上 下
156 / 266
第6章……復讐の勇者編

147話……異世界婚姻事情

しおりを挟む
 国境を見つからないように超えてしばらく、ようやく教国に辿り着いた。

【万能感知】と【傲慢なる者の瞳】を併用するウルトに任せていたので危なげなく教国領に入ることが出来た。

『あと3時間ほどで到着します』
「了解、引き続きよろしく頼む」

 あと3時間ほどか……1人で過ごすには長いな。

 そうだ、【思念共有】を使ってソフィアとアンナ、あとはアンドレイさんに戻ることを伝えておこうか。

「クリード、ちょっと来てくれる?」
「ん?  なに?」

 シートを倒してウトウトしようかと悩んでいるとリンに呼ばれたので起き上がって後ろに移動する。

「どしたの?」

 近寄っていくとベラとイリアーナが神妙な顔つきで俺を待っていた。

「勇者様……お願いします。あたしをお傍に置いてください」

 ベラは深く頭を下げて懇願してくる。

 いよいよ来たか、俺の答えは……

「それなんだけどさ、俺じゃないとダメなの?  王国からの干渉は俺が跳ね除けるから自分で相手を見つけるとかじゃダメなのかな?」
「それは……」

 結婚したとしてもやることは変わらないなら結婚せずにやっても変わらないだろう。

「結婚するなら気に入った人がいいんじゃない?  それまでは俺が守るよ」

 どうせ結婚するなら俺みたいにぽっと出みたいな人間とせずにキチンと見極めた方が幸せになれるでしょ。

「クリード、それはちょっと違うわよ」
「違う?  なんで?」

 なにが違うの?

「自分の価値を分かってないのね……まずは勇者という立場。これだけで結婚したいと思う女性は多いのよ」
「立場……ねぇ……」

 ほかの勇者は全員俺が殺したから俺しか残ってないのもあるのかな?

「それにその力。女は強い男に惹かれるものよ」
「それは聞いたことはあるけども」

 なんか本能とかそんな話だよね。

「立場も力もあるクリードは世の中の女性からすると最高の相手なのよ。あたしはそんなことより貴方の性格が好きだけど」
「んあ、はい……」

 不意打ちはずるい……顔が熱くなってしまう。

「それに前も言ったでしょ?  あなたのような人は複数の妻を持つことは義務みたいなものだって」
「覚えてますはい……」

 だからリン、ソフィア、アンナの3人と、サーシャが了承すれば4人……十分だろ!?

「でもリンたちはその、なんというか……独占したいとかは思わないのか?」
「そりゃしたい気持ちはあるわよ。でもあたしとクリードじゃあ釣り合わない。だから数を揃えるのよ」
「なんじゃそら……」

 どんな計算なんだよ……

「ホントかどうか知らないけど大昔の勇者は20人の妻を迎えたとかなんとか聞いたことあるわよ?」
「にじゅ……」

 石油王かよ……いやこの世界では勇者の方が上……なのか?

「でもなぁ……俺ベラのことなんにも知らないし……」
「貴族なら当たり前よ。まぁ噂くらいは耳にするでしょうけど」

 俺は貴族じゃありません。

「ベラは貴族なのか?」
「あ、はい。地方の小さな男爵家の出身です」

 ベラは三女らしいので本来ならより上位の貴族の後妻、もしくはそれなりの商家に嫁ぐのが普通らしい。
 それが聖女となった事で一変、現状1番可能性が高いのは王族との婚姻らしい。

 それも第一、第二王子などではなく継承権下位の王族で結婚したとしてほぼ軟禁生活なんだとか。
 そうなると一生飼い殺し、そんなのは嫌なんだって。

「まぁそれもある意味では贅沢な悩みなんだけどね」

 俺も見たことあるけど今日のご飯も食べられるか分からない子供たちもいるからね。
 それに比べたら餓死の不安がない分マシかもね。

「分かっています……それでもあたしは誰かのために何かをしたい、聖女となった以上それができる力があるのに飼い殺しにされるのは……それくらいなら【聖女の祈り】を使って世界のために死にたかったです」
「そういうことよ。クリードが死なせなかったんだからその責任を取りなさい」
「えぇ……」

