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戦うとみぃ
61話。お貴族様
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「どうした、何を騒いでいる?」
「団長! いえ、この者らがふざけたことを抜かしておりまして……」
真剣に帰ろうかと悩んでいると、門の奥から目の前の兵士より立派な服を着た小太りの男が姿を現した。
話を聞く限り、どうやらこの兵士より上の役職の人らしい。
この人なら話が通じるのかな?
「ふむ」
男は少し考えるように俺たちを見て、ニヤリと口角を上げてから口を開く。
「平民、話を聞いて欲しければその女を差し出せ。そうすれば話を聞いてやろう」
訂正。
この場で話が通じる人間は存在しないらしい。
しかもこいつ、鼻息荒いし、息を吐くときたまに「ぷぴー」って鳴って意識が持っていかれそうだ。
しかし、アイリスを差し出せか。ふざけているのはどちらだろうか?
もうこいつらぶん殴って帰っても俺の中では情状酌量の余地しかない無罪だし、ぶん殴って帰ってしまおうか?
「女を差し出せとはわたくしのことですの?」
「物分りがいいな。その通りだ」
俺がイライラして黙っていると、横で見ていたアイリスが口を開いた。
辞めなさい。こんなのと口を聞いたらアイリスが汚れちゃう。
「アイリス、もういいよ」
「よろしいんですの?」
「うん。よくよく考えたら街中に悪魔が出現する訳でもないし、勝手に倒して勝手に帰ればいいかなって」
「……それもそうですわね」
良かった、アイリスも納得してくれたようだ。
最初は俺が勝手に行って勝手に倒して帰って来そうだから同行するという話だったが、都合よく忘れてくれているようだ。
あれ? それはティファリーゼだっけ?
「おい平民、何を勝手に帰ろうとしている?」
アイリスも納得してくれたし、これ以上こいつらと話していても不快なだけなので、背を向けて歩き出そうとすると再び鼻息デブから声をかけられてしまった。
イラッとして振り返り、言い返そうとするが、アイリスに目で止められてしまった。
どうやらアイリスが対応するということらしい。
「なにか?」
「なにかではなかろう。貴族から声を掛けて貰っておいて何事もなく立ち去るとは何のつもりだ? 不敬であろう?」
「何のつもりと言われましても困ってしまいますわ。わたくしたちは貴方が貴族かどうかもわかりませんもの」
「貴様……子爵であるワシを愚弄するか!?」
子爵……へぇ、本当にお貴族様だったのね。
お貴族ならぶん殴ったら不味いのかな?
普通に考えたら不味いだろうけど、こいつなら殴っても許される気がする。
うん。許される。今決めた。
「子爵様でしたの」
「そうだ。その体をワシに捧げるというのであればそっちの男の無礼は許してやろう」
あ、これはダメ。キレちゃいそう。
マジでキレちゃう5秒前。
「申し遅れましたわ。わたくしファミマト王国の筆頭公爵家であるイルドラース公爵家が長女、アイリス・フォン・イルドラースと申しますの」
「ファミマト……公爵……」
「ええ。それで……たかがラトイ王国程度の小国、それも子爵風情がわたくしの身柄をどうなさいますの?」
明らかに見下すような発言。
以前に小国の王族ですらそこまで気を使う必要が無いと言っていたが、ここまであからさまに見下すのは凄いな。
大国の大貴族様の力というのは凄まじいものなんだなぁ。
「いえ……あの……」
「なんですの?」
「ひぃ……」
完全に兵士と鼻息デブはアイリスの放つ威圧感に呑まれてしまっている。
かく言う俺も気を抜けば足が震えてしまいそうだ。
「も……申し訳……ございません……」
「あら、謝るんですの?」
謝っちゃうの?
謝るなら謝るでいいけど、そんな頭の下げ方でいいと思ってんの?
こちらにおわす方をどなたと心得える?
恐れ多くもかの大国の公爵令嬢であらせられるぞ!
頭が高い! 控えよ!
謝るなら地に頭を擦り付けて許しを乞うのが筋であろうが!
「トミー、五月蝿い」
「えっ……なにも喋ってないけど」
「心の声が五月蝿いんですの」
どうやらアイリスは俺の心の声がお気に召さないらしい。
なんで心の声が聞こえているのだろうか、アイリスはエスパーなのかな?
なんかアイリスなら俺の心が聞こえててもおかしいと思えないや。
アイリス相手ならしゃーない。読まれて当然。
「あの……陛下の下にご案内…………」
「結構ですわ。わたくしたちは帰りますので……」
「いえ、しかし!」
「しかしもカカシもありませんわ」
アイリスは振り返り、それ以上何も言わずにその場を後にする。
俺も置いていかれないよう足早にアイリスを追いかけた。
しかしあれだな、俺の怒りもどうでも良くなってきた。
あの鼻息デブぶん殴って、明日出現する悪魔をとっ捕まえて城に放り込んでやろうかと思ってたけど、なんかもうそこまでしなくていいや。
「団長! いえ、この者らがふざけたことを抜かしておりまして……」
真剣に帰ろうかと悩んでいると、門の奥から目の前の兵士より立派な服を着た小太りの男が姿を現した。
話を聞く限り、どうやらこの兵士より上の役職の人らしい。
この人なら話が通じるのかな?
「ふむ」
男は少し考えるように俺たちを見て、ニヤリと口角を上げてから口を開く。
「平民、話を聞いて欲しければその女を差し出せ。そうすれば話を聞いてやろう」
訂正。
この場で話が通じる人間は存在しないらしい。
しかもこいつ、鼻息荒いし、息を吐くときたまに「ぷぴー」って鳴って意識が持っていかれそうだ。
しかし、アイリスを差し出せか。ふざけているのはどちらだろうか?
もうこいつらぶん殴って帰っても俺の中では情状酌量の余地しかない無罪だし、ぶん殴って帰ってしまおうか?
「女を差し出せとはわたくしのことですの?」
「物分りがいいな。その通りだ」
俺がイライラして黙っていると、横で見ていたアイリスが口を開いた。
辞めなさい。こんなのと口を聞いたらアイリスが汚れちゃう。
「アイリス、もういいよ」
「よろしいんですの?」
「うん。よくよく考えたら街中に悪魔が出現する訳でもないし、勝手に倒して勝手に帰ればいいかなって」
「……それもそうですわね」
良かった、アイリスも納得してくれたようだ。
最初は俺が勝手に行って勝手に倒して帰って来そうだから同行するという話だったが、都合よく忘れてくれているようだ。
あれ? それはティファリーゼだっけ?
「おい平民、何を勝手に帰ろうとしている?」
アイリスも納得してくれたし、これ以上こいつらと話していても不快なだけなので、背を向けて歩き出そうとすると再び鼻息デブから声をかけられてしまった。
イラッとして振り返り、言い返そうとするが、アイリスに目で止められてしまった。
どうやらアイリスが対応するということらしい。
「なにか?」
「なにかではなかろう。貴族から声を掛けて貰っておいて何事もなく立ち去るとは何のつもりだ? 不敬であろう?」
「何のつもりと言われましても困ってしまいますわ。わたくしたちは貴方が貴族かどうかもわかりませんもの」
「貴様……子爵であるワシを愚弄するか!?」
子爵……へぇ、本当にお貴族様だったのね。
お貴族ならぶん殴ったら不味いのかな?
普通に考えたら不味いだろうけど、こいつなら殴っても許される気がする。
うん。許される。今決めた。
「子爵様でしたの」
「そうだ。その体をワシに捧げるというのであればそっちの男の無礼は許してやろう」
あ、これはダメ。キレちゃいそう。
マジでキレちゃう5秒前。
「申し遅れましたわ。わたくしファミマト王国の筆頭公爵家であるイルドラース公爵家が長女、アイリス・フォン・イルドラースと申しますの」
「ファミマト……公爵……」
「ええ。それで……たかがラトイ王国程度の小国、それも子爵風情がわたくしの身柄をどうなさいますの?」
明らかに見下すような発言。
以前に小国の王族ですらそこまで気を使う必要が無いと言っていたが、ここまであからさまに見下すのは凄いな。
大国の大貴族様の力というのは凄まじいものなんだなぁ。
「いえ……あの……」
「なんですの?」
「ひぃ……」
完全に兵士と鼻息デブはアイリスの放つ威圧感に呑まれてしまっている。
かく言う俺も気を抜けば足が震えてしまいそうだ。
「も……申し訳……ございません……」
「あら、謝るんですの?」
謝っちゃうの?
謝るなら謝るでいいけど、そんな頭の下げ方でいいと思ってんの?
こちらにおわす方をどなたと心得える?
恐れ多くもかの大国の公爵令嬢であらせられるぞ!
頭が高い! 控えよ!
謝るなら地に頭を擦り付けて許しを乞うのが筋であろうが!
「トミー、五月蝿い」
「えっ……なにも喋ってないけど」
「心の声が五月蝿いんですの」
どうやらアイリスは俺の心の声がお気に召さないらしい。
なんで心の声が聞こえているのだろうか、アイリスはエスパーなのかな?
なんかアイリスなら俺の心が聞こえててもおかしいと思えないや。
アイリス相手ならしゃーない。読まれて当然。
「あの……陛下の下にご案内…………」
「結構ですわ。わたくしたちは帰りますので……」
「いえ、しかし!」
「しかしもカカシもありませんわ」
アイリスは振り返り、それ以上何も言わずにその場を後にする。
俺も置いていかれないよう足早にアイリスを追いかけた。
しかしあれだな、俺の怒りもどうでも良くなってきた。
あの鼻息デブぶん殴って、明日出現する悪魔をとっ捕まえて城に放り込んでやろうかと思ってたけど、なんかもうそこまでしなくていいや。
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