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夕方の学校が危険すぎる件
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「何ですぐに助けを呼ばねぇんだよ」
「…」
あれから、先生との話を終えて、職員室を後にした直後。
バタン、と扉を閉めるなり、健があたしにそう言った。
その顔は明らかに怒っていて、いつもと変わらない不機嫌な顔。
あたしはそいつから渋々目を逸らすと、顔を少し俯かせながら言った。
「…助けって。周りに誰もいないもん」
「そうじゃなくて。科学準備室っつったらグランドに近ぇじゃん。グランドだったら俺もいただろ」
しかし健がそう言うと、そんなあたし達の会話を側で聞いていた早月くんが言う。
「ちょっと、やめときなよ相沢さん。世奈ちゃんだって傷ついてるんだから」
「いいからお前はっ…」
「それに、僕が早い段階で助けに行けたんだからいいじゃん、これくらいで済んで。いま世奈ちゃんを責めるのは違うだろ」
早月くんは健にそう言いながら、さりげなくあたしの前に立って、あたしを健から守ってくれる。
…早月くん…。
なんだか今日は早月くんに守られてばっかだな。
だけどあたしは早月くんの背中越しに、呟くように健に言った。
「…て、てか、助けなら何度も呼んだし」
「いや聞こえてねぇっつの」
「聞こえてなくても呼んだもん。何回も呼んだのに…全然聞こえてなかったのは健の方じゃない」
「はあ?」
「!」
あたしは健にそう言うと、だけど健の反応が怖くて思わず早月くんの背中に隠れてしまう。
するとそんなあたし達を、また早月くんが「まあまあ」と止めに入って、健に言った。
「確かにまあ、僕にも世奈ちゃんの声は聞こえた。だから早めに助けに行けたのもあるし」
「お前は黙ってろよ」
「いーや、黙らないね。相沢さんはグランドで女の子達にきゃーきゃー言われて良い気になってたから気づかなかったんだよ。今回は世奈ちゃんを責める必要なんてどこにもない」
そう言うと、「これ以上は僕が許さないよ」と健に言ってくれる早月くん。
そんな早月くんにあたしが感動すら覚えていると、やがて健が渋々口を開いて言った。
「っ…わかったよ」
そう言うと、やがて一足先にグランドに向かおうとする健。
…多分、部活に戻るんだ。
途中で抜け出してきたみたいだから。
あたしはそう思って見送りかけたけど、ふいに“ある事”を思い出して、慌てて健を呼び止めた。
「…あ、健まって!」
「?…なに」
あたしが呼ぶと、怪訝そうにそう言って階段で立ち止まる健。
そんなあたしに、早月くんは隣で不思議そうな顔。
だけどあたしは早月くんに聞かれないように健の近くに行くと、小さめの声で健に言った。
「…兄貴のことなんだけど」
あたしがそれだけを言うと、まだ内容は言ってないのに健が全てを察したような反応をする。
そんな健に「最後まで聞いてよ」と口を尖らせると、健はやっぱり察しが良くて、「今日のこと勇斗くんに伝えてほしくないんだろ」と早月くんに聞こえないような小さな声であたしに言った。
「…わかってるんだ」
「なんとなくわかるよ。っつか言いながらもう顔に書いてあるから、お前」
そう言うと、健があたしに向かって珍しく少し笑って見せるから。
思わず、あたしもそんな健を前にして笑顔になってしまう。
「…兄貴に言うとすごい心配しちゃうから。お願い」
「ん、わかった」
健が頷くのを見ると、あたしは一先ず安心して健に手を振る。
そんなあたしに健も手を振り返して、「じゃあまた後でな」と再び階段を下りて行った。
「……何だかんだで仲良いんだね」
「え、」
「相沢さんと世奈ちゃん」
すると、健がその場を後にしたのを見送ったあと、不意に後ろで早月くんがそう言った。
その声にあたしが振り向くと、早月くんは少し納得のいかなそうな顔をしていて…。
「そうかな」とあたしが疑うと、早月くんが言った。
「…あの感じは“恋”と見た」
「え、」
「世奈ちゃんのこと探してたんだよね。相沢さん、職員室に来たとき息切れしてたし。確か、相沢さんってサッカー部のエースでしょ?」
「そう、だね」
「そんな人がさ、あんな息切れするって……相当走り回って探してたんだな、世奈ちゃんを」
「…、」
「……」
早月くんのそんな言葉を聞くと、あたしは何も言えなくなって、思わず黙り込む。
