兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ

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夜のデートが切なすぎる件①

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ある日の朝。
あたしが教室で美桜と雑談していると、早月くんが登校してくるなり声をかけてきた。

「世奈ちゃん!」
「?」

その声にふと顔を上げると、早月くんはいつものように女子達に囲まれながらあたしに近づいてくる。
早月くんの周りにいる女子達は余程早月くんのことが好きなようで、早月くんの腕に自身の腕を絡ませて密着していたり、そうじゃなくても頭を早月くんの肩に預けて甘えていたりしている。
何回見ても驚いてしまうその様子に今日も内心唖然としながらも、あたしは平然を装って返事をした。

「あ、おはよう。どしたの?」

あたしがそう聞くと、早月くんが制服のブレザーの内ポケットから小さなチケットを二枚取り出して言う。

「…次の週末、僕とデートしてほしい」
「え、」

そう言われて差し出されたチケットの正体は、夜の水族館の入場チケット。
あたしはそのチケットを受け取ると、それを見てみた。

「…!」

…あ、あたしこれ知ってる!
普段は凄く人気で週末には行列が出来るほどの超人気水族館が、期間限定で、しかも限定チケットを入手できた人だけに夜の水族館を楽しませてくれるイベントだ!
よくテレビのCMで宣伝してて、だけどチケットは販売直後に即完売するから、行きたくても絶対行けなかったんだよね。
だけど、これを早月くんがあたしに渡してくれたということは。

「っ…え、これ凄い人気のやつじゃん!なかなか手に入らない貴重なチケット!え、このチケットあたしにくれるの!?」

あたしが嬉しすぎて満面の笑顔でそう聞くと、一方の早月くんも笑顔で頷いて言った。

「うん。夜の水族館て、何かロマンチックじゃない?世奈ちゃんこういうの好きかなぁって」
「好き!これあたし凄い行きたかったの!」
「あ、ほんと?じゃあ2人で行こうよ」

なんて、早月くんが誘ってくれるから、あたしは周りにいる女子達のことを考えずに、喜んで頷いた。

「行く!」
「良かったぁ。じゃあ、待ち合わせの時間とかはまた今度ね」

早月くんはそう言うと、あたしから離れていつもの隣の席に着く。
…あ、でも、夜のお出かけなんて兄貴が許してくれるかな?
あたしはふいにそれが心配になったけど、話を聞いていた美桜が「良かったね」なんて言ってくれるから、そんな心配はすぐに消えて一つ楽しみが増えた。

……しかし、近くの沢山の女子達からの厳しい視線に気づかないまま…。

…………

午後の短い休み時間。
1人になって教室から近いトイレに行くと、個室から出ようとしたその瞬間、複数の女子達が入ってきた。

「…!」

いつもならそんなことは気にせずに個室から出ているあたしだったけど、今日は出るのを少し躊躇った。
…その理由は。

「ほんと、翔太くんて色んな女の子に手出すよね~」



その女子達が、早月くんの話をし始めたから。
そこから出ようとしていたあたしは、その言葉に出るのをやめてその話に耳を傾ける。
するとまた、その女子達が言った。

「でも可愛いから仕方ないよね。皆んなが狙ってるっていうかさ」
「けど、今翔太くんが好き好き言ってる工藤さん?だっけ。その子のこと、翔太くん本気なのかな」
「まさか~。どーせいつもの気まぐれでしょ。翔太くんいっつもそういうこと繰り返してるみたいだし」
「え、そうなの?」
「そうだよ、知らないの?翔太くんが好き好き言って一生懸命アピールするのは最初だけ。飽きたらポイなんだから。その気まぐれに泣かされた女の子、わんさかいるらしいし」

「!!…」

その女子達はそんな会話をすると、「標的にされた工藤さん、気の毒だね」なんて笑う。
…その工藤さんは今ここで話聞いてますケド。
そんな話を聞いたらますます個室から出にくくなって、しかも何故か胸がチクリと痛んだ。

…標的。
…飽きたらポイ。
しかも……

「あ、じゃあコレも知ってる?翔太くんて、校内で色んな女の子とヤリまくってるっていう噂」

!?

え、何それ知らない!
その話にまた耳を傾けると、その女子が話を続けた。

「翔太くんはモテるから、毎日色んな女の子から告られるわけでしょ?だから相手の女の子も絶対抵抗なんてしないし、寧ろ大歓迎、みたいな」
「え、翔太くん意外と遊んでるね~」
「意外とじゃない。結構有名な話だよ。だからきっと、今必死でアピールしてる工藤さんのこともあと一か月ほどで飽きるだろうね」
「じゃあ好きになったら終わりじゃん」
「そういうこと。だから言ってるじゃん、ゆくゆくは泣かされるって」

女子達はそう言うと、やがてまた女子トイレから出て行く。
…メイク直しでもしていたんだろうか。
や、でも、気になったのはそんなことじゃなくて。

「…~っ、」

さっきまでの女子達の会話が、ぐるぐると頭の中を巡る。
“好きになったら終わり”
“ゆくゆくは泣かされる”
あたしはその言葉に深いため息を吐くと、個室のドアに頭を預けた。

「…嘘でしょ…」

ていうか、何で、こんなにショック受けてるんだろ…。

…………

その後、気分が下がったまま教室に戻ると、早月くんは相変わらず女子達に囲まれていた。
1人の女子は早月くんのことを後ろから抱きしめているし、1人は前の席に座って早月くんと向かい合わせになりながら、手なんて絡ませちゃってる。
しかも早月くん、何気に笑顔だし。嬉しそう。

あたしが複雑な気分でそんな早月くんから目を逸らして自分の席に着くと、あたしの存在に気づいた早月くんが言った。

「あ、世奈ちゃん!」
「?」
「これ!これ見て!」

そう言われて、見せられたのはスマホの画面。
何かと思えばその画面には、今朝の水族館の情報が表示されていて。
読んでみると、あたしが誘われた夜の水族館では、カップルや片想いをしている男女に打って付けのイベントがあるらしい。
そんな情報を見せながら、嬉しそうに翔太くんが言った。

「夜20時のイベントの時に、決まったイルカに願い事をするとその恋が永遠になって叶うんだって!
僕世奈ちゃんの事お願いしようって、今から決めてるんだ、」

翔太くんはそう言うと、あまりにも屈託のない可愛い笑顔をあたしに向けてくれるから。
いけないと思いながらも、あたしはその言葉に笑顔で相槌を打つ。

「そ、そっか…何か、ロマンチックだね」
「でしょ!?」

…その“お願い”は気まぐれで、今だけなのか。
それとも、本当に“永遠”を願うつもりなのか。
今はどうしてもわからないまま、あたしは何とも言えない心情で早月くんのことを見つめてみる。

「…、」

この段階で。
まんまと女子達の罠にハマってしまったあたしは、それに全く気がつかずに、やがてまた深いため息を吐いたのだった…。











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