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スサノの冒険
魔窟の巻
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「や……やめろ!!!ぐわぁぁぁあ!!!」
スサノが回復してから数日後、悲鳴がとある山から響いたと町で噂になっていた
獣らの仕業や妖怪の仕業などなどと町の人達は噂し恐がっていた
「遠征か?」
「ああ 多分魔血が関わってるだろうし」
つーかそれしか無いと言わんばかりにスサノは覚悟の目を見せ答える
魔血はスサノら神血の敵対勢力であり悪魔の力を持つ者達だ
ただ何かが脅かされたと言う結果のみが残る
妖怪と似たようなものだ
「俺らは数日前カイムに殺されかけたがまたカイムのような奴だったら何も出来なくないか?」
建御雷之男神はカイムの強さを思い出し主張する
同等の強さであれば再度死ぬ可能性がある
俺らがカイムvsで生き残れたのは奇跡と行っても過言ではない
建御雷之男神は心臓を潰されかけ、スサノは全身に重傷を負っていた
スサノはまだ風を使った自然治癒力の向上があるからそこまで運がいいとは言えないが建御雷之男神に関してはもう少しでも心臓を握り潰されていれば心臓を失って死んでいたかもしれない
「だとしてもだ 人間じゃ精々足止めにしかならない 何より俺の能力は戦闘中に覚醒する それは一昨日のリハビリを兼ねた新技訓練で判明しただろ」
人間は神血や魔血自体は視覚出来るが、それの出す力を視認できない
と言うか見えても対応できないと言った方が正しいだろう
人智を逸した能力を持つ集団に無能力の人間共が敵うだろうか?
核やミサイルなどを使えばわんちゃんあるかもしれないが大体は武器の力を能力に上回られてお終いなパターンが多い
つまり足止め程度しか人間は出来ないのだ
「確かにそうだが……死んでしまえば終わりだろ?」
「死を恐れて行動を渋るより死ぬ気でそれに挑む方が良いだろ じゃなきゃ仲間が報われない」
スサノはそう建御雷之男神の目をみつめる
心臓を掴まれたことで怯えているのだろうか
それとも一瞬で決着が付くほど差があったからだろうか
多分両方だろう
「怯えているだけじゃ状況は変わらない 進まなきゃいけない お前1人で超える必要は無いと言ったのは建御雷之男神だろ 俺と建御雷之男神2人で越えてればいい」
脳裏に建御雷之男神の言葉が蘇りスサノはそう話し手を伸ばす
怯え、責任、強さ……全てスサノも身に染みて分かっていた
だからスサノは建御雷之男神の気持ちがよく分かる
でもスサノは乗り換えようと……一歩を踏み出そうとした
なら建御雷之男神もできるだろ?と思ったのだ
しばしの沈黙
建御雷之男神の目には少量の涙が浮かんでいた
思い決めた建御雷之男神はがしっとスサノの手を握り
「……行こう」
と覚悟の眼差しをスサノの瞳に向けた
「ああ」
スサノも覚悟の眼差しを返した
悲鳴のあった山
「暗いな……」
辿り着いて一番に出た感想はそれだった
まだ日が照ってるのに山の中は暗く闇に包まれていてなにも見えそうにない
木々の間から漏れる光すらも見えず木々が密集して日から隠していることが目に見えて分かる
「光源をあの町で買っとくべきだったか……」
建御雷之男神は悔やんだ
買えるだけの金はあったが木々の間から照らす光でなんとかなるだろうと光源を買わなかったからだ
こんなに先が暗いなんて想定外で思いもしなかった
「帰るわけにも行かないし行くぞ」
帰ったら状況が悪化するのみ
しかも光源に片手を塞がれていればパフォーマンスにも影響がある
とりあえずまずは全力で挑んでみようと思いスサノは山に一歩足を踏み入れた
その刹那───
2人の背中を何かが掠った
「闇砲陰弾」
スサノと建御雷之男神の影から闇の弾が放たれたのだ
そうこんなことが出来るのはあいつしかいない
「依夜っ…!!」
スサノと建御雷之男神は振り返りそれを放った者─依夜を睨む
白光吸いの依夜
元々同級生であり泰司と騎士と組んで殺そうとした魔血の一人……
残機を一つ削ったクソ女……!!
ドンッ!!
拳を大きく突く音が隣から聞こえた
スサノがそちらに視線を移すと
「今度こそ殺してやるよスサノ!!!」
と怒りのオーラを露わにした阿修羅の神血─泰司が建御雷之男神の背を拳で突いた
腕は六本生えており既にかなり本気のように見える
「泰司もいんのかよ!」
泰司自体は風自体であの時は完封できたのだが今は障害物が少なく逃げられる気もしない
少なくてもスサノが成長したように泰司も成長している
スサノはそう読んで刀を抜こうとした
しかし──
「おりゃぁぁっ!!!」
亜音速でスサノへ殴りかかる
あまりの速さにスサノはまともに動けなかった
6本の拳が連続して放たれる
6本目が終わったら終わったらまた1本目の拳を動かし始め止まる気が見えず永遠に殴り続ける
スサノはノックバックと衝撃で刀が抜けずそもそも拳を防げる気もしなかった
「うぐっ……」
止みはしない拳に体は痛み苦しみ始める
撲殺される!と思考は訴えるが体は衝撃と速さに動きを生じさせない
つまり“詰み”だ
「解放しろ!」
建御雷之男神は十握剣を抜き襲っている泰司の首を狙って剣を振るう
キィィン!
刃と刃が触れ合う音が響いた
何故?と建御雷之男神は一瞬混乱したが目の前をよく見てみると依夜が片手のナイフで十握剣を止めていたのだ
「殺らせる訳ないでしょ?」
嗤いそう言う
次の瞬間、建御雷之男神の胸への反対の手に握られたナイフを突き刺す
建御雷之男神は二歩後ろに跳び十握剣の自由を取り戻すとその剣でナイフを受け止めた
両手のナイフが解放された依夜は喉へ向かって解放されたナイフを突き刺した
「くっ……」
建御雷之男神は首を後ろに傾けそのナイフを避ける
「うまく避けるわね でもっ!」
依夜は足を素早く前に踏み込み振り上げる
あの時と同じ……依夜は男の急所を突くことで隙を生ませる作戦をとった
建御雷之男神の体に悶絶するほどの痛みが走る
「あっ…………」
男にとって金的する事は悶絶するほどの痛みを感じるのだ
建御雷之男神はスサノと違い叫ばずに対処しようとするが体と刀が震える
9000delの痛みは本当に安易な痛みではない
しかも相手は白光吸い
なにもしてないわけもなく!
