上 下
176 / 266
最終章……神の座を目指して

167話……戦士の夜

しおりを挟む
 その日の夕食後、少しなら時間が取れるという事で再び俺は皇帝陛下にお目通りしていた。

「ほう、聖女を欲するか」

 褒美に聖女イリアーナが欲しいと頼むと、皇帝陛下は愉しそうに笑みを浮かべた。

「確か婚約者がおったの……その辺りの問題はどうなっておる?」
「本人と父ジェイドには話を通しております。明日の模擬戦、私が勝てば娘を貰い受けると」
「それで了承しておるのだな?」
「はい」

 正確にはまだイリアーナの口からは聞いていない。
 しかし外堀を埋めていたのはイリアーナだし、問題無いと信じている。
 ジェイドとの話し合いの席にも居たのに口を出してこなかったし、普通によめーずと並んで座っていたしもう既成事実だろこれ。

「問題は相手の出方かの」
「そうですね……」

 なんて言ったかな?  ネリ……ネル……ねるねるねーるね?

「ネフェリム侯爵家か……武闘派の家だの」
「武闘派ですか」

 あーそれそれ。
 武闘派なのに婚約者を攫われて何もしなかったの?

「確か当主はレベル60を超える中位職だったかの?  ジェイドを除けば帝国最強の戦士であるな」
「貴族なのに?」
「貴族なのに、だの。確か……ネフェリム家の男児は強くあれ……だったかの?  家訓のようだの」

 皇帝陛下って配下の貴族家の家訓まで把握してるのか?
 侯爵家だし重臣だからか。

「難しいですか?」
「ふむ……なにかネフェリム家に落ち度でもあればなんとかなるかの?」

 落ち度か……

「ジェイド殿が言うには婚約者が攫われたにも関わらず何もしなかったと。さらにはあっさりと新しい婚約者探しをしていたと伺いましたが」
「ふむ……確かに聖女が誘拐された時も教国にて保護されている事を伝えた時も何も言ってこなかったの……」

 これは……いけるか?

「皇帝陛下、帝国には決闘という文化があると聞き及んでおります」
「ネフェリム家に決闘を挑むと?」
「必要とあらば」

 そう答えると、婚皇帝陛下は少し悩むような仕草を見せた。
 あと一押しで行けそうだ。

「皇帝陛下、陛下は私が挙げた功績に対し聖女イリアーナを望むことに異論はお有りですか?」
「余個人としては無い」
「であれば後は私とネフェリム家の問題。私がネフェリム家を納得させれば問題はありませんね?」
「無いの」

 よし。
 そもそも政治的交渉とか出来ないんだから無理にやる必要は無いだろ。
 武力を背景にしたっていいじゃない。勇者だもの。

「全く……英雄色を好むと言うが……そこまでして欲しいものなのかの?」
「私にとっては億の金貨より価値あるものです」
「あいわかった。明日の模擬戦にはネフェリム家の者も見学に来るだろう。その時に席を設けてやるからそこで話すが良い」
「ありがたき幸せ」

 これで障害はネフェリム家のみ。白手袋用意しとこ……

「しかし王国から聞いていた話とかなり印象が違うの……やはり虚偽か」
「王国……ですか?」

 なんだろ……玉座の間で剣聖の死体投げつけたことかな……
 いや今やってることもそう大差ないと思うんだけど……

「そなたが勇者たちを脅し操り聖女を自らの手に入れるために誘拐させた黒幕である……とな。実際に見て話をしてみればそなたはそのようなことを考える人物ではないと余は感じたぞ」
「それは……まぁ……」

 そんな話になってたの!?

「故に同盟を結び教国に存在する偽の勇者を共に討とう、と打診を受けた。断っておいて正解だったの」
「お……おお?」

 言葉も出ない……まさか一歩間違えたら王国と帝国両方から狙われてただなんて……

「わざわざ自ら聖女を返還しに来るとはの、その実力、人柄を鑑みて余はそなたと敵対するつもりは無い」
「あ……ありがとうございます」
「ふ、余計なことまで話してしまった、許せよ」
「そのようなことは……」

 どうしたらいいんだこれ?

「ふふ……余はそなたを気に入った。一度だけ問おうか。教国を離れ余に、帝国に使える気はあるか?」
「申し訳のない事でごさいます。私は私を受け入れてくれた教国に恩義があります。その恩義を裏切ることは出来ません」
「で、あるか。残念ではあるが仕方ないの。しかし余がそなたを気に入ったことに変わりは無い。陛下などと堅苦しい呼び方ではなくゲオルグと呼ぶことを許可しよう」
「そんな……恐れ多いことでございます」

 何言ってんの?  何言ってんの!?

