ちゃんからあっさり離れるのが怖いってこと、でしょ?」
早月くんはそう言うと、思わずピタリと動きを止めるあたしを見つめる。
そしてその直後に目が合うから、早月くんが「ビンゴだ」なんて呟いた。
「…ちゃんと話くらい聴いてあげるのに」
「…話す勇気なんてないよ」
「じゃあ相沢さんに聞いてもいい?」
「っ、だめ!」
そんな早月くんの急な言葉に、あたしは思わず慌ててそう言う。
すると早月くんは「わかったよ」と渋々返事をしたあと、やがて帰ろうするあたしに言った。
「でも、いつかちゃんと話してくれる日を待ってるから」
「……うん」
「僕は世奈ちゃんのこと本気で好きだから、それだけは信じてて」
あたしはそんな早月くんの言葉に頷くと、やがて彼のマンションを後にする。
外に出ると、そんなに長時間滞在していなかったからか、まだ空は明るくて。
…さ、兄貴のカフェに寄って帰ろうかな。
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