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哀愁漂う、背中。

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その部屋は、暗かった。部屋が暗い訳では無く、其処にいる二人の男の雰囲気が暗かった。まるで、御通夜の様に。

手元に差し出されたお茶を、ビウェルは 溜息混じりに飲んだ。
「ぶっ!! 」
「ぶぶーーっ!! 」
ビウェルとナルトは、同時にお茶を吹き出した。
「この不味さ、不快感。」
「毒をも思わす、舌の痺れ。」

「セルビィ!! 」
「セルビィ様!! 」

「あれ? 」
振り向くと、ポットを持って可愛らしく首を傾げるセルビィがいた。
「可笑しいですね? 教わった通りに、淹れたのに。」

「お前は、毒を作るな!! いや、茶を淹れるな!! 」
「心が、体が痺れる。」

「可笑しいですね? ポットが、悪いのでしょうか。」
蓋を開けて、覗き込む。
「悪いのは、お前の腕だ!! 」
ナルトは、セルビィからポットを取り上げた。
セルビィは、頰を膨らませた。
「僕は、悪く有りません。教え方が、悪いのです。」

「口直し、淹れるわ。」
セルビィの言葉を無視して、ナルトはポットを持って茶器のある場所に向かう。
「そんな態度をとるのは、ナルト様くらいです。」
無視されたので、セルビィはビウェルの鞄の中をあさる。お菓子を見つけ出し、食べ始める。ソファに腰を下ろした。
「ビウェル様。ネルソン様から、連絡はありました? 」
手の震えを押さえながら、ビウェルはセルビィに顔を向けた。
「ああ、有った。全員、見事に買い取った様だ。」
「流石は、ネルソン様。」
セルビィは、素直に称えた。
手を合わせて、微笑む。

「ネルソン殿が、王都に入る前にかなり記事が出回っていたらしい。」
「記事、だと? 」
ナルトが、新しく淹れた美味しいお茶を差し出す。
「ああ、侯爵が『四人の死神』を、怒らした事だ。」
一口、飲む。
「あの、脂肪様ですね。」
セルビィはナルトから、カップを受け取った。
「ある一部の、肉体派奴隷が騒ぎを起こしていたとか。」
「其れは、大変です。」
セルビィは、言った。
ナルトは、冷たい目でセルビィを見る。
「『我らの姫君を、侮辱したチャイニ国を許すな。』と、暴動を起こしたようだ。」
セルビィは、祈る様に手を組んだ。
「姉様を、思って下さって、有難いです。」
ビウェルも、冷たい目でセルビィを見る。
「其れに、英雄達の戦出で立ちの姿を見て チャイニ国の者は震え上がった様だ。」
「父様達の、戦出で立ちは格好よかったです。」
思い出すように、セルビィは目を閉じた。
「王家の者が動き、反乱を起こすかも知れない『豪の者』を一纏めにしていた処に ネルソン殿が話を持ち掛けたそうだ。」
「其れは、素晴らしです。」
セルビィは、微笑む。
「ああ、チャイニ国も、集めたのはいいが 如何すればいいか思案に暮れていたらし。」
「渡りに舟か。」
ナルトが、話に入った。
「殺せば、英雄達の怒りを買うからな。交渉は、すんなり決まったそうだ。」
ビウェルは、一息にお茶を飲む。セルビィは、手を叩いて喜んだ。
「流石は、ネルソン様です。」

「何故か、ポカリス王子が戻る前に セラム公や三伯爵の戦出で立ちの絵姿が王都に流れたらしい。」
ビウェルとナルトは、セルビィを見詰めた。
「其れは、チャイニ国の情報収集は侮れませんね。」
腕を組み、頷くセルビィ。
二人は、深い溜息を吐いた。

いったい、何時から思案をしていたのか。『豪の者』のリストを用意していた時点からか。いや、リストを作る前から 考えていた事に成る。『豪の者』を、救う為には如何すればいいか。時間を掛けて、潜り込ませ 情報を集め。情報機関を手中に修め 情報を操り 噂を流し。行動を起こさせ、不安を煽り 留めに英雄達の戦出で立ちを見せつける。チャイニ国の手に余った『豪の者』を、奪い返す。
(何時から、絵姿を用意していた? )
(チャイニ国の、誰かを怒らす気だったのか? )
((そうしなければ、辻褄が合わない。))
ビウェルとナルトは、目線を合わす。
「どうやら、侯爵は『カモネギ』だった様だな。」
「はは、誰かしら犠牲に成ってたんだし。」
((もしかしたら、ポカリス王子が。))
あの場にいたチャイニ国の高位の者は二人しか、いない。
其れは、戦争ぎりぎりの線である。二人は身が震えた。
「魔物だな。」
「魔王だ。」

無邪気にお菓子とお茶を、美味しそうに頂く セルビィからは想像出来ない。
目線に気が付いた様に、セルビィは天使の微笑みを二人に向ける。




「大丈夫だな。」
「ああ、何時ものセルビィだ。」
安心仕切った、二人に爆弾が落とされる。

「ナルト様。僕、今日 帰りませんから。」
しれっと、セルビィは言った。
「えっ!? 」
「何だと!? 」
驚愕する二人に、セルビィは微笑んだ。
「今日、僕は 帰りません。」
「えっ!! 」
「何!? 」
思考が追い着かない。
「ですから、僕は 屋敷には帰りません。泊まります。」
「何処に? 」
ナルトは、何とか声に出した。セルビィは首を傾げる。
「まだ、はっきり決まってません。」
少し悩んだ後。
「週末の休み。明日から二日間、帰りませんから。」
微笑む。
「えっ!? 」
「なんで!? 」
思考が、追い着かない。
「ときめき が、錯覚だと気付かれる前に、畳み掛けます。」

「「 畳み掛ける!! 」」
二人の声が、揃った。

「はい。冷静に考える時間を与えません。決めます。」
セルビィは、笑った。
「「決めるのか!? 」」
声が、揃う。

「と、言う訳で 姉様に伝えて下さい ナルト様。」
首を傾げて、可愛らしく微笑む。足取り軽く、出て行く。





暫くして、
「待て、セルビィ!! 」
思考が追い着いて来たナルトは、叫んだ。そして、蹌踉めく。壁に頭を預け。
「俺、セルビアに殺される。」
呟いた。その哀愁漂う肩に、ビウェルは優しく手を置いた。

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