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封印されし勇者は、再び封印される?

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『ブチッ』と、何かが切れた。
薫の持つ聖剣が黒く染まっていく。薫の中の黒い魔力が、高まっていく。元々、薫は勇者とは別の『愛』の力では無く、『憎悪』の力でこの世界に呼び出された者であった。
勇者に対抗する、勇者を憎む存在。
それが薫であった。その憎しみが、膨らみ堪忍袋の緒が切れた。

「ふむ、魔王の誕生かな。」
ノアールは、何気なく言った。
薫は大地に片足を踏みつけた。足元の大地は、浮遊島は粉々に崩れ落ちる。空中に投げ出されても、拓馬は薫を離さなかった。

浮遊島の下で魔法を連発し楽しんでいたリッチとリリスは、慌てふためいてその場から逃げていた。

決して、離そうとしない拓馬の腹に刺さっている魔剣(元聖剣)をぐるりと回し剔り、横へと切り裂いた。
流石にこれには拓馬も薫を離し、脇腹に手をあてて大地に膝を付いた。魔王国中心の森の中心で、薫は跪く拓馬を見下すように立って見ていた。風もないのに薫の黒髪がたなびく。黒い瞳から光が消えている。
黒い魔力が、薫からほとばしる。

「うん。魔王の誕生だね。」
ノアールは、ふわりと大地に降り立ちながら言った。
「とうとう地球にも魔王が、誕生したんだな。」
「そ、そんな、勇者様が魔王に。」
セバスに助けられながらロリアンは驚愕し、呟いた。
「私も、魔王だが。」
「ああ、そうでした。」
一度は驚いたが、勇者の血筋のノアーも現魔王であった。魔王も、人それぞれである。力を誇示する者や、ノアールの様に面倒くさがりの者や。薫がどんな魔王になるかは、分からない。ただ分かっているのは、目の前の変態(拓馬)を抹殺する事。
「勇者様が魔王にならなければならない程、あの変態が凄いと言う事なのですね。」
ロリアンは、拳を握り締めた。
(あの変態、勇者ですよ。)
セバスは心の中で思ったが、ロリアンのきらきらと輝く夢を壊したくなかったので押し黙った。

(まあ、確かにかなりの変態だが。君も、変態だからね。)
ノアールは思ったが、あれ(拓馬)よりはましなので黙っていた。

その間にも魔剣に魔力が集まり、今にも振り下ろそうとしていた。
「あ、まずい。この世界、真っ二つにされるかも。」
何の気なしにノアールは呟く。

「「ノアール様!? 」」
その呟きに二人は反応した。

「仕方がないな。」
魔力で鎖を作り出し飛ばした。
ジャラジャラと音を発てて薫の方へと飛んで行った。
魔剣を上段に構える薫の美しさに、拓馬は呆然と見詰めていた。
「美しい……。」
三分の一程避けている腹を押さえながら、拓馬は薫の美しさに見とれていた。
ジャラジャラとノアールの作った、鎖が体に巻き付いた。

「邪魔をするな、ノアール!! 」
振り下ろされた魔剣は、拓馬に巻き付いた鎖によって力を粉砕される。
魔王と魔王の力は互いに干渉しないように打ち消される。

「邪魔をするなと、言っただろう!! 」
ガッキンガッキンと、鎖に巻かれた拓馬を魔剣で叩く。魔王同士の力は打ち消されるので、ただの剣と鎖だ。
「この世界を破壊されるのは、困るんだが。」
「俺はコレを消したいだけだ!! 」
ギコギコとノコギリの様に剣を引き、鎖を切ろうと奮闘する。
哀れなる、魔剣(元聖剣)。

「聖剣も、魔剣に変えて如何してくれるんだい、薫。」

「それは私の台詞です。」
ノアールの後に神々しい黒髪の女性が現れた。
「地球には、魔法がありませんのよ。それなのに魔王を誕生させるなんて。」
女性は、怒り心頭であった。
「如何してくれるのです、ノアール。」
突然現れた女性にセバスとロリアンは驚いた。
ノアール様の恋人か、とも思ったが違うらしい。

「ただでさえ、お馬鹿が三神様を怒らせたのに。これ以上面倒を起こさないで。」
女性はノアールの肩を持って揺さぶった。
「責任取って、この世界の管理者になりなさい。」
「えっ、やだ。」
女性の言葉にノアールは、何気に呟いた。
セバスとロリアンは混乱していた。この女性は誰なのか、そして魔王となった薫はこの世界を真っ二つにしてしまうのかと。
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