のような

汐夜

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第10話 誘拐

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 食べおえると、シャノンさんと別れ部屋に戻る。部屋にエドの姿はなかった。今日は仕事らしい。俺は寝支度をした後、眠りについた。



 休みだとしてもいつもの鐘の音で目を覚ます。普段と違うのは隊服ではないという点くらいだ。俺は動きやすくて素朴な服を身に纏う。食堂に行って朝食を終え、戻ると仕事終わりで疲れた顔のエドが帰ってくる。


 「お疲れ様」

 「お疲れだって」


 エドの仕事は日中のみだったり、夜通しだったりと時間に不規則だ。夜通しの時にはいつも疲れて帰ってくるけど最近は特にだ。


 「エド、最近疲れてるみたいだけど大丈夫?」

 「最近、王妃様が税を上げたんだって。そのせいで国民は生活が苦しくて、連日喧嘩に窃盗、強盗が起きたりしてるんだって」


 国王様が病で動けない代わりに王妃様が政権を握ってからというものこの国は治安が悪くなる一方だ。


 「それなのに王妃様は毎日のように豪遊してるんだって。国民は不満を俺達にぶつけてくるんだって….。リュカ王太子が元気だったらまた違うんだろうだって」


 国に対する不満は騎士団にぶつけられる事が多い。エドみたいに国民と接する隊は尚更だ。リュカ王太子とはグレン王子の兄で次期国王と言われている。だが、リュカ王太子もまた床に伏せているらしい。


 「最近は妙な殺人も起きてるんだって….」


 殺人? そんな事まで起きているのか。


 「僕の事はいいんだって。ミカはどうだったって? エレナ隊」


 目を輝かせて詰め寄ってくるエドに俺は今までの事を話した。彼は食い入るように聞いていた。


 「エレナ隊すごすぎだって! かっこいいだって!」


 興奮がおさまらないエドはしばらく語っていたが、限界だったのだろう。急に倒れ、そのまま俺のベッドで寝てしまった。眠っている彼に毛布をかけ、部屋から出た。

 まず向かったのはレイモンドさんの所だ。治療は済んでいるがそれでも心配だった。医務室に着いて入ろうとした時、中から話し声がする。この声はシャノンさんとレイモンドさんだ。


 「….エレ……で……です」

 「なら……で……な」


 何を話しているかわからない。でも何やら真剣な声だったから入りにくい。結局、部屋に入らず訓練場へ行く事にした。

 訓練場が見えてくる。いつもなら素振りをしている人や体力作りに励む人、実戦形式で手合わせをしている人がいるはずなのに今日は皆が同じ場所に集まっている。剣のぶつかる音と歓声が響く。

 何を見ているんだろう?

 集まる場所へ行くが、誰が戦っているのか見えない。何とか人の間をかいくぐり前へ出る。皆が見ていたのはバーナード隊長とエレナ隊長の手合わせだった。バーナード隊長は大剣をエレナ隊長は両手に短剣を持っている。バーナード隊長は大振りで素早くはないが力強い。対してエレナ隊長は決定打に欠けるものの、素早い動きで剣の直撃を避ける。避るとすぐに間合いを詰め、足技をかけている。


 「あんな小さな体でバーナード隊長と互角にやり合うなんて….」

 「これが隊長同士なのか。格が違いすぎる」

 「いいぞ! エレナ! そのままいけ!」

 「バーナード隊長! 良いとこ見してくださいよ!」


 周りには驚いた様子で観戦する人や応援というヤジを飛ばしてる人もいる。

 バーナード隊長はもちろんすごいけど、それと渡り合うエレナ隊長はもっとすごい。体格差なんて感じられない程だ。この勝負、どっちが勝つのか全くわからない。


 「そこまで!」


 勝敗がつかないまま、団長の声で剣をおろす。同時に歓声が上がり、隊員が一気に駆け出す。バーナード隊長に話しかける隊員や指導を請う新人隊員もいる。


 「エレナもよく頑張ったな~。前よりも強くなったな~」

 「やめろ。持ちあげるな」


 エレナ隊長はバーナード隊の隊員に持ちあげられていた。嫌がる彼女を無視して何人もの隊員が背負ったり肩車をしたりとやりたい放題だ。

 こう見ているとエレナ隊長もただの子供みたいだ。


 「次は誰が相手だ!?」


 バーナード隊長の呼びかけに隊員が次々と挙手をする。


 「じゃあ、お前だ! 本気でかかってこい!」


 相手をする隊員がどんどん飛ばされ、残った隊員は団長指導のもと素振りや体力作りをしている。そんな中、エレナ隊長が隠れるように訓練場から出ていこうとしていた。


 「エレナ隊長!」


 俺は後を追いかけ、呼び止めた。休日でも隊服を着ている彼女に違和感を感じる。


 「何?」

 「俺に剣を教えてください!」


 どんな武器でも難なく扱い、あのバーナード隊長と同等の実力を持つ彼女。強くなるためには彼女に指導してもらいたい。


 「無理」

 「….え?」


 予想してなかった答えだった。


 「ど….どうしてですか?」

 「私のは我流。誰かに教わったわけじゃない。ミカエルの指導はレイモンドに頼んである」


 レイモンドさんは主に大盾を使っていて剣は基本使わない。それなのになぜ….?


