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【第二部】あの日の戀の形代の君。
二-5 それぞれの想いの先
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「すみません、お付き合いいただいて」
瓔偲が詫びると、傍らに控えてくれている燎琉の侍者の李皓義は、いえいえ、と、にこやかに首を振った。
「殿下が工部でお仕事の間、代わりに妃殿下をお護りするのが僕の役目ですから。どうぞお気遣いなく」
軽い調子で肩をすくめつつ言われて、瓔偲も、ふ、と、やわらかく口許をゆるめた。
皓義は燎琉が皇宮に賜っている椒桂殿に住み込みで燎琉に仕えている身だから、瓔偲にとっても、この秋以来、同じ殿舎で共に暮らす間柄だ。燎琉の乳兄弟でもあるらしい青年は気安い性格で、瓔偲とも随分と親しくなっていた。
今日はその皓義が、打ち合わせと調べ物のために礼部へと赴く瓔偲に付き添ってくれている。
とはいえ、国の政に携わる三省六部の官衙が立ち並ぶ国府は、もともと国官であった瓔偲にとっては勝手知ったる職場だった。だから別にひとりでも平気だ、と、燎琉にそう言いはしたのだが、相手は頑として譲らず、ゆえに皓義には結局、長々と瓔偲の調べ物に付き合ってもらうことになってしまっていた。
相手が苦にしてはいないようなので、瓔偲は、ほ、と、息をつく。隣国の使節を歓迎する宴や儀式などを取り仕切ることになる礼部の担当官とは挨拶や打ち合わせをすでに終えて、かつての歓応役たちが残した記録類を閲覧する瓔偲の手許を、皓義が隣からのぞき込んだ。
「それにしても、王女さまの好みが、まさか剣技やら馬やらだなんて……知らなければ、お茶や賞花の用意しかしませんでしたよね」
皓義が、ふう、と、息をつく。まったくだ、と、燎琉の侍者の言葉に瓔偲は苦笑した。
裴彰昭の言の通り、礼部には、前回の金胡の使節をどう歓待したのか、詳しい資料がきちんと保管されていた。記したのは彰昭自身なのかもしれない。几帳面に整った字が綴られていた。
それによれば、此度来朝する王女は、三年前にも一度、兄に連れられるかたちで嶌国の皇宮を訪なっていたようだ。
当時十五歳だった少女は、無駄なく鍛え上げられたしなやかな体躯を持ち、どうも剣術や体術に優れていたらしい。たおやかで優美な舞などよりも勇壮な剣舞を好み、また、練兵を見学して喜んだという。宴で余興として奏した楽器はといえば琴や琵琶などでなく、彼女は笛の上手であったというから――どちらかといえば男性が好む楽器だ――随分と活発な印象だった。
まだ成人に至らない少女は、使節の中ではもちろん正使や副使などではなく、自由の利く、気軽な立場であったようだ。あるいは隣国への好奇心から兄に付いてきたということだったのかもしれなかった。
「ほんとうに……彰昭さまにご助言をいただいたおかげで、王女の為人の一片を事前に知ることができてよかったです」
彼女にとっても、今度の来訪は国の代表としてである。国家間の付き合いというものががあるから、もちろん、こちらが通例に倣って茶や花でもてなしたとしても、あからさまに気分を損ねたりはしないだろう。
とはいえ、できれば楽しんでもらえるようなものを準備したい。その意味で、王女の好みをあらかじめ知り得たのは大きかった。
「以前にいらしたときには、裴府をお訪ねにもなったみたいですね」
皓義が再び瓔偲の手元の資料をのぞき込みつつ言う。
「ええ、そのようですね」
瓔偲はしずかに頷いた。
「当時の礼部侍郎が裴家のお方だったというご縁からでしょうかね?」
