異世界で闇落ちした俺は大好きだった彼女の宿敵(ラスボス)となりました。

悠木真帆

文字の大きさ
上 下
18 / 100
詠凛学園2年B組とはじまりの国

第16話「魔物たちの晩餐」

しおりを挟む

地面に置かれた鉄製の四角い箱。
箱を囲んで甲冑を着た男たちが険しい表情で座っている。
男たちが見つめるその箱はジャン・リコルスの首が納められている首桶。
その一方、上座に座るレオン・ハインストンは涼しい顔で書状に目を通している。
レオン率いる部隊は拠点としている砦に幹部たちが集い評定(ひょうじょう)が開かれている真っ只中。
「ダルウェイルの王様はエルムの森での軍事行動が仇討ち目的ならば目をつむるとある。
あの王様も森に住み着いた輩にそうとう手をこまねいているようだ」
「天から伸びた光の柱。あそこから現れた者たちはいったい何者なのか⋯⋯」と、幹部のひとりゼスル・シャルホンスが首を傾げる。
「報告によればまるで騎士学校に通う学生のような身なりをした若者たちとあります」と、同じく幹部のルクス・ネルムが口を開く。
「侮ることはできませんぞ」と、レオンのとなりに座るエルドルド伯爵が答える。
「エルムの森攻略のためにギルドに金を注ぎ込んで冒険者たちにモンスター狩りをさせていましたが一向に捗らなかった。
なのにその者たちは現れてから一週間も経たないうちに森のモンスターを減らしています」
「なんにせよ。リコルス殿の仇は取らないとならん」
そこへ「師団長!」と、幹部のひとりシスト・ヴィラムが深刻な表情をしてやって来る。
「攻撃を受けた西の守りが崩れかけております。今すぐ援軍を!」
「なんだと⁉︎」と、幹部たちに衝撃が走る。
「敵方はリコルス殿を討った勢いにのり西の守りだけでなく、東の守り、中央の守りと展開する3方の守りを同時に攻めて来ております」
幹部のルイール・アルマンが立ち上がる。
「敵の数は?」
「それが各方を合わせて18⋯⋯」
「18⁉︎ たった18を相手に我が方が苦戦しているのか?」
「敵は少数でありながら手から火を出したり、水を出したり、怪しげな妖術で次々に我が方の兵を討ち取っているしだいです。もはや魔物」
「ほう」と、評定中ずっとすました態度でいたレオンが身を乗り出して興味を示す。
「なるほど。光の柱から現れた者たちはエルムの森がつくりだした魔物。しかも“人の姿をした魔物”とは。おもしろい」
と、笑い声をあげるレオン。
ピリつく雰囲気の中、不謹慎とも感じるレオンの態度に幹部たちは冷たい目線を送る。
「師団長!もはや守りの兵だけでは保ちません。ここは我らが一斉に出陣して敵を制圧致しましょう」
 ルイール・アルマンは進言する。
「そうです!」「師団長!」と、他の幹部たちも次々に声を上げる。
レオンは幹部たちの顔を見回して考えを口をする。
「兵をひきあげるぞ」
「は?」
返ってきたレオンの言葉に幹部たちは全員耳を疑った。
「師団長、本気でおっしゃられているのですか?」
ルイールは語気を強めて疑問を投げかける。
「もちろんだ」
「今、戦えば敵を必ず押し返せます!なぜ兵をひく必要があるのですか」
「なぜそう言い切れるんだ。相手は魔物だ。打って出たのに全滅では話しにならないだろ」
「ひきあげたところでどのようになさるおつもりですか? まさかこのまま王都に逃げ帰るなどと」
「それはない。この砦に籠る」
「籠城? 戦わず引籠もるなどそれでは誇り高きウェルス王国騎士の戦い方とは言えません!」
「俺は無駄死にはしたくないんだ」
「臆病風に吹かれたか! 」と、ルイールは声を荒げる。
「あちらが分かれて攻めて来ているのにこちらまでも兵力を分けて戦う必要はない。一箇所に誘い込んで戦った方が手っ取り早い」
「アルマン殿。レオン様の考えにも一理あります」と、エルドルド伯爵が仲裁に入るが興奮したルイールはレオンを罵倒する。
「我慢ならん。所詮はハインストン家の倅。身分卑しい成り上がり者め。
名門貴族家のリコルス殿が討たれたというのに立ち上がれぬとは。もう貴様の指示などに従えるか!」
ルイールはレオンを激しく睨みつける。
しかしレオンは涼しい顔のままだ。
そこへ「ご報告申し上げます!」と、伝令兵が入って来る。
「先ほど西の守りが落ちました」
「もはや猶予はない! 兵を出せ」と、ルイールは兵たちに檄を飛ばし出てゆく。
ルクス・ネルムとシスト・ヴィラムもルイールの後に続く。

