上 下
117 / 266
第5章……アルマン教国編

110話……引き継がれる力

しおりを挟む
 どれくらい経ったのだろうか、俺はケイトと一緒に貫かれている腕を無視してじっとケイトの顔を眺めていた。

 なんの苦痛も憂いもない、安らかな寝顔だった。

「ケイト……」

 呟いたのは果たして俺かリンか、その声でようやく俺の時間は動き始めた。

 力の入らない体に無理やり力を入れてギュッと抱きしめそのまま口付けを落とす。

 しばらくそうしていると再び強欲の剣が浮き上がりケイトの胸から、俺の腕から抜けた。

 叩き折ってやろうか……
 致命傷を受けていたとはいえ最終的にケイトの命を奪ったのはこの剣だ。

 ケイトは願いだとか欲だとか言っていたが俺には耐えられそうに無い。

 空中に浮かぶ剣を睨みつけていると強欲の剣は薄く発光し始めた。

 《我、所有者の願いを叶えるつるぎ也》

 頭の中に響くように声が聞こえてきた。
 願いを叶える……?

 《所有者ケイトの願いによりレオ・クリードを主と認め力を与えん》

 力……?  俺に……?

 《さぁ握れ。我が所有者ケイトの願い、欲を叶えよ》

 いつの間にか、気が付けば俺の傷と魔力は全快していた。

 左手でケイトを支えたまま右手を伸ばして強欲の剣の柄を握る。

 《レオ・クリードを主と認め新たな力を授ける》

 ドクンと俺の心臓が跳ねたような気がした。

 《【アイテムボックス】【糸生成】【俊敏】【生命力強化】【乾坤一擲】【絶倫】【魔剣召喚】【闘気剣】を獲得》

 次々と頭の中にスキルが浮かんでいく。
 ケイトが新たなスキルを獲得したときに声が聞こえると言っていたのはこれか……

 《【剛力無双】を獲得、統合進化【タイタン】を獲得》
 《【疾風加速】を獲得、統合進化【疾風迅雷】を獲得》
 《【鉄壁】を獲得、統合進化【要塞】を獲得》
 《【剣術(極)】を獲得、【剣術(上)】を獲得、統合進化【剣術(神)】を獲得》
 《【魔力撃】を獲得、統合進化【魔力撃(極)】を取得》
 《【気配察知】を取得、統合進化【気配察知(特)】を獲得》
 《【弱点看破】を獲得、統合進化【弱点看破(特)】を獲得》
 《【身体強化(大)】を獲得、統合進化【身体強化(特)】を獲得》
 《【直感強化】を獲得、統合進化《直感強化(特)》を獲得》
 《【知覚強化】を獲得、統合進化【知覚強化(大)】を獲得》
 《【見切り】を獲得、統合進化【見切り(上)】を獲得》
 《【天駆】を獲得、統合進化【天駆(上)】を獲得》

 煩いな……でも今はどうでもいい。

 《職業【剣姫】を獲得、職業【剣聖】を獲得、統合進化職業【剣鬼】を獲得。副業に設定します》



「クリード……」

 俺がピクリとも動かないからかリンが心配そうに声を掛けてきた。

「ああ……大丈夫……」
「大丈夫そうには見えないわよ……その……今は緊急事態だし、スマートフォンとイヤホンを貸して貰えないかしら……」

 なんでこんな時に……いやこんな時だからか……
 ウルトにアイツらを追わせてるしその結果も聞かないと……

 動きたくない気持ちを押し殺して【無限積載】からスマホとイヤホンを取り出す。

『マスター、応答願います。マスター』

 イヤホンからではなくスマホからウルトの声が聞こえる。
 スピーカーモードになっているようだ。

「俺だ」
『マスター緊急事態です。街の外に大量の魔物を感知、勇者たちはその中心に居るようです』
「は?」

 何も考えられない、頭が回らない。頭の中は真っ白だ。

「クリード、アンタは休んでなさい。あとは……あたしがやるから……」

 リンにスマホとイヤホンを手渡して俺はケイトを抱きしめる。

 もう何も考えたくない……

「クリードくん……これは……」

 今だけは、せめてケイトの温もりが消えるまでは放って置いてくれ。

 ウルトが戻ってくるまでの間俺は誰から声を掛けられても無視し続けた。
 それまでの間全てをリンが対応してくれていたようだ。

 外は既に暗闇、何時間このままだったのだろうか。

「クリード、結論から言うわ。アイツらはサーシャちゃんを攫って逃走、転移魔法を使って逃げたからウルトでも追いつけなかったみたい」
『申し訳ありません』

 そうか……逃げられたのか……

「さらに大量の魔物と魔族が聖都を囲んでいたわ。それらはあたしたちとウルトで何とかしたわ」

 大量の魔物と魔族か、そういえばウルトが緊急事態はだとか言ってたな。
 これのことか。

「粗方の説明もしておいたわ、だからクリード、貴方はしばらく休みなさい。何も考えなくていいから……」
『些事は私にお任せ下さい』

 言葉を発する気になれないのでこくりと頷き一度頷いた。

「クリード様、ご遺体をこちらへ」

 リンが下がると次はライノス邸の執事が声を掛けてくる。
 遺体?  ケイトを渡せというのか?

 無言で睨みつけると執事はビクッと体を震わせて頭を下げて引き下がった。
 誰にも渡したくはない。

 俺は一晩中ケイトの体を抱きしめ続けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~

つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。 このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。 しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。 地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。 今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た

pelonsan
恋愛
 ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。  僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。  昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。  去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日…… ※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。

処理中です...