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最終章……神の座を目指して

162話……国境

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「さて今度こそ無事帝国まで行けますかね?」
「さぁ?  でも急ぐ旅でもないしのんびり行けばいいんじゃない?」
「いや遅れていい旅でも無いでしょうよ」

 帝国の聖女イリアーナを送り届ける旅だよ?

 なのになんでリンとイリアーナは「ねー」とか息ぴったりなんだよ。

 まぁ最速で行くなら【護傲慢なる者の瞳】と転移魔法のコンボで移動すれば1分で着くのにウルトで移動するのを選択してるわけだからあまり強くは言えないな。
 これでも普通に馬車で行くより何倍も早いし。

 昨日の盗賊団襲撃の現場も通り過ぎ、順調に進んでいく。
 時折遠目に行商人や冒険者が街道を行く姿が見えたり、ウルフのような低級の魔物が草原を走っているのを横目に見ながら進む。

 そういえば昨日の行商人は無事街までたどり着けたのだろうか?
 名前も聞いていないが少しでも関わった人だし少し心配だ。
 立ち寄ると言っていた街に俺たちも寄って探すことも考えたがまぁそこまではしなくてもいいか。

 ダラダラしながら半日ほどウルトに揺られて帝国との国境を守るゴルベフ辺境伯領へと入った。

「レオ様、ゴルベフ辺境伯はあまりいい噂を聞かない貴族です。領内では油断しないようにお願いします」
「辺境伯なのに?」

 俺のイメージだと辺境伯って国からの信頼の厚い人物でないと務まらない役職だと思ってたけど……

 国境を守る辺境伯が信頼出来ないとか危うすぎない?

「ノーフェイスと繋がりがあると思われている貴族の1人ですね……おそらくお兄様が近いうちに証拠を掴むとは思いますが……」
「ふーん……まぁ街に立ち寄るつもりもないし、あまり気にしなくていいんじゃない?」

 どこかの街で宿泊することは当然考えたが、特に必要も無いしな。
 宿に泊まるのも悪くは無いけど野宿……というかキャンプするのも好きだし。
 さらにいい噂を聞かないという貴族の治める街なら尚更泊まる気はしない。
 そのまま通過することにしよう。
 厄介事は勘弁だ。

 そのまま街や村を避けるように移動して国境へ、身分上密入国するわけにもいかないので国境検問所へと向かう。

「身分証と要件は」

 検問所の近くでウルトから降りて徒歩で向かう。
 男1人、女6人の一行を見て検問所を守る兵士は奇異なものでも見るかのような目でこちらを見ている。

「はいよ」

 貴族であることを証明する王の判の押された書類を提示、確認してもらう。

 新興もいいところであるクリード家の家紋なんてこんな辺境では知られていない。
 その対策としてこのような書類を用意してもらっていた。

「クリード侯爵……聞いたことがありませんが……」

 書類を見せたことで兵士の対応が丁寧なものへと変わる。

「叙爵されたのがつい先日だからな、こちらまでまだ知らせが届いていないのだろう」

 聖都からここまでは早馬を飛ばしても1週間はかかる、半日で来れる俺たちがおかしいのだ。

「なるほど……国王陛下の判も本物のようですし、どうぞお通りください。しかし馬車も無いようですが、こちらで御用意致しましょうか?」
「特殊な道具で移動するから気にしないでくれ。その気遣いは感謝する」
「とんでもございません。では……」

