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積み残し編……もうちょっと続くんじゃよ

驚天動地

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「その時からずっと好きでした!」

 あー、なるほどね?  あの件ね?

「レオにぃかっこいいじゃん」
「さすがうちらのレオくんね」

「うちの」じゃなくて「うちらの」になるんですね?

「レオ様、素敵です」
「レオ様に助けてもらう……うらやまけしからん」
「困っている女性を救うなんて、旦那様は紳士ですわね」

 あの頃はヤンチャしてたから……じゃなくて!

 みんな褒めてくれてるけど!
 なんかヤンキーに絡まれた女子生徒を助けたみたくなってるけど!
 違うんだよ!

「お前……男だったじゃん」
「「「えっ?」」」

 俺と影野瞳以外の全員の声が重なった。

「完全に思い出したわ。お前瞳也とうやか!」
「うん。思い出してくれて嬉しいよ。でも僕は瞳也じゃなくて瞳だよ」

 なるほど、瞳也だから瞳ね?  あー……うん、わかった。完全に理解した。

「なんで女みたいになってんの?」
「小さい頃からずっと違和感があったんだ。男の子が女の子を好きになるって気持ちも分からなかったんだ」
「え?  あ、うん。続けて?」

 話が飛んだ気がしたがとりあえず最後まで聞こうか。

「小学校の時かな、なんだか自分がみんなと違うって気付いたんだ。僕は、男の子が好きそうなかっこいいものより、女の子が好きそうな可愛いものが好きだった」

 うんうん。それでそれで?

「見るテレビ番組も、男の子向けのじゃなくて女の子向けの番組ばかり見てたんだ。だから男子とは話が合わなくて、女子とばかり喋ってたんだ。そうしたら『女子とばっかり話しててキモイ、女みたい』って虐められるようになったんだ」

 それは……可哀想だけど子供は残酷だからな。
 自分たちの集団と違うやつが居れば攻撃しがちだ。
 教師は止めなかったのかな?  止めなかったんだろうな……

「それで、段々人と話さなくなって、人が怖くなって、オドオドしてる僕が気に入らなかったんだろうね……中学時代はそれでさらに虐められて……」

 ちょっと重い。聞くのが辛い。

「そんな時にレオきゅんに助けられたんだ。こんな僕を、レオきゅんは救ってくれたんだ」

 やめろ。今シリアスだからきゅんはやめろ。笑っちゃうだろ。
 普通に「くん」にしろ「くん」に。

「その時に気付いたんだ。僕は心は女の子だったんだって……ずっと自分は男なのにって考えてたから違和感があったんだって気付いたんだ!」

 気付いたんだ!  じゃないよ。どうすんのこの空気……

「あー……うん。分かった。つまり性自認は?」
「女性」
「恋愛対象は?」
「レオきゅん」

 なんでだよ。

「体はまだ男だけど……大丈夫!」

 まだ?
 それよりなにが大丈夫なんだ?

「何とかしてみせるから!  幸い僕は【賢者】だから、魔法でなんとかしてみせるから!  だからそれが出来たら……僕もお嫁さんにしてください!」

 瞳也……じゃなかった、瞳はガバッと頭を下げる。
 元々正座していたので、自然と土下座の姿勢となった。
 そして大丈夫では無いと思う。

「兎斗も……兎斗もお願いします。レオにぃのお嫁さんにしてください」
「うちもお願いします。ちゃんと良い奥さんになれるように頑張ります」

 瞳に触発されたのか、兎斗と佳奈も揃って頭を下げる。

 やめてくれ……女性3人(うち1人男性)に土下座させるとか炎上案件でしかないからマジでやめてくれ……

「分かった、分かったから……お願いだから頭上げて」

 そう答えると、3人は顔を上げた。3人共嬉しそうな表情を浮かべている。

 なんか有耶無耶になってる感あるけど、許されたつもりになってるのかな?
 まぁ暗示の件もあるから情状酌量の余地はあるか。
 一応、敵対したケジメと、脅しの意味を込めた条件でもだしておこうか?
 なるべくえげつないの……実際やるつもりは無いからこそえげつないのあるかな……

「1つ条件がある」

 嬉しそうな表情を浮かべていた3人だが、一瞬でキリッとした真面目な表情へと変わる。

「もしサーシャたちほかの嫁に手を出すことは禁止する。もし破ったら……」

 どうしよう。思いつかない……
 いや、あるな。一年ちょっと前に見た光景。

 3人は息を飲みながら俺を見ている。

「両手両足を斬り飛ばした上で全裸で盗賊のアジトの前に捨てる。尚、これは連帯責任だ。3人で監視し合え」

 えっぐ……自分で言っといてえぐすぎる……自分で自分にドン引きだ。
 俺、そういうの大嫌いなんだけど……

 今のこのいたたまれない気持ちを戦闘中に本気で兎斗を殺そうとした自分への罰ということにしておこう。

 3人は想像したのか、恐怖に引き攣った表情で固まった。
 サーシャたちからは「やりすぎ」といった感じの視線を向けられている。

 これくらい言っとかないと不安が残るんだよ……
 だって俺の嫁は全員殺す勢いだったんだもん……

「この条件飲めるか?」

 サーシャたちからは「そこまでやらなくても……」といった意味の視線をひしひしと感じる。

 勇者娘3人は一瞬顔を見合せた後、頷いた。

「兎斗たちはレオにぃと敵対しちゃったから……」
「それで許して貰えるなら……うちらは甘んじて受け入れます」
「むしろ僕たちがほかの奥さんたちを守るよ」

 3人は覚悟を秘めた瞳で俺を見ながらそう言った。

「ウルト」
『よろしいのですか?』
「構わない。それからこの3人も俺の妻として扱う。異論はあるか?」
『ありません。仰せのままに』

 格子が消えて3人は解放された。

「ウトさん、カナさん、ヒトミさん。私はサーシャと申します。これからよろしくお願いします」
「あたしイリアーナ。よろ」
「ベラですわ。ウトさんは旦那様の幼馴染ですのよね?  よろしければ旦那様の小さい頃のお話を伺いたいですわ」

 待って。やめて。

「えっと……兎斗で良ければ……」
「レオくんの小さい頃の話か、うちも聞きたい!」
「僕も!」

 おい待て、やめろ。6人でウルトに乗り込もうとするな!

「ちょ……」
「長くなりそうですので、レオ様はあちらの天幕で先にお休みになってください」
「女子会ですわ!」
「レオ様、おやすー」

 パタン……と6人はウルトに乗り込み扉を閉めてしまった。

「……えっ?」

 完全に取り残されて呆然とする俺の肩を、ジェイドが優しく叩いた。

「御館様、妻には妻同士の語らいも必要ですぞ。それが家内安定のコツですからな」
「あ……うん」

 嫁同士が仲良くなるには旦那に聞かせられない話もする必要があるってことか……諦めて話のネタにされておこう。

「じゃあ俺は休む」
「ごゆるりと」

 1人寂しく天幕に向けて歩いていると、再び背後から肩を叩かれた。
 まだ何かあるのかな?

 振り返ると、満面の笑みを浮かべたアンナが立っていた。

「どんまいッス!」

 アンナはいい笑顔でサムズアップしてからウルトに乗り込んで行った……

 なんなんだよ……
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