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来たる魔王軍とはみだしモノたちのパーティー

第41話「ゴブリン襲来」

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月野木や東堂たちが戻るまでの間、俺とレルクは住むところや家族を失くした人たちのために
炊き出しや瓦礫の撤去といった救援活動をはじめている。
「東坂君、こちらのテントの方々の治療終わりました」
「ありがとう」
とくに椿翔馬(つばき しょうま)はヒーラー能力を活かして大いに活躍してくれている。
「なぁ椿、少しは休んだらどうだ? ここに来てから働き詰だろ」
「僕は大丈夫です。何かしてないと⋯⋯」
「落ち着かないーーだろ?」
そう投げかけると椿の表情が曇り無言となった。
「⋯⋯」

***
あれは瓦礫の山と化した市街地を探索していたときのことだ。
まるでとてつもない災害が起きた後のような光景ーー
生きている人がまだ残っていないか俺とレルクが声を枯らしながら探していたら
そこへ紡木を抱えた椿が血相を変えて現れた。
「紡木さんが大ケガをしたんだ!」
椿の腕の中でぐったりとしている紡木の姿に驚いた。
「紡木⁉︎」
「僕のヒーリングで手当てをしたけどそれから意識がない」
普段は落ち着いている椿がめずらしく取り乱していて今にも泣き出しそうな声で俺にすがりついてくる。
「東坂君、僕はいったいどうしたら⋯⋯」
「とにかくわかった静かなところに寝かせよう」

***
それから4、5日経過したが紡木の意識は戻らない。
今もテントの中で眠ったままだ。
それから椿は気を紛らすようにケガした人たちの手当てに当たっている。
ずっと働きぱなしで。
椿はときおり紡木が寝ているテントをのぞいては心配そうに彼女を見つめている。
そんな椿を見かねた俺は持ってきたカップを背中に当ててやって声を掛けた。
「コーヒー、飲めよ」

***
テントの中に入って椿と腰を据えて話し込んだ。
「この世界にもコーヒーはあるんですね」
「ブラックだけどな」
「苦いな⋯⋯」
「我慢して飲め。砂糖は貴重なんだ。それで落ち着くはずだ」
「はい⋯⋯」
「心配か? 紡木のこと」
「はい⋯⋯」
「お前はよくがんばってるよ」
今にも崩れだしそうな椿を見て、頭を撫でてやることしかできなかった。
ふとーー
テントの外で騒つく声がしていることに気づいた。
「なんだ?」
俺たちが飛び出していくと、レルクが息を切らせて駆けて来る。
「どうしたレルク⁉︎」
「ゴブリンだ! ゴブリンが集団で攻めて来た」
「なんだって⁉︎」
「とにかくたくさんのゴブリンが避難していた人たちを襲いはじめている」
「東坂君、この避難所には戦える兵士はいないよ」
「おいおい街の警備兵たちは何してんだ⁉︎」
「おそらくだけどもうやられたんじゃ⋯⋯」
そうこうしているちにゴブリンの集団が奇妙な笑い声を上げてわんさかと出てきやがった。
「チッ、ザコモンスター相手なら俺だけで十分だ」
ゴブリンの武器は木でできた棍棒に石を棒に括り付けただけの斧ーー
よし、これだったら!
「纏えよ雷(いかずち)、放て雷撃!」
全身に雷(いかずち)を纏わせ、その雷(いかずち)帯びた拳でゴブリンをブン殴る。
「ピギャ!」
やはりたいしたことはない。
紋章の力なら勝てる。
また1匹、1匹と群がってくるゴブリンを片っ端から殴り、飛びかかってくるヤツには回し蹴りでーー
俺に触れれば打撃と一緒に雷(いかずち)に撃ち抜かれる。
どいつも一撃即死だ。だけど数が尋常じゃない。
ならその場にあった手頃な石を投げつける。
雷(いかずち)を帯びた石が一気に4匹の頭をぶち抜く。
高校球児舐めるな。
いいか。雷(いかずち)てのは飛び道具にもなるんだぜ。
にしてもまだわんさかいやがる。一体何匹いるんだこいつらは。
うじゃうじゃうじゃと。
「だったらこれでどうだ!」
右手を地面にあて、眩い発光とともに稲光を走らせた。
稲妻が地面をえぐりながら走り、そして空からも。

”雷撃号砲“

轟音とともにゴブリンたちを雷(いかずち)が撃ち抜く。
これである程度の数が攻撃できる。
だが、体力の消耗が⋯⋯
「ハァハァハァ」
まずい、あがった息が戻らねぇ。
今のでまだ3分の1ってとこか⋯⋯
さすがに疲れる。
椿がかけてくれているヒーリングが追いつかない。
クソッ、めまいまでして来やがった。
こいつらどこから湧いて出て来てんだよ。
側で戦っているレルクも、数に押されて限界がきている。

”ゴン“

「!」
鈍い音がした。俺の背後にいた椿がゴブリンに殴打され倒れ込んだ。
「ツバキーッ!」
まずいヒーラーがやられた。
「大丈夫か、椿⁉︎」
「東坂君ごめん⋯⋯」
「すまない。俺も油断した」

