85 / 100
敵国に嫁いだ幼き姫は異世界から来た男子高校生に溺愛されて幸せでした
第82話「眷属」
しおりを挟むヴァンパイアの女王が指をパチンと鳴らす。
ガラスを一斉に突き破って複数のテロリストたちが乗り込んでくる。
驚くことに全員が人間だ。
この人たちが旧ダルウェイルの残党?
だけど、様子が変。
「気付いちゃった? この子たちは私の血を分け与えた眷属よ。
そんじょそこらのゴブリンの比じゃないわ」
「⁉︎ 人間をヴァンパイアに⋯⋯やっぱり魔王軍と繋がっているという噂は本当だったの」
ヴァンパイアの女王が不敵な笑みを浮かべる。
「かわいい子供たち。人間どもを喰らってしまいなさい」
ヴァンパイア化した人間たちが牙を剥き出しに会場の人間たちを襲いはじめた。
先ほどまで澄ました顔をしながらニュアルちゃんを口説いていた皇子たちも
泣きながら身をかがめて震えている。
すると鷲御門君が大剣を手にニュアルちゃんを守れと指示する。
「月野木、女王陛下を連れて逃げるんだ」
「う、うん⋯⋯」
「会場にいる人間たちは俺が必ず守る」
そう言って鷲御門君は瞬間移動のようなスピードで、襲いかかるヴァンパイアたちを切り裂く。
鷲御門君が過ぎ去ったあとには血飛沫が広がる。
「⁉︎」
ハッとした。
なにを見入っているんだ私は。
はやく女王陛下を連れて外に逃げなくちゃ。
私はニュアル女王陛下の手を引いて長い廊下を走る。
うしろから武器を手にしたヴァンパイアたちが追る。
するとニュアルちゃんは悔いいるように言葉をこぼした。
「見知った顔が多いのう⋯⋯みんなダルウェイルの兵たちじゃ。
陽宝院があやつらも登用しておれば、少なくとも化け物にはなっておらんかった」
あの人たちは人間を捨ててまでニュアルちゃんを、私たちを、襲ってきた。
中には女の人たちまで⋯⋯
それだけ私たちに対する恨みは深いということか。
しかし、どうして⋯⋯
私たちだって異世界で生きていくことに必死だった。
どこで私たちは間違えたというの?
「!」
ハルト君の言葉が頭を過る。
『異世界人は敵じゃない。ルーリオっていう異世界人の友達もできたんだ。
この異世界に溶け込んで暮らすんだ。ここに閉じこもってかたまってたって何もはじまらない』
あの時なんだ⋯⋯
あの時、私たちがハルト君の言葉を信じて行動していたら
こうやって殺されそうになりながら逃げることも、ハルト君が魔王になることも
ダルウェイル兵の人たちも人間をやめることはなかったんだ。
この世界に憎しみの連鎖を生んだのは間違いなく私たちだ。
“ドーンッ!”
屋内に落雷の音が鳴り響く。
振り向くと、雷に打たれたヴァンパイアたちが焦げた身体から煙を出して倒れている。
『雷撃号砲』
「東坂君!」
「待たせたな。月野木、女王陛下。とにかく俺とここを脱出しよう」
「うん」
『そんな雑魚たちを倒したからって、ここから逃げれる幻想なんて抱かない方がいいよ』
見やると私たちの行く手を阻むように赤眼の男の子が立っている。
一見すると小学生のようだ。
「イザベラ様が眷属テネロ。純血種の僕が相手なんだ。生きて帰れると思わない方がいい」
「俺の雷(いかずち)を喰らいたくなかったらそこをどけガキ」
「へぇ、僕にたんかきるなんていい度胸だね」
「年上にその態度はいただけないぜ」
「トウサカ。見くびらぬ方がいい。ヴァンパイアであの見た目なら100歳近い。
それに純血種というなら相当な手練れじゃ。気をつけよ」
「100ってマジかよ⋯⋯」
「そうだこれって君たちのお友達?」
そう言ってヴァンパイアの男の子“テネロ”が自分の影の中から引きずり出してきたのはディルクさんとミレネラさんだ。
「⁉︎」
体のあちこちから血が⋯⋯
意識もないようだ。
ミレネラさんの太ももから滴る血をテネロは伸ばした舌で音立てながら舐める。
「対して美味しくもない血だ。君たちに返すよ」
そう言ってテネロはディルクさんとミレネラさんを私たちに投げつける。
「ディルクさん! ミレネラさん!」
よかった。まだ息はある。
だけど、とても強い2人がこうも簡単に瀕死の状態になるなんて、テネロってヴァンパイアはどれだけ強いの⋯⋯
「やっぱり女王様はとても美味しそうだね。見ているだけでヨダレが溢れてくるよ。となりにいるお嬢さんもすごく美味しそうだ」
「私の血なんて美味しくありません! 蚊ですらよってこないんですから」
「なにを言っているんだい? 血っていうのはね。吸われていく若い女性の痛みにもがきながら喘ぐ声でたまらなく甘美になるもんなんだよ。
君の場合は、こうしてみているだけでそれが伝わってくる。非常にそそられるね」
「月野木、女王陛下とうしろに下がっていろ。ここは俺がなんとかする」