 「レイモンドは前、剣を使っていた。剣の振り方、動き方に関しては完璧。それでも足りないなら団長とかに習えばいい。頼めば教えてくれる」


 彼女なりに考えてくれての事だったのか。レイモンドさんの回復を待ってからの指導になるのだろうけど、どんな感じになるのか今から楽しみだ。思わず顔がにやける。


 「ミカエルはまず基礎体力をつけた方がいい」


 そう言い残し、彼女は立ち去ってしまった。俺は訓練場に戻ると言われた通り基礎体力をつけるため走り込みなどを日が暮れるまでおこなった。途中でシャノンさんに明日はレイモンドさん抜きで任務へ向かう事が伝えられた。

    ◇


 翌朝、朝礼前に予備のけ剣を渡される。その剣は今までのよりも重いように感じた。エレナ隊長曰く、レイモンドは脳まで筋肉だから、らしい。意味はよくわからないが、これにも何か意図があるんだろう。
 いつもの朝礼を終え、俺達あまたしても副隊長のもとへ集まっていた。


 「今回、エレナ隊におこなってもらう任務は誘拐された子供達の奪還及び保護です」


 それは討伐隊ではなく、警備隊がやる任務のような….。


 「最近、王都を含め周辺の村や街で子供が攫われているという報告が入っています。しかも攫われているのはギフトの出ていない年端もいかない子供や色なしの子供ばかりです。私共はどこかに隠れ家があるのではないかと考えています」

 「隠れ家の目星は?」

 「ついていません」


 目星がついていなければ隠れ家を探すなんて不可能だ。しらみつぶしというわけにもいかない。一体どうするつもりだろう。


 「ですが、この地図を見てください」


 地面に地図が広げられる。皆でそれを覗き込む。


 「初めに誘拐されたのはここです」


 地図のある村を指差す。誘拐の報告があった場所を次々と指していく。


 「私は次にこの村が狙われると考えています」


 副団長が示したのはまだ誰も誘拐されていない村だった。そこで待機をして、現れた所を捕えるという算段だろう。


 「幸い、ここは魔獣対策で柵が村を囲んでおり、出入口は限られています」

 「じゃあ、待ち伏せして捕まえる。その後、尋問でも何でもして隠れ家をはかせればいい」


 エレナ隊長が背伸びをする。何だか不穏な言葉が聞こえたような気がしたが、聞き流すことにした。


 「いえ、この任務….エレナは攫われてください」

 「……は?」


 副団長の放った言葉に耳を疑い、エレナ隊長は拍子抜けしたような声を出した。


     ◇


 「ミカエルはまず基礎体力をつけた方がいい」


 まだ何か言いたげな彼を残し、その場から立ち去った。

 今日は朝から散々。明日の事で副団長の所へ行こうと思ったら団長とバーナードに会った。そこまではよかった。団長からは昨日の件で謝罪と愚痴を延々と聞かされ、バーナードからは妻子の惚気話を延々と聞かされた。更にはバーナードに持ち上げられ無理矢理、訓練場に連れて行かれた。こうなると彼は止まらない。手合わせをしたらバーナード隊の隊員に持ち上げられた。元々、同じ隊にいたからいつも妹かのように扱われる。やっと慣れ始めたけど、こんな事に慣れてしまっていいのだろうかとも思う。他の隊員が押し寄せてきてやっとの思いで抜けられた。

 副団長室で明日が任務だと聞かされた。詳細はわからない。その後、医務室でレイモンドの様子を確認。一緒にいたシャノンに明日の事を伝え、ミカエルにも教えるよう指示。

 自分の部屋に戻って少し休憩。休憩後は机の床に隠されている扉を開け、中に入る。暗いけど見えない程じゃない。慣れた道を進む。目的の場所で頭の上にある扉をゆっくり押し上げる。


 「入ってきて大丈夫だよ」


 その声を合図に扉から出る。


 「いらっしゃいエレナ。待ってたよ」


 声の主はリュカ・ナディエージダ。そしてここは王城にある彼の寝室。昔、私の部屋から来れるようにと通路を作ってくれた。
 大半の日をこのベッドで過ごす彼。聞いた話では子供の頃、魔獣に噛まれたらしい。傷自体は浅く、治ったらしいけど、それから体が思うように動かなくなっているらしい。傷口からの感染症とも言われているけれど、未だ解決策はない。
 大量の枕を背もたれにして本を読んでいた彼は本を閉じ、自身の隣に座るよう指示を出される。彼の華奢な体が更に細くなった気がする。あまりにも色白な肌で今にも倒れそう。


 「エレナの話、お兄ちゃんに聞かせて?」


 色なしの私にも分け隔てなく接する。グレンに連れられて初めて会った時から自分を兄だと言い、家族のようにしてくれる。もちろん血は繋がっていない。きっと私の境遇に同情したんだと思う。
 私は今までの事を話した。隊に新しい人が入った事、任務の話、民の暮らしも王妃の事も….。


 「そっか。エレナはこれからも色んな事を知って、経験していくのだろうね」


 頭を撫でられる。彼に撫でられるのは気にいっている。


 「母上の事は僕に任せて。王太子として最後くらい役に立たないとね」


 最後….。どんな医者でもお手上げ状態。もう自分は生きられないと考えているんだろう。自分の死を覚悟した人間は皆、同じような顔をする。


 「リュカお兄ちゃん。私の隊にシャノンっていう優秀な薬師がいる。だから」

 「ありがとう。でもね、エレナ。その人の薬でもし僕が死んでしまったら、その人は罪人になってしまうかもしれない。それは嫌でしょ?」


 それは嫌。でもこのままリュカお兄ちゃんが死んでしまうのも嫌。


 「じゃあ、傷口だけでも見せて。私ならわかるかも」


 魔獣に関しては人より詳しい。見れば何かわかるかもしれない。でも彼はそれを拒否した。

 扉の叩く音。誰か来た。


 「エレナ、また話を聞かせに来てね」


 彼は扉に向かって少し待つよう言う。その間に元来た扉に入りゆっくり閉めた。
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