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【第二部】あの日の戀の形代の君。
二-4 その夜の語らい*
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「で、殿下……っ」
裴府から椒桂殿の正堂へ戻るなり、燎琉は瓔偲を後ろから抱き締めた。
いきなりの行動に戸惑った瓔偲は声を上げたが、それで相手が動きを止めることはない。こちらの長い黒髪を掻き分けるようにして項を顕わにしたかと思うと、そのままそこにくちびるを寄せた。
「殿下……なに、を……?」
「抱きたい」
「え?」
「お前に俺を刻み込みたい」
どこか切羽詰まったような声で熱っぽく囁く燎琉が触れるのは、ちょうど、彼がかつて瓔偲を咬んでつがいにした痕のあるあたりのようだった。
首筋にあたたかな吐息がかかる。ぞく、と、瓔偲の背筋を、かすかな、けれどもたしかな快美が、脳天まで駆け抜けた。
けれども、次の瞬間に身に走ったのは、鋭い痛みのようなものである。
「あ、っ……」
瓔偲はちいさく嬌声めいた悲鳴をあげた。首筋に牙を立てられたのだ、あのときのように、と、そう悟った刹那、たしかに疼痛だったものは、どこまでも甘い痺れに変わって、全身を駆け巡った。
身体から、くたん、と、力が抜けてしまう。
「ふ、ぅ……」
吐き出す息は途端に熱を帯びた。吐息だけではない、身体もだ。こちらを抱きしめる燎琉の腕がなければ、瓔偲はきっとその場に崩折れてしまっていただろう。膝に力が入らなくて、思わず、相手の身に縋りつくような恰好になっていた。
「いい、匂い……」
燎琉が熱い息とともに耳許にそうつぶやいたときには、瓔偲のほうも、相手のあまやかな桂花の香りに身体も、心も、いっぱいに包み込まれている。それはほのかでやさしい香りのはずなのに、いまは濃密に匂い立って、瓔偲を恍惚とさせた。
身体の奥で、隠しきれない情慾が点るのを感じる。
「殿、下……」
瓔偲が首を反らせるようにして燎琉を振り向くと、まるで待ちかねてでもいたように燎琉がくちづけてきた。
くちびるが触れあい、すぐに、口中に舌を入れられる。くち、ちゅく、と、粘度の高い音をさせながら、絡め取られ、吸われると、じん、と、頭の中が甘く痺れた。
「あ……あ、っ……」
くちづけながら愛撫を施され、やがて立っていられなくなってきた瓔偲を、燎琉は抱え上げた。そのまま架子床まで運ぶと、とろんと蕩けたこちらの身を瀟洒な牀榻へと横たえて、圧し掛かってくる。
瓔偲の着物の帯を解き、袷を割って肌蹴させてしまうと、燎琉は自分ももどかしそうに着物をくつろげ、やや性急に身を繋いだ。
「アァ――……ッ」
肢を抱えられる恰好で奥まで貫かれ、瓔偲は嬌声を上げた。
ゆさ、ゆさ、と、燎琉はこちらの腰を掴んで瓔偲を揺すぶり立てる。熱く滾滾った昂りが、瓔偲の弱いところを擦り上げ、襞を掻き分けて最奥を力強く抉った。
「あ、あんっ、あっ、あぁ」
燎琉の律動にあわせて、こらえようとしても甘い声が出る。とろとろと身体が蕩け、心が蕩けて、燎琉を受け入れて食んでいる肚は際限なく蜜をあふれさせた。
ぐち、ぐちゅ、と、繋がったところから濡れた音がしている。否、これは、耳で聞くのではなく、身体を通して響く音だろうか。隘路を押し広げられ、出し入れされるたび、きゅうきゅう、と、瓔偲の内壁は無意識にも燎琉を締め上げていた。
「く、ぅ」
燎琉が呻くような声をあげ、切なげに眉根を寄せる。何かを堪えるような切なげな表情を見せたかと思うと、瓔偲を圧し拉ぐようにして、激しく腰を動かした。
「やっ、あ、あん、んぁ……アッ、アンッ、ンッ」
ごち、ごちゅん、と、燎琉のものが奥を突き上げる。喘ぐくちびるを、燎琉はくちづけでふさいだ。
くちづけながら肚の中を掻き回されると、瓔偲はぐずぐずになってしまう。心も、身体も、満たされて、しまいには泣きたくなった。
「ひ、ぁ、っ……殿下、ぁっ……燎琉、さま」
背中に腕を回わす恰好で、瓔偲は燎琉に抱きついた。きゅう、と、抱きしめると、耳許で燎琉が息を詰めるのがわかる。
