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来たる魔王軍とはみだしモノたちのパーティー

第39話「毒の紋章」

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『稲葉君、君もすでに聞き及んでいると思うが魔王クライム・ディオールを名乗る右条晴人君が亜人を連れて暴れている』
宙に浮かぶ紋章がモニターとなって陽宝院の顔が映し出している。そしてもう一つには鷲御門。
俺は機嫌悪くモニター越しの2人を睨む。
『紡木君が重傷を負ったそうだ。そして田宮理香君が殺された。即刻、右条君を止めてもらいたい。月野木君もすでに戦う準備をはじめている』
『必要なら紫芝たちを使え』
『それと鷲御門とも話しあったことなんだが相違はないことを確認した。可及な事態だ。君の7人会議入りは一旦見送る」
「おい! それじゃあ俺はなんのためにーー』
『すまない。このままの勢いで右条君に侵攻されたらフェンリファルト皇国も穏やかではいられなくなる』
“理解してくれ”と、最後に言い残して2人との通信は途切れた。
右条晴人⋯⋯
俺はノリが悪い奴を見るとムシャクシャする⋯⋯
中学のときだ。
「センセー、吉仲が歌うって」
音楽の授業で隠キャな奴をクラス全員の前でひとりで歌わせた。
たどたどしく歌うあいつが面白くて笑ってやった。
学校にいる時間は長くてダルい。だからクラスで浮いている奴をイジるのはいい刺激になった。
クラスの奴らは俺のやることを真似る。
俺が何かをはじめればクラスの奴らもはじめる。
この漫画が面白いと読めばクラスの奴らも読みだす。
俺が誰かをイジり出せばクラスの奴らもそいつをイジる。
同調圧力ってやつか知らないが、そうやって俺はカーストの上位にいた。
だからこそノリが悪い奴がいるとムシャクシャする。
「稲葉君やめなよ! 吉仲君がかわいそうじゃない」
ウザかった。クラスが盛り上がっているのに水を差してくるその女子が。
俺が気に入らないと言えばみんながそいつのことを気に入らなくなる。
卒業する頃にはその女子は不登校になっていて、最後まで顔を会わすことはなかった。
高校生になってもだ。
腹立たしいがクラスに必ずひとりノリが悪い奴がいる。
右条晴人ーー
あいつはいつも眠たそうな顔で教室に入ってきては我関せずといった態度で席にポツンと座っていた。
入学したばかりの頃はフレンドリーに絡んでみたけど反応が薄い。
すぐさまこいつとはソリが合わないと確信した。
しかもよりによってクラス対抗球技大会では同じチームになってしまって、結局あいつのせいで試合には勝てなかった。
その上、恥までかかされた。
吉仲みたいにイジり甲斐があればまだ可愛げがあるが、右条の場合、月野木や東堂、東坂といったカースト上位の奴らとつるんでいてタチが悪い。
どう絡んでも、上位組に守られているからかあいつはいつも強気だった。
しかも高校生になってからの俺はカーストの上位ではなかった。
陽宝院と鷲御門⋯⋯いるだけでクラス全員が2人を慕う。いるだけでみんなが2人のためにがんばろうとする。
何をするわけでもないんだが、いるだけでうちのクラスはまとまる。
2人だけじゃない月野木に紡木に東坂⋯⋯高校の同級生たちにはすげぇ奴らがいっぱいいる。
気づいたら俺はカーストの中盤に甘んじていた。
だから高校生生活は調子が狂ったように感じて過ごしていた。
この異世界に来て、上位に上がれるチャンスが巡って来たと思ったが、また右条だ。右条がまた俺の邪魔をする。

