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最終章……神の座を目指して

183話……おすそ分け

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 自宅に戻り、夕食を食べてからみんなでお茶を愉しむ。
 話すなら今しかないか。

「聞いて欲しいことがあるんだけど」
「何かありましたか?」

 よめーずの視線が俺に集まる。

「明日、神の座に行くための最終試練に挑もうと思う」
「いよいよですか」
「ああ、すまないとは思っている」

 既に結婚しているのに死んでしまっている惚れた女のために命を賭けようとしてるクソ野郎の自覚はある。

「それで、試練を突破できる自信はあるの?」
「正直なんとも……内容も分からないからね」
「それでも挑むのね?」
「挑むよ」
「そう……なら何も言わないわ。試練なんてさっさと終わらせて戻って来なさい」

 しかしそれなのによめーずは反対することも無く、むしろ応援してくれている。
 そんなよめーずのことを考えると、死ぬわけにはいかない。
 最悪の場合、撤退することも視野に入れておく必要がある。

 それで試練は失敗、二度と挑戦出来なくなるとしてもそれなら諦めがつくというものだ。

 俺はもう、よめーずのことも心から愛している。
 もちろんケイトもだ。どちらかを選べと言われても困ってしまう。
 だから両方手に入れるために命を賭ける。
 ついでとはいえ世界の脅威である魔王も倒したのだ、このくらいのわがままは許してほしい。

「それでレオ様、その試練にはどれくらい時間が掛かるのでしょうか?」

 時間か……それは聞いてなかったな。

「聞いてなかっよ。ウルト、どれくらいかかるか分かるか?」
『恐らくですが、奥方様たちからすれば一瞬かと。神の座とは時間の流れが違いますので』

 よめーずからすれば一瞬、だけど俺の体感時間はどれくらいなんだろうね?

「分かりました。それなら終わってからでも問題ありませんね」
「なにが?」
「報告です。迷宮攻略を依頼として受けていますので完了報告は必要ですよ」

 完全に失念していた……
 帝国からの正式な依頼なんだから、やりっ放しは不味いね。
 魔物の素材やら魔石やらも卸さないといけないし。ミノタウロスは出さんけど。

 冒険者ギルドは基本24時間営業、流石にこの報酬金額の支払いは出来ないだろうけど、報告だけなら大丈夫か。

「報酬は後日になるだろうけど、今から報告だけしてこようかな……」

 やれることはやってからの方がいいし。
 あとお世話になった皇帝にミノタウロス1匹くらいなら献上してもいいかな?
 邪魔にならないのなら引越し準備中のジェイドにおすそ分けしてもいいな。

