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敵国に嫁いだ幼き姫は異世界から来た男子高校生に溺愛されて幸せでした

第82話「眷属」

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ヴァンパイアの女王が指をパチンと鳴らす。
ガラスを一斉に突き破って複数のテロリストたちが乗り込んでくる。
驚くことに全員が人間だ。
この人たちが旧ダルウェイルの残党?
だけど、様子が変。
「気付いちゃった? この子たちは私の血を分け与えた眷属よ。
そんじょそこらのゴブリンの比じゃないわ」
「⁉︎ 人間をヴァンパイアに⋯⋯やっぱり魔王軍と繋がっているという噂は本当だったの」
ヴァンパイアの女王が不敵な笑みを浮かべる。

「かわいい子供たち。人間どもを喰らってしまいなさい」

ヴァンパイア化した人間たちが牙を剥き出しに会場の人間たちを襲いはじめた。
先ほどまで澄ました顔をしながらニュアルちゃんを口説いていた皇子たちも
泣きながら身をかがめて震えている。

すると鷲御門君が大剣を手にニュアルちゃんを守れと指示する。
「月野木、女王陛下を連れて逃げるんだ」
「う、うん⋯⋯」
「会場にいる人間たちは俺が必ず守る」
そう言って鷲御門君は瞬間移動のようなスピードで、襲いかかるヴァンパイアたちを切り裂く。
鷲御門君が過ぎ去ったあとには血飛沫が広がる。

「⁉︎」

ハッとした。
なにを見入っているんだ私は。
はやく女王陛下を連れて外に逃げなくちゃ。
私はニュアル女王陛下の手を引いて長い廊下を走る。
うしろから武器を手にしたヴァンパイアたちが追る。
するとニュアルちゃんは悔いいるように言葉をこぼした。
「見知った顔が多いのう⋯⋯みんなダルウェイルの兵たちじゃ。
陽宝院があやつらも登用しておれば、少なくとも化け物にはなっておらんかった」
あの人たちは人間を捨ててまでニュアルちゃんを、私たちを、襲ってきた。
中には女の人たちまで⋯⋯
それだけ私たちに対する恨みは深いということか。
しかし、どうして⋯⋯
私たちだって異世界で生きていくことに必死だった。
どこで私たちは間違えたというの?

「!」

ハルト君の言葉が頭を過る。

『異世界人は敵じゃない。ルーリオっていう異世界人の友達もできたんだ。
この異世界に溶け込んで暮らすんだ。ここに閉じこもってかたまってたって何もはじまらない』

あの時なんだ⋯⋯
あの時、私たちがハルト君の言葉を信じて行動していたら
こうやって殺されそうになりながら逃げることも、ハルト君が魔王になることも
ダルウェイル兵の人たちも人間をやめることはなかったんだ。
この世界に憎しみの連鎖を生んだのは間違いなく私たちだ。

“ドーンッ!”

