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旅するとみぃ

38話。ボッター商会

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 冒険者三人の治療を終え、未だ目覚めないボッター商会の人にも回復魔法を掛けながらとりあえず自己紹介を済ませた。

 最初に俺たちに声を掛けてきた戦士風の男はエリオットと名乗り、軽戦士なのだそうだ。
 魔法使いっぽい男は見た目通り魔法使いで、名前はクリスト。
 弓使いの女性がシェイミーで、重装備な女性がサシャと言うそうだ。

 彼らはDランクの冒険者で、気絶しているボッター商会の男……次期ボッター商会会頭クリー・ボッター氏の護衛任務の途中らしい。

 エフリを出発して小国家群のエフリに近いいくつかの国を回り、これから帰るという時にグレーウルフの群れに襲われてしまったそうだ。

「トミーさんたちのおかげで命は助かりましたが……依頼は失敗です」

 チームリーダーのエリオットがそう呟くと、彼のパーティメンバーは一様に肩を落とした。

 どうやらこういう依頼を失敗してしまうと、違約金が発生するらしい。

 違約金というのは、依頼成功時に受け取る報酬と同額であり、今回の護衛依頼の場合交易銀板5枚だそうだ。

 これは一般的なエフリ国民五人家族が1ヶ月はいいものを食べられるくらいの金額なのだそうだ。

 例えるなら1ヶ月間牛丼ではなくヒレカツ丼を毎日食べられるくらいかな? 知らんけど。

「違約金は仕方ないのですが、今回の依頼を達成出来ればCランク昇格だったので……」

 幸いなことに違約金を支払うこと自体は可能なのだが、それよりも昇格試験に失敗したことの方が痛いそうだ。

 しかし昇格試験だったのか、試験なら落ち込んでも仕方ないな。
 俺だってノリで受けた運行管理者の試験落ちた時落ち込んだもの。
 悔しかったから次の試験本気で受けて受かってやったけどね。

「Cランクってすごいの?」
「一般的には一人前と言われるのがCランクですわね」

 Cランクがどれほどなのかが分からなかったのでこっそりアイリスに聞いてみると、そんな答えが返ってきた。

「Bランクは一流、Aは超一流、Sは英雄、偉業を為した者ですわ」
「なるほど」
「ですので『デーモンバスターズ』にはSランクこそ相応しいのですわ」
「ああ……うん」

 俺としては悪魔退治以外積極的に働く気は無いからCランクで充分なんですけどね。

「う……ん?」

 そんなことを話していると、ようやくボッター商会の方が目を覚ましたようだ。

「ここは?」
「ボッターさん! 良かった!」

 体を起こしたボッター商会の方に魔法使いクリストが駆け寄りわボッター氏の腕を掴み立ち上がらせた。

「ありがとう。ところでクリストさん、グレーウルフは?」
「この方たちが助けてくれました。我々の傷もこの方たちが……」

 クリストに紹介してもらい、軽く自己紹介を行う。
「デーモンバスターズ」とは名乗らない。なぜなら恥ずかしいから。

「助けて頂き感謝の言葉もありません。私はクリー・ボッター。エフリでしがない商人をしております」

 クリー・ボッターか、なんか魔法使いっぽい名前だけど商人さんなのね。

 それはいいんだけど、どう見ても悪徳商人って感じの人なんだよなぁ……
 名前的にもなんか悪いことして稼いでそうなイメージ。

「ボッターさん、すみませんでした。自分たちの力不足です」

 エリオットはボッター氏に深く頭を下げる。
 依頼に失敗してしまったのだから謝罪は当然必要だよね。

「あれだけの数のグレーウルフに襲われたのです。皆さんの力不足と言うより私の運が無かったのですよ」
「しかし……」
「まぁ、失敗は失敗として処理させて頂きますが……生き残れたのでこれ以上は言わないでおきましょう」

 これから叱責が始まるのかと思ってみていたが、俺の予想は外れたようだ。
 むしろ叱責されてしかるべきとも思うのだが、俺が口を出すことでもないので黙っておこう。

「それより、商品は無事なのですか?」
「はい、それは大丈夫だと思います」
「思いますですか……確認しないといけませんね」

 少し失礼しますと頭を下げてボッター氏は馬車の中へと乗り込んだ。

 エリオットたちは気まずげに馬車を見つめながらコソコソと話し合っている。

 なんか独り立ちして初めての運行で事故った後輩みたいな雰囲気だな。

「お待たせしました、商品は無事のようです」

 馬車の中を確認していたボッター氏が降りてきてエリオットたちに商品の無事を告げる。
 それを聞いた彼らは安心したように安堵の息を吐いた。

「そういえば何積んでるの?」

 運転手の性か、一言二言交わした相手が何を積んでいるのか、どこに行くのかが気になったので聞いてみた。

 ポーションなどはボッター氏のマジックバックに入っているとの事だが、ボッター商会が他に何を取り扱っているのか気にもなっていたのだ。

 なにか見たことの無い面白いものがあればいいな。

「おや、興味がおありですかな?」

 今までもずっと商人らしいほほ笑みを浮かべていたボッター氏の笑みがさらに深くなる。
 胡散臭い。実に胡散臭い。

「まぁ興味はあるよ」

 この世界に来て既に一年以上が経過しているが、その大半を森で過ごした。
 ファトスでは買い物なんて出来る状態ではなかったし、セドカンでは本屋と露店を軽く見て回ったくらい。
  だからどんな物が売っていて相場がいくらくらいなのかも知らないのだ。

 正直ボッター氏がなにを商っているのか興味はある。

「かしこまりました。気に入った商品があれば遠慮なくお申し付けください。今回のお礼として差し上げますので」
「いや別に――」
「ではご覧下さい!」

 正直見たいだけで買うつもりは特に無かったのだが、くれるというなら貰ってもいいのかな?

 そんなことを考えながらボッター氏が馬車後部の幌を開けるのを見ていたのだが……

「は?」

 開かれた幌から見えたのは、首輪を付けられ力なく座り込む若い女性たちの姿であった。

「いかがでしょうかトミー様、こちらが我がボッター商会最大の目玉商品である『奴隷』でございます」
「え……マジで?」

 一般的な商品が見たいと思ったらまさかの奴隷。
 正直どう反応したらいいのか分からなかった。

 いやぁ……人身売買はちょっと……
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