裴氏といえば、歴代に亘って高位高官を排出し続けている名家である。当代は皇后をも出している家柄だから、他国からの客人を――それが正使や副使などでなければ、余計に――家に招いてもてなすことがあっても、おかしくはないように思われた。
「裴家には、王女さまとご年齢の近いご令嬢がいらしたことも、理由だったのかもしれません」
皓義の問いかけるような言葉にそう答えた瓔偲が思い出すのは、もちろん、先日裴府で出会った裴鵑月のことだった。年齢はちょうど十五、六歳に見えていたから、当歳十八になるはずの王女と同年代といって差し支えないだろう。
「そういえば、裴家のご令嬢が古琴で奏でておられたのは、『北の大地』という曲だと……」
燎琉があのとき教えてくれたことをも、瓔偲は思い出した。
「ああ、『李夫人の悲嘆』ですか」
「ええ。皓義どののご祖先にまつわる曲だとか」
「李家初代の恋物語ですね。随分な愛妻家だったとかで、以来李家では一夫一婦が伝統になっているくらいです」
皓義は、ひょい、と、肩をすくめ、冗談めかして口にした。
権門勢家においては、男子が正妻のみでなく、第二夫人、第三夫人を持つことは、なにも珍しいことではない。皇族もまた同じだった。相手に身分がない場合には妾とすることもあるが、正妻を迎える前に妾を囲うことはあまり誉められたことではなかった。
鵑月の母親は誰なのだろう、と、瓔偲はふと思う。
あの後すこし調べてみたが、やはり裴彰昭に夫人がいる、あるいは、いたという話は聴かなかった。彰昭が府邸に仕える下女などに手をつけて産ませた子だという可能性ももちろんあるが、ついでに調べた官吏としての彰昭の勤め振りなどを鑑みると、どうもしっくりこなかった。
いま手許にある冊子を埋める字は乱れなく整っていて、その手跡からは、彼が適当なことをする人物だとは思われなかった。あるいは事情があって結ばれることができなかった相手がいて、その相手との叶わぬ恋の形見が鵑月なのかもしれない。
「それにしても、『李夫人の悲嘆』とは……まだお若いでしょうに、お嬢様は叶わぬ恋でもなさっているんですかね」
皓義がふと口にした言葉が己の考えていたことと半ば重なって、それまで思考に沈んでいた瓔偲ははっとした。
「だってあれ、北へ出征してしまった夫を恋い慕う想いを奏でる曲でしょう? 離ればなれの恋しい相手を想う曲。そういう方でもいらっしゃるんですかね。――あ、そういえば、金胡の王女さまの国は、ちょうどその北の大地にあるんですよね。かつて僕のご先祖様が、戦で駆けた地かぁ……」
皓義はただ思いつくことを、とりとめもなく、つらつらと並べ立てているようだ。
一方の瓔偲は、あの日裴府で聴いた古琴の、あまりにも切々としていた音色を思い出していた――……慕わしい人は遠く、手の届かない相手。
叶わぬ、恋。
「どうかなさいましたか?」
つい、ぼう、と、してしまった瓔偲を訝るように、皓義が小首を傾げた。
はっとした瓔偲は、いえ、と、ちいさく頭を振る。
「いえ、その……想う方のお側にいられるというのは、実はとても幸運なことなのかもしれないと思って……」
彰昭も鵑月も、もしかしたら、苦しい恋を経験したのかもしれない。独り身を貫く鵬明とて、そうなのかもしれない。
対する瓔偲は、燎琉に望まれ、いま燎琉の傍らにいる。離れがたいと思う相手と、離れずに、共に時を紡いでいられる。なんでもないことのようで、それがどれほど奇跡的なさいわいか、瓔偲はふとそのことを考えていた。
「わたしは、しあわせ者だ、と……」
瓔偲が顔をわずかに伏せがちにしてちいさな声で言うと、皓義は一瞬、驚いたように目を瞬いた。それから、ふ、と、その目を細めてわらう。
「それ……殿下にも、そう仰ってあげてください。喜ぶと思いますよ」