ぐ、ぐぅう、と、押し込むようにされて、思わずきつく目を瞑った瓔偲は、次の刹那、眼裏で、ちかちか、と、光彩が弾けるのを見た。
「あ……あ……」
燎琉が中で極めたのを感じながら、うっとりとした声を上げる。
「ご、めん……ちょっと、強引だったな」
はあ、と、熱く満ち足りた吐息を聞かせつつ、ぬと、と、瓔偲の中から抜き取った燎琉が言った。汗で額に張り付いたこちらの前髪をやさしく梳きつつ、額に、眦に、頬にと、各所にそっと、いたわるようなくちづけを落としてくれる。
「大丈夫か?」
顔をのぞき込むようにしながら問われて、瓔偲はまだ、ぼう、と、しながらも、こくんとちいさくうなずいた。
「どこも、つらくはないか?」
「は、い……へいき、です」
まだ身体は快感の余韻を引きずっていて、ふわふわと夢見心地だったが、それは決して厭な感覚ではなかった。ただ、燎琉と肌身を合わせるようになるまで瓔偲はこんな愉楽があることを知らなかったので、羽化登仙の心持ちを味わわせてもらったあとは、いつも、どうしていいかわからなくなってしまう。
そのまま恥じ入って黙っていると、燎琉が瓔偲の隣にごろりと横になった。逞しくあたたかな腕が伸びてきて、こちらの身体を抱き込んでくる。素肌のぬくもりが慕わしくて、瓔偲がおとなしく相手に身を寄せると、燎琉は、ふぅ、と、嘆息めいた息を吐いた。
「ごめん」
「殿下……?」
「悪かった。強引に迫った自覚がある」
「そんな……お詫びいただくようなことでは、ありません。乱暴をされたわけでも、ありませんし」
最初こそ戸惑ったし、いつもより性急だったのはたしかだが、瓔偲の身体は燎琉を受け止めて間違いなく悦んでいた。無理を強いられたとはちっとも思っていなかったので、そんなふうに謝罪されてしまっては、かえって極まりが悪い。
けれども、その想いを瓔偲がうまく伝えられずにいるうちに、燎琉のほうが、ふ、と、自嘲めいた笑みを見せた。
「なんか、不安になったんだ……俺は金輪際お前を手放す気はないけど、お前はそうでもない気がして」
こつ、と、甘えるように額に額をやさしくぶつけられて、瓔偲は目を瞬く。間近で視線が交わると、燎琉は、ちら、と、苦笑してみせた。
「俺の利を考えたお前は、また、あっさり身を引いてしまいそうで……どうしようもなく不安になった。そうしたら、いますぐ、お前を抱き締めずにはいられなくなったんだ。――余裕がなくて、情けないな」
はあ、と、大きく息をつく相手は、どうやら自らを省みて嘆息するものらしかった。
「頭ではわかっているつもりなんだけどな。お前は俺を想ってくれている。俺たちはつがいだし、だから、お前が俺から離れようとするのは、俺への想いがなくなったからとかではなくて、俺を想うがゆえなんだって……でも、それでもさ、俺は絶対、お前と離れたくないからな」
最後は鳶色の眸に真っ直ぐに見詰められ、瓔偲はつい、たじろいでしまった。わずかに視線を逸らせると、そんなこちらの態度に、燎琉が、はは、と、軽く笑い声を立てる。
「さては図星だったな。いまのお前、しまったって、そんな表情だ。――お前はあまり感情を面に出さないけど、でも、気持ちが動かないわけでもないんだよな。だんだんわかってきた」
うん、と、燎琉はひとり頷くと、再び瓔偲をじっと見据える。
「で。お前、それが俺の利になるなら、裴彰昭の言うとおり、俺と離縁してもいいとでも言うつもりだったろ? でも、俺は絶対に厭だぞ」
「……ですが、殿下」
「譲らない。そんなの、本末転倒だ」
燎琉はきっぱりと言った。
瓔偲は一瞬黙って、はたはた、と、ゆるく瞬いた。
「ですが殿下、わたしは……お傍においていただけるなら、正妃でなく妾でもなんでも、一向にかまわないのです」
自分たちはつがいだ。いまも、燎琉に触れられた途端、瓔偲の身体も心もたやすく蕩け、そしてたっぷりと満たされた。このしあわせを知ってしまった以上、瓔偲はもう、簡単に燎琉と離れられる気はしなかった。