するとそんなあたしの様子に気がついた早月くんが、不意にあたしの顔を覗き込んで、問いかけてきた。
「……好き?」
「え、」
「相沢さんのこと」
そう言って、あまりにも真っ直ぐに見つめてくるから。
それだけで何だかあたしの“全て”を見破られそうで、あたしは思わず早月くんから目を逸らして言った。
「…そ、そんなわけない。ただの幼なじみだし」
「なんか今の間は怪しいな。じゃあ、僕と相沢さんだったら、どっちが好き?」
「!」
そう言って、意外と意地悪なところがあるのか。
早月くんはそう言って不敵な笑みを浮かべるから、あたしは…
「……そ、そんなのわかんないよ」
と、なかなか早月くんと目を合わさない。
それに、何だか早月くんがあたしに歩み寄ってくるから、あたしはだんだん壁際に追いやられて…
「!」
気がついた頃には、背中に壁が当たっていた。
そんなあたしに、早月くんは自身の右手を壁に遣ってあたしに言う。
「…そういえば、今日チューし損ねたね?」
「!…そ、そうだっけ」
「やだな、忘れた?世奈ちゃんも目瞑ってくれたのに、先生に邪魔されたからさ」
良かったら、今続きしない?と。
わざとなのか…耳元で、そう囁くから。
思わずドキッとして、固まってしまう。
そういうふうに、雰囲気を変えられると弱いんだ…。
「…だめ?」
「…っ、」
…もしかして、慣れてるのかな。
早月くんはそう問いかけてちょっと寂しそうな顔をする。
そんな早月くんに、あたしが黙って頷きかけた…その時だった。
「ぁいてっ!?」
「!」
目の前で、早月くんがいきなり誰かに後ろから殴られた。
そんな早月くんの反応にちょっとびっくりしたあたしは、早月くんの後ろに目を向けると、そこには教科書を丸めて立っている健がいて…。
あれ、部活に行ったんじゃないの!?
だけどそんな健にそう思ったのはあたしだけではないらしく、早月くんも突然の健の再登場に目を丸くして言った。
「え、部活は!?」
「や、行こうと思ったんだけどやっぱ顧問のとこ寄ってから行こうと思って。そしたら…っ」
健はそう言うと、「お前が危ない奴なのはよくわかった」と早月くんに言いながらあたしの手を握る。
「…世奈は俺が連れて帰るから」
そう言うと、半ば強引にあたしを連れてその場を後にした。
「…~っ、」
…ほんとに、キス、するのかと思った…。
「…」
あれから、先生との話を終えて、職員室を後にした直後。
バタン、と扉を閉めるなり、健があたしにそう言った。
その顔は明らかに怒っていて、いつもと変わらない不機嫌な顔。
あたしはそいつから渋々目を逸らすと、顔を少し俯かせながら言った。
「…助けって。周りに誰もいないもん」
「そうじゃなくて。科学準備室っつったらグランドに近ぇじゃん。グランドだったら俺もいただろ」
しかし健がそう言うと、そんなあたし達の会話を側で聞いていた早月くんが言う。
「ちょっと、やめときなよ相沢さん。世奈ちゃんだって傷ついてるんだから」
「いいからお前はっ…」
「それに、僕が早い段階で助けに行けたんだからいいじゃん、これくらいで済んで。いま世奈ちゃんを責めるのは違うだろ」
早月くんは健にそう言いながら、さりげなくあたしの前に立って、あたしを健から守ってくれる。
…早月くん…。
なんだか今日は早月くんに守られてばっかだな。
だけどあたしは早月くんの背中越しに、呟くように健に言った。
「…て、てか、助けなら何度も呼んだし」
「いや聞こえてねぇっつの」
「聞こえてなくても呼んだもん。何回も呼んだのに…全然聞こえてなかったのは健の方じゃない」
「はあ?」
「!」
あたしは健にそう言うと、だけど健の反応が怖くて思わず早月くんの背中に隠れてしまう。
するとそんなあたし達を、また早月くんが「まあまあ」と止めに入って、健に言った。
「確かにまあ、僕にも世奈ちゃんの声は聞こえた。だから早めに助けに行けたのもあるし」
「お前は黙ってろよ」
「いーや、黙らないね。相沢さんはグランドで女の子達にきゃーきゃー言われて良い気になってたから気づかなかったんだよ。今回は世奈ちゃんを責める必要なんてどこにもない」
そう言うと、「これ以上は僕が許さないよ」と健に言ってくれる早月くん。
そんな早月くんにあたしが感動すら覚えていると、やがて健が渋々口を開いて言った。
「っ…わかったよ」
そう言うと、やがて一足先にグランドに向かおうとする健。
…多分、部活に戻るんだ。
途中で抜け出してきたみたいだから。
