上 下
208 / 266
積み残し編……もうちょっと続くんじゃよ

ウルトの気遣い

しおりを挟む
 橋の建設は、あっという間に終わってしまった。

 反対側に渡り、昨日と同じくリンが地盤を硬める。
 その後にウルトが回収してきた大岩を渓谷に落とす。

 はみ出した部分を改めて【無限積載】でカットしながら積み込み、これだけて幅10メートルを超える橋が完成してしまった。

 果たしてこれは橋なのか?

『マスター、継ぎ目部分の接続をお願いしてもよろしいでしょうか?』
「ああ、うん」

 これくらいなら俺の魔力でもなんとかなる。
 継ぎ目に魔力を流し込んで段差や隙間のないように変化させていく。

「そういえばさ、これ倒れたりしないの?」
『問題ありません。100メートルほどは地面に埋めております。計算上1000年単位で持つかと』
「1000年……なら問題無いのかな……」

 今までに何度も思ったが、ウルトのやることについて考えたら負けだと思う。

 継ぎ目の接続も完了、これで俺とリンの出張は終わりな訳だが……うーむ。
 数日か下手すりゃ数週間と言って出てきたのに翌日帰宅とはこれ如何に。
 いや、決してダメなわけではないのだが……なんだか嘘ついた気になってしまう。

 それに、せっかくリンと2人で出かけてるのにすぐ帰るのはな……と。

 そこで、ふと思った。
 俺、嫁と2人で全然出掛けてなくね?

 2人で出掛けたのって、今回のリンと、前回は教国に来る前にイリアーナと出掛けたくらい……

 やばい、これはやばい。

「レオ、顔色が悪いけどどうしたの?」
「リン、俺は大変なことに気付いてしまった……」

 背中に冷たい汗が流れる。

「大変なこと?」
「うん。俺……嫁と2人で全然出掛けてない……嫁を蔑ろにするクソ野郎だ……」

 思わず頭を抱えてしまう。
 これじゃダメだ、このままじゃ……うわぁぁ……

「それがどうかしたの?」

 軽く言われたので思わず顔を上げてリンの顔を見る。

「そもそも貴族なんてそんなものよ?  2人きりで出掛けることなんてまずないもの」
「そうなの?」
「ええ。そもそも普通は護衛もつくし、パーティに誘われたとしてもすぐにほかの貴族に囲まれちゃうから2人の時間なんて無いわよ?」

 そっか……まぁ護衛とか俺たちには全く必要無いもんな。

「リンは今の生活に不満は無いのか?」
「特に無いわね。レオがあたしたちに気を使ってくれてるのも感じてるし、貴族の奥さんなんてあまり家から出ないものなのに色々連れて行ってくれるし、むしろ不満どころか満足ね」
「そうなんだ、それは良かったけど……ほかのみんなもそうなのかな?」
「そうだと思うわよ。よくみんなで話してるけど、レオは理想の旦那様よ?  平等に接してくれるし、夜はきちんと愛してくれるし……」

 リンは顔を赤く染めて視線を逸らす。
 なんだか昨夜からやけに可愛いんだけど……

「だ、だから!  レオはもっと自信を持ちなさい!  あなたはあたしたちの旦那様なんだから!」

 恥ずかしかったのか、リンは大声で捲し立てる。
 これは……ここまで言われてしょんぼりしてたら男じゃないか。

「分かった。ありがとう」
「いいのよ。それに……お、お礼なら言葉より態度で示して欲しいわね」

 そう言ってリンは両腕を軽く開く。
 これは抱きしめろということなのだろうか?

 そう思い軽く抱き寄せると、リンは俺の背中に腕を回して強く抱きついてきた。
 なんだろう、いつもと感じが違いすぎる……

 そんな俺たちを、ウルトは黙ったまま微動だにせず見つめていた。

「満足。じゃあ一度お父様に報告してから帰りましょうか」

 しばらく俺に抱きついていたリンだが、満足したようで何よりだ。

「いいのか?  2人きりで出掛ける機会なんて中々無いのに」
「ええ。帰れるのに帰らないのはみんなに悪いしね」
「それもそうか。分かったよ」

 再びウルトに乗ってヒメカワの街へ戻り伯爵に橋が完成した旨を伝える。

「もう?」
「ええ。だからまた人を送って確認しておいてね。じゃああたしたちは聖都に帰るから。またね」
「あ、ああ。気を付けてな……」

 未だに事態を呑み込めていないヒメカワ伯爵を置いてさっさと帰路に着くリン、慌てて追いかける。

 これでいいのだろうか?