それでも、自分の存在が燎琉にとって邪魔になるのは、耐え難い。そうなるくらいなら、己の何を犠牲にしたって、燎琉のためになる行動を取りたいとは思っていた。
「あなたの、枷に……なりたくありません」
「……うん。――それで?」
燎琉が低く潜めたような声で言う。
「お前を妾にして、俺は今度は、金胡国の王女でも娶ればいいのか?」
燎琉の声にわずかな怒気を感じ取って、瓔偲は黙った。
しばらくお互いに沈黙したあと、燎琉が、ふう、と、しずかな息を吐く。
「ごめん。いまのは八つ当たりだな。ただ……俺がお前以外の誰かを傍に置いたとしても、お前は平気なのか、嫉妬もしてくれないのかって、ちょっと口惜しくなったよ。――俺など、お前が叔父上と親しげにしているだけでも、妬けるっていうのに」
我ながら情けない、と、燎琉は敢えて冗談めかした口調で言って、肩をすくめた。
相手の思わぬ発言に、瓔偲は、え、と、息を呑んで、ゆるりと目を瞬く。すると燎琉は、なんだその意外そうな表情は、と、こちらの機微を過たずに読み取って、不満そうに口を曲げた。
「叔父上はお前を、その……特別に好いていたんじゃないかとか、俺はつい、勘ぐってしまうこともあるんだが」
燎琉がそんなことを言うので、瓔偲はわずかに目を瞠る。
「鵬明殿下がですか? まさか」
燎琉の考えを打ち消すように、ふるふると首を振った。
「そんなのわからないだろ?」
「いえ、そんなことは、ありえません」
瓔偲が再びちいさく頭を振ると、燎琉が不思議そうにした。
「随分きっぱりと否定するんだな」
そう言われ、瓔偲は一拍、沈黙する。
「どうした?」
「いえ、その……あの方には、お忘れになれない方がいらっしゃるものと、思っておりましたので」
瓔偲も鵬明からそうはっきりと聞いたわけではない。だからそれは印象でしかないといえばそうだったが――有力な皇族である鵬明にこれまで縁談が舞い込まなかったはずがないのだし、それを退け続けてあの年齢まで独り身を貫くからには、そうさせるだけの――何か大きな事情があるのだろうと推測していた。
「へえ、そうか。二年、ずっと傍で叔父上と接してきたお前がそう言うなら、そうなのかもしれないな」
燎琉が嘆息するように言う。
そして、ふと眉を寄せ、表情を固くした。
「事情と言えば、彰昭どのも……一筋縄ではいかない事情をお抱えなのかもしれない」
そんなふうに話題を変える。
「彼の御息女……鵑月どのだったか。おそらく、癸性だよな?」
燎琉の言葉に瓔偲は刹那はっと息を呑み、それから、こくり、と、ちいさくうなずいた。
「やっぱりお前もそう思ったか」
「彼女がつけていた首飾り……一見して繊細な細工物のように見えておりましたが、あれは、癸性の者の身につける首輪だと思います」
裴家で不意に見えることとなった鵑月という名らしき少女は、たしかに項を覆うような特殊な首飾りをしていた。己も癸性であり、燎琉とつがいになるまではずっとそうした類のものを身につけ続けていた瓔偲は、もちろん、即座にそれに気がついていた。
その場では互いに口にこそしなかったが、燎琉も気づいていたのだ、と、瓔偲は思う。彰昭も何も言いはしなかったが、ふたりがそうと気づいたことを、悟っていたかもしれない。
では、鵬明はどうだろう。瓔偲はわずかに俯いて思案する。
燎琉の叔父は、裴彰昭に娘がいることにすら、事前には言及していなかった。が、彼は、もとから鵑月の存在を知っていたのだろうか。あるいは、彼女が癸性だということまで知った上で敢えて、自分たちを彰昭と会わせようとしていたのだろうか。
わからないな、と、瓔偲はかつての上司の人を喰ったような笑みを思い浮かべつつ、ちいさく柳眉を顰めた。
「彰昭どのがお前にとってきつい言葉を言い放ったのも、もしかすると、我が娘が癸性だからだろうか?」
「わかりません。そうなのかもしれませんが……」
癸性の者を身内に持つがゆえに、いっそう、癸性の者に対して思うものがあるという可能性はあった。瓔偲もまた、癸性であることが判明した途端、家族からつらく当たられるようになった経験者ではある。