「捻れろ 吸い取れ!」
依夜の足に白光吸いが発動され男の急所は依夜の足へ吸い寄せられる
体からちぎれるような痛みが走るわけだ
建御雷之男神の震えが大きくなっていく
吐き気すらも感じるほど体調も悪くなっていく
それでも……それでも……!!
「まだ負けて……いないっ……!」
建御雷之男神は痛みを堪えようと再度依夜を睨み手で突き放す
まずは吸引を止めないと命に関わる……!
「そうかしら?」
突き放された依夜は足へかかった能力を解除しナイフを握り直す
「……」
建御雷之男神は刀を握り直し間合いを見据える
十握剣は長剣と言われる部類であるため近接での扱いに難しい
懐に入られれば振りにくくなり死ぬ
「「はっ!!!」」
動き出したのは同時だった
建御雷之男神は首を見据え依夜は胸と首を見据えていた
「吸闇剣」
「断絶!!」
吸われる闇色のナイフは刺されることが予め決められていたかのようにすんなり胸と喉を突く
建御雷之男神の十握剣は当たりこそしたがその長さから近づくナイフには振り切れず1/4も斬れずに手を離した
「ゴホッ!!ゴホッ!!!」
吐血、そして嘔吐
先ほどの吐き気と共に吐血と嘔吐が混ざったものが吐かれた
が尚、建御雷之男神は依夜を見据え睨んでいた
「なに?その目」
依夜は建御雷之男神の目に不快感を覚えそう訊く
それと共に胸のナイフを抜いた
「イラつくから抉っていいわよね?」
ナイフを逆手に持ちその不快な目を抉ろうとしているのだ
既に負けは決まっているのにこの雑魚はいつまでも私を睨んでくる
諦めないその心に怒りが湧いてくるのだ
「はぁはぁ……」
建御雷之男神は周りを見渡す
剣を再度掴もうとしてるのだ
「無駄よ」
「一方的な殴りはつまんねぇ」
そう呟き殴る拳を止めてスサノを睨む
あの時の強さはどうした?と
首を斬りかけたあの強さはどこに消えた?と
色々な怒りの情を込めた視線を向けた
「くそっ…たれ……」
「ああ、そうか 手刀の良さを忘れちまったのか?」
真剣に風を集めるスサノをみて泰司はそう一言呟く
スサノの戦闘方法は手刀が主だった
間合いからすれば刀が上回るのは確かだが振り切れぬように間合いの奥に入られてしまえば振るいにくくなる
だから手刀で刃しちゃえば間合いの奥に入られても普通に戦えるようになるのだ
「風斬……!」
「間合いがでっかいだけの的だぞ それじゃあ!」
刀が振りきれる前に泰司は人中へ拳を放つ
刀は震え肉に軽く傷を付ける程度で終わった
だが肉にまだ空気は残っていた
「なぁ?的でいいのか?」
泰司は嗤う
スサノの策に気付かずに鳩尾を突こうと再度拳を振るった
「……!!!」
ドンッ!ブシャー!
殴られるのと同時に傷は開き大量に血が噴き出した
両者が同時に攻撃を放ち床は血に染まる
泰司は驚いていた
そして同時に嗤ってもいた
その隙にスサノは刀を振るう
「……いつまで物に頼ってんだよ」
泰司は気に食わない表情を浮かべた
刀は3本の手に止められ残り3本の腕は同時にスサノを突く
後ろに大きく飛んだスサノはそのまま勢いよく倒れ込んだ
スサノが再度泰司を見据えると六本の腕でバキッ!!と刀は砕かれていた
「要らないだろ?お前には 必要ないだろ?」
そう嗤い亜音速で倒れたスサノの背に拳を振るう
お前の拳は何故ある?と言わんばかりに泰司は見つめた
「……飛べっ!」
スサノは泰司の3本の腕に向かって手刀を放つ
3本の腕の掌が飛び大量の血が噴き出した
だが向かう拳には効果が無く叩き込まれる
「同じのはさっき見たからな」
泰司は嗤い拳を構える
亜音速の速度に追いつけるとはもう思っていない
いやてか速すぎる
風速でも追いつけるかはギリ……
ーーしかしそれでも越えなければならなかった
「そっちがその気なら!!」
「来い!!」
スサノは超風速で加速し風の拳で殴り斬ろうと連続で拳を振るう
同じく相手も亜音速の6本の拳で対抗する
亜音速と超風速……それはもう人に出来た速さの戦いじゃなかった
肉体が決壊するか血を噴くか?
強さはあの時の比ではなかった……
お互いが拮抗し身をお互い滅ぼしていくーーー
「吸引……陰纏い」
依夜の手に十握剣が吸い寄せられ離さぬように握る
依夜はその剣を大きく振りかぶった
「目を抉る前にその肉体を断つわ!圧縮剣[白光吸い]!!!」
剣に全てが吸い寄せられ力が集結していく
力がエネルギーが剣に集められ剣身が混沌とした闇色に変わりはてる
終わりの剣……奥義の剣……
それを現すかの如く圧倒的な絶望感が建御雷之男神を包んだ
「十握剣[イツノオハバリノカミ]!!」
建御雷之男神は抵抗するようにそう叫ぶ
すると建御雷之男神の前に1本の血に染まり燃えた剣が召喚された
建御雷之男神はそれを掴み対抗するように刃を振るう
キィン!!!!!
刃の競る音が響き刃の力の余波で2人を遠ざけ強制的に相手を弾く
キィン!キィン!!
