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森や山を舐めんなよ、こら。

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夕日迫る森の片隅、白い兎が罠に掛かって鳴いている。
「あ、うさぎ……。」
あなたは、兎を。
①罠を外す。
②見ない振りをする。
③悲鳴をあげる。

①へ進む。
「今、はずしてあげる。」
微笑みながらピンクの髪の少女は兎を罠から外していると。
「君は、なんて優しいんだ。」
罠を外している少女にフェルゼンは声を掛けた。驚いた少女は手から兎を離した。
「あ、うさぎ……。」
兎は森の中に走り去った。
「心優しい君の名を聞いてもいいかな。」
「私、私はロロリイ。ロロリイ・エボックです。」
少女は微笑んだ。
チャラ~~んと音楽とピンクの花びらが二人の間に舞った。これが、攻略対象フェルゼンとの出会いであった。

そしてオフレコ。
「しかし、こんな所に罠を仕掛けるとはいったい誰が? 」
憤怒するフェルゼンの横で、少女は。
「丸々太って美味しそうな兎さんだったのに……。」
そっと、呟いていた。


「大きな獲物が掛かっているわ。」
彼女は笑った。

「て、違うわよ!! 攻略対象には近づかないって決めたじゃない!! 」
その為の眼鏡君である。

「ここは見なかった事に。」
(そうね、食べられないし。)

森の片隅で罠に掛かっているフェルゼンをロロリイは見なかった事にしようとした。木に片足を吊り上げられ、気を失っている。頭に血が下がり気を失っているようだ。
いいのだろうか、彼を見捨てても。
 
「駄目よ、ロロリイ。ここで彼を見捨てたら死んでしまうわ。」

よく気が付いた。
そう、此処でフェルゼンが死ねばこの罠を仕掛けた者が捜されるであろう。何せ彼は高位貴族。 

「大丈夫よ、罠を私が仕掛けたとは誰も思わないわ。」
ロロリイは応えた。彼女が問いている事とは違っている。そしてきっとバレるであろう、クラスメートはロロリイが兎を捕っていた事は知っている。ただ罠ではなく、弓で射ていたが。

「駄目よ、人殺しにはなりたくはないわ。」
彼女は罠の縄を小刀で切った。普通令嬢は小刀は持ってはいないが、そこはロロリイである。
ドサッと、フェルゼンが頭から大地に落ち転がった。死ななかったのは御の字だ。

「大丈夫ですか? 起きて下さい。」
ロロリイはフェルゼンに何度か往復ビンタを食らわせた。その刺激で彼は目覚める。
「ここ……は? 俺は……? 」
目覚めるとそこには可憐な美少女ロロリイが心配そうに覗き込んでいる。
「君は? 」
はっと、気づきフェルゼンは体を起こした。
「俺は罠に掛かって……。」
片足に残る縄がそれが夢ではないと知らせる。
「びっくりしました、罠に掛かっているなんて。」
ロロリイは頷いた、人の来ないところに仕掛けていたはずなのに。
(もっと、奥に仕掛けなくては。)

ロロリイは考えていた。何故なら学食だけではロロリイの並々ならぬ体力を維持できない。それにお小遣いも欲しいのである。
(だって、女の子だもん。)

「君が助けてくれたんだな、ありがとう。君は、なんて優しいんだ。」
「人として、当然ですわ。」
ロロリイは可憐な微笑みを見せる。
フェルゼンは頬を染めた。

よく言ったものである、見捨てようとしていたのに。

「しかし、こんな処に誰が罠を? 誰かに何かあったら如何する積もりなのか。」
フェルゼンは憤怒した。

誰かではなく、自分が先程死にかけていたはず。

「本当に、危ないですわ。」

どの口が、言っているのか。罠を仕掛けたのはロロリイである。

「森や山では、道から外れると危ないですわね。」
ロロリイはフェルゼンに微笑んだ。つまりは『森や山を舐めんなよ、こら。』である。道から外れるのは馬鹿のする事である。

「そうだな、これからは気をつけよう。」
フェルゼンは体力強化の為だとは言え、道を外れたことを恥じた。

「もう遅いので私はこれで。」
ロロリイは森の中に入っていく。
(他の罠を確認しなくっちゃ。)

「待ってくれ、心優しい君の名を聞いてもいいかな。」
フェルゼンはロロリイに声を掛ける。
「私、私はロロリイ。ロロリイ・エボックです。」
ロロリイは微笑んだ。

「ロロリイ・エボック。」
可憐な笑顔を残して彼女は森の中に消えていった。
「まるで妖精のようだ。」
フェルゼンはロロリイを黙って見送った。

普通令嬢は森の中に消えては行かない。フェルゼンは気が付かなかった。

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