「ただ……わたしの印象でしかありませんが、彰昭さまが御息女を疎んじているようには、見えませんでした。たしかに、きつく叱ってはいらっしゃいましたが」
「うん、俺もそう思う。――彼はおそらく、もともとああした物言いをなさる方なんだろうな。当たりはきついが、あれはただ娘の行動を窘めただけのことだ」
少女のほうも、父親を過度に懼れるような、おどおどした態度を見せてはいなかったように思う。どちらかといえば、むしろ親しげに接していたように見えていた。
普段から疎んじられ、つらく当たられていたならば、きっと、ふたりの様子はああではなかったろう。そうしたものは隠そうとしても滲み出るものだし、そうでないのなら、彼らの親子仲は悪くないのではないか、と、瓔偲は思う。
「なあ、瓔偲……彼はなにを抱えてるんだろうな」
燎琉はふと、遠くを見るようにして言った。
「殿下……?」
「そこには、俺みたいな他者が迂闊に踏み込んではいけないのかもしれないが……でも俺は、いま、あの人の協力がほしいと思っている。彼の娘が癸性だというなら、なおさら」
そう言った燎琉は、強い眼差しで、一心に虚空を見据えていた。その真摯な表情に、瓔偲はしばし目を奪われる。
「……はい、殿下」
やがて、そう、静かにうなずいた――……燎琉がそれを望むなら、彼のために、瓔偲は力を尽くすだけだ。
「三顧の礼の故事もございます。焦らず、気長に参りましょう。殿下がお心を示し続ければ、いつか彰昭さまにも伝わるときが来るに違いありません」
燎琉に心打たれた瓔偲だからこそ、根拠はなくとも、それはいっそ確信のようなものだった。すぐには無理かもしれないが、きっと、彰昭も燎琉の志に気持ちを動かしてくれる日がやってくるはずだ。
「そうだな」
燎琉は瓔偲をみて、ふ、と、目を眇めた。
「それにしても……金胡の王女の歓待のことについては、彰昭どのの協力は得られそうにないな」
間近に迫った接待役のことを持ち出し、燎琉が溜め息をついた。
瓔偲はそれに、くすくす、と、ちいさく笑う。
「そちらはご心配には及びません、殿下。彰昭さまも仰っていた通り、礼部の資料を読めば、概要は掴めると思いますし……わたしにおまかせくださいますか?」
瓔偲の言に、燎琉は一瞬、はた、と、驚いたように目を瞠る。それから、くつくつ、と、なぜか可笑しそうに喉を鳴らした。
「そういえばお前は、優秀な官吏だったんだった。――うん。頼りにしてる」
そう言って、静かに、瓔偲の肩を抱き寄せた。
裴府から椒桂殿の正堂へ戻るなり、燎琉は瓔偲を後ろから抱き締めた。
いきなりの行動に戸惑った瓔偲は声を上げたが、それで相手が動きを止めることはない。こちらの長い黒髪を掻き分けるようにして項を顕わにしたかと思うと、そのままそこにくちびるを寄せた。
「殿下……なに、を……?」
「抱きたい」
「え?」
「お前に俺を刻み込みたい」
どこか切羽詰まったような声で熱っぽく囁く燎琉が触れるのは、ちょうど、彼がかつて瓔偲を咬んでつがいにした痕のあるあたりのようだった。
首筋にあたたかな吐息がかかる。ぞく、と、瓔偲の背筋を、かすかな、けれどもたしかな快美が、脳天まで駆け抜けた。
けれども、次の瞬間に身に走ったのは、鋭い痛みのようなものである。
「あ、っ……」
瓔偲はちいさく嬌声めいた悲鳴をあげた。首筋に牙を立てられたのだ、あのときのように、と、そう悟った刹那、たしかに疼痛だったものは、どこまでも甘い痺れに変わって、全身を駆け巡った。
身体から、くたん、と、力が抜けてしまう。
「ふ、ぅ……」
吐き出す息は途端に熱を帯びた。吐息だけではない、身体もだ。こちらを抱きしめる燎琉の腕がなければ、瓔偲はきっとその場に崩折れてしまっていただろう。膝に力が入らなくて、思わず、相手の身に縋りつくような恰好になっていた。
「いい、匂い……」
燎琉が熱い息とともに耳許にそうつぶやいたときには、瓔偲のほうも、相手のあまやかな桂花の香りに身体も、心も、いっぱいに包み込まれている。それはほのかでやさしい香りのはずなのに、いまは濃密に匂い立って、瓔偲を恍惚とさせた。