***
翌日のことだ。しくじったクロム・ハンクのために匿ってもらっているゲイテル・ルドワルド男爵の領地へ出向いた。
男爵の屋敷で俺と対面するなりハンクは土下座して謝ってきた。
「申し訳ございません。亜人どもに屈し、領地まで奪われこうしてルドワルド様にお世話になる始末⋯⋯
知事殿に合わせる顔がありません」
白々しい⋯⋯
「エイドリッヒ公爵とも勝手にあっていたそうだな」
「そ、それは」
会って今日一の汗がハンクの顔から滲み出た。
なんだか愉快になってきた。
クロム・ハンクという貴族のおっさんはイジり甲斐がある。
だから気に入って使ってやった。
ときおり覗かせる下心が分かっていてもな。
「なぁ、ルドワルド男爵って、俺に楯突いていたアルマンの家臣だよな? 」
「は、は⋯⋯」
「俺はアルマンの奴らは全員殺せと言ったはずだ。どうしてのうのうと生きてお前を匿う?」
「おそれながらルドワルド男爵は先のアルマン征伐の際にはお味方して頂きました。しかもとても優秀なお方です。
必ずや知事殿のお役に立つと考えて同盟を⋯⋯」
「ーー分かった。もういい理解した」
「では!」
「だったらルドワルドを殺せ」
「は?」
「そうすればお前の行いは全て許してやる」
「ち、知事殿そ、それでは⋯⋯」
「どうした? 俺を殺せると思ったか」
「⁉︎ な、何を!」
「だったら、この屋敷を外から取り囲んでいる奴らはなんだ?」
「取り囲まれている⁉︎ なんのことですか? 中に居ては外の様子などわかりません」
「俺にはわかるんだよ」
俺はこの男に舌を出して紋章を見せつけてやった。
「おおかた俺を殺して魔王に差し出せば見逃してくれるとでも考えたんだろ? 
エルドルド伯爵が殺されたときもそうやって俺たちについたもんな。
だけど今度ばかりは通用しなかったな」
俺は右手を正面に翳して紋章の力を圧縮したエネルギー弾を放った。
壁を破壊し庭を一望できるほどの大きな穴を開けてやった。
案の定、武器を構えた屈強な男たちが待ち構えていた。

***
穴を潜って、庭まで進みでるとさっそく鉄製の仮面を付けたムキムキの大男6人が巨大な斧を担いで俺を取り囲んだ。
張り合うわけじゃないが俺も上着を脱ぎ捨てて上半身を晒した。
そして”スパイダーフォーム”と囁く。
すると櫛状に尖った毛が俺の上半身から顔の頬にかけてを覆い尽くす。
大男たちは俺の倍以上あろうか? 担いでいた斧を振り上げて俺に向かって振り下ろしてくる。
それを姿を消すようにして躱す。
地面に叩きつけられた斧は芝生の生えた庭の土をせり上がらせて地形を変えた。
その瞬間を目の当たりにしただけでも威力が伝わってくる。
俺は大男の鼻先に現れて再びその姿を見せてやった。
こいつらの目には瞬間移動したかのように映るだろうな。
だけど瞬間移動なのは事実なんだよ。
俺が宙に浮いたままの態勢でそのまま頭部目掛けて蹴りを入れてやると
大男の頭部はスイカが割れるかのごとく弾け飛び散る。
どんなに鍛えたって俺にとっちゃ人間の頭はやわらかすぎる。
さすがの屈強な大男たちもこの光景に狼狽えた様子。
しかし戦意を持ち直して武器を振り上げて俺に立ち向かってくる。
その勇敢を通り越した蛮勇を讃えて、俺も余裕の笑みで返してやる。
俺に肉弾戦で挑んだらどうなるか? それはてめぇがバラバラに崩れ去り肉塊と成り果てる。
屋敷の屋根と庭の木々を結ぶように張り巡らした半透明の糸に赤い鮮血が滴り、その姿があらわとなる。
「アリアドノネの糸。気をつけなきゃ大ケガするぜ。ああ、てかもう聞こえないか。みんな死んじまったもんなぁ」
近寄れないと分かった残りの奴らは、今度は遠距離攻撃に切り替えて一斉に弓矢を放ってきた。
お次は”スコーピオンフォーム“に身体を変化させる。
今度のはサソリの殻のような硬い表皮で覆い、そしてサソリに酷似した巨大な尻尾が生やす。
硬い表皮は飛んできた弓矢を弾き返し、尻尾を鞭のようにしてしなやかに振るえば奴らは次々に喉を抑えて苦しみだす。
毒がよく回ったみたいでついには口から泡を蒸して生き絶えた。
結局、こいつらを倒すのに1分も掛からなかったか。
そして何よりも俺の強さを目の当たりにして狼狽えるハンクの顔が滑稽だ。
別に隠していたわけじゃないさ。お前が勝手に侮っていただけだ。
「まだショータイムは終わらないぞ」

***
俺はハンクを抱えてルドワルド領中心部の市街地に繰り出した。
大きな噴水が目立つ広場は大勢の人で賑わっている。
絶好の機会だ。
今度は“コブラフォーム”に変身した。
この姿は下半身が蛇のような尻尾と化し、上半身も蛇の鱗に覆われる。
俺は全身から紫色の煙を撒き散らす。
行き交う子供から大人、老若男女が苦し出して、見る見るうちに身体が溶けていって
衣服だけが道端に残された。
「あああああああああ!」
この程度の光景にいいおっさんが涙を流して聞いたこともないような呻き声を上げた。
「どうした? 今度はお前が殺す番だ。ルドワルド男爵を」

つづく






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