あたしはそう思って見送りかけたけど、ふいに“ある事”を思い出して、慌てて健を呼び止めた。
「…あ、健まって!」
「?…なに」
あたしが呼ぶと、怪訝そうにそう言って階段で立ち止まる健。
そんなあたしに、早月くんは隣で不思議そうな顔。
だけどあたしは早月くんに聞かれないように健の近くに行くと、小さめの声で健に言った。
「…兄貴のことなんだけど」
あたしがそれだけを言うと、まだ内容は言ってないのに健が全てを察したような反応をする。
そんな健に「最後まで聞いてよ」と口を尖らせると、健はやっぱり察しが良くて、「今日のこと勇斗くんに伝えてほしくないんだろ」と早月くんに聞こえないような小さな声であたしに言った。
「…わかってるんだ」
「なんとなくわかるよ。っつか言いながらもう顔に書いてあるから、お前」
そう言うと、健があたしに向かって珍しく少し笑って見せるから。
思わず、あたしもそんな健を前にして笑顔になってしまう。
「…兄貴に言うとすごい心配しちゃうから。お願い」
「ん、わかった」
健が頷くのを見ると、あたしは一先ず安心して健に手を振る。
そんなあたしに健も手を振り返して、「じゃあまた後でな」と再び階段を下りて行った。
「……何だかんだで仲良いんだね」
「え、」
「相沢さんと世奈ちゃん」
すると、健がその場を後にしたのを見送ったあと、不意に後ろで早月くんがそう言った。
その声にあたしが振り向くと、早月くんは少し納得のいかなそうな顔をしていて…。
「そうかな」とあたしが疑うと、早月くんが言った。
「…あの感じは“恋”と見た」
「え、」
「世奈ちゃんのこと探してたんだよね。相沢さん、職員室に来たとき息切れしてたし。確か、相沢さんってサッカー部のエースでしょ?」
「そう、だね」
「そんな人がさ、あんな息切れするって……相当走り回って探してたんだな、世奈ちゃんを」
「…、」
「……」
早月くんのそんな言葉を聞くと、あたしは何も言えなくなって、思わず黙り込む。
するとそんなあたしの様子に気がついた早月くんが、不意にあたしの顔を覗き込んで、問いかけてきた。
「……好き?」
「え、」
「相沢さんのこと」
そう言って、あまりにも真っ直ぐに見つめてくるから。
それだけで何だかあたしの“全て”を見破られそうで、あたしは思わず早月くんから目を逸らして言った。
「…そ、そんなわけない。ただの幼なじみだし」
「なんか今の間は怪しいな。じゃあ、僕と相沢さんだったら、どっちが好き?」
「!」
そう言って、意外と意地悪なところがあるのか。
早月くんはそう言って不敵な笑みを浮かべるから、あたしは…
「……そ、そんなのわかんないよ」
と、なかなか早月くんと目を合わさない。
それに、何だか早月くんがあたしに歩み寄ってくるから、あたしはだんだん壁際に追いやられて…
「!」
気がついた頃には、背中に壁が当たっていた。
そんなあたしに、早月くんは自身の右手を壁に遣ってあたしに言う。
「…そういえば、今日チューし損ねたね?」
「!…そ、そうだっけ」
「やだな、忘れた?世奈ちゃんも目瞑ってくれたのに、先生に邪魔されたからさ」
良かったら、今続きしない?と。
わざとなのか…耳元で、そう囁くから。
思わずドキッとして、固まってしまう。
そういうふうに、雰囲気を変えられると弱いんだ…。
「…だめ?」
「…っ、」
…もしかして、慣れてるのかな。
早月くんはそう問いかけてちょっと寂しそうな顔をする。
そんな早月くんに、あたしが黙って頷きかけた…その時だった。
「ぁいてっ!?」
「!」
目の前で、早月くんがいきなり誰かに後ろから殴られた。
そんな早月くんの反応にちょっとびっくりしたあたしは、早月くんの後ろに目を向けると、そこには教科書を丸めて立っている健がいて…。
あれ、部活に行ったんじゃないの!?
だけどそんな健にそう思ったのはあたしだけではないらしく、早月くんも突然の健の再登場に目を丸くして言った。
「え、部活は!?」
「や、行こうと思ったんだけどやっぱ顧問のとこ寄ってから行こうと思って。そしたら…っ」
健はそう言うと、「お前が危ない奴なのはよくわかった」と早月くんに言いながらあたしの手を握る。
「…世奈は俺が連れて帰るから」
そう言うと、半ば強引にあたしを連れてその場を後にした。
「…~っ、」
…ほんとに、キス、するのかと思った…。
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