身体の奥で、隠しきれない情慾が点るのを感じる。
「殿、下……」
瓔偲が首を反らせるようにして燎琉を振り向くと、まるで待ちかねてでもいたように燎琉がくちづけてきた。
くちびるが触れあい、すぐに、口中に舌を入れられる。くち、ちゅく、と、粘度の高い音をさせながら、絡め取られ、吸われると、じん、と、頭の中が甘く痺れた。
「あ……あ、っ……」
くちづけながら愛撫を施され、やがて立っていられなくなってきた瓔偲を、燎琉は抱え上げた。そのまま架子床まで運ぶと、とろんと蕩けたこちらの身を瀟洒な牀榻へと横たえて、圧し掛かってくる。
瓔偲の着物の帯を解き、袷を割って肌蹴させてしまうと、燎琉は自分ももどかしそうに着物をくつろげ、やや性急に身を繋いだ。
「アァ――……ッ」
肢を抱えられる恰好で奥まで貫かれ、瓔偲は嬌声を上げた。
ゆさ、ゆさ、と、燎琉はこちらの腰を掴んで瓔偲を揺すぶり立てる。熱く滾滾った昂りが、瓔偲の弱いところを擦り上げ、襞を掻き分けて最奥を力強く抉った。
「あ、あんっ、あっ、あぁ」
燎琉の律動にあわせて、こらえようとしても甘い声が出る。とろとろと身体が蕩け、心が蕩けて、燎琉を受け入れて食んでいる肚は際限なく蜜をあふれさせた。
ぐち、ぐちゅ、と、繋がったところから濡れた音がしている。否、これは、耳で聞くのではなく、身体を通して響く音だろうか。隘路を押し広げられ、出し入れされるたび、きゅうきゅう、と、瓔偲の内壁は無意識にも燎琉を締め上げていた。
「く、ぅ」
燎琉が呻くような声をあげ、切なげに眉根を寄せる。何かを堪えるような切なげな表情を見せたかと思うと、瓔偲を圧し拉ぐようにして、激しく腰を動かした。
「やっ、あ、あん、んぁ……アッ、アンッ、ンッ」
ごち、ごちゅん、と、燎琉のものが奥を突き上げる。喘ぐくちびるを、燎琉はくちづけでふさいだ。
くちづけながら肚の中を掻き回されると、瓔偲はぐずぐずになってしまう。心も、身体も、満たされて、しまいには泣きたくなった。
「ひ、ぁ、っ……殿下、ぁっ……燎琉、さま」
背中に腕を回わす恰好で、瓔偲は燎琉に抱きついた。きゅう、と、抱きしめると、耳許で燎琉が息を詰めるのがわかる。
ぐ、ぐぅう、と、押し込むようにされて、思わずきつく目を瞑った瓔偲は、次の刹那、眼裏で、ちかちか、と、光彩が弾けるのを見た。
「あ……あ……」
燎琉が中で極めたのを感じながら、うっとりとした声を上げる。
「ご、めん……ちょっと、強引だったな」
はあ、と、熱く満ち足りた吐息を聞かせつつ、ぬと、と、瓔偲の中から抜き取った燎琉が言った。汗で額に張り付いたこちらの前髪をやさしく梳きつつ、額に、眦に、頬にと、各所にそっと、いたわるようなくちづけを落としてくれる。
「大丈夫か?」
顔をのぞき込むようにしながら問われて、瓔偲はまだ、ぼう、と、しながらも、こくんとちいさくうなずいた。
「どこも、つらくはないか?」
「は、い……へいき、です」
まだ身体は快感の余韻を引きずっていて、ふわふわと夢見心地だったが、それは決して厭な感覚ではなかった。ただ、燎琉と肌身を合わせるようになるまで瓔偲はこんな愉楽があることを知らなかったので、羽化登仙の心持ちを味わわせてもらったあとは、いつも、どうしていいかわからなくなってしまう。
そのまま恥じ入って黙っていると、燎琉が瓔偲の隣にごろりと横になった。逞しくあたたかな腕が伸びてきて、こちらの身体を抱き込んでくる。素肌のぬくもりが慕わしくて、瓔偲がおとなしく相手に身を寄せると、燎琉は、ふぅ、と、嘆息めいた息を吐いた。
「ごめん」
「殿下……?」
「悪かった。強引に迫った自覚がある」
「そんな……お詫びいただくようなことでは、ありません。乱暴をされたわけでも、ありませんし」
最初こそ戸惑ったし、いつもより性急だったのはたしかだが、瓔偲の身体は燎琉を受け止めて間違いなく悦んでいた。無理を強いられたとはちっとも思っていなかったので、そんなふうに謝罪されてしまっては、かえって極まりが悪い。
けれども、その想いを瓔偲がうまく伝えられずにいるうちに、燎琉のほうが、ふ、と、自嘲めいた笑みを見せた。