再度競り合い弾かれ再度競り合い弾かれ込められた力は相手の刃を削る
「やぁぁぁぁ!!!!」
「おりゃぁぁぁっ!!!」
競り合うお互いの刃は一方も譲りもせずにぶつかり合う
両者は睨み合い更に刀に力を込め弾かれる
「はっ!!!」
「やっ!!!」
今度は依夜の刃と建御雷之男神の刃は競り合う事無くお互いの体を裂いた
依夜の刃は胴を裂き、建御雷之男神の刃は右肩と胸を裂いた
重力に引っ張られ堕落する依夜の右腕は重しとなり胴へ入った刀は下にめりこんでいきやがて抜け落ちた
そして胴は圧縮剣[白光吸いのエネルギーにより大爆発を起こし吹き飛んだ
「くっ……」
「ぐ…………」
両方とも傷は酷い
大量に血を噴き出し床は血の海と変わっていた
だが尚、両者は立ち続ける
建御雷之男神に至っては胴一帯が抉れているのに尚だ
「片腕…落とした…だけで…!有頂天に…なるなよ…!雑魚が…!!」
「そっちこそ……胴を抉ったぐらいで……!ゴホッ…!いい気に……なってん…じゃないぞ……!!」
「胴は…片腕より…致命だろうが……!」
お互い吐血しながら出血しながら罵り合う
血をこんなに流してしまえば今更使える能力も少ない
戦いの最後が罵り合戦なんて醜いなとはお互い思ったがそうするしかなかった
刀も握るに足らんほど力も抜けている
「くっそ……トドメは……刺させて貰う……!」
血に濡れたナイフを握り走る
胸をめがけそれを振るおうとした
「とどめを……刺すのは……俺だ……!!!」
喉に刺さったナイフを抜き胸めがけて投擲する
先に命中したのは建御雷之男神の放ったナイフ
綺麗に胸に刺さったナイフに驚いた依夜は足を躓かせナイフを抜いて倒れた
「殺す……」
飛んだナイフを拾おうとフラフラと近づく
そんな建御雷之男神の手の甲に軽くナイフが命中した
「こ……ろ……」
嗤って向かう建御雷之男神
依夜は胸に刺さっていたナイフを投擲する
「なっ……!」
キィン!
建御雷之男神は依夜のナイフを瞬時に防ぐ
しかしよろめきに勢いを殺しきれず後ろに倒れそのまま建御雷之男神は後頭部を強くぶつけた
「はぁはぁっ……」
依夜は荒く呼吸し辛い顔をしていた
肺の一部も斬られたか呼吸がしづらい
左肺は残っているんだ精神で気合いで起き上がり進んでいく
もう何も無いけど動かなくなったんなら殺せると踏んで駆けた
だが……
叶わなかった
揺らめく視界……朽ちる体……
本来、神の使う神剣と呼ばれる類いである十握剣を使ったリターンが体に返ってきたようだ
血を流しすぎた今、血の闇が神聖の光に叶う手段は存在しない
依夜はふらめき倒れ込んだ
「──恨むわよ…剣神……!」
足掻く、足掻く
辿り着こうと手足を動かそうとする
しかし動かしにくい……
進みにくいし着く前に完全に朽ちてしまう
「──嫌……嫌!!いや…………」
悲鳴を上げた
死にたくない!死にたくない!
そう言う思いが依夜に巡る
依夜は起きる気配のない建御雷之男神を手が届きそうで届かない距離で睨み続けながら神聖の光に朽ちた……
「拳風・圧縮!」
「それで終わりか?所詮いじめられっ子だな」
依然、スサノは劣勢だった
スサノは泰司の力を見誤っていたようだ
そりゃあ六本腕の方が二本腕より強い
四本分多く殴れるし
当たり前の結果だった
ドォーン!
「グハッ…………」
スサノは樹木の中へ殴り飛ばされ、葉が舞い落ちる
目の前が暗転していく……
酩酊していく……
「ゴホッ……ゴホッ……」
埃を吐き出すためにスサノは咳をした
まぁ少しの埃っぽさが消えるだけで戦闘状況を変える事には関わらないが……
咳をしてもしなくても遅かれ速かれ泰司が来れば死ぬしなと確信し諦めなのか目を瞑った
ただ、
「襲ってこない?」
何分も来ていないことに疑問を持ちそう呟く
何分経っても襲いに来ない
つまり襲うのを諦めたと言うことだろうか?
一方的な蹂躙だったあの戦いでそこまで致命となる大きな攻撃を与えていない
ならばまだ行動可能なはず
メパト配下な可能性があると言われたらそれまでだが
とりあえず見逃されたのか?と目を見開き暗転する視界で世界を見た
ドンッ!!!!
爆発の如く空気を揺らし音が響く
その中心にいたのは────
「今後こそ殺ったぞ……!!建御雷之男神!!」
六本腕の男─泰司だった
肉を貫きその拳は床に突き刺さる
依夜との戦いで疲労した建御雷之男神は抵抗する力すらわかず死を受け入れるのみだった……
「おらぁ!!!」
泰司を上に放り投げ床に叩きつける
反動でそこら一帯が血の雨で染まった
「あ……ああ……!!」
その光景を許せなかったスサノは痛みすら忘れすぐさま泰司の首へ風の刃を振るう為に駆けた
血流が速くなりその速度は加速する……
まるでカイムの時のようにスサノは“変わった”
シュッ!
やがて速度は音速を超え瞬きする間に泰司の首に掌が触れ刃が首を飛ばした
「なっ…油断してた……」
泰司がそう呟くと既に頭は空へ飛んでいた
微かな意識で泰司は睨み続ける
が、その瞬間
ダンッ!!!
スサノの腹が突かれた
「がはっ……!?」
再度大きく吹っ飛び背中から地面に叩きつけられた
何故?とスサノは混乱する
首は飛んでいたはずだ!と
「……?」
スサノは泰司を凝視しどうしてそうなったのか一つの結論を出した
人間の体は首が飛んでもすぐには停止しない
ゆっくり機能は停止していく
その為、泰司は首が飛ぶ前に肉体に指示を出し繰り出させた
つまり死んで勝つつもりだった訳だ
「つまり……やった訳か……?」
否、死んではいなかった
「……」
肉体は更に動き続ける
頭を失ったというのに尚、体を揺らす
まるで化け物でも見てるようだ
「あ……あー……」
それは自身の腕を砕き四本分の腕を欠損させた
その代わりに頭部になにか生えさせている
目はなく髪もない
しかし口と耳はある不思議な頭部に四本分の腕は生まれ変わったのだ
腕六本という奇形をなくし第二形態として再度生を得た
「しなない……」
まるで赤子のように拙くそう発声する
もしかして頭部の幼児化と欠損を引き換えに命を取り留めたのか……?とスサノは推測した
大振りし“それ”はスサノへ腕を振るった
「っ!」
横に逸れそれを回避する
再度それは拳を振るう
再度回避しスサノは後退した
知能を失ったのか何故か相手は大振りからの叩きつけと溜めてパンチしかしてこなかった
「この程度……?」
いつの間にかスサノはそう呟いていた
回避も容易……むしろ欠損状態で避けられるほど攻撃は単調だった
お返しに風の斬撃を放つ
避けられることなく次の瞬間、異形の両腕が空へ飛んだ
「ころす……」
腕が振れなくなることに気付くとその大きな体で体当たりをする
「風斬!」
ドンッ!シュッ!
体当たりが命中するのと再度首が飛んだのは同時だった……
「うぐっ……」
ゴロゴロと飛ぶ相手の頭部とゴロゴロと地を転がるスサノの体……
スサノは体の感覚を失いながらも相手を見据え、睨んだ
掌を地に着け起き上がった
異形のそれにとどめを刺そうと拳に風を纏わせる
が、放たれる前にそれは体を変形させ形態を獣へ変化させていた
低頭身へと姿を変え体は紅く染まり出す
「今度は……何を……?」
胴を太くし安定させ頭部と体型に合った小さめの手がまた生えてくる
手の先には伸びた爪が真紅に輝いていた
最早、もう泰司とは呼べない
紅の血に身を染めた殺人モンスターだ
「……まだ…いきる」
拙くそう喋る
発音も鈍りそこらのモンスターと似ていた
既にこいつは人間じゃない
刹那、その怪物はその小柄なスタイルを利用しスサノの前に現れ爪を振り下ろした
「なっ!?」
スサノは咄嗟に身を転げ背中へ薄く爪を掠らせた
否、背中が深く裂けていた
「なめてる」
怪物は片腕になっていてその分、逆側の腕と爪は伸びていたのだった
知能がないと舐めていたが頭身を下げることで知能を回復させたのだろうか
なら…不味い
変形が常用手段なら全てが朽ちるまで終わらないとスサノは考え唇を噛んだ
「どうしたの?」
小柄な体で近寄り再度爪を振り下ろす
頭身が下がり2本の長い爪がスサノへ振るわれた
「くっ!」
キィン!
風と爪が交差し音を鳴らす
だがどっちが優勢かは明らかだった
相手の爪は風にめり込み風を崩壊させ爪を振るう
「なめないで」
爪はスサノの体を深く裂いた
血が噴き出し周りを染める
そして怪物は嗤って連撃を仕掛けようと振りかぶった
「……っ!」
スサノは風を練って待ち構える
ーーしかし…不毛だ
相手は変形能力を持つ頭を飛ばしても生き続ける不死身
しかしこちらは風を練って体を裂くことしか出来ない少し耐久性がある奴
明らかに負けている
怪物はまだ動けるがスサノは動けない
もう結果は目前だーー
キィィン!!
爪が風の斬撃で断ち切れるが腕の長さを短くしか爪は再度生えて来て更に肉を抉る
「よわい」
腕を短くし歯を伸ばし牙を作る
そして牙を見せ嗤った
弱いからさっさと諦めて死ぬか逃げるか従うがしろと言うように怪物は嘲笑う
「くそっ……」
スサノは詰んでいた
血だるまな状況ーーいつ死んでもおかしくはない
しかしそれでもメパトから退避命令が出ない
まさかとは思うがスサノの勝利を確信しているように見えなかった
「なんでだよ……」
睨みそう呟く
命令は出ていないのか?の確認と何故変形が可能なのかと言う二つの意味を込めて言った
「たのしいから?」
怪物はそう答えた
知能を失った怪物は自身の楽しさを優先しメパトの命令を忘れている
純粋な獣……サイコパス……
なんとでも言える
━ー但し多分、こいつは玩具を逃がすつもりはないのだろうな
楽しい楽しい玩具だから
「……殺されるぞ?」
敵ながらに忠告
でも怪物は楽しそうな顔を辞めず
「いいもん ひとはしぬから」
楽観的に答えた
「……お前がって……言ってんだよ」
「しなないよ?ころすから」
爪が胸を裂き侵入する
肋骨にヒビを入れ心臓を潰そうと笑った
言葉にならない叫び声をスサノはあげる
「ぶざまだね」
ブチィッ!!!
血管が切れ血を噴く
「ぐ……あ……」
痛みで意識が飛び放心する
それでも爪は心臓を抉っていた
「あっれれ?おきてよ?」
べしっ!!と反対側の手で頬を叩く
「ぐぁっ……」
再度言葉にならない痛みを感じ気絶する
それを何時間も繰り返した
「も……う……やめ……て……」
何度覚醒し気絶しを繰り返しただろう?
殺してこない
いや、死ぬより辛い拷問を与えてきてる
「やめないよ?しぬまでね」
怪物は笑う
『殺すなって言ったよな?』
ザダダダダダダッ!!
次の瞬間、怪物の四肢は細切れになっていた
『命令に背く神血は死罪だ』
冷酷に言い放ち拳を握る
「だぁれ?」
『知らぬが仏よ』
圧が怪物の四方から攻め物質が圧縮される
そして台風を集めた一太刀が怪物を縦に切断した
「今のは…………?」
目を開くが目すら血に染まり前が見えない
力を全て失ったスサノは動けなくなった
暗転する視界は更に暗くなっていきやがて明るくなることはなくなった……
スサノが回復してから数日後、悲鳴がとある山から響いたと町で噂になっていた
獣らの仕業や妖怪の仕業などなどと町の人達は噂し恐がっていた
「遠征か?」
「ああ 多分魔血が関わってるだろうし」
つーかそれしか無いと言わんばかりにスサノは覚悟の目を見せ答える
魔血はスサノら神血の敵対勢力であり悪魔の力を持つ者達だ
ただ何かが脅かされたと言う結果のみが残る
妖怪と似たようなものだ
「俺らは数日前カイムに殺されかけたがまたカイムのような奴だったら何も出来なくないか?」
建御雷之男神はカイムの強さを思い出し主張する
同等の強さであれば再度死ぬ可能性がある
俺らがカイムvsで生き残れたのは奇跡と行っても過言ではない
建御雷之男神は心臓を潰されかけ、スサノは全身に重傷を負っていた
スサノはまだ風を使った自然治癒力の向上があるからそこまで運がいいとは言えないが建御雷之男神に関してはもう少しでも心臓を握り潰されていれば心臓を失って死んでいたかもしれない
「だとしてもだ 人間じゃ精々足止めにしかならない 何より俺の能力は戦闘中に覚醒する それは一昨日のリハビリを兼ねた新技訓練で判明しただろ」
人間は神血や魔血自体は視覚出来るが、それの出す力を視認できない
と言うか見えても対応できないと言った方が正しいだろう
人智を逸した能力を持つ集団に無能力の人間共が敵うだろうか?
核やミサイルなどを使えばわんちゃんあるかもしれないが大体は武器の力を能力に上回られてお終いなパターンが多い
つまり足止め程度しか人間は出来ないのだ
「確かにそうだが……死んでしまえば終わりだろ?」
「死を恐れて行動を渋るより死ぬ気でそれに挑む方が良いだろ じゃなきゃ仲間が報われない」
スサノはそう建御雷之男神の目をみつめる
心臓を掴まれたことで怯えているのだろうか
それとも一瞬で決着が付くほど差があったからだろうか
多分両方だろう
「怯えているだけじゃ状況は変わらない 進まなきゃいけない お前1人で超える必要は無いと言ったのは建御雷之男神だろ 俺と建御雷之男神2人で越えてればいい」
脳裏に建御雷之男神の言葉が蘇りスサノはそう話し手を伸ばす
怯え、責任、強さ……全てスサノも身に染みて分かっていた
だからスサノは建御雷之男神の気持ちがよく分かる
でもスサノは乗り換えようと……一歩を踏み出そうとした
なら建御雷之男神もできるだろ?と思ったのだ
しばしの沈黙
建御雷之男神の目には少量の涙が浮かんでいた
思い決めた建御雷之男神はがしっとスサノの手を握り
「……行こう」
と覚悟の眼差しをスサノの瞳に向けた
「ああ」
スサノも覚悟の眼差しを返した
悲鳴のあった山
「暗いな……」
辿り着いて一番に出た感想はそれだった
まだ日が照ってるのに山の中は暗く闇に包まれていてなにも見えそうにない
木々の間から漏れる光すらも見えず木々が密集して日から隠していることが目に見えて分かる
「光源をあの町で買っとくべきだったか……」
建御雷之男神は悔やんだ
買えるだけの金はあったが木々の間から照らす光でなんとかなるだろうと光源を買わなかったからだ
こんなに先が暗いなんて想定外で思いもしなかった
「帰るわけにも行かないし行くぞ」
帰ったら状況が悪化するのみ
しかも光源に片手を塞がれていればパフォーマンスにも影響がある
とりあえずまずは全力で挑んでみようと思いスサノは山に一歩足を踏み入れた
その刹那───
2人の背中を何かが掠った
「闇砲陰弾」
スサノと建御雷之男神の影から闇の弾が放たれたのだ
そうこんなことが出来るのはあいつしかいない
「依夜っ…!!」
スサノと建御雷之男神は振り返りそれを放った者─依夜を睨む
白光吸いの依夜
元々同級生であり泰司と騎士と組んで殺そうとした魔血の一人……
残機を一つ削ったクソ女……!!
ドンッ!!
拳を大きく突く音が隣から聞こえた
スサノがそちらに視線を移すと
「今度こそ殺してやるよスサノ!!!」
と怒りのオーラを露わにした阿修羅の神血─泰司が建御雷之男神の背を拳で突いた
腕は六本生えており既にかなり本気のように見える
「泰司もいんのかよ!」
泰司自体は風自体であの時は完封できたのだが今は障害物が少なく逃げられる気もしない
少なくてもスサノが成長したように泰司も成長している
スサノはそう読んで刀を抜こうとした
しかし──
「おりゃぁぁっ!!!」
亜音速でスサノへ殴りかかる
あまりの速さにスサノはまともに動けなかった
6本の拳が連続して放たれる
6本目が終わったら終わったらまた1本目の拳を動かし始め止まる気が見えず永遠に殴り続ける
スサノはノックバックと衝撃で刀が抜けずそもそも拳を防げる気もしなかった
「うぐっ……」
止みはしない拳に体は痛み苦しみ始める
撲殺される!と思考は訴えるが体は衝撃と速さに動きを生じさせない
つまり“詰み”だ
「解放しろ!」
建御雷之男神は十握剣を抜き襲っている泰司の首を狙って剣を振るう
キィィン!
刃と刃が触れ合う音が響いた
何故?と建御雷之男神は一瞬混乱したが目の前をよく見てみると依夜が片手のナイフで十握剣を止めていたのだ
「殺らせる訳ないでしょ?」
嗤いそう言う
次の瞬間、建御雷之男神の胸への反対の手に握られたナイフを突き刺す
建御雷之男神は二歩後ろに跳び十握剣の自由を取り戻すとその剣でナイフを受け止めた
両手のナイフが解放された依夜は喉へ向かって解放されたナイフを突き刺した
「くっ……」
建御雷之男神は首を後ろに傾けそのナイフを避ける
「うまく避けるわね でもっ!」
依夜は足を素早く前に踏み込み振り上げる
あの時と同じ……依夜は男の急所を突くことで隙を生ませる作戦をとった
建御雷之男神の体に悶絶するほどの痛みが走る
「あっ…………」
男にとって金的する事は悶絶するほどの痛みを感じるのだ
建御雷之男神はスサノと違い叫ばずに対処しようとするが体と刀が震える
9000delの痛みは本当に安易な痛みではない
しかも相手は白光吸い
なにもしてないわけもなく!
