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告白寸前の勇者。グレイト帝国、謁見の間(仮)と王妃ヒルダ。

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小さな水晶の魔道具から転写して、空中に魔王城討伐の様子が映し出される。
ボロボロに成りながら、魔物のラミアを口説いている皇子のグリッド。
フェンリルに抱き付いて、離れない聖職者のアイリス。
リッチと共に、魔法を放つ楽しそうなリリス。

魔王を倒す、討伐隊がことごとく脱落して行っている。別館の大広間の階段の踊り場に、椅子を置き座っていた皇帝が声を上げた。
「これは、どう言うことだ!! 」
その場にいた貴族達は、皇帝から目を反らした。
「神官長。なんだ、あの娘は!? 」
「し、しかし、フェンリル様は聖獣で有らせられますし。」
「所詮は、獣。聖獣など、絵空事と言うことでしょう。」
教会と仲の悪い、魔法協会の長が言い放った。
「そう言う、魔法協会の娘は楽しそうに『魔物のリッチ』と共に魔法を放っているな。」
魔法協会の長は、狼狽えて
「彼女は、『魔物』を研究しているだけだ。」
「それならば、彼女もフィンフェル様を魔王から保護しているだけだ。」
仲の悪い『きょうかい』同士、言い合いが始まった。
「うるさい、黙れ!! 」
「皇帝、皇子は魔物に婚姻を求めている用ですが?」
皇帝に切れられて、神殿長は言い返した。
「そうですな、あれは魔物ですな。どう言う事でしょう、皇帝。」
『きょうかい』長達は、誤魔化す為に結託した。自分が言った事が、回り回って皇帝に返ってきた。
「そ、それは。グランド、どう言う事だ。」
皇帝は、隣に座る皇太子に思い切り振った。
「何 言ってんだ? 父上。アナコンダよりは、マシだろ。」
皇太子が言えば、宰相のロリアンが続く。
「了解は取ってます、皇帝陛下。」
「わしは、知らんぞ。」
皇帝グロリアは、言い返した。宰相は、微笑んで。
「『蛇とラミア、どちらが皇子の婚姻によろしいですか? 』と、皇帝陛下にお聴き致しましたが? お忘れでしょうか? 」
「蛇と比べれば、ラミアと応えるであろう。ラミアとは、娘の名前だと思うだろうが。」
同意を求める様に、皇帝は『きょうかい』長達を見る。二人は、頷いていた。
「まあ、いいじゃないか。父上、けっこう美人だし胸もある。」
「そう言う、問題では無い。それに、わしは小さい胸の方が好きじゃ。」

驚愕の事実に、貴族達はザワめいた。
『皇帝陛下は、小さい胸が好き。』今まで群がっていた女達は、躰の自慢の女達であった。なので、寵愛の側妃はいなかった。つまり、取っ替えひっかえ女を変えていた。ただ一つ良い処は、平民には手を出さなかった。寄ってくる貴族の娘達だけを、相手にしていた。
「そう言えば、王妃様の胸は。」
「幼子の用で。」
ヒソヒソと、貴族達は不敬の言葉を小声で吐いていた。つまりは、王妃の貧乳を馬鹿にしていたのだ。

「そう言えば、母上は貧乳だったな。」
言ってはならない事を、皇太子グランドは言った。
その言葉に、皇帝は鼻で笑った。
「ガキが。あの手に納まる柔らかい感触をお前は、知らないのだ。」
如何に貧乳が形良く、心地良いかを蕩々と語り出す。その皇帝の後に、静かに近付く人影が。
「天誅。」
皇帝の頭に、扇子が叩き込まれた。皇帝は、頭を抱え振り向く。そこには、白金の髪、緑色の瞳、白い肌の美しい王妃がいた。
「貴方は、何を蕩々と語っているのです。」
王妃の顔は怒りと恥ずかしさで、赤く染まっていた。
「相変わらず、若く美しいな。妃よ。」
貴族達の目が、王妃の胸へと注がれる。皇帝が語る、形良く心地良い胸がそこにあった。
「何を見ておる!! 」
皇帝が叱咤すると、貴族達は目を反らした。

「おお、良い処に王妃ヒルダ様。」
「ご覧下さい、皇子が魔物に婚姻を求めておられるのです。」
魔法協会長が言えば、神官長が続く。王妃は、映像を見ると。
「彼女は魔物では、ありません。ラミアと言う、種族です。」
きっぱりと王妃は、言った。
「しかし、あれは人と動物が混じった異形の物です。」
「神が生み出された者達を、あなた方は否定なされるのですか? 神官長。」
「いえ、それは。しかし、聖書に書かれている、神の御言葉は。」
「それは、人間が都合の良い様に書きつられた物でしょう。神は総てのモノに分け隔て無く、愛を注いで下さいます。」
王妃は、扇子で口を隠しながら言った。神官長は、押し黙った。次に魔法協会長が、言う。
「だが、魔法も使えない魔物ですぞ。魔法を使えないのは、神に愛されてない証拠。」
「ならば、魔法が長けている魔王は神が一番愛する存在と言う事でしょうか。」
「それは、」
王妃の言葉に、魔法協会長は怯んだ。続けざまに、王妃は彼を追い込む。
「魔法を使えない民は、魔物なのですか? 魔法協会長殿。」
「しかし少なからず、生活魔法を人間は使えます。」
「ほほっ、生活魔法など魔法とは言えないと言っている魔法協会の者達が? 」
「そっ、それは・・・」
協会長は目を、反らした。
「よろしいのですか? 皇帝陛下。王家に魔物の血が、入ろうとしているのですよ。」
王妃には、敵わないと判った神官長は皇帝に話しを振った。
「最も神に愛されている人間に、魔物の血を混ぜるつもりですか。」
「王家は、模範となるべき存在なのです。」
神官長の次に、魔法協会の長は言った。
「あなた。」
王妃は、静かに皇帝を見据えた。答えを待つ。
「王家に、魔物の血を入れる訳には いかぬ。」
長達と、貴族達は皇帝の言葉に頷いた。王妃ヒルダは、哀しそうに目を閉じた。
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