「なんか、不安になったんだ……俺は金輪際お前を手放す気はないけど、お前はそうでもない気がして」
こつ、と、甘えるように額に額をやさしくぶつけられて、瓔偲は目を瞬く。間近で視線が交わると、燎琉は、ちら、と、苦笑してみせた。
「俺の利を考えたお前は、また、あっさり身を引いてしまいそうで……どうしようもなく不安になった。そうしたら、いますぐ、お前を抱き締めずにはいられなくなったんだ。――余裕がなくて、情けないな」
はあ、と、大きく息をつく相手は、どうやら自らを省みて嘆息するものらしかった。
「頭ではわかっているつもりなんだけどな。お前は俺を想ってくれている。俺たちはつがいだし、だから、お前が俺から離れようとするのは、俺への想いがなくなったからとかではなくて、俺を想うがゆえなんだって……でも、それでもさ、俺は絶対、お前と離れたくないからな」
最後は鳶色の眸に真っ直ぐに見詰められ、瓔偲はつい、たじろいでしまった。わずかに視線を逸らせると、そんなこちらの態度に、燎琉が、はは、と、軽く笑い声を立てる。
「さては図星だったな。いまのお前、しまったって、そんな表情だ。――お前はあまり感情を面に出さないけど、でも、気持ちが動かないわけでもないんだよな。だんだんわかってきた」
うん、と、燎琉はひとり頷くと、再び瓔偲をじっと見据える。
「で。お前、それが俺の利になるなら、裴彰昭の言うとおり、俺と離縁してもいいとでも言うつもりだったろ? でも、俺は絶対に厭だぞ」
「……ですが、殿下」
「譲らない。そんなの、本末転倒だ」
燎琉はきっぱりと言った。
瓔偲は一瞬黙って、はたはた、と、ゆるく瞬いた。
「ですが殿下、わたしは……お傍においていただけるなら、正妃でなく妾でもなんでも、一向にかまわないのです」
自分たちはつがいだ。いまも、燎琉に触れられた途端、瓔偲の身体も心もたやすく蕩け、そしてたっぷりと満たされた。このしあわせを知ってしまった以上、瓔偲はもう、簡単に燎琉と離れられる気はしなかった。
それでも、自分の存在が燎琉にとって邪魔になるのは、耐え難い。そうなるくらいなら、己の何を犠牲にしたって、燎琉のためになる行動を取りたいとは思っていた。
「あなたの、枷に……なりたくありません」
「……うん。――それで?」
燎琉が低く潜めたような声で言う。
「お前を妾にして、俺は今度は、金胡国の王女でも娶ればいいのか?」
燎琉の声にわずかな怒気を感じ取って、瓔偲は黙った。
しばらくお互いに沈黙したあと、燎琉が、ふう、と、しずかな息を吐く。
「ごめん。いまのは八つ当たりだな。ただ……俺がお前以外の誰かを傍に置いたとしても、お前は平気なのか、嫉妬もしてくれないのかって、ちょっと口惜しくなったよ。――俺など、お前が叔父上と親しげにしているだけでも、妬けるっていうのに」
我ながら情けない、と、燎琉は敢えて冗談めかした口調で言って、肩をすくめた。
相手の思わぬ発言に、瓔偲は、え、と、息を呑んで、ゆるりと目を瞬く。すると燎琉は、なんだその意外そうな表情は、と、こちらの機微を過たずに読み取って、不満そうに口を曲げた。
「叔父上はお前を、その……特別に好いていたんじゃないかとか、俺はつい、勘ぐってしまうこともあるんだが」
燎琉がそんなことを言うので、瓔偲はわずかに目を瞠る。
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燎琉の考えを打ち消すように、ふるふると首を振った。
「そんなのわからないだろ?」
「いえ、そんなことは、ありえません」
瓔偲が再びちいさく頭を振ると、燎琉が不思議そうにした。
「随分きっぱりと否定するんだな」
そう言われ、瓔偲は一拍、沈黙する。
「どうした?」
「いえ、その……あの方には、お忘れになれない方がいらっしゃるものと、思っておりましたので」
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「へえ、そうか。二年、ずっと傍で叔父上と接してきたお前がそう言うなら、そうなのかもしれないな」