そう言われ、瓔偲は恥じ入った。
「お伝えできればいいと、常々、思ってはいるのですが……」
燎琉のくれる愛は、大きくて、あたたかくて、いつも瓔偲をいっぱいに満たしてくれる。だからこそ、自分も燎琉をたいせつに思っているのだ、と、そのことをきちんと伝えたいとは思うのだ。
「でも、いざその段になると……ことばに、ならなくて」
瓔偲は、不甲斐ない自分に、そ、と、嘆息した。
胸がいっぱいになりすぎて、何も言えなくなってしまうというのもある。それから、瓔偲自身が、色恋と馴染みなく生きてきたことも原因なのかもしれなかった。そういうとき、どうしていいのか、わからなくなってしまうのだ。
瓔偲が何も言えないばかりに、燎琉を不安にさせているのではないか、と、そうわかってはいても巧く出来ない自分が、瓔偲には情けなかった。
「はは、瓔偲さまにも、そういう一面があったりするんですねえ」
わずかに揶揄する口調で皓義に言われ、瓔偲は、ちら、と、困ったように眉根を寄せた。
「ご用がお済みでしたら、椒桂殿へ戻りますか? ――殿下もそろそろお戻りの刻限ですしね。恋しくなったのでは?」
「っ、からかわないでください」
「はは、すみません。――あ、そうだ。そろそろといえば、順調なら王女も、そろそろ皇都へお着きになる頃合ですね」
「そうですね」
王女が皇宮へ到着すれば、いよいよ、歓待役の仕事が本格的になる。下準備はきちんと整えたつもりだが、と、瓔偲はここ数日を思い起こしつつ、気を引き締めた。
*
蒼い顔をした燎琉が、飛び込むように慌てた様子で椒桂殿に戻ったのは、瓔偲と皓義とが殿舎に帰り着いてから間もなくのことだった。
「金胡の王女が、消えた」
瓔偲の顔を見るなり、燎琉は開口一番に言った。
え、と、瓔偲は息を呑む。
「皇都の城門を入ってすぐのことだったらしい。忽然と姿を消して、いまも発見されていない、と」
どうやら歓応役の燎琉のところへ、そうした急報がもたらされたものらしかった。
瓔偲が詫びると、傍らに控えてくれている燎琉の侍者の李皓義は、いえいえ、と、にこやかに首を振った。
「殿下が工部でお仕事の間、代わりに妃殿下をお護りするのが僕の役目ですから。どうぞお気遣いなく」
軽い調子で肩をすくめつつ言われて、瓔偲も、ふ、と、やわらかく口許をゆるめた。
皓義は燎琉が皇宮に賜っている椒桂殿に住み込みで燎琉に仕えている身だから、瓔偲にとっても、この秋以来、同じ殿舎で共に暮らす間柄だ。燎琉の乳兄弟でもあるらしい青年は気安い性格で、瓔偲とも随分と親しくなっていた。
今日はその皓義が、打ち合わせと調べ物のために礼部へと赴く瓔偲に付き添ってくれている。
とはいえ、国の政に携わる三省六部の官衙が立ち並ぶ国府は、もともと国官であった瓔偲にとっては勝手知ったる職場だった。だから別にひとりでも平気だ、と、燎琉にそう言いはしたのだが、相手は頑として譲らず、ゆえに皓義には結局、長々と瓔偲の調べ物に付き合ってもらうことになってしまっていた。
相手が苦にしてはいないようなので、瓔偲は、ほ、と、息をつく。隣国の使節を歓迎する宴や儀式などを取り仕切ることになる礼部の担当官とは挨拶や打ち合わせをすでに終えて、かつての歓応役たちが残した記録類を閲覧する瓔偲の手許を、皓義が隣からのぞき込んだ。
「それにしても、王女さまの好みが、まさか剣技やら馬やらだなんて……知らなければ、お茶や賞花の用意しかしませんでしたよね」
皓義が、ふう、と、息をつく。まったくだ、と、燎琉の侍者の言葉に瓔偲は苦笑した。
裴彰昭の言の通り、礼部には、前回の金胡の使節をどう歓待したのか、詳しい資料がきちんと保管されていた。記したのは彰昭自身なのかもしれない。几帳面に整った字が綴られていた。
