上 下
7 / 8

第7話「父」

しおりを挟む
私はラドフォルン家の屋敷に戻ってきた。

そして屋敷の扉が開く。

私はやけどの痕が隠れないノースリーブの肩出しドレスを着て赤絨毯の上を堂々と闊歩する。

すれ違った使用人たちは一様に驚いた顔をする。

私は腹を括った。

他者の視線はもう気にしない。

そうでもしないと父には勝てないから。

「おひさしゅうございます。お父様」

私はレンリ様を連れて父と対峙する。

父は私と対面するなり衝撃を受けたような顔をする。

「シャルロット⋯⋯どうしてそのような」

「本日はお父様にお願いがあって参りました」

「⋯⋯申してみよ」

「私とレンリ・ウォルトレーン辺境伯様との結婚をお認めください」

周りのメイドたちがざわつきだす

しかし父は沈黙したまま。

「⋯⋯」

「お父様、それで折り入ってお願いがございます。ハロルド国王陛下に直接会って、ぜひこの報告をしたいのです。どうか謁見のお取次ぎを」

無言だった父のまゆがピクリと動く。

「それが目的だったか。なにを企んでいるウォルトレーン辺境伯」

「⁉︎ 待ってくださいお父様!」

「セバス、剣を」

父の傍にいた執事のセバスがすぐさま壁に掛かっていた剣を手に取って父に手渡す。

そして父は剣を手にレンリ様にゆっくりと近づく。

「シャルロットにあのような格好までさせて晒しものにするとはどういうつもりだ」

「あの姿がシャルロットにふさわしいと思ったからさせたまで」

「貴様ッ!」

「なら決着をつけようクラウス・ラドフォルン」

「レンリ様も何を!」

「セバス、辺境伯にも剣を」

レンリ様は躊躇することなくセバスから剣を受け取る。

「貴様、私が姿を現してからずっと殺気を飛ばしていたな」

「敵(かたき)にようやく会えたんだ当然だろ」

「そういうところ本当に父親にそっくりだ。よいか。これはつまらないケンカではない。
侯爵と辺境伯の争い。つまりは戦争だ。今宵をきっかけに王国が再び戦火に包まれるやもしれないのだぞ。そなたにその覚悟はできているのか?」

「野暮なこと言うなよ。難しい御託なんざいらねぇ。ひとりの女を取り合う男と男の真剣勝負だろ」

父とレンリ様は同時に斬りかかる。

メイドたちが悲鳴を上げる中、2人が振るった剣と剣が火花を散らしながら鋼の音を轟かせる。

冷静沈着な父が髪を振り乱し、息を荒くしている。

そしてなによりも少年のようなギラついた目。

あんなお父様見たことがない。

「マートの倅(せがれ)がなんの魂胆もなしに娘と結婚したいなどと到底信じることはできん」

「どうしてそう思うんだ」

「貴族の嫡男が何の企みもなしに醜い姿の娘と結婚したいなどと考えるはずがない。そんな戯言を信じる親などいない」

「醜いからと娘を蔑む腐った親なんてどこにも存在いないと思っていた。ついさっきまではな」

「どこまで私を愚弄するか!」

「よく見てみな自分の娘を。臆することもなく凛としているシャルロットの姿ほど美しいものはないぜ」

そう言ってレンリ様は父のお腹を蹴り上げて、怯んだ父の喉に切先を突きつける。

「俺はそこに惹かれた」

父は片膝をついてうずくまる。

「⋯⋯私の負けだ。辺境伯様はどうやら本気のようだ」

「試していたのか」

「無論だ。ラドフォルン家の侯爵令嬢ではない本当のシャルロットを辺境伯が駆け引きなしに心から愛しているのか確かめたかった」

「周りくどいって言われないかあんた」

「さぁな。口汚い婿よ。感謝している。自分の姿に引け目を感じていたシャルロットに自信を与えてくれて」

「お父様」

「お前たちの望み通り、陛下にお会いできるよう取り次ぐ。王都での商売が叶うことを祈っている」

「⁉︎ お父様、私たちの目的ご存知だったのですね」

「もちろんだ。大事な娘に監視をつけて置いておくのは当然だ」

「溺愛じゃないか」

急に顔が熱くなる。

「恥ずかしいですお父様」

「結婚が方便だったら断るつもりだった。だがそれは杞憂にすぎなかった」

「いいお父様じゃないかシャルロット」

「はい」

「その代わりと言ってはなんだが、レンリ・ウォルトレーン卿、私に友人の墓参りをさせてほしい」

「親父のことか?」

「敵と味方に分かれてはしまったがマートとは学生時代からの友人だ。
あいつの策には何度も煮湯を飲まされた。
まさに乱世を生きるために生まれたような男だったよ。
戦場で笑い。死ぬことを恐れなかった」