 どういう理論よ……誰か助けて……

 サーシャに助けてもらおうと視線を向けると目が合って頷いた。
 頼むサーシャ……

「クリード様と結婚して蟠りなくたくさんの人を助けることが出来る、これでベラさんは幸せですね」

 聖母のような微笑みでそんなことを宣うサーシャさん、違うのよ……

「それに……こういうのは言っていいのか分からないけど結婚してその……ソウイウコトをしたら聖女の職業を失うんじゃ?」

 そうやって聞いたけど……それじゃ意味無いんじゃ?

「職業と聖女固有のスキルは失われますがほかのスキルは残りますし協会との繋がりもありますのでできることは多くあると思います」

 そういうもんか……

「あたしたちもサポート出来るしね」

 リンたち……まぁもちろん俺もか、俺たちが協力すればだいたいのことは出来るか……

 つまり問題は無いってことね。

「だからクリード、貴方が受け入れられるかどうかよ」
「なるほどねぇ」

 ホントどうしたもんかね……

「あの……勇者様はあたしのことお嫌いですか?」
「いや?  というか好きとか嫌いとかより知らないし」

 好きになる要素も無ければ嫌う要素も無いよ。

「でしたらこれからベラさんのことを知っていけばいいと思いますよ」
「そんなもんよ。腹を括りなさい」
「えぇ……」

 あとは俺の気持ち次第ってことね。

「分かったよ……家族としてやって行ける様努力する。よろしくね」
「勇者様……ありがとうございます!」

 ベラは花が咲いたような笑顔で答えてくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

婚約破棄したい婚約者が雇った別れさせ屋に、何故か本気で溺愛されていました

蓮恭
恋愛
「私、聞いてしまいました」 __ヴィオレット・ブラシュール伯爵令嬢は、婚約者であるフェルナンド・ブルレック辺境伯令息に嫌われている。  ヴィオレットがフェルナンドにどんなに嫌われても、たとえ妹のモニクと浮気をされたとしても、この婚姻は絶対で婚約破棄などできない。  それでもなんとかヴィオレット側の都合による婚約破棄に持ち込みたいフェルナンドは、『別れさせ屋』に依頼をする。  最近貴族の間で人気があるラングレー商会の若き会長は、整った顔立ちな上に紳士的で優しく、まさに『別れさせ屋』にはぴったりの人選だった。  絶対に婚約破棄をするつもりがない令嬢と、嫌いな令嬢との婚約を破棄したい令息、そして別れさせ屋のイケメンのお話。 『小説家になろう』様、『カクヨム』様、『ノベプラ』様にも掲載中です。

子爵令嬢マーゴットは学園で無双する〜喋るミノカサゴ、最強商人の男爵令嬢キャスリーヌ、時々神様とお兄様も一緒

かざみはら まなか
ファンタジー
相棒の喋るミノカサゴ。 友人兼側近の男爵令嬢キャスリーヌと、国を出て、魔法立国と評判のニンデリー王立学園へ入学した12歳の子爵令嬢マーゴットが主人公。 国を出る前に、学園への案内を申し出てきた学校のOBに利用されそうになり、OBの妹の伯爵令嬢を味方に引き入れ、OBを撃退。 ニンデリー王国に着いてみると、寮の部屋を横取りされていた。 初登校日。 学生寮の問題で揉めたために平民クラスになったら、先生がトラブル解決を押し付けようとしてくる。 入学前に聞いた学校の評判と違いすぎるのは、なぜ? マーゴットは、キャスリーヌと共に、勃発するトラブル、策略に毅然と立ち向かう。 ニンデリー王立学園の評判が実際と違うのは、ニンデリー王国に何か原因がある? 剣と魔法と呪術があり、神も霊も、ミノカサゴも含めて人外は豊富。 ジュゴンが、学園で先生をしていたりする。 マーゴットは、コーハ王国のガラン子爵家当主の末っ子長女。上に4人の兄がいる。 学園でのマーゴットは、特注品の鞄にミノカサゴを入れて持ち歩いている。 最初、喋るミノカサゴの出番は少ない。 ※ニンデリー王立学園は、学生1人1人が好きな科目を選択して受講し、各自の専門を深めたり、研究に邁進する授業スタイル。 ※転生者は、同級生を含めて複数いる。 ※主人公マーゴットは、最強。 ※主人公マーゴットと幼馴染みのキャスリーヌは、学園で恋愛をしない。 ※学校の中でも外でも活躍。

