53 / 100
右条晴人とクライム・ディオールの伝説
第50話「アームズ族の巫女」
しおりを挟むアマネとかいうマヌケ顔の女が知りたいというから話してやる。
私たちアームズ族は主人(あるじ)を得ると武器に変身できる、この世界でも稀な種族。
アームズ族にはこんな言い伝えがある。
“主人(あるじ)が優れた人物であったならばやがて聖剣級の宝具になれる”
アームズ族にとって宝具に転生することはとても名誉なこと。
ずっと昔、英雄クライムの武器だった巫女メフィリスは宝具ニョルニルとして生まれ変わって、クライムと一緒に世界を救った。
メフィリスは私の憧れ。生まれつき体が弱かった私は、よく近所の男の子たちからからかわれていた。
泣きそうになるたびに、私もいつかメフィリスのような強い武器になって、英雄と一緒に世界を救う宝具になるんだと我慢していた。
アームズ族の子供は10歳になると長老から洗礼の儀式を受けて自分がどのタイプの武器に変身できるのか占ってもらえる。
村にとって儀式はお祭り。
メフィリスの像がある村の広場には大勢の人たちが集まってきてとても賑やかになる。
村の人たちは子供たちがどんな武器になるのかとても楽しみにしている。
「刃の武器!」
「射撃の武器!」
「盾の武器!」
長老が占った答えを言うたびに拍手や太鼓を鳴らして大喜びする。
私をからかっている男の子たちも、次々に長老から武器の名前を言われて村の人たちから喜んでもらっている。
ーーいよいよ私の番がやってきた。
胸のドキドキの音が大きくなる。
メフィリスの像の前に椅子が置かれていて、儀式はそれに座って受ける。
村の人たちは貧弱な私を見るなり応援する声が小さくなった。
さっきまで賑やかだったのがウソのように急に静かになって私を見つめる。
椅子に座ると、後ろからメフィリスに見守られているような不思議な感じがした。
呪文を唱えながら近づいてくる長老の顔がとても恐い。
泣き出しそうになったけど、“がんばれ”と見守るお父さんとお母さんを見つけてすぐに怖くなくなった。
それにメフィリスも見てくれている。
長老の大きな手が私の頭の上に乗っかって緑色の優しい光が私を包み込んだ。
「フムフム」と、呪文を唱え続ける長老は髪がくしゃくしゃになるほどの強さで私の頭を撫で回してきた。
「痛い」
「我慢するんじゃ。フムフム、フムフム⋯⋯」
占っていた長老が突然、カッと目を大きく見開いた。
「なんと⁉︎ この子は⋯⋯」
驚きのあまり後退りした長老はゴクリと息を呑んで続ける。
「⋯⋯鎚(つい)の武器じゃ!この子は鎚(つい)の武器じゃ!」
長老の言葉に村の人たちは大きな声で叫んだ。
男の子たちも目を丸くしている。
お母さんは、お父さんに抱きしめられながら嬉しそうな顔で泣いている。
“鎚(つい)の武器”それはメフィリスが変身した英雄クライムの武器と同じ。
「私がメフィリスと同じ鎚(つい)の武器⋯⋯」
嬉しかった。思わず椅子から飛び上がりそうになるくらい。
そんな暖かかった日のことを思い出しながら目を覚ますとなぜか道の真ん中で倒れていた。
頭がもうろうとしていてはっきりと思い出せない。
「⁉︎」
パチパチと聞こえてきた音にハッとさせられる。
振り向くと私の住んでいた家や村が燃え盛る炎に包まれていた。
盗賊たちだ。
思い出した。
村を守るために盗賊と戦ったお父さんたちは背中から斬られたあと、
首を鷲掴みにされながらむりやり武器の姿にされた。
お父さんーー
お母さんーー
そして優しかった村の人たちの笑顔が頭の中でいっぱいになる。
「お父さん! お母さん! どこ?どこにいるの?」
走って村の広場まで探しに行くとそこには武器の姿のまま、まるで墓標のようにして
地面に突き刺さっている村の人たちがいた。
「お父さん!」
「お母さん!」
並んでいる2本の剣に向かって何度も呼びかけた。
だけど返事を返してくれない。
「戻ってきて」と、声を掛け続けていると背後から忍び寄ってきた影が私の首を鷲掴みにした。
「ああ⋯⋯」
闇が私を飲み込んだ。黒く染まっていく視界に禍々しい”槌“の姿が浮かんでくる。
***
再び目を覚ますと盗賊のアジトに囚われていた。
縛られているわけでもないのに体が思うように動かない。
しかも私の下敷きになっているのは武器の姿のまま死んでしまった村の人たち。
村を襲った盗賊たちは目の前でお酒を飲みながらはしゃいでいる。
「アームズ族は殺してから武器にすると使い物にならないんだな。見ろこの剣折れちまっている」
「こっちのは刃こぼれがひどい」
「ディノス様、よかったんですか?」
「構わんさ。全て炉の中入れて溶かすからな。知っているか? アームズ族の体から取れた鉄を使って打った剣は、世界を支配する最強の剣になると聞く。
出来上がれば帝国は安泰。世界はフェンリファルトのものだ」
高笑いをあげるこの男がおそらく盗賊たちの頭目。
