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敵国に嫁いだ幼き姫は異世界から来た男子高校生に溺愛されて幸せでした

第84話「女王の約束」

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『只者ではない⋯⋯』

あの冷静沈着な鷲御門君に焦燥の色が見える⋯⋯
ロータスと名乗るオオカミ男を前にして構えた剣の先端がかすかにだけど揺れている。
「そうか。貴様が七つの聖剣を持つ男、鷲御門 凌凱か。
魔王様が言っておられた。この世界にやって来たときから“フェーズ2だった男。
この世界を侵略する“ドウキュウセイ”の中で最もプリミティスプライムに近い男とーー」
“フェーズ2 ⁉︎” 鷲御門君が?
「こうもおっしゃっておられた。遭遇したらまず殺せと」
鷲御門君が繰り出す剣戟を武器を持たないオオカミ男が鉄製のグローブを装着した手で弾き返す。
2人の攻撃の応酬はスピードを増してゆく。
「すごい⋯⋯何も見えない」
「鷲御門⋯⋯」
ニュアルちゃんが動揺するのもわかる。
戦っている姿は肉眼でとらえきれていないけど、鷲御門君がおされているのがわかる。
鷲御門君は大剣から蛇腹の剣へと扱う剣を変えながら攻め方を変えて相手にフェイントを仕掛けてゆく。
それでも狙った隙がつくれずに追いつめきれていない。
オオカミ男のペースなのは未だに変わらない。
鷲御門君が本当にフェーズ2ならあのオオカミ男はフェーズ2を凌ぐ強さだというの?
魔王をはじめ、フェーズ2になった人たちの強さは見てきた。
周りを恐怖させるほどの圧倒的な強さだった。
そのフェーズ2の人ですら屈する強さなんてもうチートすぎる。
ついにオオカミ男の拳が、鷲御門君の腹部に、肩に、額にとダメージを与える。

”ぜいぜい“と、鷲御門君の息が乱れる。
ダメージを与えられた箇所からはすでに出血がーー

「鷲御門君!」「鷲御門!」

思わず私と女王陛下が鷲御門君の名を叫んだ。
そんな中、紡木さんがひとり、鷲御門君に向かって私たちに聞き覚えのない人物の名前を叫んだ。

『ソウゴ!』


***
鷲御門 凌凱視点

『そなたは何者じゃ?』

ニュアルの戴冠式が終わった直後のことだ。
ニュアルは俺だけを残して、皆を解散させた。
そして開口一番に問いかけたのがその一言だった。

「ワシから見ればそなたは”鷲御門 凌凱“という人物を演じているようにしか見えぬ」
「⋯⋯」
「かくいうワシもそうじゃ。女王ニュアル・ウルム・ガルシャードを演じている。
鳥籠を飛び出した鳥は自由に飛べる空をまだ得られていない。乱れておる」
「⋯⋯」
「素直に話そう。私は本来、女王になるような陽の当たる場所を歩む存在ではなかった。
鷲御門たちに出会うまでは⋯⋯」
「ニュアル⋯⋯」
「母上は亜人の血が流れているという理由で帝国を追放された。
残された私も政治の道具にされた。夫というにはあまりにも歳が離れた王様と結婚させられ
与えられた館にひとり閉じ込められた。だが、面白いことにそんな私を不憫に思う奴がいて
あの手この手と私を陽の当たる場所へ送り出そうと必死だった」
「ギール殿のことだな」
「思惑があるにせよ陽宝院も私を担ごうと頭をこねくり回してくれた。そのおかげでアレよという間に女王になれた。
陽宝院は、そなたのことも私のことも利用してやろうという腹が見え見えだった。だがそれでも悪い気はしなかった」
「⋯⋯」
「入れられた鳥籠を窮屈と感じていた私もそれを望んでいたからだ。だけど、いざ母上を追放した憎き皇帝の玉座にふんぞり返ってみても
”どうだ? 参ったか!”という感情が湧かぬ。もっとスッとするかと思っていた。ただ虚無感だけが残っておる。虚しいーー」
「⋯⋯」
「これといってしたいことがない⋯⋯ こんなこと帝国民が聞いたらあきれるな。
女王になって何かをしたかったというわけじゃないことに気づかされた。
ただ、単にあのクソジジイに復讐してやりたかっただけじゃ⋯⋯」
「⋯⋯」
「それでも望みがある。この世界をそなたたちのような世界につくり変えてくれ。
電車というものに乗ってみたい。街でショッピングというものをしてみたい。
同年代の子たちとムダ話をしてみたい」
「それは⋯⋯」
「そなたたちからすればたわいもないことかもしれないが
この世界のものにとっては特別だ。そなたたちのあたりまえを私にくれ」
「女王陛下、皇国とウェルス王国との情勢が未だ不安定。女王の願いを果たすにはこの世界から争いを無くす必要があります。
ウェルス王国の討伐命令を」
「鷲御門⋯⋯」
「女王の願いを果たすためにこの俺にやらせてください」
「うむ、頼んだぞ」

***
月野木天音視点
「弱い、弱すぎる! これが将軍の強さなのか!」
鷲御門君を罵倒するオオカミ男。

『明かりは見えてきている! 争いはもうなくなる。これが最後の戦いだ!』

鷲御門君の目つきが変わった。
紋様のタトゥーが首から頬にかけて侵食してきている。
着ている鎧でほとんど見えないけど、タトゥーが剣を握る手、肌が露出しているすべてにまで広がっているのが確認できる。
それに全身を紅いオーラが包み込む。

「熱い⋯⋯」

鷲御門君の闘志が熱となって伝わってくる。
「来い! 将軍!」

「うおおおおお!」

寡黙な鷲御門君が雄叫びをあげてオオカミ男に剣を振るい掛かる。

つづく

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