短編集

ぽよ

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 東京、某所。今日は友人と待ち合わせをしていた。10年来の付き合いになるネットの友人だった。駅で待ち合わせかと思ったが遅刻してくるとのことでゲームセンターへと向かった。小さいゲームセンターだがガラガラと言うほど空いているわけではない。クレーンゲームや音楽ゲーム。メダルゲームなどいろんなゲームが置いてある。ふらふらと見てまわりながら適当に音楽ゲームをする。適当に2クレジットほど終わったところで連絡が来た。どうやら駅に着いたらしい。ゲームセンターを出て駅まで戻る。そして改札まで行こうというところで目的の人物を見つける。話しかけるより先に話しかけられる。

「やぁ。お腹すいた」
「やぁ。お腹すいたか」
「なんか食べたい」
「喫茶店でもいくか」
「行こー」 

 待ち合わせて早々に空腹宣言。駅近の喫茶店に2人で向かう。自分としても話したいこともあった。それを踏まえると好都合だった。駅から歩いて5分の喫茶店は土曜日にしては空いていた。名前を書かずとも2人席に通される。水とおしぼりを渡されてから、メニューも同時に開く。店員が店内に戻ってから、メニューを本格的に見始める。そこそこの高さのパンケーキ。そしてそれが2段になったもの。考えるだけで恐ろしい気もするが、意外と食べれそうな気もする。2人ともメニューが決まってから店員を呼ぶボタンを押す。一段のパンケーキとオレンジジュース。相手は2段のパンケーキとミルクコーヒーにしたようだ。注文が終わりもう一度店員が店内へと戻っていく。そこから雑談が始まる。

「久しぶりだね」
「数ヶ月ぶりくらいかな」
「元気でよかった」
「ま、なんとかね」
「前に進めてるか?」
「ま、少しずつね。その話もしようと思ってたんだよ」
「ほう」

 不思議そうな顔をする。ここ最近までずっと引きずっていた恋人のことを話そうと思っていた。不思議な顔を崩さないままの友人に話を続ける。

「なんかねー、最近気にならなくなってきたんだよね」
「いいじゃん。いい傾向だと思う」
「最近読んだ本がそんな感じだったからかなぁ」
「ふーん」
「今までずっと気になっててふと気にならなくなったから、ちょっと不思議な感じ」
「前に進めてるってことだと思うよ」
「うん」
「ま、そのうち思い出になるんじゃない?」
「うん」
「頑張れ」
「頑張る」

 話が一区切り。特に気まずいこともなく無言の時間が続く。3分ほど経過したところで注文したメニューがくる。1段でもかなりの量だが、2段はもはや2人分なのではないかという大きさだった。2人で手を合わせて食べ始める。そして話の続きも始まる。

「まぁ、たまに気になる時はある。生きてるのかなーとか元気してるのかなーとか」
「それは大丈夫だよ。私も連絡取ってるし」
「そっか。それならよかった」
「姉さんのこと、よろしくね」
「これで何回目かわからないけど、大丈夫だよ。私がいるから」
「うん」

 恋人と別れて1年と半年。共通の友人である目の前の彼女にずっとグダグダと言い続けていたのに不思議なほどすっぱりと心からいなくなってしまった。それはどういう副作用があるのか、まだ分からない。けれど、きっと前に進めているのだと思う。目の前の友人とパンケーキを食べながら考える。これから先、どうやって生きていこうかと。どうすれば、生きていけるのかと。それも、これから見つけていくことになる。外は生憎の雨。しかし、心はなぜか晴れていた。これから、また次のステップへと進んでいく。少しずつ、見える景色を変えながら。 
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