 よし決めた、思い立ったら即行動だ。

「帝都に行ってくるよ。ギルドに報告、ジェイドさんにミノタウロスのおすそ分け、皇帝陛下に会えるならミノタウロス1匹献上してくる」

 ミノタウロス外交だ。

「皇帝陛下に謁見は難しいと思いますが……分かりました。行ってらっしゃいませ」
「行ってきます。ああ、イリアーナついてくるかい?」
「いいの?  じゃあ行く」

 イリアーナを連れて帝都冒険者ギルド前に転移、中に入って受付にいた男性に攻略完了を報告した。

「……え?」
「だから依頼達成したよ。迷宮2つとも攻略完了」
「なんと……」

 俺の報告を聞いた男性は絶句する。

「証拠になりそうなもの……」

 少し考えてから9階層のボス、黒毛和牛ミノタウロスとダークエレメンタルの魔石を取り出してカウンターの上に載せる。

「9階層のボスの魔石ね。こっちがブラックミノタウロスの魔石、こっちがダークエレメンタルの魔石だね。ダークエレメンタルの魔石は闇の属性魔石」

 受付の男性は、唖然とした表情で俺の説明を聞いていた。
 早く再起動してよ。

「あの……」
「はい?」

 ようやく再起動した男性は口を開く。

「この依頼って、受注されたのは昨日ですよね?」
「そうだね。昨日1つ、今日1つ攻略したよ」
「あの……迷宮都市には立ち寄りましたか?」
「いや、寄ってないよ」

 必要性を感じなかったもので。

「左様ですか……それでしたら、大変申し上げにくいのですが……」
「なんですか?」
「攻略されたことをこちらから伝えて確認となりますのね少々お時間を頂きたく」

 なるほど、それは仕方ないよね。

「どれくらい?」
「少なくとも、2週間程頂きたいのですが……」

 帝都から迷宮までの往復と調査ならそれくらいは必要か。

「了解です。じゃあそれくらいにまた来ます」
「申し訳ございません」
「いえいえ……あ、もしかして俺がその迷宮都市のギルドに立ち寄ってたら話が早かったり?」

 そんな理由でも無いと立ち寄ったかどうかなんて聞かないよね?

「はい。クリード様が立ち寄って攻略完了報告をして頂いていればギルドが調査、確認が取れ次第完了報告書を発行しましたので、そちらをお持ちいただければすぐに処理が出来ましたね」
「あらら……それは申し訳ない」

 普通は寄るよなぁ……気が早ってたし先程も思ったが必要性を感じ無かったから寄らなかったんだよなぁ。

「いえ、クリード様は帝都ギルドで依頼を受注していますので寄る義務は無いのですが……情報収集や準備などで立ち寄ると考えておりましたこちらの落ち度です」

 ごめんね?
 じゃあ今から行ってきますと言うのも違う気がするのでその辺は冒険者ギルドに任せることにしてジェイド宅へと移動する。

「お父さん!  お母さん!  ただいま!」
「おおイリアーナ!  こんな時間にどうかしたのか?」

 イリアーナが玄関をノックしながら呼びかけると、一瞬でジェイドが現れて玄関を開いた。早いな。

「こんばんは。おすそ分けを持ってきました」
「レオ殿、よく来たな、入ってくれ」

 ジェイドはイリアーナに対してはデレデレだったのに、俺が声をかけると急にキリッとした顔に戻って中に入るよう勧めてくる。

 中に入ると、前回来た時とは違い物がほとんど残っていなかった。

「すまない、家具のほとんどはペトラの収納魔法と儂の【アイテムボックス】に入れてしまっていてな」
「どうぞ」

 応接セットも収納しているらしく、食卓へと通されてジェイドのもう1人の奥さんであるルイーゼがお茶を淹れてくれた。

「それで何かあったのか?  おすそ分けと言っていたが……」
「実は迷宮でいい肉を大量に手に入れまして」

【無限積載】から大皿とミノ肉を取り出してジェイドに渡す。
 部位は多分肩ロース。肩の辺りだからきっと肩ロースだ。

「おお……デカイな」
「大体10キロくらいですかね?  引越し準備も大変そうですし、これを食べて力をつけてください」
「ふむ、きょはもう食べてしまったから明日にでも頂こう。ありがとうレオ殿」

 これで用事は終わり、それからは義理とはいえ家族との談笑タイムだ。
 酒が入ったジェイドの今までの冒険譚は面白かった。
 駆け出しなのに上位職だからと入る困難な指名依頼。仲間と協力して強大な魔物と戦った話。さらには奥さんたちとの出会いなど……

 面白くてもっともっとと聞いているうちに早数時間が経過していた。

「む?  いかんな、レオ殿が聞き上手なおかげでもうこんな時間か」
「お父さん話しすぎ」
「すまんすまん、どうする?  泊まって行くか?」
「いえ、帰りますよ」

 客間も片付けてるだろうから、準備も大変だろうし。

「そうか、気をつけて帰るのだぞ」
「ありがとうございます。でも徒歩ゼロ分ですので……」

 転移で帰るからな。

「そうだったな。ところでレオ殿」
「はい?」

 お暇しようと立ち上がったところでジェイドに声をかけられた。

「まさかイリアーナに手を出してはおるまいね?」

 ヤバい、目がマジだ……

「出してません!」
「そうか、それは良かった。貴族たるもの婚前交渉はよろしくない。レオ殿が紳士でよか――」
「死にさらせ!!」

 イリアーナ渾身の右ストレートが炸裂。ジェイドの心は瀕死の重傷を負った。

「レオ様!  早く帰ろう!」
「お邪魔しました」

 真っ赤な顔でプリプリ怒るイリアーナは可愛かった。
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