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旅するとみぃ
32話。冒険者組合
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「こちらです」
メイドさんに案内されてたどり着いた冒険者組合は大きな石造りの建物だった。
入口ドアの上部には、剣が二本交差している定番の看板が掛かっていた。
「トミー、準備はよろしいですの?」
「準備? なんの?」
「絡まれますわよ」
なんで? どういうこと?
「冒険者組合に登録しに来た新人、特に男女ペアなら尚更先輩冒険者に絡まれるのは『てんぷれ』ですわ」
「なんでテンプレ知ってるの?」
この世界でも流行ってるの?
「『タロウ・ヤマダの冒険記』に書いていましたわ」
タロウ・ヤマダ……山田太郎……確実に同郷ですね。
「『冒険者登録する時に絡まれるなんてなんててんぷれ!』は有名なセリフでしてよ」
「ちょっと今度読んでみるよ」
異世界人の先輩がこんなところに。
是非一度読んでみたいものだ。
「それから先輩冒険者にボコボコにされて、それを見た聖女に治療してもらい二人でパーティを組むんですわ!」
「それはテンプレじゃないような……いや、一周まわってテンプレなのか?」
分からなくなってきたよ。
「とりあえず入りましょう!」
「うぃ」
絡まれるのは嫌だなぁ。相当手加減しないといけないし。
「たのもー!」
アイリスは注目を集めるために大声を出しながら冒険者組合の扉を開いた。
なんでだよ。
ツッコミたい衝動を堪え、ズンズン進んでいくアイリスを見送る。
中に居た職員や冒険者たちは呆気にとられてアイリスを見つめていた。
アイリスはとても楽しそうだ。楽しいのならそれでいいよ。
「冒険者登録をお願いしますわ!」
大股で歩き、受付カウンターに到着したアイリスはバンとカウンターを叩きながら受付嬢へと声を掛ける。
この勢い、誰も絡まないだろうな。
俺なら絶対目をそらす自信があるね。
「は、はい、ではこちらを……」
受付嬢は一瞬焦りを見せたが慣れているのだろう、すぐに平静を取り戻して手馴れた様子でカウンターの下から用紙を取り出した。
「こちらに記入をお願いします。あちらの方もご一緒ですか?」
「あちら? ああ、仲間ですわ」
受付嬢の言葉で俺がついてきていない事に気付いたアイリスは「なんでついてきてないんですの?」といった表情を浮かべて俺を睨んできた。
アイリスの振り返る動きに合わせたかのように、中に居る冒険者たちも俺へと顔を向けてくる。
これは行かないと不味いやつ。
内心でアイリスではなく俺が注目を浴びている現実にため息を吐きかけて足を前に進める。
俺が来るのを見ていたアイリスの横に並んで、受付嬢から用紙を受け取った。
「こちらの用紙に名前、年齢、出身地、もしもの時に連絡する必要のある人がいる場合はその方の連絡先を記入してください」
「わかりましたわ」
「わかりまし……」
名前と年齢は問題ない。緊急連絡先もアイリス以外特に……問題なのは出身地だ。
埼玉県大宮市とか書いても伝わらないよね?
「どうされましたか?」
「いや、出身地がね?」
俺が困っていると、受付嬢から声をかけられた。
素直に助けてもらおう。
「なるほど、黒髪黒目ですし、もしかして異世界の方ですか?」
「はい、そうです」
ファトスでもセドカンでも黒髪黒目は見ていないし、異世界日本人の特徴なのだろう、受付嬢はすぐにそれに気がついたようだ。
パッと見で気付いて欲しい。
「数十年前に来られた異世界の方は登録した街を出身地にしたそうですので、ここセドカンを出身地にしてはいかがでしょう?」
「そんなんでいいんですか?」
「大丈夫です。ここだけの話、偽名登録される方もいらっしゃいますので、出身地の偽装程度なんら問題は……」
それはそれでどうかと思う。
何のための登録だよって話だよね。
「トミーの出身地はここにしますの?」
アイリスは書き終えたのか、俺の手元の書きかけの用紙を覗き込んできた。
「まぁこの世界で俺の出身地といえば大森林になっちゃうし」
「それもそうですわね。わたくしと同じ『カンサイ』でもよろしくてよ?」
「カンサイ?」
カンサイ……関西? 大阪?
「ファミマトの王都ですわ。カンサイが嫌ならイルドラース公爵領でも構いませんわよ?」
「いや、こだわり無いしセドカンにしておくよ」
別にどこでもいいし。
というか、西のファミマトの王都がカンサイなら、もしかして東のセブイレンの首都って……カントウ?
「出来ました」
書き終えた用紙を受付嬢に提出。
受付嬢は用紙を確認して……固まってしまった。
「どうしましたの?」
「あの……」
受付嬢は震える指でアイリスの書いた用紙を指さす。
「ファミマト王国王都カンサイ出身の、アイリス・フォン・イルドラース様ですか?」
「そうですわよ」
「ひ……姫騎士様!?」
受付嬢は驚き、叫んだ。
その声を聞いた後ろの冒険者の方々の間でざわめきが起こる。
これはもう絶対に絡まれないね。
「姫騎士はやめてくださいまし」
「ししし失礼致しました!」
受付嬢はカウンターに手を着いて頭を深く下げる。
ゴンという音が聞こえたので額をカウンターに打ち付けたようだ。
「構いませんわ。それよりも登録をお願いします」
「かしこまりました! って姫騎士様といえばファトスで悪魔を討伐したと聞き及んでおりますが……」
「わたくしは倒していませんわ。倒したのはこちらのトミーですわ」
「トミー……」
受付嬢は今度は俺の用紙を確認し始めた。
「トミー・センリ……もしかして噂の『女神の使徒』?」
「違います」
「違いませんわ」
いきなり二つ名で呼ばれたので思わず否定したが、即座に否定を否定されてしまった。
「あの……組合長を呼んできますので、少々お待ちいただけますか?」
「わかりましたわ」
受付嬢は慌てたように立ち上がり、奥へと引っ込んでいってしまった。
「面倒なことになりましたわね。てんぷれは起こらないのでしょうか?」
「アイリス、今の状況ってある意味テンプレだから」
「ほえ?」
それから俺は冒険者登録の際に起こりうるテンプレをアイリスに説明するのだった。
メイドさんに案内されてたどり着いた冒険者組合は大きな石造りの建物だった。
入口ドアの上部には、剣が二本交差している定番の看板が掛かっていた。
「トミー、準備はよろしいですの?」
「準備? なんの?」
「絡まれますわよ」
なんで? どういうこと?
「冒険者組合に登録しに来た新人、特に男女ペアなら尚更先輩冒険者に絡まれるのは『てんぷれ』ですわ」
「なんでテンプレ知ってるの?」
この世界でも流行ってるの?
「『タロウ・ヤマダの冒険記』に書いていましたわ」
タロウ・ヤマダ……山田太郎……確実に同郷ですね。
「『冒険者登録する時に絡まれるなんてなんててんぷれ!』は有名なセリフでしてよ」
「ちょっと今度読んでみるよ」
異世界人の先輩がこんなところに。
是非一度読んでみたいものだ。
「それから先輩冒険者にボコボコにされて、それを見た聖女に治療してもらい二人でパーティを組むんですわ!」
「それはテンプレじゃないような……いや、一周まわってテンプレなのか?」
分からなくなってきたよ。
「とりあえず入りましょう!」
「うぃ」
絡まれるのは嫌だなぁ。相当手加減しないといけないし。
「たのもー!」
アイリスは注目を集めるために大声を出しながら冒険者組合の扉を開いた。
なんでだよ。
ツッコミたい衝動を堪え、ズンズン進んでいくアイリスを見送る。
中に居た職員や冒険者たちは呆気にとられてアイリスを見つめていた。
アイリスはとても楽しそうだ。楽しいのならそれでいいよ。
「冒険者登録をお願いしますわ!」
大股で歩き、受付カウンターに到着したアイリスはバンとカウンターを叩きながら受付嬢へと声を掛ける。
この勢い、誰も絡まないだろうな。
俺なら絶対目をそらす自信があるね。
「は、はい、ではこちらを……」
受付嬢は一瞬焦りを見せたが慣れているのだろう、すぐに平静を取り戻して手馴れた様子でカウンターの下から用紙を取り出した。
「こちらに記入をお願いします。あちらの方もご一緒ですか?」
「あちら? ああ、仲間ですわ」
受付嬢の言葉で俺がついてきていない事に気付いたアイリスは「なんでついてきてないんですの?」といった表情を浮かべて俺を睨んできた。
アイリスの振り返る動きに合わせたかのように、中に居る冒険者たちも俺へと顔を向けてくる。
これは行かないと不味いやつ。
内心でアイリスではなく俺が注目を浴びている現実にため息を吐きかけて足を前に進める。
俺が来るのを見ていたアイリスの横に並んで、受付嬢から用紙を受け取った。
「こちらの用紙に名前、年齢、出身地、もしもの時に連絡する必要のある人がいる場合はその方の連絡先を記入してください」
「わかりましたわ」
「わかりまし……」
名前と年齢は問題ない。緊急連絡先もアイリス以外特に……問題なのは出身地だ。
埼玉県大宮市とか書いても伝わらないよね?
「どうされましたか?」
「いや、出身地がね?」
俺が困っていると、受付嬢から声をかけられた。
素直に助けてもらおう。
「なるほど、黒髪黒目ですし、もしかして異世界の方ですか?」
「はい、そうです」
ファトスでもセドカンでも黒髪黒目は見ていないし、異世界日本人の特徴なのだろう、受付嬢はすぐにそれに気がついたようだ。
パッと見で気付いて欲しい。
「数十年前に来られた異世界の方は登録した街を出身地にしたそうですので、ここセドカンを出身地にしてはいかがでしょう?」
「そんなんでいいんですか?」
「大丈夫です。ここだけの話、偽名登録される方もいらっしゃいますので、出身地の偽装程度なんら問題は……」
それはそれでどうかと思う。
何のための登録だよって話だよね。
「トミーの出身地はここにしますの?」
アイリスは書き終えたのか、俺の手元の書きかけの用紙を覗き込んできた。
「まぁこの世界で俺の出身地といえば大森林になっちゃうし」
「それもそうですわね。わたくしと同じ『カンサイ』でもよろしくてよ?」
「カンサイ?」
カンサイ……関西? 大阪?
「ファミマトの王都ですわ。カンサイが嫌ならイルドラース公爵領でも構いませんわよ?」
「いや、こだわり無いしセドカンにしておくよ」
別にどこでもいいし。
というか、西のファミマトの王都がカンサイなら、もしかして東のセブイレンの首都って……カントウ?
「出来ました」
書き終えた用紙を受付嬢に提出。
受付嬢は用紙を確認して……固まってしまった。
「どうしましたの?」
「あの……」
受付嬢は震える指でアイリスの書いた用紙を指さす。
「ファミマト王国王都カンサイ出身の、アイリス・フォン・イルドラース様ですか?」
「そうですわよ」
「ひ……姫騎士様!?」
受付嬢は驚き、叫んだ。
その声を聞いた後ろの冒険者の方々の間でざわめきが起こる。
これはもう絶対に絡まれないね。
「姫騎士はやめてくださいまし」
「ししし失礼致しました!」
受付嬢はカウンターに手を着いて頭を深く下げる。
ゴンという音が聞こえたので額をカウンターに打ち付けたようだ。
「構いませんわ。それよりも登録をお願いします」
「かしこまりました! って姫騎士様といえばファトスで悪魔を討伐したと聞き及んでおりますが……」
「わたくしは倒していませんわ。倒したのはこちらのトミーですわ」
「トミー……」
受付嬢は今度は俺の用紙を確認し始めた。
「トミー・センリ……もしかして噂の『女神の使徒』?」
「違います」
「違いませんわ」
いきなり二つ名で呼ばれたので思わず否定したが、即座に否定を否定されてしまった。
「あの……組合長を呼んできますので、少々お待ちいただけますか?」
「わかりましたわ」
受付嬢は慌てたように立ち上がり、奥へと引っ込んでいってしまった。
「面倒なことになりましたわね。てんぷれは起こらないのでしょうか?」
「アイリス、今の状況ってある意味テンプレだから」
「ほえ?」
それから俺は冒険者登録の際に起こりうるテンプレをアイリスに説明するのだった。
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