「ぎゃああああ」

今度はテントから悲鳴が聞こえて来た。
椿から手当て受けていた兵士たちが次々にゴブリンの棍棒に殴られて殺されてゆく。
なのに俺は疲れて一歩も動けない。
何やってんだ俺、動け! 地面についた膝を上げろ!
こいつらに囲まれている場合じゃない。
そのときだったーー
俺の後頭部に衝撃と鈍痛が襲う。
背後から来たゴブリンに殴られた。
脳震盪で目の前がボヤける。
そしてゴブリンたちの一部が、紡木が寝ているテントへ近づいていく。
椿の顔に戦慄が走る。
「よせ⋯⋯」
ゴブリンたちはテントの入口をめくりケタケタと笑いながら中へと入りはじめる。
「そこには紡木さんが! よせ、やめろ、モンスター!」
椿が叫び声をあげた瞬間、突然ゴブリンの頭部が胴体から離れて宙に浮いた。
一瞬の出来事で俺たちには何が起きたかわからなかった。
するとテントの中から銀の防具を身につけた女騎士が出てきた。
手に握られたレイピアを構え、「ドートス家が一子、ミレネラ・ドートス! 推して参る!」
ミレネラと名乗る女騎士は、剣先が見えない速度でゴブリンを斬っていく。
自信に満ちた彼女の笑みと血飛沫が交差しながらゴブリンたちが次々と倒れてゆく。
しかし彼女に見入っている場合じゃない。
俺たちを囲むゴブリンがハイエナのように今かとくたばるのを待っている。
「趣味が悪いぜ⋯⋯」
ケタケタ笑うゴブリンを睨みつけながらあきら目にも似た言葉を吐いた。
ゴブリンはトドメの一撃を刺すために、棍棒を高く振り上げる。
”ここまでか“と覚悟した瞬間、俺とゴブリンの間を遮るようにして氷壁が現れる。
大きく広がる氷壁は俺と椿を守るようにしてサークルを形成する。
「いつのまにこんな芸当ができるようになったんだ。東堂」
「ヘッヘ~ん。私だって強くなってんだから。修行の成果ってやつ」
「調子に乗んな」
正直、帰ってきた東堂が頼もしく感じる。
「天音だって、強くなったんだよ」
氷壁にできた隙間から月野木の姿が見える。
剣を正面に構えて、1匹づつ着実にゴブリンを倒している。
どうやらレルクも駆けつけたミザードのおかげで無事のようだ。
安心したのか急に意識が遠のきはじめた。
「さっさと椿に手当てしてもらって立ち上がりなさい」
「東坂君⋯⋯」
椿が力を振り絞り伸ばしてきた手を負傷した俺の頭部にあて、ヒーリングをかけてくれた。
東堂の喝と椿の能力が俺に再び立ち上がる力をくれた。
俺は東堂に背中をあずける。
「せーのでいくから。これから氷の壁が消えてあいつらが出てくる。そしたら一気に決めるよ!」
「ああ」
東堂の合図で氷壁が一瞬にして砕け、鋭利な氷塊へと変わり、宙に浮遊する。
俺はその氷塊に雷(いかずち)を介して稲妻の雨をゴブリンどもの頭上へ落とす。
東堂も氷塊を手で操って、ゴブリンの頭部を貫ぬく。
2人の連携撃”雷槍“が群がるゴブリンを一掃した。
「ねぇ、いつから技名叫ぶようになったの?」
「雰囲気だ。ノリだよ」
「なんだか思い出すよね東坂。右条と“ファンタルスフレイム”やってたころ」
「ああ。寝落ちするまでログインして夢中になってたな」
「本当、好きだよね男子って。どうでもいいところで技名言うの」
「お前だってようもないところでずっと詠唱を唱えていたじゃないか」
「はぁ⁉︎ あれは!」

***
王国が滅び、堰を切ったように亜人たちが暴れ出した。
はじめて聞かされた時はにわかに信じられなかったがゴブリンたちが人を襲う様はまさに世界の滅びを予感させられる。
あのお嬢さんによって戦士として再び戦場に立つことになったが、どうやらこの私にも果たすべき役割が残っていたのは事実のようだ。
しかし月野木天音といったかあのお嬢さんは。
先ほどからブツブツと繰り返しながらゴブリンをさばいてはいるが⋯⋯
「剣は無闇に振ってはダメ。当たる攻撃も当たらなくなる。それに体力だって無駄に消費する。剣先で相手を意識しながら体の力を抜いて剣の重さに習っておろすだけ⋯⋯」
ルメリアと名乗っていた女冒険者から教わったことをひとつひとつ丁寧に履行しながら戦っている。
それだけでもたいしたことだがそれではーー
見かねた俺は咄嗟にトライトエールで彼女の側面に回り込んだゴブリンを頭から真っ二つにした。
「ディルクさん!」
戦い方が正直過ぎる。イレギュラーな動きをする敵には対処できない。とくに死角から襲ってくるやつとかは。
「周りをよく見るんだ。敵は必ず見える範囲から襲ってきてくれるほど生易しくはない。必ず意表をついてくる。
そのことを常に意識しながら戦え!」
「はい!」
柄にもなくアドバイスした私は、うっとおしいほどに群がるゴブリンを一振りで一掃してみせた。

***
パーピーが空をくるくると周りながら知らせてくれる。
「ゴブリンが全滅、全滅です! リグリット村の領主たちがゴブリンを全滅させました」
「!」
現実になった。恐れていたことが、やっぱりあの女はクライムの命取りになる。
はじめはうっとおしい虫にしか思ってなかったけど、今は目障り。潰したい。
「イリス様、どうかされました? 顔が険しいですよ」
「うるさい」
おせっかいなパーピーだ。
もう1匹別のパーピーが知らせにやってきた。
「ケモミミ族全滅! ケモミミ族全滅!」
ありえない。獣人(ジューマー)が人間にやられるなんて。
「クモの男がケモミミ族を壊滅。モコを連れ去る」
みんながいっせいにクライムを見る。
パーピーの知らせを聞いたクライムの形相がはじめて魔王のそれとなっていた。
他の亜人たちは震え上がっているみたいだけど私はその顔に嬉しくなった。

つづく

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