明太子

ぽよ

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あなた

16話

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 目が覚めると、先輩がニコニコしながら頭を撫でてきた。

「おはよう」
「おはようございます」
「どうだった?」
「暖かくて、幸せでした」
「それは良かった」

 尚も先輩はニコニコしながら手を抜いて立ち上がる。どうやら莉子が起きるまで待ってくれていたようだ。ブラをつけて服を着る。そこであることに気付いた。

「先輩、服どうします?」
「これ着て帰る予定だから大丈夫よ」
「え、私の服着ても大丈夫ですよ」
「帰るの忘れちゃいそうだから」
「仕事場でもいいですよ」
「それなら借りていこうかしら」
「そこのクローゼットと引き出しに入ってます」
「はいはーい」

 先輩は引き出しから服を取り出して手慣れたように着る。かつて恋人の服も着ていたことがあるのだろう。
 適当に取ったかのように見えてその姿は持っている本人よりも似合っていた。

「先輩、似合ってますね」
「あら、ありがとう」
「職場で服の交換会になりそうですね」
「そういえば莉子ちゃんも私の服着てるもんね」
「そうなんですよ」

 苦笑しながら二人で話す。莉子は今から自分の服を着るが、先輩は莉子の服を着ている。これから先輩を見送る前に聞いておくべきことがあった。

「先輩」
「どうしたの?」
「昨日先輩と寝て、今ドキドキするんですけど、これって恋ですか?」
「それが恋かどうかはわからないけど、人を好きになるっていうのはそういうところから始まるのよ」
「なるほど」

 人のことを好きになったことのない莉子でも、ドキドキした。それは、今まで経験したことのないものだった。それが、誰に対して起きるものじゃないことは、莉子が1番よく分かっていた。

「じゃあ、また会社でね」
「なんか寂しいですね」
「あらあら、嬉しい」

 先輩が帰るのを見送る。長い時間だったようでこの部屋にいたのは1日だけだった。それだけでもこの寂しさは拭えないものになっていた。恋というのは、こういうものなのかと、ふと考えていた。
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