上 下
13 / 128

会議室の秘密。

しおりを挟む
数日後。
三伯爵と公爵 ボルトは、ランドール家の会議室にいた。これからの事を、話し合う為だ。
椅子に座って、三伯爵の一人が言った。
「しかし、あの時は騙されましたな。」
「いや、本当に。」
「鬼気、迫るモノが在りました。役者ですな、セラム殿は。」
三人は、顔を見回せ頷いた。
「俺に、演技が出来るはずないだろう。」
「此奴に、演技が出来るはずないだろう。」
セラムとボルトは、声を揃えて言った。

「えっ!! 」

三人は、テーブルの横に座る少年を見た。床に着かない足を、ぷらんぷらん させて椅子に座っている天使の様な少年を。
「いやー。うちの子、天使なうえに名役者で。」
セラムは、声 高らかに
「余りの名演技に、俺は秘密がバレてどうしょうか。本当に恐怖したんだ。」
目をつぶって、しみじみ思 い出す。
「あの時は、とにかくパニくって お前らに本当に帰って欲しかったんだ。」

「・・・・・・。」

三人は、言葉を失った。
其れは、この幼い天使の様な少年が 父親を誘導して自分たちを仲間にしたと言うことなのか。三人の背に、冷たい物がつたった。

「セルビィが、会った事も無い殿下や子息の事を言った時は。親としては、怖いと思ってしまってな。そこまで、セルビィの心を追い詰めていたのかと。」

「会った、事も無い? 」

三人は、顔が引き攣るのが解った。
「いやー。あれも、お前らに同情される為の演技だったんだな。」
三人は、縋る様にボルトを見る。ボルトは、優しく微笑んで首を振った。
「いやー。俺、天使に騙されちゃったな て。」
そう言ってセラムは、高らかに笑った。

「父様。会議室では、お静かに。」
椅子の上で、足を ぷらんぷらん させながら首を傾げて言った。
「はふっ、天使!! 」
その可愛いらしさは、まさに天使だった。だが、一人を除いては複雑な思いを持っていた。あの、天使の下に隠れている もの は。

「親馬鹿は、ほっといて話しを始めよう。」
ボルトが、話しを始める。
「そうですね。」
「其れで、我等は何をすれば良いのだ? 」
「城壁を、作るんだよな。セルビィ。」
ボルトは、セルビィに聞いた。

(ああ、やっぱり聞くんだな。)
と、三伯爵は思った。

「うん、と。人員も増えたし。ここに、城壁じゃなくって 砦を作りたいな。」
開拓地の周りの地図に、セルビィは指を差した。
その場合は、土を盛った場所からかなり離れた位置に在った。入り江の様に突き出ている、岩と岩の間に小さな指を滑らせる。
「此所か、開拓地からかなり離れてるが。」
ボルトが、聞いた。
「城壁より、砦の方が護りやすいと思うのです。」
確かに、城壁より兵士が常駐する砦の方が。いざという時、動きやすい。背は岩山で護りは完璧だが、城壁を越えられれば袋小路に追い詰められてしまう。
ボルトは感心して、頷いた。セラムは、ニコニコとして聞いている。三伯爵は、呆然と

(本当に、十歳か!? )
心の中で突っ込んだ。

「ここが、一番狭いから五年位で出来るかな? 」
「五年か。人員、資金、資材の問題だな。」
ボルトは、唸った。
「五年も、掛かるのか。」
「其れでは、娘の婚約解消はどうなる。」
「話が違う。」
三伯爵は、言葉を吐いた。
「僕だって、早く姉様を助けたい。でも、」
セルビィの声が、小さくなった。今にも、泣き出しそうな顔になる。其れはまるで、虐めている様で三人は悪い気分になった。
「中途半端は、いけないです。やるなら、徹底的に やらないと。」
そう言って、セルビィは愛らしく微笑んだ。

(な、何を する気なんだ!! )
其処にいた、親馬鹿以外は聞くのが怖かった。
「姉様たちには、ただで帝王学が学べると我慢して貰います。これ秘密です。」
可愛らしく口元に人差し指をもって来て『しーっ』と、する。
そして、晴れやかに
「その時は、僕が責任をもって。姉様達を、助けます。」
笑った。
その笑顔は、背筋を凍らせる程 晴れやかであった。

四人は、喉を鳴らした。
セルビィは、ボルトに向き直って言う。
「人は、おじ様達の兵士が増えるし 領民も力に成ってくれるよ ね。」
セルビィは、三伯爵を見て微笑んだ。三人は、冷や汗を流した。
「資金も、援助金が増えるし ね。」
三人は、頷いた。
「だが、砦の資材と言うと 足が着く可能性が。」
ボルトは、再び唸った。普通の資材と違って、砦の資材は特別の発注に成ってしまう。其処から、足が着く可能性が出て来る。
「つきませんよ。」
セルビィは、首を傾げて言った。
「砦の資材は、オースト国の砦が発注するのです。」
「何!? 」
四人は、驚いた。
「どう言う、事だ。」
「砦が、修理の為に発注して。廃棄する資材を、使うのです。」
「其れって、横領じゃ。」
三人の誰が、言った。
「違います。廃棄した物の、有効活用です。」
セルビィは、爽やか天使の笑顔を向けた。

(こいつ、砦の資金。国に、出させる気だな。)
其処にいる、親馬鹿以外は そう理解した。
(怖い、怖すぎる。)
四人は、目を合わせ頷いた。
(俺達は、絶対に敵には成らない。なるもんか。)
と、心に刻み込んだ。

「いやー。うちの子は、天使なうえに 天才で。やっぱ、転生者かも。」
セラムは、空気を読まずに高らかに言った。
「父様。転生者は、物語の話しです。現実を、見て下さい。」
冷たい目で、セルビィは父親を見た。
「すまん。」
セラムは、謝って静かになった。

五年後、砦が出来たらどうなるのか。未来に希望の光が見えてる筈なのに、其処にいる四人は何故か恐ろしい者に魅入られてしまったの では と身を震わせるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...