***
「よくおっしゃられた。アルマン殿」
レオンに仕える幹部たちはウェルス王国では名家に数えられる有能な貴族の嫡男たち。
みんな下級貴族出身の10歳以上も若いレオンが上官であることに不満を持っている。
「名門の聖騎士道学院では優秀な成績だったかなんか知らぬが。姫君とご学友だったからという理由であのような若輩者を我らの師団長に据えられてはかなわん。
我らに死ねと言っているようなものだ」
「エルドルド公もだ。よく黙ってあの者の側に付いている」
「アルマン殿が立ち上がるなら、このルクス・ネルムがついて行きます」
「我らもです」
「頼もしい。まずは西の守りを取り返す! ついて参れ」
「おう!」

***
”カンパーイ“と、回復効果のある水が入った木製のジョッキをぶつけ合って盛り上がるミーティング棟はちょっとしたパーティー状態だ。
この日、私たちのクラスはウェルス王国にはじめて攻撃に出た。
戦闘系の子たちを中心に3班に分けて、3つあるウェルス王国の門を攻撃した。
どの班が先に門を壊すか競いあった結果、桂君たちが先に“西の守り”と名付けられた門を破壊することに成功した。
私はおにぎりを作って、帰ってきた桂君たちに振る舞った。
「米にもこのような食べ方があるのだな」と、お米を提供してくれたニュアルちゃんも感心した様子で口にしてくれている。
なんだかうれしい。
「月野木さんのおにぎりうめぇよ!もう一個食べていい」
「もちろん。みんな目一杯働いたあとだからたくさん食べてね」
私にはこれくらいしかできないけど、みんなのためになるならなんだってする。
「すごい。天音の絶妙な塩加減サイコーだよ」
「あかね頰ばりすぎ」
あかねの顔を見て私は思わず吹き出した。
こんなに笑ったのひさしぶりかも。
「この塩はトゥワリスという国の名産だそうだ」
お昼を食べに陽宝院君と鷲御門君もやってきた。
「その他の食料や香辛料を手に入れるために、肥後君と佐倉先生には密かにそのトゥワリスに出向いてもらう予定だ」
「お金はどうするの?」
「右条君がこの世界でのお金の稼ぎ方を教えてくれた。今日も森を出てひとり里の方へ下りた」
「それで最近姿を見ないのね」
おとといから行方をくらませていたハルト君が今朝方、陽宝院君の前に現れて金貨がたくさん詰まった袋を渡してくれたそうだ。
「里には冒険者ギルドというのがあって、そこにある掲示板にはエルムの森に生息するモンスターの駆除を依頼する貼り紙がたくさん貼ってあったそうだ。
右条君はみんなが倒したモンスターの一部を持って換金してきてくれている」
なんだかハルト君はいつも私たちの先回りをしている。
「お金を増やすのは肥後君が適任だ。あとは彼に任せるつもりだ。それとここだけの話なんだが、佐倉先生はしばらく不在になる。
その間に代わりとなる僕たちの国の代表を決めないといけない。それを月野木さんに任せたいんだ」
「え! 私⁉︎ 」
私は“ムリムリ”と、全力で首を横に振った。
昨晩、陽宝院君は自分たちの国をつくろうと宣言した。
私に国の代表なんて荷が重すぎる。
「月野木さんはみんなから慕われている。みんなをまとめることだってできる。資格は充分だ。それにその方が戦えない君を守りやすい」
守られるために国の代表に推薦されるとはうれしいような情けないような⋯⋯
「わ、私、まだ帰ってきていない班の分のおにぎり作らないとだから。調理場に戻らなきゃ」
私は回答を濁してその場を離れようと立ち上がる。
ふと、みんなが盛り上がって食事をしている姿が目に飛び込んでくる。この光景がとても尊く感じた。
こうして私たちが心から笑って楽しみ合う日々はこれが最期となった。

***
ダルウェイル国王はニュアルが暮らす屋敷を訪れて2階のバルコニーから
エルムの森を見つめている。
ニュアルの不在にギールが頭を下げる。
「ニュアル様は、あの者たちにご執心な様子で」
「かまわぬ。歳が近い者たちと遊ばせておけばよい」

***
レオンは地図を目を通しながら策を練っている。
「本当にアルマン殿たちだけで行かせてよかったのでしょうか? ここは全兵を出すべきだったのでは」
と、ゼスル・シャルホンスが進言する。
「この作戦を成功させるには誘い役が必要だ」
レオンは意に返さない。
「さて、誰が誘い役を引き受けてくれるのだろうか」と、考えていると「アルマン殿が戻って来ましたーー」と、伝令兵の声。
レオンとゼスルはすぐさま物見櫓に駆け登る。
血相をかいたルイールが馬に乗って駆けてくる。その背後から、翼竜やサイ型のモンスターの群れと詠凛学園の生徒たちが追いかけてくる。
「さすがアルマン殿、自ら誘い役を引き受けてくれるとは」
レオンは不敵な笑みを見せる。

つづく



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

処理中です...