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第1章……王国編

14話……初めての戦闘

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 王都を出たところでウルトに作業服の上着を出してもらい装備する。
 街中で作業服はちょっと……という理由で今まで着ていなかったのだ。

「いいじゃんクリード、かっこいいわよ」
「良くお似合いですよ」
「ありがとう」

 リンとサーシャに褒められるが作業服姿を褒められるのは微妙な気分だな。
 作業服姿で腰に剣を携えているなんて元の世界じゃ考えられない格好だからね……

 それから俺の元の世界の話やこの世界の常識なんかの話をしながら1時間半程歩いて昨日ウルトをお披露目した場所付近までたどり着いた。

 ここなら森も近いし草原の魔物も森の魔物も相手できそうだ。

『マスター、森の中から生命反応を確認、数は6です』
「早速か、ゴブリンかな?」

【サイズ変更】の練習のために大型バイクより少し大きめくらいにしてあるウルトから警告、森の方へ意識を向ける。

 木の影から現れたのはやはりゴブリン。
 手には棍棒とも呼べないような木の棒を持って姿を現した。

「クリード殿、私とアンナで5匹倒しますので残った1匹をお願いします」
「アドバイスはするッスよ!」

 ソフィアとアンナは武器を構えてゴブリンを待ち受ける。
 ギィギィと大変気持ちの悪い鳴き声を上げながら突っ込んできたゴブリンは1匹を残してあっさりと返り討ち。

「ではクリード殿、倒してください」

 ソフィアは槍を振って血を飛ばしながらこちらを見てそう言った。

 ゴブリンを見ると一瞬で仲間がやられたことに怯えているのかチラチラと森の方へ視線をやっていたので回り込んでゴブリンと森の間に立つ。

「ギィィ!」

 ゴブリンは覚悟を決めたのか木の棒を振り上げて大声を出しながら飛びかかってきた。

 速度は遅い、ゴブリンの体格は貧弱、手に待つ木の棒は今にも折れそう……

 怪我したらサーシャに治してもらおうと覚悟を決めてゴブリンの攻撃を腕を交差して受ける。

 目を瞑らないように気合いで目を開き攻撃を受ける瞬間を観察する。

 ――ポフッ……

「ん?」

 痛みどころか衝撃もほぼ感じなかった。軽く触れられたくらいかな?

 一発殴ったことで調子付いたのかゴブリンくんは二撃三撃と棒を振り回してくるがノーダメージだ。

「フッ!」

 なんか調子に乗って攻撃してくるゴブリンくんに腹が立ったので攻撃のために飛び上がったゴブリンくんの顔面を殴りつけた。

 ゴブリンくんは殴られた衝撃で数メートルほど吹っ飛び倒れる。
 立ち上がる気配は無い。

 ……あれ?

 近寄って確認してみると、ゴブリンくんの首がありえない方向に曲がっており一目見ただけでお亡くなりになっている事がわかった。

『回収します』

 そっと後ろから近付いてきたウルトがゴブリンの死体から右耳と魔石を回収して元の位置に戻って行った。

 ……あれぇ?

