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封印されし勇者は、幸せを噛みしめる。

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瓦礫に埋まる亀勇者の処へと薫は向かう。此処と当たりを付けて聖剣を突き立てた。

刺して刺して、刺しまくった。
麗しいが鬼気迫る形相で聖剣を刺しまくる。
「あの……勇者様、その辺で。」
「うるさい!! 」
見かねたロレンスが声を掛けるが、拒否される。
「す、すみません……。」
項垂れたロレンスをセバスが慰める。やれやれと言った顔で、ノアールは薫を見ていた。
「人殺しは嫌だったのではないのかい? 」
「うるさい!! 此奴は殺しても死なない!! 」
ノアールは溜息を付いた。


「まだだ、まだ身に掛かる寒気がおさまらない。まだ……。」
薫は瓦礫を刺しまくる。
確かにノアールも勇者の魔力を感じていた。

亀勇者拓馬は、ギリギリの線で剣を避けていた。日頃の薫の殺気の籠もった刃を避け続けたお陰で、無意識に体が動く。だがその聖剣の刃が、薫の封印を壊しノアールの封印の鎖をも粉砕した。
薫は封印を砕き、拓馬を解き放ってしまった。

「薫!! 」
瓦礫を吹き飛ばしながらびっくり箱の様に勇者拓馬が飛び出してきた。そのまま両手を広げ薫に飛びついてくる。封印された時のボロボロの学生服のまま。
「うわっ!! 」
薫は咄嗟に剣を差し出した。
『ズボッ』と、無防備な拓馬の腹に剣が刺さる。剣を伝って拓馬の血が薫の手にかかる。
「拓馬……。」
薫は冷静になった、今自分は拓馬を刺していると。蒼白になった顔を拓馬に向ける。
「薫。」
拓馬はニヒルに笑った。両手を広げたまま薫に近づいてくる。ズブズブと腹に剣を刺したまま。柄と拓馬の体の距離がなくなり薫との距離もなくなった。そのまま拓馬は、薫を抱き締めた。
「薫、好きだ!! 結婚してくれ!! 」
薫を好きになって苦節十数年、初めて拓馬は薫に触れる事が出来た。それも抱き締める事が。
「薫、大好きだ。付き合ってくれ!! 」
拓馬は瓦礫の浮遊城の上で、やっと薫に告白をする事が出来たのであった。
薫は抱き締められて頭の中が、真っ白になった。呆然と抱き締められている。今何が起こっているのか、理解が出来ない。
(糞が剣に刺さって、距離を詰められて……。)

はたと、気が付くと目の前に拓馬の顔が近付いてきている。
「さあ、薫。愛のキッスを。」
むにゅ~と、唇がタコの様に突き出ている。

「ふざけんな、糞が!! 」
薫は無防備な拓馬の股間を膝で突き上げた。
「うおっ!! 」
拓馬は悲鳴を上げて俯いたが、薫を離さなかった。
「離せ、糞が!! 放しやがれ!! 」
薫は拓馬の腕の中で暴れたが、腕力では適わない。だからこそ捕まる前に地に沈めていたのだが、今回は拓馬の捨て身の接近に虚を付かれた。
「離せ!! この変態!! 」
拓馬は薫の肩に顔を埋める。
「はぁ~薫の匂い、いい香りだ。」
くんかくんかと、匂いを嗅ぐ。ここぞとばかり、体を触る。
(ああ、気持ちがいい。)
「気持ち悪いこと言うな!! 変態!! 」
薫の背中にぞぞ虫が走り回る。

あまりの展開に呆然と見ているロレンスとセバス。
溜息を付くノアール。
「まったく、本当に君たちがまともに見えるよ。」
ノアールは、二人に微笑んだ。
『がはっ!! 』と、血を吹き出して二人は蹲った。
(これさえ、無ければもっといいんだが。)

「ノアール!! 何をしている、何とかしてくれ!! 」
薫はノアールに助けを求めた。
「連れて帰ってくれるかい? 」
「絶対やだー!! 」
薫は叫んだ。
「じゃ、知らない。」
「ふざけんな!! このとっちゃん坊や!! 」
崩れた城の上で、拓馬に抱き締めながら薫は叫んだ。

拓馬は幸せであった、薫を抱き締められて。もうこのまま死んでしまってもいいと思えるほどに。
だが、
(キッスが、したい。)
薫の細い体を堪能しながら拓馬は煩悩にくれていた。
(あれやこれやを、したい。)
初めての抱擁に拓馬は興奮していた。
「薫、好きだ。愛している。」
拓馬は薫の耳元で囁いた。

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