盗賊たちは砂埃で薄汚れた格好をしているのに、ひとりだけ金色の刺繍が入った高そうな服を着ている。
「大変です! 冒険者どもが乗り込んできました」
「何? おのれネルフェネスめ。嗅ぎまわっていると聞いていたがこのようなときに。お前たち! 手に入れた武器を急いで馬車に詰め込め!」
「「「はっ」」」
***
村の人たちと一緒に私も暗闇の中へと放り投げられた。
さっきの話が本当なら私は溶かされてしまう。
なぜだろう? ⋯⋯涙が止まらない。
メフィリスと同じ鎚(つい)の武器だと言われた。
私の体が弱いせいで心配そうな顔ばかりしていたお父さんとお母さんがはじめて喜んでくれた。
なのにまだメフィリスのような強い武器になれていない。
それにまだ英雄クライムのような主人(あるじ)に出会えていない。
「だから⋯⋯誰かここから出して。私を鎚(つい)の武器にして⋯⋯」
「ぎゃあああ!」
さっき私を放り投げた男の叫び声だ。
するとカーテンが開くように光が差し込んできた。
光の先でお兄さんくらいの男の人が驚いた顔で私を見つめている。
黒い髪に、黒い瞳、見たことのない種族だ。
***
黒ずくめの男の人は私を抱えて走った。
「ルーリオ! シルカ!見てくれ!」
盗賊と戦っている青い服の男の人とポニーテールの女がキョトンとした顔で私を見る。
2人ともこの黒ずくめの男の人と同じくらいのお兄さんとお姉さんだ。
「ハルト、どうしたのその子?」
「よくわからないけどハンマーが女の子になったんだ!」
「それってまさかアームズ族⁉︎」
「なんだよそれ?」
「持ち主になると伝説級の武器に変身してくれる種族だよ。ハルト」
「てことはこいつら」
ポニーテールの女が盗賊たちを睨んだ。
「気づいたか」
頭目の男がニヤリと笑う。
「気をつけてハルト。こいつら相当な手練れよ。ただの盗賊とは思えない」
「俺たちも乗り込んできた冒険者がこんなガキだとは思わなかったぜ。ハハハハハッ」
「ディノス様、せっかくだから戦利品を試しましょうか?」
「そうだな」
盗賊たちが取り出したのは盾と弓矢と剣の3つ。どれも生きているアームズ族だ。
「なんだよあの武器。強さがビシビシと伝わってくるぜ」
「ちょっと⁉︎ これってむやみに仕掛けられないんじゃない?」
「どうするハルト⋯⋯」
「何かクリティカルが決まる攻撃が出せないと有利に立てないな⋯⋯そうだ! 」
黒ずくめの男の人は私の方を向いて「名前を教えてくれないか?」と聞いてくる。
「⋯⋯私はイリス」
「そうか。俺はハルトだ。頼みがある俺たちのために武器になってくれ」
不思議だ。このハルトという人物が私が想像する英雄クライムの姿と重なって見えてくる。
「⋯⋯想像してほしい。私は槌(つい)の武器」
「ん?⋯⋯」
「ハルト、これって持ち主が想像した武器の形になれるってことじゃないか?」
「槌(つい)? そうか打撃系の武器か!」
ハルトが持つたくさんの想像が私に流れ込んでくる。
「イメージするんだ。強い武器、強い武器⋯⋯“ファンタルスフレイム“に出てきたような強い武器⋯⋯」
ハルトが「そうだ」と閃いた瞬間、ハルトの強い想像が私を飲み込んだ。
「できた! 打撃系最強”メイス“だ」
「「おお」」
「でかい⋯⋯」
「くッ⋯⋯だが、貴様らのようなガキがアームズ族の武器を使いこなせるわけがない!おとなしく武器を捨てろ!」
「ディノス様、この盾重くて持ち上がりません!」
「は?」
「俺のもです!この弓硬くて全然引けません」
「何をやっているんだ! こうなったら私の剣で⋯⋯⁉︎ なぜだ! なぜ鞘から抜けない」
頭目の男が剣を抜くのに必死になっているうちに、ハルトは私を担いだままジャンプして男の目の前に迫った。
「なッ⁉︎」
ハルトは高く飛んだ状態で私を横に振り払う。
真横から、次第に男の顔が潰れていって砕けた瞬間これがハルトと私、2人のはじめての共同作業だった。
***
「もう! 2人の馴れ初めを聞いているんじゃないの! もっと大事なことあるでしょ! どうしてハルト君の髪が白くなったのか?とか」
「アマネ、うるさい」
「はぁ?」
地上ではクライム・ディオールがイリスと月野木天音が落ちた裂け目を見下ろしていた。
「やれやれ、どこに行ったかと思えばイリス。こんなところにいたのか。
しかも月野木に余計なことを。まぁいい。そろそろ頃合いだ」
クライムは広げた手のひらに小さい紋章を発現させてその中からロープを垂らす。
「そんなに知りたかったら見せてやる。俺が見てきた絶望を」
あかんべーして反抗するイリスに天音がムキになっていると
2人の目の前に一本のロープが垂れてくる。
「なにこれ?」
と、天音が手に取り見上げると、地上から落下してくる紋章が天音とイリスの頭上に落ちる。
「⁉︎」
つづく
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる