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敵国に嫁いだ幼き姫は異世界から来た男子高校生に溺愛されて幸せでした

第81話「将軍と女王」

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私たちが異世界にやってきて1年が過ぎた。
本当だったら今ごろ、受験に追われて忙しくしていたんだろうな。
クラスみんなで楽しんだ最後の文化祭。記念写真に写るみんなは笑顔だった。
文化祭が終われば、行事はなくなりそれぞれ受験勉強に集中する。
全員がライバル。
みんな個々の受験活動でバラバラになってしまうけど、最後は桜の木の前で笑顔で卒業式。
気づいたら私の頭の中はあるはずもない想い出でいっぱいだ。

そうこっちが現実。
皇都の景色は様変わりした。
皇都では急速的な近代化が進んでいる。
商業の発展にあわせて高層階の建物が相次いで建造され、歩道には街灯も設置。
夜もあかるく賑やかになった。
これもジェネラル・ワシミカドの指導力によるものが大きい。
下水やガスといったインフラが整備され人々の生活にも変化がでてきた。
経済も活発化して、職を求めて人間や亜人たちが集まり、新しい資源の採掘に勤しんでいる。
直近の課題は電力の安定化と博士は息巻く。
そして道路はアスファルトで舗装されて自動車が走るようになった。
近く鉄道も開通して線路の上を列車が走る予定だ。

この3ヶ月ほど魔王軍の目立った活動はなく、異世界は平和に包まれている。
一方、皇都の目覚ましい進歩に、属国の貴族や周辺諸国の王族からは注目が集まっていた。
そんな外国の要人を招いて今宵は完成したばかりの迎賓館で、ニュアル女王陛下主催の晩餐会が開かれる。
私たちウィギレスのメンバーとディルクさん、ミレネラさんは会場の警戒のために女王陛下に随行。
残念ながらニュアル女王の身辺は穏やかじゃない。
旧ダルウェイル国の残党がテロを計画しているという情報が入っているからだ。
没落した貴族たちがニュアル女王に強い憎しみを抱いているという。
とんでもない。逆恨みもいいところだ。
私たちと出会うまでニュアルちゃんはどれだけつらい思いをしていたことか。
しかも魔王軍がウラで手引きをしているという噂もあるから私たちの警戒はなおのこと厳重だ。

さらには川南綾人君に三好さん、吉備津さんも私たちと一緒に警戒にあたってくれている。

「ねぇ、吉備津さん。ちゃんと見てる?」
「もち」
「あやしい人見つけたらちゃんと報告してよ」
「人うじゃうじゃ」
「それはわかってるよ⋯⋯」
「女の人たちのドレスきれい」
「なになに? 瑠美花も着てみたいの」
「興味はあるけど私はいいや」
「なんで? 着ようよ。そうだ! あとで女子たちで集まってドレス着せてもらおうよ。
メイドさんたちに大人みたいなメイクしてもらってさ。そしたらみんなだけで舞踏会やろ。
文化祭だってできなかったし、このままだと私たちには成人式もなさそうだしさ。こんな異世界だけど想い出つくろう」
「いいよ。チンチクリンの私じゃ似合わないし。背が高いセツナはズルい」
「言ったな瑠美花。これでも男子にからかわれたりして大変なんだぞ」
「それでもなんかズルい」
「まぁなんでも似合う私だからねぇ」
「よく言うよ。私、あんまおしゃれとか似合わないし。詠凛の制服で充分」
「そういえば瑠美花ずっと着てるよね」
「うん」

「吉備津さんなら似合うよ!」


「川南君急にどうしたの?」
「ドレスを着た吉備津さんを僕は見てみたい!」
「なに? どうして」
「がんばれ川南綾人!」
「セツナもどうした?」
「ぼ、僕はドレス着た吉備津さんと一緒に踊りたいよ!」
「お!」

