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森の中のとみぃ
4話。もうひとつのプロローグ
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「アイリス・フォン・イルドラース! 貴様との婚約は今このときを持って破棄させてもらう!」
目の前でピンク色の髪の少女の肩を抱きながら高らかに宣言したのはわたくしの婚約者であり、この国の王太子であらせられるエライアス殿下。
このピンク髪の男爵令嬢に入れ上げていたのは存じておりましたが、まさかこの卒業パーティの席で宣言されるなんて……
殿下は一体何をお考えなのでしょうか?
「アイリス、貴様の悪事は全てお見通しだ! 貴様がここに居るメルティ嬢に対し行った嫌がらせも全て把握している!」
そう言うと殿下はメルティ嬢の方へ優しい顔を向ける。
殿下と婚約してから10年少々、わたくしに対してそのようなお顔は見せたことはありませんのに……
「アイリス、申し開きはあるか? 今謝罪するのであれば最悪の事態は避けられるぞ?」
最悪の事態……今この時が最悪の事態ではなくて一体何が最悪の事態なのでしょうか?
「アイリス様……あ、アタシは謝って頂けたならこれ以上大事にするつもりはありませんから」
メルティ嬢は殿下にしなだれ掛かりながらこちらへと視線を向けてくる。
……なんでしょう? 喧嘩を売っているのかしら?
「アイリス、答えろ!」
殿下もメルティ嬢を抱き寄せながらこちらへと視線を向けてくる。
はぁ……わたくし、このような場でこのようなことを言われるようなことはしていないと思うのですが……
「お断り申し上げます」
「な……アイリス! 貴様!」
謝罪も申し開きも致しません。
わたくし、なにも悪いことはしておりませんもの。
「殿下、わたくしの行った嫌がらせとは?」
「何を今更……メルティ嬢に対し嫌味を言ったり仲間はずれにしていただろう!?」
「嫌味ですか……婚約者のいる殿方と2人きりにならないようご忠告申し上げただけですわ」
「仲間はずれにしたのだろう!? 茶会にも呼ばなかったと聞いている!」
「わたくしの主催するお茶会は伯爵家以上の方しか参加出来ませんの。男爵令嬢であるメルティ様はその条件に合いませんので」
これは仲間はずれやそういった話ではありません。
世の中には「格」というものがありますので……公爵令嬢であるわたくしと男爵令嬢であるメルティ様……もうピンクでよろしいですわね。頭の中もさぞかしピンク色のお花畑に染まっているのでしょうし。
わたくしとピンクでは住む世界が違うのですわ。
「ぐぬぬ……それは詭弁だろう!?」
「詭弁ですか……殿下はこの国の慣例を軽視なさるのですか?」
まったく……何のための身分制度だと思っておられるのか……
「ええい! もう貴様の話なんぞ聞きたくない! アイリス、貴様は身分剥奪の上国外追放とする!」
場がシンと静まりかえる。
この王子様はいきなりなにを言っているのでしょうか?
我が公爵家はエライアス殿下の最大の後ろ盾でもあります。
わたくしに対しそのようなことをすれば王太子の座はエライアス殿下から遠ざかるのですが……
ピンクの脳内ピンク思考がエライアス殿下にも移ってしまわれたのでしょうか?
「近衛兵! さっさとその女を連れていけ! そのまま南の森に捨ててこい!」
殿下の指示で控えていた近衛兵たちが動き始めました。
そのまま森に捨ててこいとは……公爵屋敷に帰ることも許されないのでしょうか?
「アイリス様、失礼致します」
「本っ当に失礼ですわね……」
2人の近衛兵がわたくしの両側に立って腕を掴んできました。
淑女の体に勝手に触れるなんて、騎士の風上にもおけませんわ。
「ライアス……流石に可哀想よ。せめて私物くらいは持たせてあげないと」
「メルは優しいな……よし、寮に置いてある私物の持ち出しだけは許可してやる、さっさと荷物をまとめて出ていけ!」
愛称で呼び合って微笑みあう2人を見ているとイラッとしますわね。
ライアスってなんですの? エを抜いただけじゃない。
そんな奴、エライヤツ(笑)でよろしいのですわ。
そんなことを考えているうちに、わたくしは寮の自室へと連行されました。
「騎士様、そちらでお待ちくださいな」
「しかし……」
「わたくし、準備がありますの。もしかして騎士様はわたくしの着替えを覗きたいのでしょうか? もしそうであれば騎士として如何なものかと思いますが」
「……扉の前で待機しています」
室内にまで入ろうとする近衛兵を追い出します。
未婚の淑女の部屋に婚約者でもない男性を入れる訳にはいきません。
「お嬢様……」
「メイ、準備をお願い。わたくしはお父様への手紙を認めます」
わたくし付きの侍女に指示を出して急いで手紙を書きあげます。
「メイ、これをお父様に。わたくしは大人しく国外追放されておきますわ」
もう殿下に未練は無い。
そもそも、政略結婚のお相手である殿下を愛していたわけでもありませんし、破棄されるのならそれはそれでよろしいのです。
むしろ馬鹿と結婚せずに済んで有難いくらい。
ただ、わたくしとの婚約を破棄するということは……
これ以上考えても仕方ありませんね。
メイに手伝ってもらいながら動きやすい服装へと着替えて手持ちのマジックバックに荷物を詰め込みます。
服やドレスは最小限に、食べられるものをできるだけたくさん。
とはいえ公爵令嬢であるわたくしの部屋にパンやお肉があるわけもなく、目に付いた紅茶やお菓子、水を詰め込みます。
とりあえずこれでしばらくは飢えずに済むでしょう。
最後に腰に短剣を、マジックバックに長剣を入れて準備はおしまい。
さて……あとはお父様からの助けが来るまで森の中で生き延びるだけ……来てくれますわよね?
