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正式な婚約破棄。

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「公爵家の信書を まだ、お読み下されてないのですか? 」
セルビィは、冷たい目で国王陛下を見据えた。
「有事でも、有りましたでしょうか? 」
凍て付く風の様な、声は会場内へと響いた。

公爵家の信書は、着いた時点で陛下へと届けられる。
有事以外で、それが滞る事は許されない。
セルビィは、その事を国王陛下に聴いていた。
国王は、バツが悪そうに目を反らした。
「陛下は、忙しい御身。些細な、文書を読んでいる暇はないのだ。」
国王の代わりに、宰相が応えた。セルビィの口元が上がった。
「宰相殿、貴方が『それ』を言いますか? 公爵家の信書は、些細な事柄だと。公爵家の貴方が。」
公爵家の者が、貴族子女の前で公爵は『大した事は無い』と言った事になる。
宰相は、顔を赤く染めた。
「豪の者が、何を言っている。場を、弁えろ。」
聖教長が、セルビィを叱咤した。
「これは、聖教長殿。『豪の者』とは、如何な言い方でしょうか。」
セルビィは、聖教長に質問を投げ掛けた。
「神は、信者を分け隔て無く 愛して下されているのでしょう。が、教会は『豪の者』と差別をなさるので しょうか? 」
セルビィは、黒い目を細めた。
「まさか、神の教えを説く者が。その様な事は、ありませんよね。」
聖教長は、セルビィの言葉に押し黙った。
会場内に、険悪な雰囲気が流れる。今年十六歳の少年が、親と同じ年の者を口で凌駕している。其れも、国の中枢にいる者を。
貴族子女達は、固唾を飲んで見守った。
「ハハハハッ、これは一本取られたな。」
軍事総長が、笑いながら言った。その笑いで、場の緊張が解ける。
「なかなかの口達者だな、ランドール公がうらやましい。」
「有難う御座います。軍事総長殿の様に、腕力だけでは。国内は、納められません から。」
セルビィは 軍事総長に対し くすくす と、笑った。
貴族子女達の何人かが ヒソヒソ と、話し出す。
セルビィは、遠回しに軍事総長を『脳筋』と言ったのだ。気付いた者は クスクス と、笑い出す。
セルビィは、国王に向き直り頭を下げた。黒髪に着けられた髪飾りが キラリ と、光る。
「『豪の者』の公爵家の些細な信書には、王太子殿下と公爵家の御子息と。我が姉と伯爵令嬢との、婚約破棄のお願いを書き連ねさせて頂きました。」
セルビィは、首を傾げ 女性の様に口元を手で隠した。
「国王陛下には、取るに足らない公爵家の『豪の者』との婚約破棄です。もちろん、認めて頂けますね。」
セルビィの下から来る言い方に、国王は顔を歪めた。
「と、言いましても。『豪の者』の名誉為に、言わせて貰います。この婚約破棄を望まれたのは、王太子殿下と公爵家の御子息で有ります。」
セルビィの言葉に、国王と三公の大人達は自分の息子達を見る。
「真か? 」
国王が、王太子アランに問い掛けた。
「父上、其れは。」
「王太子殿下には、我が姉と言う婚約者がおりましたが『真実の愛』なる者に出会ってしまったのです。」
セルビィが、殿下に代わって話し出す。
「其れは、公爵家子息方々も同様。姉セルビア、伯爵令嬢方々は泣く泣く身を退いたので御座います。」
セルビィの言葉に、貴族子女達は呆れかえった。先ほどの説明とは、全然違ったからだ。そして感心する。
これが、貴族社会の建前の言葉なのだと。
「故に、国家が決めた婚約を 我々が反故にした訳では無い事を 御理解して頂きたく。国王陛下。」
セルビィは、胸が詰まった様な声を出した。顔も哀しげに、陛下を見上げる。
「其所に居られる、御令嬢の『真実の愛』に姉達は屈したのです。」
国王と三公は、息子達の後に佇むフローネを見る。
フローネは、愛らしく お辞儀をした。
「どうぞ、姉達を哀れとお想いに下さり。この婚約破棄を、認めて下さる事を このセルビィ 頭を下げて御願い致します。」
セルビィは、深々と頭を下げた。貴族子女達は、国王陛下の言葉を固唾を飲んで待った。

「うむ、あい判った。」

セルビィは にやり と、笑った。その顔は、その場の者達には見えなかった。
「国王陛下、伯爵令嬢の方々の婚約破棄も。」
「むろん、よいな。」
「「「はい。」」」
三公は、国王の言葉に返事を返す。会場内が『ワアッ』と、沸き上がった。王太子達と、フローネは手を叩いて喜んでいた。
今此処で国王陛下が、正式に王太子殿下と三公の令嬢達との婚約破棄を認めた事となった。
此処は、公の場であり。覆す事が出来ない表れであった。
「有難う御座います、国王陛下。」
セルビィは、頭を下げたままだった。肩は小刻みに、震えている。其れを国王達は、王家との繋がりが無くなった事を哀しんでいると捉えた。
セルビィは、顔が上げられなかった。顔は、歓喜の余り笑顔が戻せない。口を開けば、笑い声が出てしまいそうになる。
(僕も、まだまだですね。)
セルビィは、大きく息を吸い吐いた。
「其れでは、国王陛下。私は、これでお暇させて頂きます。」
頭を下げたまま、震える声で言った。
「うむ、下がるがよい。」
セルビィは、顔を隠す様に両手覆う。そのまま、足早にこの場を去り始める。


この 国が決めた、婚約を破棄する事の本当の意味を彼等は直ぐに知ることになる。その足音は、刻々と近付いて来ていた。




蔓延の星空の下を、光の川が流れていく。
「あの子、大丈夫かしら。」
「諦めなさい、セルビア様。」
「だって、だって。」
「素晴らしい、姉弟愛ですわ。」
「大丈夫よ、セルビィ君ですもの。」
心配する姉達とは別に、セルビィは微笑みを止める事が出来なかった。
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