「クリード殿……」
「クリードさん……なんで剣を使わずぶん殴ってるんスか……」
「いや、なんといいますか……つい?」

 そうなのだ、ついやってしまったのだ。

「まったく……次はちゃんと剣使うッスよ?」
「そのために来ていますからね。さぁクリード殿、次が来ますよ」

 ソフィアが森の方を向きながらそう言うので今度はちゃんと剣を抜いて待ち構える。

「3匹ですね。クリード殿お一人でやってみますか?」
「そうだね……さっき攻撃受けてみたけど軽く触られたくらいにしか感じなかったしやってみるよ」

 痛みが無いのが分かれば怖くはないからね。

 ガサガサと茂みが揺れてゴブリン3匹が姿を現した。
 逃げられないよう少し森から離れるのを待ってから剣を両手で握って駆け出す。

「ギィィー!」

 走り寄る俺に対して先頭のゴブリンAが叫びながら木の棒を振り上げた。

 気にせずさらに接近すると振り下ろして来たのでよく見て回避、走り込んだ勢いを殺さないよう注意しながらゴブリンAの首目掛けて剣を振り抜いた。

 するとゴブリンAの首は簡単に飛び青黒い血が噴水のように吹き出した。

「いやぁぁ!  グロい!  キモイ!」

 思わず首の無いゴブリンAの体を蹴り飛ばしてバックステップ。血がかからない位置まで下がった。

 すると残ったゴブリンBくんとCくんは体を大きく震わせて森へ逃げ出してしまった。
 しまった……そりゃこれだけ間合い開けたら逃げられるわな……

 森までに追いつけるかな?  と駆け出そうとしたその時、背後から炎の槍のようなものが飛来して逃げるゴブリンBくんCくんを貫いた。

 振り返るとリンが杖を構えておりどうやら魔法を放った様子、ジトっとした目でこちらを見ているのが恐ろしい。

 倒したゴブリンの耳と魔石を回収するためウルトがこちらに走ってくる。
 何故かリンを箱に乗せて……

「クリード?  なんであの時下がったの?」
「えーと……ごめんなさい」

 軽く頭を下げて謝るとペシッと頭を叩かれた。

「別に怒ってるわけじゃないのよ。どうして下がったの?」
「思わず……かな、首が飛ぶのも血が吹き出すのも実際見るの初めてだったから……」

 誤魔化しても仕方ないので正直に答える。

「そうなのね。ここに来るまでに聞いたけど、クリードの住んでた国では争いとかもほとんど無かったのよね?」
「そうだね。武器の携帯すら罪になる国だったし」

 喧嘩したこと無いわけでもないけど出ても鼻血くらいだしね。

「それなら仕方ないと思うの。けれどこの世界では魔物の血や飛んだ首にイチイチ驚いてたら命がいくつあっても足りないわよ?」

 実際隙だらけだったと釘を刺される。
 確かにゴブリン3匹しか居なかったから良かったものの他に魔物がいれば下がった隙に攻撃を受けていても仕方ないと思う。

「だから冒険者を続けたいなら慣れなさい。血で汚れても浄化魔法で綺麗にしてあげるから」

 ポンポンと頭を撫でられた……
 俺とリンの身長差は20センチ近くある。背伸びして頭を撫でてくれたリンに少しドキッとしたが今は不謹慎すぎる。

「ありがとう、頑張って慣れるよ」
「あらつまらない反応ね……もっとこう、赤くなったり?」

 残念ながらそこまで初心じゃないんです。
 何やかんやでそれなりに経験してるんだから恋愛小説やファンタジー小説の主人公みたくはならないよ。

「マスター、また来ます。数は7」
「また?  今日はやけに多いわね……」
「昨日も37匹倒してますからね、多いんですか?」

 何ともなしに昨日倒したゴブリンの数を告げるとリンは難しそうな表情を浮かべた。

「多すぎるわね……もしかしたら近くに巣があるのかしら?」
「巣?  ゴブリンの?」

 気になったので話の続きを聞きたいがゴブリンが姿を現したので中断、森から引き離すために剣を構えたまま少しずつ下がっていく。

「続きは後ね、クリード行ける?」
「もちろん、今度はしくじらない」

 ある程度森から距離を取って待ち受ける。
 横目でソフィアとアンナの位置を確認すると、サーシャの近くで護衛しているようなのでここは俺だけで倒したいところ。

「危なくなったら援護するから、頑張ってね」

 リンのその言葉を合図に駆け出す。今度は血にビビらないように……

 さっきと同じように振り下ろされる木の棒を躱してさっきより力を抜いて首に一撃。
 軽く振った剣でもキチンと首に当てると簡単に首を飛ばせた。

「よし……」

 そのまま駆け抜けながら二度三度と剣を振ってゴブリンを仕留める。
 振り返って残ったゴブリンの攻撃に当たらないよう気をつけながら剣を振り一撃も貰わずに全滅させることに成功した。

「うわぁ……汚い……」

 下を見れば剣も服も青黒い血に汚れて変な臭いまでする……
 これに慣れないといけないのか、キツいな……

 とにかく今回は上手く戦えたと思う。
 この感じを忘れないように繰り返し戦って体で覚えよう。

 それより……早く綺麗にしてもらいたい……
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