永遠のファーストブルー

河野美姫

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永遠のファーストブルー

十二

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 二日後の日曜日。


 まるで空野の味方をするように晴れ渡る空には、白い雲と太陽がその存在を主張していた。数日前までは雨予報だったはずなのに、どうして晴れているのだろう。


 そんなことに思考を巡らせていると、遊園地の入り口に立つ彼女の姿を見つけた。
 裾にレースがあしらわれたオフホワイトのTシャツに、スキニーデニム。シンプルな装いにもかかわらず、空野は人目を引いていた。


「日暮くん!」


 反して、彼女に呼ばれた僕は今日も冴えない。Tシャツにチノパンという格好とはいえ、そんな定番ファッションですら似合っているかどうかは怪しい。


 空野を見ていた視線が僕にも突き刺さるのも感じ、今すぐに帰りたくなった。


「ちゃんと来てくれたね」

「強引にチケットを渡してきた君がそれを言うのか」

「でも、ポストに入れて帰らなかったよね」


 にっこりと笑う彼女の唇が、勝ったと言わんばかりに弧を描いている。


「……見てたとは思わなかったよ」

「日暮くんがポストにチケットを入れたら、潔く諦めるつもりだったよ」


 あっけらかんと言い放つ空野に、やっぱり振り回されているのだと思い知る。


「私は、日暮くんなら来てくれるって信じてたけどね」


 彼女はとてもずるい。迷いもなくそんな風に言われてしまったら、怒る気にもなれない。


「空野って意外と性格悪いよね」


 もっと優等生タイプかと思ってたよ、と皮肉を込めれば、空野が噴き出した。


「日暮くんは、実はすごく優しいよね。学校に友達がいないって言うけど、本当は日陰者ってタイプでもないでしょ?」


 僕は、空野の真っ直ぐな視線が苦手だ。大きな瞳がすべてを見透かしてくるようで、こういう目をした彼女の前では居心地が悪くなる。


「空野には関係ないだろ」


 それを隠して冷たく返せば、空野は特段気にする様子もなく僕の手首を掴んだ。


「ちょっ……!」

「行こ!」


 小さな手に引っ張られて戸惑う僕に反し、彼女の表情は今日の空のように明るい。
 その手を振り払うこともできない僕の心は、たった五分ほどで忙しなく動いていた。


 最初に連れて行かれたのは、メリーゴーランドだった。


「僕は遠慮す――」

「ダメだよ! ちゃんと全部付き合ってもらいます」


 キラキラの装飾に、おとぎ話のような雰囲気。僕みたいな奴が乗ったら、とんだ茶番だ。


「私ひとりで乗るなんて寂しいでしょ? それとも、日暮くんがひとりで乗ってくる? それなら私は待ってるよ?」

「どうしてそんな結論になるんだ」


 空野の暴論に、頭が痛くなりそうだった。彼女がひとりで乗るのならまだしも、僕がひとりでメリーゴーランドに乗るなら罰ゲームじゃないか。


「どうする?」

「乗ればいいんだろ」

「よろしい。日暮くんはあの白い馬ね。私はその隣の仔馬に乗るから」

「えっ……」

「外から見えにくい馬車に乗ろうとしてたでしょ?」


 見透かされていたことに、深いため息が漏れる。僕はやっぱり空野が苦手だ。
彼女が指定した白馬にまたがる僕は、日本一と言えるほど滑稽に違いない。外から見ている人たちの視線が刺さっているのは、できれば気のせいだと思いたい。


「もう~! もっと楽しそうにしてよね」

「……君は楽しそうでいいね」

「遊園地に来てるんだから、楽しいに決まってるじゃない」

「それはよかったよ。こんな辱めを受けてる僕は、今すぐに帰りたいけど」


 皮肉を言ったって、空野は気にも留めずにからりと笑っている。メリーゴーランドが似合うのがまた、なんとも憎らしい。


 けれど、こんな思いをさせられても不快にはならないことが不思議だった。これが彼女の魅力が感じさせるものであるのなら、やっぱりずるいと思う。


 三分間の拷問から解放された僕は、隣でワクワクしながらパンフレットの覗き込む空野を見ながら、そっとため息をつく。


「じゃあ、次はシューティングのやつ! そのあとはお化け屋敷ね!」


 そんな僕に構わず、彼女は満面の笑みで乗り気じゃない僕の背中を押した。

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