『購入無双』 復讐を誓う底辺冒険者は、やがてこの世界の邪悪なる王になる

チョーカ-
ファンタジー
 底辺冒険者であるジェル・クロウは、ダンジョンの奥地で仲間たちに置き去りにされた。  暗闇の中、意識も薄れていく最中に声が聞こえた。 『力が欲しいか? 欲しいなら供物を捧げよ』  ジェルは最後の力を振り絞り、懐から財布を投げ込みと 『ご利用ありがとうございます。商品をお選びください』  それは、いにしえの魔道具『自動販売機』  推すめされる商品は、伝説の武器やチート能力だった。  力を得た少年は復讐……そして、さらなる闇へ堕ちていく ※本作は一部 Midjourneyにより制作したイラストを挿絵として使用しています。

転生発明家は異世界で魔道具師となり自由気ままに暮らす~異世界生活改革浪漫譚~

夜夢
ファンタジー
 数々の発明品を世に生み出し、現代日本で大往生を迎えた主人公は神の計らいで地球とは違う異世界での第二の人生を送る事になった。  しかし、その世界は現代日本では有り得ない位文明が発達しておらず、また凶悪な魔物や犯罪者が蔓延る危険な世界であった。  そんな場所に転生した主人公はあまりの不便さに嘆き悲しみ、自らの蓄えてきた知識をどうにかこの世界でも生かせないかと孤軍奮闘する。  これは現代日本から転生した発明家の異世界改革物語である。

世界は節目を迎えました

零時
ファンタジー
 気が付くと主人公は、バスの車内にいた。  しかし彼にはバスに乗った記憶も、乗ろうとした記憶も無い。それどころか、友人、親、兄弟、自分の名前すら思い出すことができなかった。  そしてそのことについて深く考える暇もなく、彼は瞬間的に地獄を見ることになる。   プロローグは2話あります。

不忘探偵2 〜死神〜

あらんすみし
ミステリー
新宿の片隅で、ひっそりと生きる探偵。探偵は、記憶を一切忘れられない難病を患い、孤独に暮らしていた。しかし、そんな孤独な生活も悪くない。孤独が探偵の心の安寧だからだ。 しかし、そんな平穏な日々を打ち破る依頼が舞い込む。 ある若い男が事務所を訪れ、探偵にある依頼を持ちかける。 自分の周りでは、ここ数年の間で5人もの人間が不審な死を遂げている。ある者は自殺、ある者は事故、そしてある者は急な病死。そして、いずれも自分と親しかったりトラブルがあった人達。 どうか自分がそれらの死と無関係であることを証明して、容疑を晴らしてもらいたい。 それが男の依頼だった。 果たして男の周囲で立て続けに関係者が死ぬのは偶然なのか?それとも何かの事件なのか?

強引に婚約破棄された最強聖女は愚かな王国に復讐をする!

悠月 風華
ファンタジー
〖神の意思〗により選ばれた聖女、ルミエール・オプスキュリテは 婚約者であったデルソーレ王国第一王子、クシオンに 『真実の愛に目覚めたから』と言われ、 強引に婚約破棄&国外追放を命じられる。 大切な母の形見を売り払い、6年間散々虐げておいて、 幸せになれるとは思うなよ……? *ゆるゆるの設定なので、どこか辻褄が 合わないところがあると思います。 ✣ノベルアップ+にて投稿しているオリジナル小説です。 ✣表紙は柚唄ソラ様のpixivよりお借りしました。 https://www.pixiv.net/artworks/90902111

処理中です...