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婚約宣言。

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カシス・フォン・カクテル第二王子、燃えるような赤い髪に深い海のような碧い瞳。

カクテル国、トニック王太子のスペアである。故に彼はトニックが婚姻をするまで婚約者を持つことはできなかった。

王太子に時のスペアである為に。


「カシスが、新たな婚約者だと? 」
「結婚おめでとうございます、兄上。」
カシスはバレンシアの横で微笑みながら、兄に祝福の言葉を告げた。

「ああ…… 」
弟の祝福の言葉に満更でもなく喜ぶトニック。しかしカシスの次の言葉で、戸惑う。

「兄上がをしてくだされたおかげで、私は『初恋の君』と婚約することができました。礼を言います。」
カシスは兄トニックに頭を下げた。兄トニックとその場にいる者はカシスの告白に驚いた。

バレンシアがカシスの『初恋の君』であることに。

「まあ、そうでしたの? わたくし、ミジンコも気づきませんでしたわ。」
バレンシアは何の感情もなくカシスを見た。

「ええ、貴方の中のミジンコが愛に変わるよう努力をします。」
「努力をする子は良い子ですわ。」
よしよしと、バレンシアは自分より高い背の新たな婚約者の頭を撫でる。バレンシアはカシスに対しても、恋愛感情はミジンコもなかった。

「貴方の中の弟が、男に変わるよう努力します。」
「頑張るのよ。」 
よしよしと頭を撫でながら、他人事のように微笑むバレンシア。彼女にとってカシスは婚約者の弟、つまり弟であった。は。

「これからは積極的に行かしてもらいます。バ、バレンシア。」
「どんと来い、ですわ!! 」
真っ赤になって『愛しの君』の名を呼んだカシスに、バレンシアは胸を叩いて応える。やはり何処か他人事だ。子供の頃から婚約者のいたバレンシアは、恋愛感情は全くもって疎かった。

バレンシアは恋愛をする必要がなかったからだ。恋愛より、将来王妃として国をどう導くのかの勉強で忙しかった事でもあった。

「バレンシア。」
「はい、カシス殿下。」 
カシスは『愛しの君』の名を呼び、名を呼び返されて感動していた。
今までは『お姉様』と呼びなさいと、バレンシアに言われていたからだ。バレンシアもカシスを『弟君』と呼んでいた。それは一線を分ける意味でもある。 

カシスはついバレンシアの手をとり見つめてしまう。長年思い、決して得られないと思っていた『愛しの君』である。

「カシス!! 」
今日の主役になるはずのトニック王太子が弟の名前を呼んだ。

バレンシアと弟カシスが仲睦ましい姿も何故か気に入らない。

「婚約者との逢瀬を邪魔するとは、無粋ですね。兄上。」
「無粋ですわ。」
カシスはバレンシアの手を取ったまま、トニックに顔だけを向けた。バレンシアも顔を向け取り敢えず、カシスの言葉をオウム返しする。

「カシスさま~ バレンシアさまは、私を虐める酷い人なんです~ 婚約はお勧めできませんわ~ 」
をつくって瞳を潤まし、甘ったるい声でカシスに進言するマルガリータ。トニックがいなければ、カシスに縋り付いていただろう。

「何をおっしゃるウサギさん。ミジンコも恋愛感情のない兄上の為に、何故バレンシアが虐めをするのです。」
「ええカシス殿下共々、ミジンコも恋愛感情はございませんわ。」 
「くっ…… 努力します。」
カシスはバレンシアの言葉にダメージを受けるが、踏ん張った。

「でもでも、バレンシアさまはマルガリータに酷いことを言ったのです~ こわかったわ~ 」
「酷くはありません、わたくしは道理を言っただけですわ。人のモノを欲しがるのはいけないと、お母様と王妃様に教えてもらいましたわ。」
えっへんと胸を張るバレンシア。

「私も母に教わりました。人のモノを欲しがるのは、戦争の元だと。兄上も教わった筈ですが。」
カシスを見上げるバレンシアに頷くように微笑むと、彼は冷たい目を兄たちに向ける。

「わたくし、トニック様には恋愛感情はミジンコもございませんのよ。トニック様が仰れば、何時でも婚約解消をいたしましたのに。どんと来い!! でしたわ。」
「どんと来い!! ですよね。」
バレンシアとカシスは、トニックに向かって微笑んだ。

「黙れ、バレンシア!! マルガリータを虐める悪女め!! お前は王族に相応しくはない!! 」
「そうですわ!! バレンシアさまは私をいじめる悪い人ですわ!! 」
二人に馬鹿にされた感じがしたトニックは、バレンシアを愛する人を虐める悪い女と罵った。

「こんな女を王族に迎えるのは許さないぞ、カシス!! 」
弟に怒鳴るように言い放つ。

「そうですわ!! こんな悪い人、カシスさまに相応しくありませんわ!! 」
つられるようにマルガリータもバレンシアを罵る。

「口を慎め!! フローズン男爵。高位貴族に対する言葉遣いではないな。」
のらりくらりと話をしていたカシスが二人の言葉を受けて、鋭い声と言葉を突き刺した。

「カシス!! マルガリータに何てことを言うんだ!! 」
「口を慎めと言った筈だ、フローズン男爵。 」 
弟を叱咤するトニックに、カシスは冷たい声で兄に言った。

その声は、言葉は、低く冷たく会場内に響き渡った。

兄トニックと弟カシスは真剣に見詰め合った。


    
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