それによれば、此度来朝する王女は、三年前にも一度、兄に連れられるかたちで嶌国の皇宮を訪なっていたようだ。
当時十五歳だった少女は、無駄なく鍛え上げられたしなやかな体躯を持ち、どうも剣術や体術に優れていたらしい。たおやかで優美な舞などよりも勇壮な剣舞を好み、また、練兵を見学して喜んだという。宴で余興として奏した楽器はといえば琴や琵琶などでなく、彼女は笛の上手であったというから――どちらかといえば男性が好む楽器だ――随分と活発な印象だった。
まだ成人に至らない少女は、使節の中ではもちろん正使や副使などではなく、自由の利く、気軽な立場であったようだ。あるいは隣国への好奇心から兄に付いてきたということだったのかもしれなかった。
「ほんとうに……彰昭さまにご助言をいただいたおかげで、王女の為人の一片を事前に知ることができてよかったです」
彼女にとっても、今度の来訪は国の代表としてである。国家間の付き合いというものががあるから、もちろん、こちらが通例に倣って茶や花でもてなしたとしても、あからさまに気分を損ねたりはしないだろう。
とはいえ、できれば楽しんでもらえるようなものを準備したい。その意味で、王女の好みをあらかじめ知り得たのは大きかった。
「以前にいらしたときには、裴府をお訪ねにもなったみたいですね」
皓義が再び瓔偲の手元の資料をのぞき込みつつ言う。
「ええ、そのようですね」
瓔偲はしずかに頷いた。
「当時の礼部侍郎が裴家のお方だったというご縁からでしょうかね?」
裴氏といえば、歴代に亘って高位高官を排出し続けている名家である。当代は皇后をも出している家柄だから、他国からの客人を――それが正使や副使などでなければ、余計に――家に招いてもてなすことがあっても、おかしくはないように思われた。
「裴家には、王女さまとご年齢の近いご令嬢がいらしたことも、理由だったのかもしれません」
皓義の問いかけるような言葉にそう答えた瓔偲が思い出すのは、もちろん、先日裴府で出会った裴鵑月のことだった。年齢はちょうど十五、六歳に見えていたから、当歳十八になるはずの王女と同年代といって差し支えないだろう。
「そういえば、裴家のご令嬢が古琴で奏でておられたのは、『北の大地』という曲だと……」
燎琉があのとき教えてくれたことをも、瓔偲は思い出した。
「ああ、『李夫人の悲嘆』ですか」
「ええ。皓義どののご祖先にまつわる曲だとか」
「李家初代の恋物語ですね。随分な愛妻家だったとかで、以来李家では一夫一婦が伝統になっているくらいです」
皓義は、ひょい、と、肩をすくめ、冗談めかして口にした。
権門勢家においては、男子が正妻のみでなく、第二夫人、第三夫人を持つことは、なにも珍しいことではない。皇族もまた同じだった。相手に身分がない場合には妾とすることもあるが、正妻を迎える前に妾を囲うことはあまり誉められたことではなかった。
鵑月の母親は誰なのだろう、と、瓔偲はふと思う。
あの後すこし調べてみたが、やはり裴彰昭に夫人がいる、あるいは、いたという話は聴かなかった。彰昭が府邸に仕える下女などに手をつけて産ませた子だという可能性ももちろんあるが、ついでに調べた官吏としての彰昭の勤め振りなどを鑑みると、どうもしっくりこなかった。
いま手許にある冊子を埋める字は乱れなく整っていて、その手跡からは、彼が適当なことをする人物だとは思われなかった。あるいは事情があって結ばれることができなかった相手がいて、その相手との叶わぬ恋の形見が鵑月なのかもしれない。
「それにしても、『李夫人の悲嘆』とは……まだお若いでしょうに、お嬢様は叶わぬ恋でもなさっているんですかね」