 教国側の検問はクリア、続けて帝国側での入国審査を受ける。

「入国のご要件は?」
「アルマン教国からの特使として。それと帝国の聖女イリアーナを帝国にお届けする為」

 身分を示す書類とアルマン教国国王からの書状を見せる。
 それからイリアーナを紹介すると、帝国側の検問所は上へ下へと蜂の巣を突いたような大騒ぎとなってしまった。

「聖女様!?」

 詰所から1人の男が飛び出してくる。立派な鎧に身を包んだ30前後の男だ。

「ミュラー伯爵、ごきげんよう」
「ご無事で何よりです。とりあえず中へ……お連れの方もどうぞ」

 ミュラー伯爵と呼ばれた男に詰所の中へと案内される。
 兵士の待機部屋を抜けて奥の応接室のような部屋に入室する。

「失礼、自己紹介が送れました。私はデニス・ミュラー。この検問所を皇帝陛下より任されている者です」
「これはご丁寧に……私はレオ・クリードと申します。先日国王陛下より侯爵の地位を賜ったばかりの若輩者ですがどうぞよろしく」
「侯爵殿でしたか……この度は我が国の聖女をお連れして頂いたこと、深く感謝します」

 ミュラー伯爵と自己紹介と握手を交わす。
 よく鍛えられた硬い手のひらだ。

「それで……特使と言うお話でしたが」
「はい。私は王国で召喚された勇者の1人でして……」

 まずは同胞たる勇者の蛮行を謝罪、それから聖女3人による【聖浄化結界】の有用性を語る。

 聖女を攫った勇者と一緒に召喚されたと話した時にはムッとした顔をしていたが、俺は追放されていた旨、聖女を奪還して実行犯の勇者を既に殺害済みだと説明すると表情を緩めて貰えた。

「なるほど……話は分かりました。それでしたら私からも陛下に謁見出来るよう紹介状を認めましょう」
「助かります……」

 俺が謝罪する義理は無いのかもしれないが、同郷という事で謝罪せずにはいられない。
 ミュラー伯爵には受け入れて貰えたのであとは帝国だ。

「それで……馬車が見えませんがどのような移動手段で?」
「私の神器ですね。移動に特化しておりますので」

 あえて戦闘にも使えるとは言わないでおく。
 素直に戦闘平気ですと伝えると、いらぬ警戒を抱かせてしまうからね。

「左様ですか、帝都へと早馬を走らせようかとも思ったのですが」
「間違いなく私たちの方が先に着いてしまいますね……」

 ここから帝都まで早馬で駆けても2週間はかかるそうだ。
 ウルトなら……1日あれば余裕で到着出来そうだな。

「それでしたら……私も同行することは可能でしょうか?」
「と言いますと?」
「国内で交渉が必要な場合全て私が引き受けます。皇帝陛下との謁見も私が居ればスムーズに行えると思いますし」

 俺としては同行することに問題は無いのだが、大丈夫なのだろうか?

「ここの守りは大丈夫なのですか?」
「問題ありません。私が離れても問題の無い体制は出来ておりますので」

 よめーずに目をやると代表してサーシャが頷く。ならいいのかな?

「分かりました。ではよろしくお願いします」
「はい。では出発はいつ頃に?」
「可能ならすぐにでも……引き継ぎが必要でしたらお待ちしますよ」

 すぐに出発、というところでミュラー伯爵はキョトンとした顔になる。

「もうすぐ日が落ちますが……」
「神器の中で宿泊可能ですので……それに」

 意味深によめーずに目をやる。
 ミュラー伯爵はそれで何かを察したようだ。実は特に意味は無いんだけどね。

「なるほど……たしかに女性が多いですし男所帯の詰所に宿泊するのは不安がありますか……」

 なんか深読みしてる。ごめんね、やってみただけでそんな気は無いんだ。

「分かりました。おい、私は聖女様たちに同行して帝都へ向かう。後のことは任せる」
「かしこまりました」
「では行きましょうか」

 控えていた男性にそれだけ伝えるとミュラー伯爵は出発出来るという。

「よろしいので?」
「はい。何時でも出られますよ」

 ミュラー伯爵が手を広げるとそこに大きなカバンが出現する。
 あれは【アイテムボックス】かな?

 なんにせよ旅支度は出来ているようだ。

「ミュラー伯爵が大丈夫なのであれば……」

 そうして帝国側の検問所も通過、帝都を目指して出発した。

 ミュラー伯爵が仲間になった!

 まぁ帝都に到着するまでの限定的仲間だけどね!
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