「だから平和な領地で過ごすことを親父への罰とした」

「マートにとっては死より辛い罰だったはずだ」

「クラウス・ラドフォルン侯爵様はたしかに非情なお方だ。
おかげで親父は領民の子供たちに囲まれて過ごしているうちに
最期は目尻下がりっぱなしの情けないツラになってたぜ」

レンリ様はそう言って「フフッ⋯⋯」と、笑って口角をあげる。

そして父も「フフッ」と、口角をあげる。

2人で“分かり合えた”みたいな顔をしているけど

どうして男って素直にものが言えないのかしら。

『ラドフォルン侯爵様ーーッ!』と、突然、王国警備兵の男性が飛び込んでくる。

「何事だ」

「可及な知らせです」と、父に耳打ちをする。

「何ッ⁉︎ ハロルド様が倒れただと?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空
恋愛
 ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……

婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました

hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。 家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。 ざまぁ要素あり。

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。

こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。 彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。 皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。 だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。 何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。 どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。 絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。 聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──…… ※在り来りなご都合主義設定です ※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です ※つまりは行き当たりばったり ※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください 4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

王子からの縁談の話が来たのですが、双子の妹が私に成りすまして王子に会いに行きました。しかしその結果……

水上
恋愛
侯爵令嬢である私、エマ・ローリンズは、縁談の話を聞いて喜んでいた。 相手はなんと、この国の第三王子であるウィリアム・ガーヴィー様である。 思わぬ縁談だったけれど、本当に嬉しかった。 しかし、その喜びは、すぐに消え失せた。 それは、私の双子の妹であるヘレン・ローリンズのせいだ。 彼女と、彼女を溺愛している両親は、ヘレンこそが、ウィリアム王子にふさわしいと言い出し、とんでもない手段に出るのだった。 それは、妹のヘレンが私に成りすまして、王子に近づくというものだった。 私たちはそっくりの双子だから、確かに見た目で判断するのは難しい。 でも、そんなバカなこと、成功するはずがないがないと思っていた。 しかし、ヘレンは王宮に招かれ、幸せな生活を送り始めた。 一方、私は王子を騙そうとした罪で捕らえられてしまう。 すべて、ヘレンと両親の思惑通りに事が進んでいた。 しかし、そんなヘレンの幸せは、いつまでも続くことはなかった。 彼女は幸せの始まりだと思っていたようだけれど、それは地獄の始まりなのだった……。 ※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

乳だけ立派なバカ女に婚約者の王太子を奪われました。別にそんなバカ男はいらないから復讐するつもりは無かったけど……

三葉 空
恋愛
「ごめん、シアラ。婚約破棄ってことで良いかな?」  ヘラヘラと情けない顔で言われる私は、公爵令嬢のシアラ・マークレイと申します。そして、私に婚約破棄を言い渡すのはこの国の王太子、ホリミック・ストラティス様です。  何でも話を聞く所によると、伯爵令嬢のマミ・ミューズレイに首ったけになってしまったそうな。お気持ちは分かります。あの女の乳のデカさは有名ですから。  えっ? もう既に男女の事を終えて、子供も出来てしまったと? 本当は後で国王と王妃が直々に詫びに来てくれるのだけど、手っ取り早く自分の口から伝えてしまいたかったですって? 本当に、自分勝手、ワガママなお方ですね。  正直、そちらから頼んで来ておいて、そんな一方的に婚約破棄を言い渡されたこと自体は腹が立ちますが、あなたという男に一切の未練はありません。なぜなら、あまりにもバカだから。  どうぞ、バカ同士でせいぜい幸せになって下さい。私は特に復讐するつもりはありませんから……と思っていたら、元王太子で、そのバカ王太子よりも有能なお兄様がご帰還されて、私を気に入って下さって……何だか、復讐できちゃいそうなんですけど?

私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです

風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。 婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。 そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!? え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!? ※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。 ※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。

エメラインの結婚紋

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

処理中です...