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とみぃの日常

74話。デートの前に

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「トミー、本日のご予定は?」
「今日はあの集落に待っていく物資の買い出しと、トレーニングくらいかな?」

 エリオットたちと食事をした翌日、朝起きて朝食を食べているとアイリスが今日の予定を尋ねてきた。

 特にやることも無いので、支援物資の買い出しと、いつもやっているのよりキツいトレーニングをしようかと考えながら答える。

「わたくしとご一緒しても?」
「もちろん」

 断る理由なんてない。大歓迎だ。

「デートね」
「デートですね」

 同じく食卓に着いているティファリーゼと給仕をしていたメアリさんが顔を見合せ話している。

「デ、デートなんかじゃ」
「デートでいいじゃない。アイリスは俺とデートするのは嫌なの?」
「嫌なんかじゃありませんわ!」
「じゃあデートということで」

 ティファリーゼもメアリさんも俺たちの関係性なんてとっくに知っているのに、アイリスは今更なにを恥ずかしがっているのだろうか?

「いいじゃない。買い物デートなんて青春よね」
「お夕飯は外で食べて帰られますか?」
「そもそも帰ってくるの? お泊まりしないの?」
「あわわ……」

 アイリスは二人からの質問に顔を赤くしてあわあわしている。

 ホントこういうことに関しての免疫が無いよね。
 そこも可愛いポイントなんだけど。

「メアリさん、夕食は外で済ませて帰るから用意はしなくて大丈夫です。ティファリーゼ、お泊まりはしないよ」
「畏まりました。それと、私に対して敬語も敬称も必要ありませんよ」
「お泊まりしないの? いい連れ込み宿教えてあげるよ?」
「善処します」

 メアリさんに対しては返事をするが、ティファリーゼのことはあえて無視をする。

 というかなんでいい連れ込み宿知ってるんだよ、未経験者なんでしょ? 耳年増?
 ……後でこっそり教えてください。

「わ、わたくし、準備をしてきますわ!」

 アイリスは立ち上がり、足早に部屋へと戻って行ってしまった。

 着替えもしていたし、髪型もいつも通りキチンと整えられていたのになにを準備するんだろ?

「ご馳走様。あたしも今日はシルフィちゃんと出掛けるから、あたしたちも夕食はいらないから」
「はいはい。おつまみは要るんでしょ?」
「あたしの扱い悪くない?」

 そもそもティファリーゼは自宅あるでしょうよ。
 勝手に住み着いておいて何を言っているのやら。

「...さて、俺も着替えようかな」
「シルフィちゃん、髪結んであげるからこっちおいでー」
「はーい!」

 ティファリーゼがシルフィエッタの髪を結い始めたのを横目に部屋へと戻る。

 一人で買い出しとトレーニングするだけのつもりだったから動きやすい服を着ていたが、デートとなるとこの格好ではダメだろう。

 以前にアイリスやティファリーゼに選んでもらった小洒落た服に着替えてリビングに戻り、メアリさんに淹れてもらった紅茶を飲みながら寛いでいると、見たことの無い淡い青色の羽衣(ワンピース)に身を包んだ天女が舞い降りてきた。

 デートの基本として、褒めなければと頭ではわかっているのだが、あまりの衝撃に言葉が出ない。

「あら、アイリスちゃんよく似合ってるじゃない」
「アイリスお姉ちゃんとっても可愛いです!」

 ティファリーゼとシルフィエッタが口々にアイリスを褒めているが、俺は口をパクパクさせるだけで未だ声にならない。

「ほら、トミーくんもなにか言わないと」
「……」
「ダメね、アイリスちゃんがあまりに美しすぎて魂抜けてるって顔してるわ」

 どんな顔だよ。
 けどあながち間違ってないよ。

「お兄ちゃん、アイリスお姉ちゃん待ってるよ?」
「あ、ああ……」

 いつの間にかティファリーゼの隣から終わったこちらにやってきたシルフィエッタに袖を引かれてようやく意識が現世に戻ってきた。

 危ない危ない、危うくあまりの美しさに天に召されてしまうところだった。
 うつく死だ。

「トミー……」

 アイリスが何かを求めるような目で俺を見つめてくる。
 その目はいけない。俺の心臓が持たなくなる。

 一度大きく深呼吸をして、改めてアイリスを見て口を開く。

「無理。もう無理。可愛すぎて死ぬ。全世界に自慢した後、誰にも触れられないよう閉じ込めておきたいくらいに可愛い。誠に申し訳ございませんが、俺の語彙力ではこれが限界。まさに言葉にならないとはこのこと」
「やめて……やめてくださいまし……」

 もっと詩的にかっこよく褒めたいのは山々だが、こんな姿のアイリスを見て俺の脳がまともに働くわけが無い。

 何も考えず、思ったまま口を動かしていると、アイリスはだんだんと俯いてしまい、もうやめてくれと懇願し始めた。

 まだ思ったこと一割も言ってないよ?

「お兄ちゃん、アイリスお姉ちゃんはもう限界だよ」
「言葉を飾らずにそのまま伝えたからこそのクリティカルね……」

 もういいの?
 あと三万文字くらいは口から出てきそうだったけど……

「なんでトミーくんが不思議そうな顔をしてるのよ……」

 ティファリーゼがゲンナリしているが、意味がわからない。
 どうするのが正解だったのだろうか。

「はぁ……もういいわよ……さっさとデート行ってきたら?」
「あ、うん……」

 なんだかよく分からないけれど、さっさと行けと言われるのならさっさと行こうか。

「お兄ちゃん、アイリスお姉ちゃん、行ってらっしゃい!」
「行ってくるね。ほら……」

 アイリスを促してリビングの扉をくぐり外に出る。

 さて……どうしようかな?
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