皓義がふと口にした言葉が己の考えていたことと半ば重なって、それまで思考に沈んでいた瓔偲ははっとした。
「だってあれ、北へ出征してしまった夫を恋い慕う想いを奏でる曲でしょう? 離ればなれの恋しい相手を想う曲。そういう方でもいらっしゃるんですかね。――あ、そういえば、金胡の王女さまの国は、ちょうどその北の大地にあるんですよね。かつて僕のご先祖様が、戦で駆けた地かぁ……」
皓義はただ思いつくことを、とりとめもなく、つらつらと並べ立てているようだ。
一方の瓔偲は、あの日裴府で聴いた古琴の、あまりにも切々としていた音色を思い出していた――……慕わしい人は遠く、手の届かない相手。
叶わぬ、恋。
「どうかなさいましたか?」
つい、ぼう、と、してしまった瓔偲を訝るように、皓義が小首を傾げた。
はっとした瓔偲は、いえ、と、ちいさく頭を振る。
「いえ、その……想う方のお側にいられるというのは、実はとても幸運なことなのかもしれないと思って……」
彰昭も鵑月も、もしかしたら、苦しい恋を経験したのかもしれない。独り身を貫く鵬明とて、そうなのかもしれない。
対する瓔偲は、燎琉に望まれ、いま燎琉の傍らにいる。離れがたいと思う相手と、離れずに、共に時を紡いでいられる。なんでもないことのようで、それがどれほど奇跡的なさいわいか、瓔偲はふとそのことを考えていた。
「わたしは、しあわせ者だ、と……」
瓔偲が顔をわずかに伏せがちにしてちいさな声で言うと、皓義は一瞬、驚いたように目を瞬いた。それから、ふ、と、その目を細めてわらう。
「それ……殿下にも、そう仰ってあげてください。喜ぶと思いますよ」
そう言われ、瓔偲は恥じ入った。
「お伝えできればいいと、常々、思ってはいるのですが……」
燎琉のくれる愛は、大きくて、あたたかくて、いつも瓔偲をいっぱいに満たしてくれる。だからこそ、自分も燎琉をたいせつに思っているのだ、と、そのことをきちんと伝えたいとは思うのだ。
「でも、いざその段になると……ことばに、ならなくて」
瓔偲は、不甲斐ない自分に、そ、と、嘆息した。
胸がいっぱいになりすぎて、何も言えなくなってしまうというのもある。それから、瓔偲自身が、色恋と馴染みなく生きてきたことも原因なのかもしれなかった。そういうとき、どうしていいのか、わからなくなってしまうのだ。
瓔偲が何も言えないばかりに、燎琉を不安にさせているのではないか、と、そうわかってはいても巧く出来ない自分が、瓔偲には情けなかった。
「はは、瓔偲さまにも、そういう一面があったりするんですねえ」
わずかに揶揄する口調で皓義に言われ、瓔偲は、ちら、と、困ったように眉根を寄せた。
「ご用がお済みでしたら、椒桂殿へ戻りますか? ――殿下もそろそろお戻りの刻限ですしね。恋しくなったのでは?」
「っ、からかわないでください」
「はは、すみません。――あ、そうだ。そろそろといえば、順調なら王女も、そろそろ皇都へお着きになる頃合ですね」
「そうですね」
王女が皇宮へ到着すれば、いよいよ、歓待役の仕事が本格的になる。下準備はきちんと整えたつもりだが、と、瓔偲はここ数日を思い起こしつつ、気を引き締めた。
*
蒼い顔をした燎琉が、飛び込むように慌てた様子で椒桂殿に戻ったのは、瓔偲と皓義とが殿舎に帰り着いてから間もなくのことだった。
「金胡の王女が、消えた」
瓔偲の顔を見るなり、燎琉は開口一番に言った。
え、と、瓔偲は息を呑む。
「皇都の城門を入ってすぐのことだったらしい。忽然と姿を消して、いまも発見されていない、と」
どうやら歓応役の燎琉のところへ、そうした急報がもたらされたものらしかった。
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