【完結】告白寸前の勇者は、早く自分の世界に帰りたい。

封印されし勇者は、魔剣を封印する。

「薫が魔剣に変えた聖剣を戻すには勇者の愛の力、聖の魔力が必要なんだ。」
「聖の魔力？　アレが。」
薫は鎖に巻かれた拓馬を見る。
「アレでも勇者だからね、薫。」
「ふーん。」
薫は興味を失ってお茶に手を付けて呑む。目の前に置かれたお菓子に手を延ばす。
「聖剣を戻す為に、魔剣を聖の魔力で満たさなくてはならない。彼ほどを聖の魔力を放っている者はいない。勇者だからね。」
「勇者ねぇ、俺に取ってはただのストーカーだ。」
「薫に対する愛の力は格別だよ。」
ノアールは優しく微笑んだ。

ガンと、薫は魔剣をテーブルに突き刺した。落ち着きはしたが、未だ闇の魔力が暴走している。

「冗談でも言うな。」
「冗談じゃない。だからこそ、聖剣を戻す鞘に相応しい。」
ノアールは妖しく微笑んだ。
「鞘？　」
薫はきょとんと可愛らしく目を丸める。
「「ガハッ！！　」」
麗しい二人を見詰めていた、セバスとロリアンは血（鼻血）を吹き出し地に手を付いた。

「「………。」」
地に手を付き血（鼻血）を流し続ける二人にノアールと薫は言葉を失った。
「また吐血しているぞ、病院に放り込めよ。」
「あれは治らない放っておけ。」
「不治の病だったな、可哀想に。」
薫は哀れむように二人を見る。拓馬（邪な男）以外には優しい薫であった。ノアールは薫の頬に触れる。
「憂いを帯びた顔は彼らに見せるな、彼らを興奮させないでくれ。」
「興奮……心臓が悪いのか？　」
「……。」
薫は拓馬の所為で人付き合いが出来ず、少しズレていた。

「まあいい、話を戻そう。」
薫は二人を気にしつつ耳を傾ける。
「聖剣は神が作ったとされる、故に壊れることは無い。そして鞘は無い。」
「確かに岩に剣が剥き出しで刺さっているな。危ないな、あれ。」
薫はこの世界の聖剣の置かれたいたようすに頷いた。それに地球でも聖剣ぽい物はだいたい刃が剥き出しで刺さっている。その点魔剣は鞘に収まり、封印をされている。
「なる程、魔剣には鞘が必要か。」
しかし此処で疑問が浮かんだ。
（アレ（拓馬）が鞘？　）
「聖剣は其所にあるだけで邪気を吸い取り浄化する。」
薫はテーブルに突き刺した元聖剣を見る。渦巻くように黒い靄が吸い込まれている。
「空気清浄機みたいだな。」
「まあ、そのような物だ。」
ノアールと薫はお茶を呑む。
「で？　」
「薫の邪気を吸い込みすぎてオーバーヒート中だ。魔剣になった。」
「それが？　」
「聖剣が機能しなければ、邪気が動物に付き魔獣が溢れる。」
「そうなんだ。」

「そうなのですか。」
ロリアンはノアールの言葉をメモし始めた。魔獣の秘密や魔王の秘密を書き示す。そして聖剣と勇者の真実を。
「まあ、色々大変になるから魔剣を聖剣に戻す。彼が必要だ。」
「どうやって戻すの？　」
「聖の魔力に浸せはいい。」
「浸す？　」

ノアールは拓馬の封印の鎖を解いた。驚く薫に封印を解かれた拓馬はすかさず駆け寄った。
「薫、好きだ結婚してくれ！！　」

テーブルに刺さった魔剣が引き抜かれ、近付いて来た拓馬の胸に魔剣を突き刺した。

「勇者様！！　」
「グガガガガ……！！　」
魔剣を突き刺され、拓馬は悲鳴を上げた。ノアールは、ものともせず魔剣を拓馬の体に突き刺していく。

「……拓馬。」
「ノアール様。」

刀の柄まで胸に埋められると静に魔剣は拓馬の体に埋まって行った。総ての魔剣が体に沈み込むまで、拓馬は藻掻き苦しんだ。そして、動きを止め地に倒れた。

「死んだの？　」
「いや、死ねば聖の魔力が尽きる。生きているよ。」
「そっか……。」
薫は胸をなで下ろした。やはり現在日本人、人が死ぬのは見たくなかった。

「鞘とは、文字通り拓馬を鞘にする事だったんだ。」
「今魔剣は聖なる力に包み込まれ、浄化をされ聖剣の力を取り戻そうとしている。」
薫は拓馬を見下ろした。
「苦しいの？　」
「いや、内に秘めれば苦しさはない。」
「そっか。」
良かった、と小さな声がした。
ノアールは微笑み、その声を聞こえなかった事にした。