東坂君は晩餐会の食事のときに使われていた銀製ナイフを握りしめて前に出る。
「俺たちの世界の知識がこの世界のヴァンパイアに通用するかわからねぇけど試してみるしかねぇ」
東坂君はナイフに雷を帯びさせて刀身が雷でできた剣をつくりだす。
「どうやら少しはヴァンパイアとの戦い方を知っているようだね」
「当たりか!」
東坂君は剣を斜め左右に薙ながらテネロに攻撃を仕掛ける。
テネロはそれを躱すっきりで反撃に出てこない。
やはりこの世界のヴァンパイアも銀製の道具に触れるとダメージが大きんだ。
「目のつけどころは良かったね。だけど、君の速度じゃ僕に当てることもできないよ」
「ぐっ! ⋯⋯」
テネロの手刀が東坂君の腹部に刺さる。
「いつの間に⋯⋯ぐはッ!」
吐血する東坂君を尻目にテネロは手についた血をペロリと舐める。
「まったくおいしくない血だ。 食糧としての価値もないならもったいぶらずに殺してやろう」
手刀の連続攻撃が東坂君を襲う。
太もも⋯⋯肩⋯⋯胸に容赦なくテネロの手刀が刺さる。
「東坂君!」
「なにやっているんだ月野木⋯⋯はやく逃げるんだ」
「おいおい。せっかくの僕のご馳走を逃がさないでくれよ」
今度はハイキックが東坂君のこめかみに直撃して頭から地面に叩きつけられる。
「すごいね。ここまでされてまだ生きてるんだ。だけどもういいや。
飽きたから女王様たちの血をいただくとしよう。運動したあとの一杯は格別なんだよ
君たちなら僕の嗜みが理解できるよね?」
「そんなの理解したくはありません!」
「その恐怖に引きつる顔がいいねぇ。もっと見せてよ。そしたらもっと美味しくなる。そうだ!
ほら、逃げてみなよ。追いかけっこだ」
目の前にいたはずのテネロが背後から現れて囁く。
「僕から逃げ切れないと分かっている君たちがどんな顔をして逃げるのか非常に楽しみだ。
きっといままでに味わったことがないくらいにおいしくなるんだろうな」
「こやつ完全に狂っておるのう」
どうしよう⋯⋯瞬間移動するような相手から逃げるなんて不可能だ。
どうやったら女王陛下を守れるの⋯⋯
逃げる以外の方法ーー
それってもう戦うしかない。
東坂君が持っていたナイフがちょうど手の届くところに転がっている。
油断して顔を近づけてきたところを刺すーー
「おっと。落ちているナイフを僕の頸動脈に刺そうだなんてムダだよ」
「!」
読まれた⋯⋯
「いい顔だ。君の血から吸ってあげるからはやく逃げてね」
こうなったらーー
ナイフを手にとってテネロの首を目がける。
「あらあら。往生際が悪いというのはこのこ⋯⋯」
一瞬だった。
私に顔を近づけたテネロの首が宙を飛んだ。
そして四股がバラバラなってゆく。
一太刀だ。たった一太刀でヴァンパイアの身体がバラバラになった。
返り血を浴びながら私とニュアルちゃんの前に立つ鷲御門君の背中がとても大きく見えた。
「すごい⋯⋯」
つづく
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
私、異世界で監禁されました!?
星宮歌
恋愛
ただただ、苦しかった。
暴力をふるわれ、いじめられる毎日。それでも過ぎていく日常。けれど、ある日、いじめっ子グループに突き飛ばされ、トラックに轢かれたことで全てが変わる。
『ここ、どこ?』
声にならない声、見たこともない豪奢な部屋。混乱する私にもたらされるのは、幸せか、不幸せか。
今、全ての歯車が動き出す。
片翼シリーズ第一弾の作品です。
続編は『わたくし、異世界で婚約破棄されました!?』ですので、そちらもどうぞ!
溺愛は結構後半です。
なろうでも公開してます。
もう彼女でいいじゃないですか
キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。
常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。
幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。
だからわたしは行動する。
わたしから婚約者を自由にするために。
わたしが自由を手にするために。
残酷な表現はありませんが、
性的なワードが幾つが出てきます。
苦手な方は回れ右をお願いします。
小説家になろうさんの方では
ifストーリーを投稿しております。
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。
天災
恋愛
美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。
とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる