短編集

恋愛

ぼんやり

　君と別れてもう5年が経つ。ある日突然吹っ切れたように君への未練がなくなった。そこから趣味に没頭して、仕事も頑張って、少しずつ自分の思い描いた未来へと近づいているような気がした。それでも、たまに君を思い出す。
　なんでもない日曜日の夕暮れ。ふと思い出す。手紙も指輪もまだ取ってあるけれど、つい最近まで存在すらも忘れていた。この気持ちさえも風化していつか君という存在さえもないものになった人生を歩む時、僕はどんな人間として生きることになっているのだろう。
　仕事をして、趣味をして、家事もなんとなくだけやって、一人暮らしを満喫する。そんな生活も、もう5年。自覚のない変化が少しずつ起きて、今僕はここに立っている。そんな時にふと君を思い出すタイミングがある。何がトリガーなのかは分からない。ふと思い出して、元気だといいなって思える。そんなイメージ。人間として強くなるために必要なこと。それが恋愛だとなんとなく分かってきた。
　夕日も沈んで夜に差し掛かる頃、今日も家事へと取り掛かる。また、いつかどこかで出会えた時、君がどうなっているかは分からない。でも、その瞬間に良い方向に変わったねって言われるような人間でありたい。そんなことをぼんやりと考えていた。