上 下
142 / 266
第6章……復讐の勇者編

133話……天使と悪魔

しおりを挟む
 《酷いじゃないかガブリエル》
『ちっ……』

 ルシフェルを睨みつけていたガブリエルだがもう一度名前を呼ばれたことで盛大に舌打ちして顔を背けた。

 ルシフェルはヤレヤレといった感じで肩をすくめている。

「えっと……」

 突然のことすぎて何も言葉が出ない。
 リンに至ってはもはや現実逃避なのかなんなのか、無表情で立ち尽くしている。

『貴様のせいでマスターが困っておられる。どうしてくれる?』
 《それは申し訳無いね。攻略の報酬を渡すからそれで勘弁してくれないかい?》
『ちっ……本来それはこの部屋に辿り着いた者全てに渡すものだろうが……なにを偉そうに』
 《もしかしてガブリエルも欲しいのかい?》
『……マスターの力になれるのならば……』
 《いや無理でしょ、一応元天使とはいえこの力は悪魔の力、キミに与えることは出来ないよ?》
『ぐっ……貴様……』

 マスター?  あれ?  ガブリエルがウルトの中の人なの?
 なんか今にも殴り合いが始まりそうなんだけどこれどうしたらいいの?

 ぐぬぬと睨みつけるガブリエルとヘラヘラしているように見えるルシフェル、誰か助けて……

『申し訳ありませんマスター、取り乱しました』

 俺が困っているのに気付いたのかガブリエルがこちらに歩み寄ってきて深く頭を下げた。

「いや、別にいいんだけど……」

 ウルトと呼んでいいのか悩む。ガブリエルの方がいいのか?

「えと、なんて呼べばいいのかな?  ガブリエルの方がいい?」
『いえ、今まで通りウルトとお呼びくださいマスター』
「分かったよ」
 《へぇ、あの堅物がねぇ……》
『貴様はいい加減に!』
 《怖いなぁ、怒らないでよウルトくぅん》
『堕天使風情がマスターから頂いた私の名を呼ぶな!』
 《ウルトはダメ、ガブリエルもダメ、ならなんて呼べばいいのさ?》
『ぐぬぬ……』

 ずっとぐぬぬしてるな、これ話進まないぞ。

「それでルシフェルはなんでウルトを呼び出したんだ?」
 《え?  別に理由とか無いよ?  そこに居たから呼んだだけさ》
「えぇ……」

 なんだそれ……でも何となく分かってきた、ルシフェルは楽しければいいみたいなタイプだ。

 《さて……話も一段落着いたし本題に入ろうかな?》
『さっさとしなさいこのグズが』

 ウルエル口悪いな……いかん、名前が混じってしまった。

「本題?」
 《迷宮攻略の報酬さ、キミたちには報酬と攻略の証明をあげるよ》
「戦わなくていいのか?」
 《戦いたいなら戦うけど?  》

 どっちでもいいけど……

 《ふふ……本来迷宮はここに辿り着いた時点でクリア、最奥の悪魔と戦う必要なんて無いんだよ》
「じゃあ今までの迷宮で戦ってきたのは?」
『この堕天使が迷宮を書き換えた弊害ですね。書き換えられたせいで管理者は自我を失い役割を忘れました』
 《はは、そこは申し訳無いと思ってるよ》
「つまり……?」
 《本当なら攻略したチーム全員に報酬が渡されるハズだったんだよ。迷宮の難易度を僕が上げたせいで管理者の自我が失われてそれもめちゃくちゃになっちゃったみたいだけど……ごめんね?》

 いや謝られても……
 いや、本当なら傲慢、憤怒、色欲は全員貰えたはずだったのか……
 なら謝って済む話じゃないな!

『そうです。全てこの堕天使の責任です』
 《だから謝ってるじゃないか……これでも僕の書き換えた迷宮を攻略したキミたちを本当に賞賛しているんだよ?》
「なんかもうよくわかんないや、それで何くれるの?」

 またしても口論が始まりそうだったので先に割り込んでおく。

 《そうだね、ガブリエルと話してると進まないね!  報酬は選ばせてあげるよ。全てを見透かすスキル【傲慢なる者の瞳】と特殊職業【傲慢な魔法使い】どっちがいい?》
「どんな能力か聞けたりは?」
 《しないね》

 ふむ……

『【傲慢なる者の瞳】は監視系スキルです。使用すると上空か全てを見下ろす視点で見えるようになります。【傲慢な魔法使い】は魔法使い系統上位職になります。リン様の大魔道士と比べると魔防は下がりますが魔攻はこちらの方が上ですね』