「捻れろ 吸い取れ!」
依夜の足に白光吸いが発動され男の急所は依夜の足へ吸い寄せられる
体からちぎれるような痛みが走るわけだ
建御雷之男神の震えが大きくなっていく
吐き気すらも感じるほど体調も悪くなっていく
それでも……それでも……!!
「まだ負けて……いないっ……!」
建御雷之男神は痛みを堪えようと再度依夜を睨み手で突き放す
まずは吸引を止めないと命に関わる……!
「そうかしら?」
突き放された依夜は足へかかった能力を解除しナイフを握り直す
「……」
建御雷之男神は刀を握り直し間合いを見据える
十握剣は長剣と言われる部類であるため近接での扱いに難しい
懐に入られれば振りにくくなり死ぬ
「「はっ!!!」」
動き出したのは同時だった
建御雷之男神は首を見据え依夜は胸と首を見据えていた
「吸闇剣」
「断絶!!」
吸われる闇色のナイフは刺されることが予め決められていたかのようにすんなり胸と喉を突く
建御雷之男神の十握剣は当たりこそしたがその長さから近づくナイフには振り切れず1/4も斬れずに手を離した
「ゴホッ!!ゴホッ!!!」
吐血、そして嘔吐
先ほどの吐き気と共に吐血と嘔吐が混ざったものが吐かれた
が尚、建御雷之男神は依夜を見据え睨んでいた
「なに?その目」
依夜は建御雷之男神の目に不快感を覚えそう訊く
それと共に胸のナイフを抜いた
「イラつくから抉っていいわよね?」
ナイフを逆手に持ちその不快な目を抉ろうとしているのだ
既に負けは決まっているのにこの雑魚はいつまでも私を睨んでくる
諦めないその心に怒りが湧いてくるのだ
「はぁはぁ……」
建御雷之男神は周りを見渡す
剣を再度掴もうとしてるのだ
「無駄よ」
「一方的な殴りはつまんねぇ」
そう呟き殴る拳を止めてスサノを睨む
あの時の強さはどうした?と
首を斬りかけたあの強さはどこに消えた?と
色々な怒りの情を込めた視線を向けた
「くそっ…たれ……」
「ああ、そうか 手刀の良さを忘れちまったのか?」
真剣に風を集めるスサノをみて泰司はそう一言呟く
スサノの戦闘方法は手刀が主だった
間合いからすれば刀が上回るのは確かだが振り切れぬように間合いの奥に入られてしまえば振るいにくくなる
だから手刀で刃しちゃえば間合いの奥に入られても普通に戦えるようになるのだ
「風斬……!」
「間合いがでっかいだけの的だぞ それじゃあ!」
刀が振りきれる前に泰司は人中へ拳を放つ
刀は震え肉に軽く傷を付ける程度で終わった
だが肉にまだ空気は残っていた
「なぁ?的でいいのか?」
泰司は嗤う
スサノの策に気付かずに鳩尾を突こうと再度拳を振るった
「……!!!」
ドンッ!ブシャー!
殴られるのと同時に傷は開き大量に血が噴き出した
両者が同時に攻撃を放ち床は血に染まる
泰司は驚いていた
そして同時に嗤ってもいた
その隙にスサノは刀を振るう
「……いつまで物に頼ってんだよ」
泰司は気に食わない表情を浮かべた
刀は3本の手に止められ残り3本の腕は同時にスサノを突く
後ろに大きく飛んだスサノはそのまま勢いよく倒れ込んだ
スサノが再度泰司を見据えると六本の腕でバキッ!!と刀は砕かれていた
「要らないだろ?お前には 必要ないだろ?」
そう嗤い亜音速で倒れたスサノの背に拳を振るう
お前の拳は何故ある?と言わんばかりに泰司は見つめた
「……飛べっ!」
スサノは泰司の3本の腕に向かって手刀を放つ
3本の腕の掌が飛び大量の血が噴き出した
だが向かう拳には効果が無く叩き込まれる
「同じのはさっき見たからな」
泰司は嗤い拳を構える
亜音速の速度に追いつけるとはもう思っていない
いやてか速すぎる
風速でも追いつけるかはギリ……
ーーしかしそれでも越えなければならなかった
「そっちがその気なら!!」
「来い!!」
スサノは超風速で加速し風の拳で殴り斬ろうと連続で拳を振るう
同じく相手も亜音速の6本の拳で対抗する
亜音速と超風速……それはもう人に出来た速さの戦いじゃなかった
肉体が決壊するか血を噴くか?
強さはあの時の比ではなかった……
お互いが拮抗し身をお互い滅ぼしていくーーー
「吸引……陰纏い」
依夜の手に十握剣が吸い寄せられ離さぬように握る
依夜はその剣を大きく振りかぶった
「目を抉る前にその肉体を断つわ!圧縮剣[白光吸い]!!!」
剣に全てが吸い寄せられ力が集結していく
力がエネルギーが剣に集められ剣身が混沌とした闇色に変わりはてる
終わりの剣……奥義の剣……
それを現すかの如く圧倒的な絶望感が建御雷之男神を包んだ
「十握剣[イツノオハバリノカミ]!!」
建御雷之男神は抵抗するようにそう叫ぶ
すると建御雷之男神の前に1本の血に染まり燃えた剣が召喚された
建御雷之男神はそれを掴み対抗するように刃を振るう
キィン!!!!!
刃の競る音が響き刃の力の余波で2人を遠ざけ強制的に相手を弾く
キィン!キィン!!