 リンはこれでいいと言うのでまぁいいのだろう。
 三度ウルトに乗り込んで聖都へと戻ってきた。

 門の前でウルトから降りるが、小さくなる気配がない。どうしたのだろうか?

『マスター、私は領地開発に戻りますので。これで失礼します』
「え、ちょ……」

 ウルトは俺が止めるのも聞かず未開地方向へと走り去ってしまった。
 そんなに開発が楽しかったのかな?  ハマったのか。

「レオの言うことを聞かないなんて珍しいわね」
「たね。初めてかもしれない」

 そんな話をしながら聖都の門を潜る。
 時間は丁度昼時、昼食はは2人で食べて帰ろうか。


「ただいま」
「おかえりなさい」

 適当な店で昼食を済ませて帰宅、するとサーシャが玄関で出迎えてくれた。

「レオ様」
「なに?」

 玄関の扉を閉めると、サーシャはなにやらモジモジしながらこちらを見つめている。

「レオ様は最高の旦那様です!  自信持ってください!」

 両手をグッと握りしめ小さなガッツポーズを作ってからサーシャは奥へと引っ込んでしまった。

「え、なに?」
「さぁ?」

 まぁいいかと一度リンと顔を見合せてから俺たちもサーシャに続いてリビングに足を踏み入れる。

「おかえりなさいませ。旦那様は理想の男性です。不安にならないで下さいな」
「レオ様、最高の夫」
「レオ殿は私のような女にも構ってくれる素敵な方ですよ」
「レオさん愛されてるッスね、もちろん自分もレオさんのこと大好きッスよ!」

 リビングにはよめーずが勢揃いしていて、俺が入ると口々に俺を褒める。

 なにこれ……

「え……」

 もしかして……ウルトが逃げるように未開地に向かったのって……

「レオ様、ウルト様からこのようなものが届きまして……」

 サーシャは慣れた手つきでスマホを操作する。
 メディアアプリを開いてとある動画を表示、再生して俺とリンに見せてくる。


 ◇◆

「リン、俺は大変なことに気付いてしまった……」
「大変なこと?」
「うん。俺……嫁と2人で全然出掛けてない……嫁を蔑ろにするクソ野郎だ……」

 ◇◆

「レオ様はクソ野郎なんかではありませんよ。自信を持ってください!」

 あ……あ……あの野郎、やりやがったな!?

「ウルトォォオオオ!!  【トラック召喚】!!」

 怒りに任せて【トラック召喚】を発動するが、ウルトは姿を現さない。

 何故!?
 もう一度【トラック召喚】を発動するが、うんともすんとも言わない。

「あの、レオ様……ウルト様からです」

 とても言いづらそうにサーシャはスマホを俺に差し出してきた。

『どうされましたかマスター』
「どうしたもこうしたもあるか!  なんで召喚に応じない!?」
『申し訳ございません。今少々手が離せませんので』

 なん……だと!?

『3日ほどで戻ります。それでは失礼します』
「おい!」

 ウルトからの返答は無かった。

「あの野郎……」

 裏切ったか?  ついに裏切りやがったのか?

「レオ様、落ち着いてください」
「サーシャ……でも……」

 サーシャは俺の両腕を掴んで続ける。

「おそらくウルト様はレオ様のことを心配していたのだと思います。私はこれを知れて良かったと思っていますよ?」
「サーシャ……」
「そうッスよ!  レオさんが自信を失うとか一大事ッス!」
「ウルトさんはそれをわたくしたちに教えてくださったのです。怒らないであげてください」
「アンナ……ベラ……」

 そうか?  そうなのか?

「そうですよ。私たちにはレオ殿を支える義務があります」
「うん。ウルトいい人」

「ソフィア……イリアーナ……」

 ウルトは人じゃない。

「あたしも恥ずかしいけど……許してあげたら?」
「リン……みんながそう言うのなら……」

 怒らない方がいいのだろうか……

「とりあえずお茶にしましょう!」

 サーシャのこの言葉で話は打ち切りとなった。

 その日からなんだかみんなが優しくなった気がする。
 今まで以上に俺に構ってくれるようになったことは正直嬉しい。
 嬉しいのだが……なんだかなぁ……

 それから……ウルトは本当に3日後に戻ってきた。

「お前……」
「私はマスターのためをぉぉぉぉぉぉぉ」

 とりあえず怒りの意思表示として、持っている身体能力強化系のスキルをフル活用して小さくなったウルトを全力でぶん投げておいた。

 なのに翌朝、普通に俺の部屋のベッドサイドテーブルの上に戻って来ていた。
 どうやって入ってきたんだよ……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~

つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。 このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。 しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。 地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。 今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た

pelonsan
恋愛
 ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。  僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。  昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。  去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日…… ※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。

処理中です...