「ステップ下手そう」

「は⋯⋯」
「ハハハハハ」
「三好さんそんなに笑わないでよ」

口数の少ない吉備津さんが川南君と一緒にいるときだけ饒舌だ。
あんな冗談も言うんだ⋯⋯
「なんだか楽しそう」

***
政府専用に作られた黒塗りの車が迎賓館前に到着。
降りてきたニュアル女王陛下は金の装飾と宝石が散りばめられた
白いドレスを身にまとい出迎えた執事やメイドたちの目を惹く。
出会ってから1年だ。
内面は私たちよりずっと大人だったけど、今は見た目もぐっとニュアルちゃんが大人びて見える。
その三歩後ろを鷲御門君が歩く。
こんな護衛がいたら誰も襲って来ようとは思わないと思うけど油断はしてはいけない。
相手は魔王軍と手を結んでいるかもしれないんだから。

***
主役の登場に会場の雰囲気が一気に華やぐ。
皇子や若い貴族の男の人たちはニュアル女王陛下の姿を見かけるなり集まってくる。
ニュアル女王陛下が歩けば男たちも口説き文句を口々に囁きながら一緒になって歩く。
みんなニュアル女王陛下にお近づきになろうと必死だ。
どこかの国の皇子なんて堂々と結婚を申し込んだ。
「さようか。そなたたちワシとそれほど結婚したいならここにいるワシミカドと戦ってみるのだな。
ワシミカドと戦って勝ったものとならワシは結婚してもよいぞ」
「しょ、将軍と⋯⋯」
ニュアル女王陛下から課せられた条件に皇子たちは慄いてしまう。
先ほどまで熱心だった男たちは一様に鷲御門君から目を逸らして
女王陛下たちから離れていった。
「どいつも頼りにならんのう」
そう言ってニュアル女王陛下は鷲御門君の顔を見る。
「なにを仏頂面で突っ立ておる。ワシと踊るぞ」
ニュアルちゃんは鷲御門君の手を引いてホールの中央へ走った。
それを見た演奏者たちが慌てて楽器を構えて演奏はじめる。
ニュアルちゃんは音楽に合わせてステップを踏むと、慣れてない鷲御門君の動きはどこかぎこちない。
「こんなことに緊張しておるのか? だらしないのう。お前たちが言うセレブとかいうやつの嗜みじゃ。
踊りくらい踊れないとな」
「こうか?」
「そうではない。ワシの動きに合わせばいいのじゃ」
だんだんと様になってきてる。
不機嫌そうだったニュアルちゃんの顔からも次第に笑みが溢れてきた。
そして2人はくるくる回る。
周りで踊っていた人たちも立ち止まって2人のダンスに見惚れる。
ニュアルちゃんが年相応に笑っている姿は私たちに安心感を与えた。
女王という仮面の下はちゃんとした11歳の女の子なんだと。
すると見ていたギャラリーから自然と拍手が 。
鷲御門君の硬さが取れていないから決して上手ってわけじゃないんだけど
2人がつくる世界がここにいる全員の心を暖かくして引き込むんだ。

「きゃあああああ!」

拍手をかき消すように悲鳴がーー

「三好さんだ!」

3人がいた2階席を見やると川南君が腕から血を流して倒れている。
そして銀髪の女性がゆっくりと吉備津さんへ手を差し出す。
「私はヴァンパイアの女王イザベラ。キビツルミカ様、お迎えにあがりました。
魔王様があなたの力を必要としています。ここでは窮屈でしょう。さぁ」
「私を必要⋯⋯」
「ダメだ!吉備津さん」
「もち」
そう言って吉備津さんはヴァンパイアの女王の手を取る。
「どうして⋯⋯どうしてだよ吉備津さん!」
「私、もっとすっきりすることがしたいんだよ」
「⁉︎」

ヴァンパイアの女王が指をパチンと鳴らす。
するとガラスを割って複数のテロリストたちが乗り込んでくる。
ヴァンパイアの女王は不敵な笑みを浮かべて私たちを見下ろした。

つづく















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