燎琉が嘆息するように言う。
そして、ふと眉を寄せ、表情を固くした。
「事情と言えば、彰昭どのも……一筋縄ではいかない事情をお抱えなのかもしれない」
そんなふうに話題を変える。
「彼の御息女……鵑月どのだったか。おそらく、癸性だよな?」
燎琉の言葉に瓔偲は刹那はっと息を呑み、それから、こくり、と、ちいさくうなずいた。
「やっぱりお前もそう思ったか」
「彼女がつけていた首飾り……一見して繊細な細工物のように見えておりましたが、あれは、癸性の者の身につける首輪だと思います」
裴家で不意に見えることとなった鵑月という名らしき少女は、たしかに項を覆うような特殊な首飾りをしていた。己も癸性であり、燎琉とつがいになるまではずっとそうした類のものを身につけ続けていた瓔偲は、もちろん、即座にそれに気がついていた。
その場では互いに口にこそしなかったが、燎琉も気づいていたのだ、と、瓔偲は思う。彰昭も何も言いはしなかったが、ふたりがそうと気づいたことを、悟っていたかもしれない。
では、鵬明はどうだろう。瓔偲はわずかに俯いて思案する。
燎琉の叔父は、裴彰昭に娘がいることにすら、事前には言及していなかった。が、彼は、もとから鵑月の存在を知っていたのだろうか。あるいは、彼女が癸性だということまで知った上で敢えて、自分たちを彰昭と会わせようとしていたのだろうか。
わからないな、と、瓔偲はかつての上司の人を喰ったような笑みを思い浮かべつつ、ちいさく柳眉を顰めた。
「彰昭どのがお前にとってきつい言葉を言い放ったのも、もしかすると、我が娘が癸性だからだろうか?」
「わかりません。そうなのかもしれませんが……」
癸性の者を身内に持つがゆえに、いっそう、癸性の者に対して思うものがあるという可能性はあった。瓔偲もまた、癸性であることが判明した途端、家族からつらく当たられるようになった経験者ではある。
「ただ……わたしの印象でしかありませんが、彰昭さまが御息女を疎んじているようには、見えませんでした。たしかに、きつく叱ってはいらっしゃいましたが」
「うん、俺もそう思う。――彼はおそらく、もともとああした物言いをなさる方なんだろうな。当たりはきついが、あれはただ娘の行動を窘めただけのことだ」
少女のほうも、父親を過度に懼れるような、おどおどした態度を見せてはいなかったように思う。どちらかといえば、むしろ親しげに接していたように見えていた。
普段から疎んじられ、つらく当たられていたならば、きっと、ふたりの様子はああではなかったろう。そうしたものは隠そうとしても滲み出るものだし、そうでないのなら、彼らの親子仲は悪くないのではないか、と、瓔偲は思う。
「なあ、瓔偲……彼はなにを抱えてるんだろうな」
燎琉はふと、遠くを見るようにして言った。
「殿下……?」
「そこには、俺みたいな他者が迂闊に踏み込んではいけないのかもしれないが……でも俺は、いま、あの人の協力がほしいと思っている。彼の娘が癸性だというなら、なおさら」
そう言った燎琉は、強い眼差しで、一心に虚空を見据えていた。その真摯な表情に、瓔偲はしばし目を奪われる。
「……はい、殿下」
やがて、そう、静かにうなずいた――……燎琉がそれを望むなら、彼のために、瓔偲は力を尽くすだけだ。
「三顧の礼の故事もございます。焦らず、気長に参りましょう。殿下がお心を示し続ければ、いつか彰昭さまにも伝わるときが来るに違いありません」
燎琉に心打たれた瓔偲だからこそ、根拠はなくとも、それはいっそ確信のようなものだった。すぐには無理かもしれないが、きっと、彰昭も燎琉の志に気持ちを動かしてくれる日がやってくるはずだ。
「そうだな」
燎琉は瓔偲をみて、ふ、と、目を眇めた。
「それにしても……金胡の王女の歓待のことについては、彰昭どのの協力は得られそうにないな」
間近に迫った接待役のことを持ち出し、燎琉が溜め息をついた。
瓔偲はそれに、くすくす、と、ちいさく笑う。
「そちらはご心配には及びません、殿下。彰昭さまも仰っていた通り、礼部の資料を読めば、概要は掴めると思いますし……わたしにおまかせくださいますか?」
瓔偲の言に、燎琉は一瞬、はた、と、驚いたように目を瞠る。それから、くつくつ、と、なぜか可笑しそうに喉を鳴らした。
「そういえばお前は、優秀な官吏だったんだった。――うん。頼りにしてる」
そう言って、静かに、瓔偲の肩を抱き寄せた。
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―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜
エル
BL
(2024.6.19 完結)
両親と離れ一人孤独だった慶太。
容姿もよく社交的で常に人気者だった玲人。
高校で出会った彼等は惹かれあう。
「君と出会えて良かった。」「…そんなわけねぇだろ。」
甘くて苦い、辛く苦しくそれでも幸せだと。
そんな恋物語。
浮気×健気。2人にとっての『ハッピーエンド』を目指してます。
*1ページ当たりの文字数少なめですが毎日更新を心がけています。
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
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少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
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第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。
【魔導具師マリオンの誤解】 ~陰謀で幼馴染みの王子に追放されたけど美味しいごはんともふもふに夢中なので必死で探されても知らんぷりします
真義あさひ
BL
だいたいタイトル通りの前世からの因縁カプもの、剣聖王子×可憐な錬金魔導具師の幼馴染みライトBL。
攻の王子はとりあえず頑張れと応援してやってください……w
◇◇◇
「マリオン・ブルー。貴様のような能無しはこの誉れある研究学園には必要ない! 本日をもって退学処分を言い渡す!」
マリオンはいくつもコンクールで受賞している優秀な魔導具師だ。業績を見込まれて幼馴染みの他国の王子に研究学園の講師として招かれたのだが……なぜか生徒に間違われ、自分を呼び寄せたはずの王子からは嫌がらせのオンパレード。
ついに退学の追放処分まで言い渡されて意味がわからない。
(だから僕は学生じゃないよ、講師! 追放するなら退学じゃなくて解雇でしょ!?)
マリオンにとって王子は初恋の人だ。幼い頃みたく仲良くしたいのに王子はマリオンの話を聞いてくれない。
王子から大切なものを踏みつけられ、傷つけられて折れた心を抱え泣きながら逃げ出すことになる。
だがそれはすべて誤解だった。王子は偽物で、本物は事情があって学園には通っていなかったのだ。
事態を知った王子は必死でマリオンを探し始めたが、マリオンは戻るつもりはなかった。
もふもふドラゴンの友達と一緒だし、潜伏先では綺麗なお姉さんたちに匿われて毎日ごはんもおいしい。
だがマリオンは知らない。
「これぐらいで諦められるなら、俺は転生してまで追いかけてないんだよ!」
王子と自分は前世からずーっと同じような追いかけっこを繰り返していたのだ。
純情将軍は第八王子を所望します
七瀬京
BL
隣国との戦で活躍した将軍・アーセールは、戦功の報償として(手違いで)第八王子・ルーウェを所望した。
かつて、アーセールはルーウェの言葉で救われており、ずっと、ルーウェの言葉を護符のようにして過ごしてきた。
一度、話がしたかっただけ……。
けれど、虐げられて育ったルーウェは、アーセールのことなど覚えて居らず、婚礼の夜、酷く怯えて居た……。
純情将軍×虐げられ王子の癒し愛
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