目の前でピンク色の髪の少女の肩を抱きながら高らかに宣言したのはわたくしの婚約者であり、この国の王太子であらせられるエライアス殿下。
このピンク髪の男爵令嬢に入れ上げていたのは存じておりましたが、まさかこの卒業パーティの席で宣言されるなんて……
殿下は一体何をお考えなのでしょうか?
「アイリス、貴様の悪事は全てお見通しだ! 貴様がここに居るメルティ嬢に対し行った嫌がらせも全て把握している!」
そう言うと殿下はメルティ嬢の方へ優しい顔を向ける。
殿下と婚約してから10年少々、わたくしに対してそのようなお顔は見せたことはありませんのに……
「アイリス、申し開きはあるか? 今謝罪するのであれば最悪の事態は避けられるぞ?」
最悪の事態……今この時が最悪の事態ではなくて一体何が最悪の事態なのでしょうか?
「アイリス様……あ、アタシは謝って頂けたならこれ以上大事にするつもりはありませんから」
メルティ嬢は殿下にしなだれ掛かりながらこちらへと視線を向けてくる。
……なんでしょう? 喧嘩を売っているのかしら?
「アイリス、答えろ!」
殿下もメルティ嬢を抱き寄せながらこちらへと視線を向けてくる。
はぁ……わたくし、このような場でこのようなことを言われるようなことはしていないと思うのですが……
「お断り申し上げます」
「な……アイリス! 貴様!」
謝罪も申し開きも致しません。
わたくし、なにも悪いことはしておりませんもの。
「殿下、わたくしの行った嫌がらせとは?」
「何を今更……メルティ嬢に対し嫌味を言ったり仲間はずれにしていただろう!?」
「嫌味ですか……婚約者のいる殿方と2人きりにならないようご忠告申し上げただけですわ」
「仲間はずれにしたのだろう!? 茶会にも呼ばなかったと聞いている!」
「わたくしの主催するお茶会は伯爵家以上の方しか参加出来ませんの。男爵令嬢であるメルティ様はその条件に合いませんので」
これは仲間はずれやそういった話ではありません。
世の中には「格」というものがありますので……公爵令嬢であるわたくしと男爵令嬢であるメルティ様……もうピンクでよろしいですわね。頭の中もさぞかしピンク色のお花畑に染まっているのでしょうし。
わたくしとピンクでは住む世界が違うのですわ。
「ぐぬぬ……それは詭弁だろう!?」
「詭弁ですか……殿下はこの国の慣例を軽視なさるのですか?」
まったく……何のための身分制度だと思っておられるのか……
「ええい! もう貴様の話なんぞ聞きたくない! アイリス、貴様は身分剥奪の上国外追放とする!」
場がシンと静まりかえる。
この王子様はいきなりなにを言っているのでしょうか?
我が公爵家はエライアス殿下の最大の後ろ盾でもあります。
わたくしに対しそのようなことをすれば王太子の座はエライアス殿下から遠ざかるのですが……
ピンクの脳内ピンク思考がエライアス殿下にも移ってしまわれたのでしょうか?
「近衛兵! さっさとその女を連れていけ! そのまま南の森に捨ててこい!」
殿下の指示で控えていた近衛兵たちが動き始めました。
そのまま森に捨ててこいとは……公爵屋敷に帰ることも許されないのでしょうか?
「アイリス様、失礼致します」
「本っ当に失礼ですわね……」
2人の近衛兵がわたくしの両側に立って腕を掴んできました。
淑女の体に勝手に触れるなんて、騎士の風上にもおけませんわ。
「ライアス……流石に可哀想よ。せめて私物くらいは持たせてあげないと」
「メルは優しいな……よし、寮に置いてある私物の持ち出しだけは許可してやる、さっさと荷物をまとめて出ていけ!」
愛称で呼び合って微笑みあう2人を見ているとイラッとしますわね。
ライアスってなんですの? エを抜いただけじゃない。
そんな奴、エライヤツ(笑)でよろしいのですわ。
そんなことを考えているうちに、わたくしは寮の自室へと連行されました。
「騎士様、そちらでお待ちくださいな」
「しかし……」
「わたくし、準備がありますの。もしかして騎士様はわたくしの着替えを覗きたいのでしょうか? もしそうであれば騎士として如何なものかと思いますが」
「……扉の前で待機しています」
室内にまで入ろうとする近衛兵を追い出します。
未婚の淑女の部屋に婚約者でもない男性を入れる訳にはいきません。
「お嬢様……」
「メイ、準備をお願い。わたくしはお父様への手紙を認めます」
わたくし付きの侍女に指示を出して急いで手紙を書きあげます。
「メイ、これをお父様に。わたくしは大人しく国外追放されておきますわ」
もう殿下に未練は無い。
そもそも、政略結婚のお相手である殿下を愛していたわけでもありませんし、破棄されるのならそれはそれでよろしいのです。
むしろ馬鹿と結婚せずに済んで有難いくらい。
ただ、わたくしとの婚約を破棄するということは……
これ以上考えても仕方ありませんね。
メイに手伝ってもらいながら動きやすい服装へと着替えて手持ちのマジックバックに荷物を詰め込みます。
服やドレスは最小限に、食べられるものをできるだけたくさん。
とはいえ公爵令嬢であるわたくしの部屋にパンやお肉があるわけもなく、目に付いた紅茶やお菓子、水を詰め込みます。
とりあえずこれでしばらくは飢えずに済むでしょう。
最後に腰に短剣を、マジックバックに長剣を入れて準備はおしまい。
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