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到達点
しおりを挟む受験生にはイベントがない。僕と高島さんは勉強に明け暮れていた。特に何もないまま時間だけが過ぎていく。そして、気がつけば大学入試すらも終わっていた。その後は何かをするわけでもなく、ただただ過ぎていくだけの時間をぼんやりと過ごしていた。
「卒業かぁ」
「なんだか早かったような気がする」
「特にこの1年はそうだね」
「うん」
今日は卒業式。長いようで短かったような気がする。中学校の頃に感じた三年間とはまた違ったものになった。体育館での卒業式も恙無く進み、教室に帰ってくる。担任の先生が戻ってきて、いつものような話をして、クラス全員で記念撮影をした。何気なく並んだつもりが高島さんが隣にいた。担任の先生が撮影する。それが終わると、下校になった。友人と少しだけ話をしてから、荷物を持って教室を出る。下駄箱で靴を履き替えようとしたところで、高島さんを見つけた。何かを考える前に呼んでいた。
「一緒に帰ろう」
「あ、うん」
短い会話の後、校門を抜けて、通学路を2人で歩く。
「もうここを歩くこともないんだねー」
「そうだね」
「3年間、かぁ」
「もっといろんなことができるかなとは思ってた」
「たとえば?」
「なんかこう、高校生らしいこと」
「えー、数学とかじゃなくて?」
「うーん、よく分からないんだけどね」
「なにそれー」
高島さんは笑いながらこっちを見る。それを見て、僕はやっと決意を固める。ここまで長かったし、決めるのも遅かった。けれど、今ここでやらなきゃ、絶対に後悔することになる。そう決めたのはいいけれど、ここでそれはできない。そのまま2人で歩いて、駅に着く。そこで、僕は高島さんを引き止めた。
「あのさ、話があるんだけど」
「どうしたの?」
いざ言おうとすると、緊張する。でも、ここで言わないともう機会はない。だから、勇気を出す。
「僕、高島さんのことが好きだ」
「うん」
「だから、付き合ってほしい」
「うん」
「うん、え?」
「遅いよ!もう高校生活終わっちゃったよ!」
「あ、うん」
「私はずっと山口君のことが好きだったのに」
「うん」
「ずっと待ってたのに」
「ごめん」
「いいよ!今日告白してくれたから許す!」
「あ、ありがとう」
ふと見ると高島さんは涙を流していた。その姿を見て、僕は何も言えずにいた。時間が止まったような錯覚に陥りながら何もできずにいると、高島さんが口を開いた。
「えー、恋人らしいことしたかったなぁ」
「う、うん」
「今日が3月10日かぁ」
「うん」
「あと2週間、全力で楽しむしかないね!」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「今から、何かする?」
「うーん、まだ昼だしデートはできそう」
「どこか行く?」
「電車乗りながら考えよっか」
「うん」
「じゃあ、今からデート行こう!」
「うん」
立ち止まっていた駅の前から歩き始めて駅へと入っていく。2人で改札を抜けて、デートへと向かう。あんなに遠くにいると思っていた高島さんは、ずっと近くにいた。僕は一歩ずつ歩み寄っていたけれど、高島さんはずっと待ってくれていた。そして、これからはずっと高島さんの隣にいる。
「ニヤニヤしてるね」
「まぁ、嬉しいからね」
「私も!」
ホームに出て電車を待つ。その間に高校の思い出話をする。3年間、いろんなことがあった。届かないと思っていた思いが届いたことが何よりも嬉しかった。上を見上げると、どこまでも遠い空が広がっていた。
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