再度競り合い弾かれ再度競り合い弾かれ込められた力は相手の刃を削る
「やぁぁぁぁ!!!!」
「おりゃぁぁぁっ!!!」
競り合うお互いの刃は一方も譲りもせずにぶつかり合う
両者は睨み合い更に刀に力を込め弾かれる
「はっ!!!」
「やっ!!!」
今度は依夜の刃と建御雷之男神の刃は競り合う事無くお互いの体を裂いた
依夜の刃は胴を裂き、建御雷之男神の刃は右肩と胸を裂いた
重力に引っ張られ堕落する依夜の右腕は重しとなり胴へ入った刀は下にめりこんでいきやがて抜け落ちた
そして胴は圧縮剣[白光吸いのエネルギーにより大爆発を起こし吹き飛んだ
「くっ……」
「ぐ…………」
両方とも傷は酷い
大量に血を噴き出し床は血の海と変わっていた
だが尚、両者は立ち続ける
建御雷之男神に至っては胴一帯が抉れているのに尚だ
「片腕…落とした…だけで…!有頂天に…なるなよ…!雑魚が…!!」
「そっちこそ……胴を抉ったぐらいで……!ゴホッ…!いい気に……なってん…じゃないぞ……!!」
「胴は…片腕より…致命だろうが……!」
お互い吐血しながら出血しながら罵り合う
血をこんなに流してしまえば今更使える能力も少ない
戦いの最後が罵り合戦なんて醜いなとはお互い思ったがそうするしかなかった
刀も握るに足らんほど力も抜けている
「くっそ……トドメは……刺させて貰う……!」
血に濡れたナイフを握り走る
胸をめがけそれを振るおうとした
「とどめを……刺すのは……俺だ……!!!」
喉に刺さったナイフを抜き胸めがけて投擲する
先に命中したのは建御雷之男神の放ったナイフ
綺麗に胸に刺さったナイフに驚いた依夜は足を躓かせナイフを抜いて倒れた
「殺す……」
飛んだナイフを拾おうとフラフラと近づく
そんな建御雷之男神の手の甲に軽くナイフが命中した
「こ……ろ……」
嗤って向かう建御雷之男神
依夜は胸に刺さっていたナイフを投擲する
「なっ……!」
キィン!
建御雷之男神は依夜のナイフを瞬時に防ぐ
しかしよろめきに勢いを殺しきれず後ろに倒れそのまま建御雷之男神は後頭部を強くぶつけた
「はぁはぁっ……」
依夜は荒く呼吸し辛い顔をしていた
肺の一部も斬られたか呼吸がしづらい
左肺は残っているんだ精神で気合いで起き上がり進んでいく
もう何も無いけど動かなくなったんなら殺せると踏んで駆けた
だが……
叶わなかった
揺らめく視界……朽ちる体……
本来、神の使う神剣と呼ばれる類いである十握剣を使ったリターンが体に返ってきたようだ
血を流しすぎた今、血の闇が神聖の光に叶う手段は存在しない
依夜はふらめき倒れ込んだ
「──恨むわよ…剣神……!」
足掻く、足掻く
辿り着こうと手足を動かそうとする
しかし動かしにくい……
進みにくいし着く前に完全に朽ちてしまう
「──嫌……嫌!!いや…………」
悲鳴を上げた
死にたくない!死にたくない!
そう言う思いが依夜に巡る
依夜は起きる気配のない建御雷之男神を手が届きそうで届かない距離で睨み続けながら神聖の光に朽ちた……
「拳風・圧縮!」
「それで終わりか?所詮いじめられっ子だな」
依然、スサノは劣勢だった
スサノは泰司の力を見誤っていたようだ
そりゃあ六本腕の方が二本腕より強い
四本分多く殴れるし
当たり前の結果だった
ドォーン!
「グハッ…………」
スサノは樹木の中へ殴り飛ばされ、葉が舞い落ちる
目の前が暗転していく……
酩酊していく……
「ゴホッ……ゴホッ……」
埃を吐き出すためにスサノは咳をした
まぁ少しの埃っぽさが消えるだけで戦闘状況を変える事には関わらないが……
咳をしてもしなくても遅かれ速かれ泰司が来れば死ぬしなと確信し諦めなのか目を瞑った
ただ、
「襲ってこない?」
何分も来ていないことに疑問を持ちそう呟く
何分経っても襲いに来ない
つまり襲うのを諦めたと言うことだろうか?
一方的な蹂躙だったあの戦いでそこまで致命となる大きな攻撃を与えていない
ならばまだ行動可能なはず
メパト配下な可能性があると言われたらそれまでだが
とりあえず見逃されたのか?と目を見開き暗転する視界で世界を見た
ドンッ!!!!
爆発の如く空気を揺らし音が響く
その中心にいたのは────
「今後こそ殺ったぞ……!!建御雷之男神!!」
六本腕の男─泰司だった
肉を貫きその拳は床に突き刺さる
依夜との戦いで疲労した建御雷之男神は抵抗する力すらわかず死を受け入れるのみだった……
「おらぁ!!!」
泰司を上に放り投げ床に叩きつける
反動でそこら一帯が血の雨で染まった
「あ……ああ……!!」
その光景を許せなかったスサノは痛みすら忘れすぐさま泰司の首へ風の刃を振るう為に駆けた
血流が速くなりその速度は加速する……
まるでカイムの時のようにスサノは“変わった”
シュッ!
やがて速度は音速を超え瞬きする間に泰司の首に掌が触れ刃が首を飛ばした
「なっ…油断してた……」
泰司がそう呟くと既に頭は空へ飛んでいた
微かな意識で泰司は睨み続ける
が、その瞬間
ダンッ!!!
