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封印されし勇者は、聖剣の為に。

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浮遊城の崩れ去った瓦礫や岩の中で、ガッキーンガッキーンと、金属の打つ音が聞こえる。昼の食事を終え、ノアールは優雅に椅子に座りテーブルの上のカップを取った。
「いい加減、諦めたら? 」
「うるさい!! この封印を解け、ノアール!! 」
薫は魔剣をノアールに向ける。

「駄目だよ。彼を殺させる訳にはいかなくなったから。」
「邪魔だと言ってなかったか!? 」
「言ってたけど。」
薫はイラッと、してノアールの胸に魔剣を突き刺した。

「「ノアール様!! 」」
セバスとロリアンが驚愕する。

「チッ。」
薫は舌打ちをした。剣はノアールの胸を貫いているが、彼は表情を変えない。
「闇の魔力の暴走だね、薫。狂暴になっているようだ。落ち着きなさい。」
「うるさい。」
ノアールは溜息を着いた。
「魔剣では私を殺せないし、傷付ける事も出来ないよ。」
薫が斬りつけた剣はノアールをすり抜けるだけであった。
「チッ。」
薫は再び舌打ちをした。

「魔王を傷付け殺せるのは聖剣だけだよ。それも異界の勇者だけだ。」
ノアールは自分の横に座るように薫を促した。薫も渋々ながらそれに従った。セバスがホッとしてお茶を薫に淹れ差し出す。
「今の君では私は殺せないし、私も君を殺せない。」
薫はお茶を飲みながらノアールの言葉に耳を傾ける。少し落ち着いてくる。
「それが聖剣のままだったら、私を傷付ける事は出来たかも知れないが。君が魔剣に変えてしまった。」
魔王同士は干渉が出来なくなっている。他の世界の魔王であっても。

「魔王は聖剣でしか、殺せない。」
ノアールは鎖でぐるぐる巻きの勇者を見た。
「それが、アレと何の関係がある。」
薫は忌々しそうに鎖の巻物を見た。
「魔王は聖剣でしか、死ねない。つまり聖剣は魔王の自殺のアイテムなんだよ。」 
ノアールは麗しく微笑んだ。
「「なっ、何ですと!! 」」
セバスとロリアンは驚きのあまり声を出して叫んだ。

「魔王は称号と同時に不老不死となる。私を見れば分かるだろ。十四の時に時が止まった。」
ノアールはテーブルに肘を付いて頬を寄せる。
「長い時を生きれば知能ある者は狂う。その時、知能ある者は死にたくなる。永遠の安らぎを求める。」
「「ノアール様……。」」
セバスとロリアンは涙にくれた。

「その時の安らぎへのアイテムが、聖剣だよ。」
薫は耳を傾ける。
「その聖剣を扱えるのは勇者だけだ。」
「それが? 」
薫は鎖の固まりを見詰めた。
「魔王の死は、二通りある。一つは己の力を過信して世界を壊し、勇者を召喚されるか。後一つは、死にたくて勇者を召喚させる為に世界を壊すか。」
「どちらも迷惑な話だな。」
ノアールは笑い、薫は呟く。
「まあ、先の魔王は私が倒したけどね。あの時はまだ聖剣を使えたから。うん、正当防衛? かな。」
「先代魔王様を、ノアール様が!? 」

ノアールは十四歳の時に先代魔王に襲撃をされた。勇者の血を恐れての事だった。だが、見事ノアールは聖剣を呼び出し返り討ちにしていた。
「まだ十四の子供にえげつないよね。」
「返り討ちにするお前もえげつないさ。」
「魔王が死んだことで、魔王の席が空いてしまった。そこで、この世界で一番魔力の強い私が強制的に魔王に選ばれてしまった。ねっ、可哀想だろ。」
「「ノアール様!! 」」
セバスとロリアンは滝のような涙を流した。
「それがアレを生かしておくのと何の関係がある。」
薫はお茶を飲むことでかなり冷静になってきた。先程の殺意の衝動が嘘みたいに治まってきていた。
「薫が、聖剣を魔剣に変えてしまったから。」
「だから? 」
「魔剣を聖剣に戻すには彼の、勇者の力が必要なんだ。」
「勇者の? 」
薫は小首を傾げた。
「「ぐはっ!! 」」
吐血(鼻血)したセバスとロリアンは顔を覆った。

「ノアール。彼等、病院に入れた方がいいんじゃないのか? 」
血をひたたらせる二人に、薫はノアールに耳打ちをした。ノアールは静に微笑んだ。



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