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第5章……アルマン教国編

110話……引き継がれる力

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 どれくらい経ったのだろうか、俺はケイトと一緒に貫かれている腕を無視してじっとケイトの顔を眺めていた。

 なんの苦痛も憂いもない、安らかな寝顔だった。

「ケイト……」

 呟いたのは果たして俺かリンか、その声でようやく俺の時間は動き始めた。

 力の入らない体に無理やり力を入れてギュッと抱きしめそのまま口付けを落とす。

 しばらくそうしていると再び強欲の剣が浮き上がりケイトの胸から、俺の腕から抜けた。

 叩き折ってやろうか……
 致命傷を受けていたとはいえ最終的にケイトの命を奪ったのはこの剣だ。

 ケイトは願いだとか欲だとか言っていたが俺には耐えられそうに無い。

 空中に浮かぶ剣を睨みつけていると強欲の剣は薄く発光し始めた。

 《我、所有者の願いを叶えるつるぎ也》

 頭の中に響くように声が聞こえてきた。
 願いを叶える……?

 《所有者ケイトの願いによりレオ・クリードを主と認め力を与えん》

 力……?  俺に……?

 《さぁ握れ。我が所有者ケイトの願い、欲を叶えよ》

 いつの間にか、気が付けば俺の傷と魔力は全快していた。

 左手でケイトを支えたまま右手を伸ばして強欲の剣の柄を握る。

 《レオ・クリードを主と認め新たな力を授ける》

 ドクンと俺の心臓が跳ねたような気がした。

 《【アイテムボックス】【糸生成】【俊敏】【生命力強化】【乾坤一擲】【絶倫】【魔剣召喚】【闘気剣】を獲得》

 次々と頭の中にスキルが浮かんでいく。
 ケイトが新たなスキルを獲得したときに声が聞こえると言っていたのはこれか……

 《【剛力無双】を獲得、統合進化【タイタン】を獲得》
 《【疾風加速】を獲得、統合進化【疾風迅雷】を獲得》
 《【鉄壁】を獲得、統合進化【要塞】を獲得》
 《【剣術(極)】を獲得、【剣術(上)】を獲得、統合進化【剣術(神)】を獲得》
 《【魔力撃】を獲得、統合進化【魔力撃(極)】を取得》
 《【気配察知】を取得、統合進化【気配察知(特)】を獲得》
 《【弱点看破】を獲得、統合進化【弱点看破(特)】を獲得》
 《【身体強化(大)】を獲得、統合進化【身体強化(特)】を獲得》
 《【直感強化】を獲得、統合進化《直感強化(特)》を獲得》
 《【知覚強化】を獲得、統合進化【知覚強化(大)】を獲得》
 《【見切り】を獲得、統合進化【見切り(上)】を獲得》
 《【天駆】を獲得、統合進化【天駆(上)】を獲得》

 煩いな……でも今はどうでもいい。

 《職業【剣姫】を獲得、職業【剣聖】を獲得、統合進化職業【剣鬼】を獲得。副業に設定します》



「クリード……」

 俺がピクリとも動かないからかリンが心配そうに声を掛けてきた。

「ああ……大丈夫……」
「大丈夫そうには見えないわよ……その……今は緊急事態だし、スマートフォンとイヤホンを貸して貰えないかしら……」

 なんでこんな時に……いやこんな時だからか……
 ウルトにアイツらを追わせてるしその結果も聞かないと……

 動きたくない気持ちを押し殺して【無限積載】からスマホとイヤホンを取り出す。

『マスター、応答願います。マスター』

 イヤホンからではなくスマホからウルトの声が聞こえる。
 スピーカーモードになっているようだ。

「俺だ」
『マスター緊急事態です。街の外に大量の魔物を感知、勇者たちはその中心に居るようです』
「は?」

 何も考えられない、頭が回らない。頭の中は真っ白だ。

「クリード、アンタは休んでなさい。あとは……あたしがやるから……」

 リンにスマホとイヤホンを手渡して俺はケイトを抱きしめる。

 もう何も考えたくない……

「クリードくん……これは……」

 今だけは、せめてケイトの温もりが消えるまでは放って置いてくれ。

 ウルトが戻ってくるまでの間俺は誰から声を掛けられても無視し続けた。
 それまでの間全てをリンが対応してくれていたようだ。

 外は既に暗闇、何時間このままだったのだろうか。

「クリード、結論から言うわ。アイツらはサーシャちゃんを攫って逃走、転移魔法を使って逃げたからウルトでも追いつけなかったみたい」
『申し訳ありません』

 そうか……逃げられたのか……

「さらに大量の魔物と魔族が聖都を囲んでいたわ。それらはあたしたちとウルトで何とかしたわ」

 大量の魔物と魔族か、そういえばウルトが緊急事態はだとか言ってたな。
 これのことか。

「粗方の説明もしておいたわ、だからクリード、貴方はしばらく休みなさい。何も考えなくていいから……」
『些事は私にお任せ下さい』

 言葉を発する気になれないのでこくりと頷き一度頷いた。

「クリード様、ご遺体をこちらへ」

 リンが下がると次はライノス邸の執事が声を掛けてくる。
 遺体?  ケイトを渡せというのか?

 無言で睨みつけると執事はビクッと体を震わせて頭を下げて引き下がった。
 誰にも渡したくはない。

 俺は一晩中ケイトの体を抱きしめ続けた。
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