「皇帝権限で敬語禁止としてやろうかの?」
「そんな……お戯れを」

 勘弁してください。

「冗談だ。まぁ何か困ったことがあれば余に頼るといい。余に出来ることなら力になろう。その代わり、また余の話し相手になって欲しい」
「私のような粗忽者でよろしければ」
「そなたがよい。ではやらねばならぬ仕事があるでな、そろそろ失礼しようかの」
「はっ!  此の度は私のために時間を割いて頂き誠にありがとうございます」
「よい。余もそなたと話すのは楽しい。ではまたの」

 皇帝陛下が執務に戻られたので俺も自室に与えられた部屋へと戻る。

「……って言うことがあったんだ」
「それは……なんとも……」
「はぁ……皇帝陛下に気に入られたのね……」

 部屋に戻るとまだよめーずは部屋で待っていたので先程の皇帝陛下とのやり取りを伝えることにした。

「すごいですね」
「かっこいいッス!」
「はぁ……憧れちゃいますわね……」

 ソフィア、アンナ、ベラもなにかコソコソと話している。
 かっこいい?  憧れ?  何の話だろ?

「そうですね。少し……妬いてしまいそうです」
「あら?  いいじゃない、あたしたちはなし崩し的にって感じだったけど、サーシャちゃんはちゃんとプロポーズされたじゃない」
「それはそうですけど……」

 あー……察した。

「なし崩し的になんて思わせていたなら申し訳無い……その……最初はアレだったけど今は……」
「はいストップ!  それは今じゃないわよ」
「え?」
「ちゃんと2人きりの時に……ゆっくり聞かせてね?」
「ああ、分かったよ」

 今度はちゃんと伝えないとな。

「自分もレオさんのこと大好きッスよー!」
「強く勇ましくそして優しい。レオ殿以上の旦那様は居ませんね」
「あ、あたしも好き……です。その、囚われの姫を助ける王子様みたいで……」

 3人は何言ってるの……特にベラ……
 アレか?  魔王城で助けた時のこと言ってるのか?
 でもあの時意識無かったじゃん……

「ふふ……なんだか楽しそうですね」
「そうね。よし、今日は全員一緒に寝ましょうか!」
「リン!?」

 お前が一番何言ってんの!?

「ちょっと狭いかもしれませんが……詰めれば大丈夫そうですね」

 なんでサーシャも納得してるの!?

「自分、レオさんの隣がいいッス!」
「あ!  ずるい!  あたしも……!」
「私は……その……」
「はいはい!  場所は公平に……ジャンケンで決めるわよ!」

 俺の隣で寝る権利を奪い合うよめーず女の戦いが勃発した。

「もうちょっとこう……そこッス、いい感じッス!」
「ではレオ様、おやすみなさい」
「あ、ああ……おやすみ……」

 俺の右側には正妻の意地か最後まで勝ち抜いたサーシャ、左側にはアンナが寝転がった。
 アンナは腕枕の細かい位置までリクエストしてくる。
 当然右腕もサーシャが枕にしているので俺はもう身動きが取れない。

 サーシャの隣にはベラ、アンナの隣にはソフィアも横になっている。
 リンは一番外側だ。一番最初に負けていた。

「じゃあ消すわよー、おやすみなさい」
「「おやすみなさーい」」

 両手が使えないので両隣のサーシャとアンナに布団を掛けてもらい目を閉じた。

 ナ、ナニモシテナイヨ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

婚約破棄したい婚約者が雇った別れさせ屋に、何故か本気で溺愛されていました

蓮恭
恋愛
「私、聞いてしまいました」 __ヴィオレット・ブラシュール伯爵令嬢は、婚約者であるフェルナンド・ブルレック辺境伯令息に嫌われている。  ヴィオレットがフェルナンドにどんなに嫌われても、たとえ妹のモニクと浮気をされたとしても、この婚姻は絶対で婚約破棄などできない。  それでもなんとかヴィオレット側の都合による婚約破棄に持ち込みたいフェルナンドは、『別れさせ屋』に依頼をする。  最近貴族の間で人気があるラングレー商会の若き会長は、整った顔立ちな上に紳士的で優しく、まさに『別れさせ屋』にはぴったりの人選だった。  絶対に婚約破棄をするつもりがない令嬢と、嫌いな令嬢との婚約を破棄したい令息、そして別れさせ屋のイケメンのお話。 『小説家になろう』様、『カクヨム』様、『ノベプラ』様にも掲載中です。

子爵令嬢マーゴットは学園で無双する〜喋るミノカサゴ、最強商人の男爵令嬢キャスリーヌ、時々神様とお兄様も一緒

かざみはら まなか
ファンタジー
相棒の喋るミノカサゴ。 友人兼側近の男爵令嬢キャスリーヌと、国を出て、魔法立国と評判のニンデリー王立学園へ入学した12歳の子爵令嬢マーゴットが主人公。 国を出る前に、学園への案内を申し出てきた学校のOBに利用されそうになり、OBの妹の伯爵令嬢を味方に引き入れ、OBを撃退。 ニンデリー王国に着いてみると、寮の部屋を横取りされていた。 初登校日。 学生寮の問題で揉めたために平民クラスになったら、先生がトラブル解決を押し付けようとしてくる。 入学前に聞いた学校の評判と違いすぎるのは、なぜ? マーゴットは、キャスリーヌと共に、勃発するトラブル、策略に毅然と立ち向かう。 ニンデリー王立学園の評判が実際と違うのは、ニンデリー王国に何か原因がある? 剣と魔法と呪術があり、神も霊も、ミノカサゴも含めて人外は豊富。 ジュゴンが、学園で先生をしていたりする。 マーゴットは、コーハ王国のガラン子爵家当主の末っ子長女。上に4人の兄がいる。 学園でのマーゴットは、特注品の鞄にミノカサゴを入れて持ち歩いている。 最初、喋るミノカサゴの出番は少ない。 ※ニンデリー王立学園は、学生1人1人が好きな科目を選択して受講し、各自の専門を深めたり、研究に邁進する授業スタイル。 ※転生者は、同級生を含めて複数いる。 ※主人公マーゴットは、最強。 ※主人公マーゴットと幼馴染みのキャスリーヌは、学園で恋愛をしない。 ※学校の中でも外でも活躍。

『購入無双』 復讐を誓う底辺冒険者は、やがてこの世界の邪悪なる王になる

チョーカ-
ファンタジー
 底辺冒険者であるジェル・クロウは、ダンジョンの奥地で仲間たちに置き去りにされた。  暗闇の中、意識も薄れていく最中に声が聞こえた。 『力が欲しいか? 欲しいなら供物を捧げよ』  ジェルは最後の力を振り絞り、懐から財布を投げ込みと 『ご利用ありがとうございます。商品をお選びください』  それは、いにしえの魔道具『自動販売機』  推すめされる商品は、伝説の武器やチート能力だった。  力を得た少年は復讐……そして、さらなる闇へ堕ちていく ※本作は一部 Midjourneyにより制作したイラストを挿絵として使用しています。

転生発明家は異世界で魔道具師となり自由気ままに暮らす~異世界生活改革浪漫譚~

夜夢
ファンタジー
 数々の発明品を世に生み出し、現代日本で大往生を迎えた主人公は神の計らいで地球とは違う異世界での第二の人生を送る事になった。  しかし、その世界は現代日本では有り得ない位文明が発達しておらず、また凶悪な魔物や犯罪者が蔓延る危険な世界であった。  そんな場所に転生した主人公はあまりの不便さに嘆き悲しみ、自らの蓄えてきた知識をどうにかこの世界でも生かせないかと孤軍奮闘する。  これは現代日本から転生した発明家の異世界改革物語である。

世界は節目を迎えました

零時
ファンタジー
 気が付くと主人公は、バスの車内にいた。  しかし彼にはバスに乗った記憶も、乗ろうとした記憶も無い。それどころか、友人、親、兄弟、自分の名前すら思い出すことができなかった。  そしてそのことについて深く考える暇もなく、彼は瞬間的に地獄を見ることになる。   プロローグは2話あります。

不忘探偵2 〜死神〜

あらんすみし
ミステリー
新宿の片隅で、ひっそりと生きる探偵。探偵は、記憶を一切忘れられない難病を患い、孤独に暮らしていた。しかし、そんな孤独な生活も悪くない。孤独が探偵の心の安寧だからだ。 しかし、そんな平穏な日々を打ち破る依頼が舞い込む。 ある若い男が事務所を訪れ、探偵にある依頼を持ちかける。 自分の周りでは、ここ数年の間で5人もの人間が不審な死を遂げている。ある者は自殺、ある者は事故、そしてある者は急な病死。そして、いずれも自分と親しかったりトラブルがあった人達。 どうか自分がそれらの死と無関係であることを証明して、容疑を晴らしてもらいたい。 それが男の依頼だった。 果たして男の周囲で立て続けに関係者が死ぬのは偶然なのか?それとも何かの事件なのか?

強引に婚約破棄された最強聖女は愚かな王国に復讐をする!

悠月 風華
ファンタジー
〖神の意思〗により選ばれた聖女、ルミエール・オプスキュリテは 婚約者であったデルソーレ王国第一王子、クシオンに 『真実の愛に目覚めたから』と言われ、 強引に婚約破棄&国外追放を命じられる。 大切な母の形見を売り払い、6年間散々虐げておいて、 幸せになれるとは思うなよ……? *ゆるゆるの設定なので、どこか辻褄が 合わないところがあると思います。 ✣ノベルアップ+にて投稿しているオリジナル小説です。 ✣表紙は柚唄ソラ様のpixivよりお借りしました。 https://www.pixiv.net/artworks/90902111

処理中です...