スサノの腹が突かれた
「がはっ……!?」
再度大きく吹っ飛び背中から地面に叩きつけられた
何故?とスサノは混乱する
首は飛んでいたはずだ!と
「……?」
スサノは泰司を凝視しどうしてそうなったのか一つの結論を出した
人間の体は首が飛んでもすぐには停止しない
ゆっくり機能は停止していく
その為、泰司は首が飛ぶ前に肉体に指示を出し繰り出させた
つまり死んで勝つつもりだった訳だ
「つまり……やった訳か……?」
否、死んではいなかった
「……」
肉体は更に動き続ける
頭を失ったというのに尚、体を揺らす
まるで化け物でも見てるようだ
「あ……あー……」
それは自身の腕を砕き四本分の腕を欠損させた
その代わりに頭部になにか生えさせている
目はなく髪もない
しかし口と耳はある不思議な頭部に四本分の腕は生まれ変わったのだ
腕六本という奇形をなくし第二形態として再度生を得た
「しなない……」
まるで赤子のように拙くそう発声する
もしかして頭部の幼児化と欠損を引き換えに命を取り留めたのか……?とスサノは推測した
大振りし“それ”はスサノへ腕を振るった
「っ!」
横に逸れそれを回避する
再度それは拳を振るう
再度回避しスサノは後退した
知能を失ったのか何故か相手は大振りからの叩きつけと溜めてパンチしかしてこなかった
「この程度……?」
いつの間にかスサノはそう呟いていた
回避も容易……むしろ欠損状態で避けられるほど攻撃は単調だった
お返しに風の斬撃を放つ
避けられることなく次の瞬間、異形の両腕が空へ飛んだ
「ころす……」
腕が振れなくなることに気付くとその大きな体で体当たりをする
「風斬!」
ドンッ!シュッ!
体当たりが命中するのと再度首が飛んだのは同時だった……
「うぐっ……」
ゴロゴロと飛ぶ相手の頭部とゴロゴロと地を転がるスサノの体……
スサノは体の感覚を失いながらも相手を見据え、睨んだ
掌を地に着け起き上がった
異形のそれにとどめを刺そうと拳に風を纏わせる
が、放たれる前にそれは体を変形させ形態を獣へ変化させていた
低頭身へと姿を変え体は紅く染まり出す
「今度は……何を……?」
胴を太くし安定させ頭部と体型に合った小さめの手がまた生えてくる
手の先には伸びた爪が真紅に輝いていた
最早、もう泰司とは呼べない
紅の血に身を染めた殺人モンスターだ
「……まだ…いきる」
拙くそう喋る
発音も鈍りそこらのモンスターと似ていた
既にこいつは人間じゃない
刹那、その怪物はその小柄なスタイルを利用しスサノの前に現れ爪を振り下ろした
「なっ!?」
スサノは咄嗟に身を転げ背中へ薄く爪を掠らせた
否、背中が深く裂けていた
「なめてる」
怪物は片腕になっていてその分、逆側の腕と爪は伸びていたのだった
知能がないと舐めていたが頭身を下げることで知能を回復させたのだろうか
なら…不味い
変形が常用手段なら全てが朽ちるまで終わらないとスサノは考え唇を噛んだ
「どうしたの?」
小柄な体で近寄り再度爪を振り下ろす
頭身が下がり2本の長い爪がスサノへ振るわれた
「くっ!」
キィン!
風と爪が交差し音を鳴らす
だがどっちが優勢かは明らかだった
相手の爪は風にめり込み風を崩壊させ爪を振るう
「なめないで」
爪はスサノの体を深く裂いた
血が噴き出し周りを染める
そして怪物は嗤って連撃を仕掛けようと振りかぶった
「……っ!」
スサノは風を練って待ち構える
ーーしかし…不毛だ
相手は変形能力を持つ頭を飛ばしても生き続ける不死身
しかしこちらは風を練って体を裂くことしか出来ない少し耐久性がある奴
明らかに負けている
怪物はまだ動けるがスサノは動けない
もう結果は目前だーー
キィィン!!
爪が風の斬撃で断ち切れるが腕の長さを短くしか爪は再度生えて来て更に肉を抉る
「よわい」
腕を短くし歯を伸ばし牙を作る
そして牙を見せ嗤った
弱いからさっさと諦めて死ぬか逃げるか従うがしろと言うように怪物は嘲笑う
「くそっ……」
スサノは詰んでいた
血だるまな状況ーーいつ死んでもおかしくはない
しかしそれでもメパトから退避命令が出ない
まさかとは思うがスサノの勝利を確信しているように見えなかった
「なんでだよ……」
睨みそう呟く
命令は出ていないのか?の確認と何故変形が可能なのかと言う二つの意味を込めて言った
「たのしいから?」
怪物はそう答えた
知能を失った怪物は自身の楽しさを優先しメパトの命令を忘れている
純粋な獣……サイコパス……
なんとでも言える
━ー但し多分、こいつは玩具を逃がすつもりはないのだろうな
楽しい楽しい玩具だから
「……殺されるぞ?」
敵ながらに忠告
でも怪物は楽しそうな顔を辞めず
「いいもん ひとはしぬから」
楽観的に答えた
「……お前がって……言ってんだよ」
「しなないよ?ころすから」
爪が胸を裂き侵入する
肋骨にヒビを入れ心臓を潰そうと笑った
言葉にならない叫び声をスサノはあげる
「ぶざまだね」
ブチィッ!!!
血管が切れ血を噴く
「ぐ……あ……」
痛みで意識が飛び放心する
それでも爪は心臓を抉っていた
「あっれれ?おきてよ?」
べしっ!!と反対側の手で頬を叩く
「ぐぁっ……」
再度言葉にならない痛みを感じ気絶する
それを何時間も繰り返した
「も……う……やめ……て……」
何度覚醒し気絶しを繰り返しただろう?
殺してこない
いや、死ぬより辛い拷問を与えてきてる
「やめないよ?しぬまでね」
怪物は笑う
『殺すなって言ったよな?』
ザダダダダダダッ!!
次の瞬間、怪物の四肢は細切れになっていた
『命令に背く神血は死罪だ』
冷酷に言い放ち拳を握る
「だぁれ?」
『知らぬが仏よ』
圧が怪物の四方から攻め物質が圧縮される
そして台風を集めた一太刀が怪物を縦に切断した
「今のは…………?」
目を開くが目すら血に染まり前が見えない
力を全て失ったスサノは動けなくなった
暗転する視界は更に暗くなっていきやがて明るくなることはなくなった……
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