屋内に落雷の音が鳴り響く。
振り向くと、雷に打たれたヴァンパイアたちが焦げた身体から煙を出して倒れている。

『雷撃号砲』

「東坂君!」
「待たせたな。月野木、女王陛下。とにかく俺とここを脱出しよう」
「うん」

『そんな雑魚たちを倒したからって、ここから逃げれる幻想なんて抱かない方がいいよ』

見やると私たちの行く手を阻むように赤眼の男の子が立っている。
一見すると小学生のようだ。
「イザベラ様が眷属テネロ。純血種の僕が相手なんだ。生きて帰れると思わない方がいい」
「俺の雷(いかずち)を喰らいたくなかったらそこをどけガキ」
「へぇ、僕にたんかきるなんていい度胸だね」
「年上にその態度はいただけないぜ」
「トウサカ。見くびらぬ方がいい。ヴァンパイアであの見た目なら100歳近い。
それに純血種というなら相当な手練れじゃ。気をつけよ」
「100ってマジかよ⋯⋯」
「そうだこれって君たちのお友達?」
そう言ってヴァンパイアの男の子“テネロ”が自分の影の中から引きずり出してきたのはディルクさんとミレネラさんだ。
「⁉︎」
体のあちこちから血が⋯⋯
意識もないようだ。
ミレネラさんの太ももから滴る血をテネロは伸ばした舌で音立てながら舐める。
「対して美味しくもない血だ。君たちに返すよ」
そう言ってテネロはディルクさんとミレネラさんを私たちに投げつける。
「ディルクさん! ミレネラさん!」
よかった。まだ息はある。
だけど、とても強い2人がこうも簡単に瀕死の状態になるなんて、テネロってヴァンパイアはどれだけ強いの⋯⋯
「やっぱり女王様はとても美味しそうだね。見ているだけでヨダレが溢れてくるよ。となりにいるお嬢さんもすごく美味しそうだ」
「私の血なんて美味しくありません! 蚊ですらよってこないんですから」
「なにを言っているんだい? 血っていうのはね。吸われていく若い女性の痛みにもがきながら喘ぐ声でたまらなく甘美になるもんなんだよ。
君の場合は、こうしてみているだけでそれが伝わってくる。非常にそそられるね」
「月野木、女王陛下とうしろに下がっていろ。ここは俺がなんとかする」
東坂君は晩餐会の食事のときに使われていた銀製ナイフを握りしめて前に出る。
「俺たちの世界の知識がこの世界のヴァンパイアに通用するかわからねぇけど試してみるしかねぇ」
東坂君はナイフに雷を帯びさせて刀身が雷でできた剣をつくりだす。
「どうやら少しはヴァンパイアとの戦い方を知っているようだね」
「当たりか!」
東坂君は剣を斜め左右に薙ながらテネロに攻撃を仕掛ける。
テネロはそれを躱すっきりで反撃に出てこない。
やはりこの世界のヴァンパイアも銀製の道具に触れるとダメージが大きんだ。
「目のつけどころは良かったね。だけど、君の速度じゃ僕に当てることもできないよ」
「ぐっ! ⋯⋯」
テネロの手刀が東坂君の腹部に刺さる。
「いつの間に⋯⋯ぐはッ!」
吐血する東坂君を尻目にテネロは手についた血をペロリと舐める。
「まったくおいしくない血だ。 食糧としての価値もないならもったいぶらずに殺してやろう」
手刀の連続攻撃が東坂君を襲う。
太もも⋯⋯肩⋯⋯胸に容赦なくテネロの手刀が刺さる。
「東坂君!」
「なにやっているんだ月野木⋯⋯はやく逃げるんだ」
「おいおい。せっかくの僕のご馳走を逃がさないでくれよ」
今度はハイキックが東坂君のこめかみに直撃して頭から地面に叩きつけられる。
「すごいね。ここまでされてまだ生きてるんだ。だけどもういいや。
飽きたから女王様たちの血をいただくとしよう。運動したあとの一杯は格別なんだよ
君たちなら僕の嗜みが理解できるよね?」
「そんなの理解したくはありません!」
「その恐怖に引きつる顔がいいねぇ。もっと見せてよ。そしたらもっと美味しくなる。そうだ! 
ほら、逃げてみなよ。追いかけっこだ」
目の前にいたはずのテネロが背後から現れて囁く。
「僕から逃げ切れないと分かっている君たちがどんな顔をして逃げるのか非常に楽しみだ。
きっといままでに味わったことがないくらいにおいしくなるんだろうな」
「こやつ完全に狂っておるのう」
どうしよう⋯⋯瞬間移動するような相手から逃げるなんて不可能だ。
どうやったら女王陛下を守れるの⋯⋯
逃げる以外の方法ーー
それってもう戦うしかない。
東坂君が持っていたナイフがちょうど手の届くところに転がっている。
油断して顔を近づけてきたところを刺すーー
「おっと。落ちているナイフを僕の頸動脈に刺そうだなんてムダだよ」
「!」
読まれた⋯⋯
「いい顔だ。君の血から吸ってあげるからはやく逃げてね」
こうなったらーー
ナイフを手にとってテネロの首を目がける。
「あらあら。往生際が悪いというのはこのこ⋯⋯」
一瞬だった。
私に顔を近づけたテネロの首が宙を飛んだ。
そして四股がバラバラなってゆく。
一太刀だ。たった一太刀でヴァンパイアの身体がバラバラになった。
返り血を浴びながら私とニュアルちゃんの前に立つ鷲御門君の背中がとても大きく見えた。
「すごい⋯⋯」

つづく
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