上 下
23 / 30

俺の自称健康な幼なじみの、結婚。

しおりを挟む
伯爵家の応接室で、テノール侯爵夫人は自分の屋敷のように寛いでお茶を飲んでいた。目の前に、夫と息子を座らせて。他の者は、別のテーブル席に座って成り行きを見守っていた。

「アルト。」
「はい、母上。」
ソファに座り下を向いている少年と男性、親子揃って俯いている。母親の声に顔を上げる。
「カノンは、可愛い弟と言ってましたよ。」
「姉上が!! 」
『じ~ん』と、感動に涙を流す。アルトの目の前の闇は晴れた。

「オルグ。」
「はい、妻よ。」
テノール夫人の声に、恐る恐る顔を上げる。
「カノンの婚姻をオスカー様に進めるのは、許しません。」
『ガ~ン』と、オルグはその場に打ち砕かれる。明暗が分かれた親子であった。

「テノール叔母上、有難う御座います。」
心の底からオスカーは礼を言った。
「ルミナス様も、御免なさいね。」
テノール夫人は、ルミナスに謝りを入れる。
「親子共々、迷惑をかけているわ。」
「いえ、そんな…。」
ルミナスはチラリとオスカーに目を向けると彼は嬉しそうに微笑んでいた。幾万の味方が現れたように。

「……ルミナス嬢……。」
オルグはルミナスの元に跪いた。
「ルミナス嬢、お願いだ。オスカー君をほんの少し、貸してくれ。」
「えっ? 」
縋るように涙目で訴える。

「カノンは病弱だ。父は父は、カノンの幸せな花嫁姿が見たいのだ。」
オルグは妻が怖いので、目標をルミナスに代えた。

「一時の幸せを、カノンに味あわせてあげたいのだ。ルミナス嬢。」
オルグの瞳は若草色、髪は黒髪。顔はオスカーそっくりであった。息子のアルトより、オスカーの方がオルグに似ていた。数十年後のオスカーが、瞳を潤ませルミナスに哀願してくる。ルミナスはきゅんきゅんと、胸を掴まれていた。

「カノンを哀れと思って、オスカー君を一時貸してくれ。」
オルグはルミナスの手を取った。
「オスカー君を、ざまぁしてくれないか。」
「ふざけんな!! ルミナスに触れるな、この糞叔父!! 」
オスカーは叔父を蹴り倒し、ルミナスを確保する。

「カノンはぜってぇ俺より長生きする、かけても良い!! 俺の方がストレスで早死する!! 」
オスカーはルミナスを抱きしめる。

「ルミナス、俺を救ってくれ。君は、俺の唯一の癒やしだ。」
「オスカー様。」
よしよしと、ルミナスはオスカーの頭を撫でた。キュ~ンキュ~ンと、子犬のようにオスカーはルミナスに縋り付く。

「弟よ、結婚させたいならそこに居る者でもいいだろう。」
兄のオルガは、ソファに座っている三人の男性に目を向ける。
バッと、ハルクは目を反らした。ひっしと、エリーゼの手を取り頭を振った。エリーゼと共に、駄目だとアピールをする。ハルクの隣のタクトは茫然としていた。その横の金髪のナルシスが毛布をマントのように靡かせて立ち上がった。

「愛しの姫君を幸せに出来るのは僕しかいない。」
キラキラと、マントを靡かせて苦悩する。
「すまないルミナス、姫君の涙は見たくはない。少しの間僕を姫君に委ねてくれないか。」
跪き、右手を差しだした。
「だが愛してるのは、ルミナスだけだよ。僕の愛するルミナス。」
その手をオスカーは踏みつけた。

「叔父さん、此奴でいいだろ。」
襟元を掴んで猫のように叔父に差しだした。

「駄目だ!! カノンを何処の馬の骨か分からない奴と結婚させるか!! 」
「そうです。姉上に、そんな馬鹿は問題外です!! 」
親子揃って結婚を反対する。

「カノンを結婚させたいのか、させたくないのかどっちだ? 」
オルガは、弟に問い掛けた。
「僕は姉上の結婚は反対です。」
「父は、父は、カノンを誰にも渡したりしない。カノンを結婚されてたまるか!! 」
その声は、応接室に響き渡った。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様は甘かった

松石 愛弓
恋愛
伯爵夫妻のフィリオとマリアは仲の良い夫婦。溺愛してくれていたはずの夫は、なぜかピンクブロンド美女と浮気?どうすればいいの?と悩むマリアに救世主が現れ?

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

いいですよ、離婚しましょう。だって、あなたはその女性が好きなのでしょう?

水垣するめ
恋愛
アリシアとロバートが結婚したのは一年前。 貴族にありがちな親と親との政略結婚だった。 二人は婚約した後、何事も無く結婚して、ロバートは婿養子としてこの家に来た。 しかし結婚してから一ヶ月経った頃、「出かけてくる」と言って週に一度、朝から晩まで出かけるようになった。 アリシアはすぐに、ロバートは幼馴染のサラに会いに行っているのだと分かった。 彼が昔から幼馴染を好意を寄せていたのは分かっていたからだ。 しかし、アリシアは私以外の女性と一切関わるな、と言うつもりもなかったし、幼馴染とも関係を切れ、なんて狭量なことを言うつもりも無かった。 だから、毎週一度会うぐらいなら、それくらいは情けとして良いだろう、と思っていた。 ずっと愛していたのだからしょうがない、とも思っていた。 一日中家を空けることは無かったし、結婚している以上ある程度の節度は守っていると思っていた。 しかし、ロバートはアリシアの信頼を裏切っていた。 そしてアリシアは家からロバートを追放しようと決意する。

私があなたを好きだったころ

豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」 ※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。

[完結]婚約破棄したいので愛など今更、結構です

シマ
恋愛
私はリリーナ・アインシュタインは、皇太子の婚約者ですが、皇太子アイザック様は他にもお好きな方がいるようです。 人前でキスするくらいお好きな様ですし、婚約破棄して頂けますか? え?勘違い?私の事を愛してる?そんなの今更、結構です。

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

騎士の元に届いた最愛の貴族令嬢からの最後の手紙

刻芦葉
恋愛
ミュルンハルト王国騎士団長であるアルヴィスには忘れられない女性がいる。 それはまだ若い頃に付き合っていた貴族令嬢のことだ。 政略結婚で隣国へと嫁いでしまった彼女のことを忘れられなくて今も独り身でいる。 そんな中で彼女から最後に送られた手紙を読み返した。 その手紙の意味をアルヴィスは今も知らない。

処理中です...