 どんな能力か考えているとウルエルが詳細を教えてくれた。
 上空からの監視か……

「ウルエル、【傲慢なる者の瞳】は建物の中とかは見えるのか?」
『混ぜないで下さいマスター……ウルトで構いません。このスキルだけでは建物内は見えませんが……私の【万能感知】と組み合わせることで見えなくとも詳細はわかります』
「あ、ごめんごめん、つい……」
『気を付けてください。私はマスターから頂いたウルトという名前を気に入っておりますので』
「気に入ってたんだ……了解、気を付けるよ」

 話を戻して……あの言い方だと俺が【傲慢なる者の瞳】を選べばウルトの【万能感知】と併せて使えるってことか。

 《全く……なんで教えちゃうかな》
『今の私は天使というよりマスターの所有物ですので』

 ルシフェルの小言に対してウルトはそっぽを向いたまま答える。
 険悪だなぁ……

「クリード、あたしは【傲慢な魔法使い】にするけど……クリードはどうするの?」

 ようやくリンが現実に戻ってきたようだ。

「俺は【傲慢なる者の瞳】にしようと思う。職業貰って万が一ウルトとの繋がりが消えたりすると全部終わるから選べないよ」

 職業【トラック運転手】が【傲慢な魔法使い】に変更されてウルトとの繋がりが消えたりしたら目も当てられない。
 一番の目的でもある勇者討滅が困難になってしまうからだ。

「そうね、それにウルトの説明だと万が一勇者が逃げても捕捉出来そうだしね」
「そうそう、だから悩む必要も無いかな」
 《決まったみたいだね》

 俺とリンが話しているとルシフェルも話に入ってきた。

 《じゃあ報酬を渡そう。受け取ってくれ》

 ルシフェルの手が黄金に輝き2つの光の玉が現れた。
 その玉はそれぞれが俺とリンの胸に吸い込まれるように消えていく。

 左腕の腕輪に目をやると金の宝玉が新たに追加されていた。

「あ、あたしにも腕輪着いたわね」

 リンも左腕に違和感を感じたのか袖を捲って確認している。

 《これで傲慢の迷宮は攻略完了だ。おめでとう!》

 パチパチと拍手するルシフェル、隣では天使姿のウルトも手を打ち鳴らしている。
 ここは息ぴったりなんだ……

 《さぁ地上に戻るといい。僕の力を使ってキミたちの願いを叶えておいで》

 ルシフェルの隣には光り輝く魔法陣。
 あれに乗れば一瞬で地上に戻れるだろう。

『さっさと行きましょう。もうこんな場所に用はありません』
 《つれないなぁ……そうだ!  レオくんにはこれをあげるよ》

 ルシフェルは黒い穴を出現させてそこに手を突っ込む。
 引き抜くと手には白銀に輝く美しい鎧を持っていた。

「鎧?」
 《うん。僕が天使だった頃に着ていた鎧だ。今は悪魔だから僕には装備出来ないんだよね》

 鎧はルシフェルの手を離れふわふわと俺の元まで飛んできた。

 《【明けの明星】、全ての害意ある攻撃を反射する鎧だよ。この世界の人間に装備できる代物では無いけど異世界から来た勇者の資格を持つキミなら装備出来るはずさ……まぁそれでも人間であるレオくんには全ての力は扱えないだろうけど全ての攻撃を軽減くらいはしてくれると思うよ!》

 そんな大層な鎧を貰ってもいいのだろうか……

『マスター、貰っておきましょう。その鎧はそこの堕天使が持っていてもなんの意味もない鎧です』
「ウルト……分かったよ。ありがとう」

 鎧を抱えたまま直角に腰をおり頭を下げてお礼を述べる。

『では戻りましょう』

 ウルトは光の玉の姿に戻りトラックに溶けていく。これでいつも通りか……

『お乗り下さい』
「分かったよ……ルシフェル、本当にありがとう」
「もう会うことは無いだろうけど、楽しかったわ」
 《キミたちが何を成すかここから見守っているよ。願わくばほかの迷宮も攻略してあるべき姿に戻して欲しい》

 ルシフェルに別れの挨拶をしてウルトに乗り込む。
 最後の最後に何か言っていたが喋り終わる前にウルトが魔法陣に触れたので返事をすることが出来なかった。

 最後くらい聞いてやれよ……

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~

つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。 このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。 しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。 地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。 今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た

pelonsan
恋愛
 ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。  僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。  昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。  去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日…… ※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。

処理中です...