軌跡 Rev.1

ぽよ

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5章

勇気

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 家に帰ってくる。今のこの状態から、言い出すのは勇気がなかった。時間も時間だし、これからまだご飯がある。どんな空気になるか予想もつかないのに切り出すわけにはいかない。

「ただいま」
「おかえり」
「ご飯はもうちょっとしたらできるよ」
「はーい」

 母から告げられる。今は18時だった。ご飯を食べてからでもきっと話はできるはずだ。自分の部屋に戻って荷物を置く。いつもと同じ配置。いつもと同じ空間。部屋をもらってからずっと過ごしてきた場所。自分の部屋。ゴロゴロしながら10分が経過した。

「ごはんできたよ」
「はーい」

 晩ご飯に呼ばれた。ご飯を食べたらいよいよ緊張の時間が始まる。その前に深呼吸だ。気持ちを落ち着けながら、リビングへと向かった。
 机の上にはもう夕食が配膳されていた。座って手を合わせる。

「いただきます」
「いただきます」

 リビングで晩ご飯を食べる。今日はエビフライだった。何一ついつもと変わらないエビフライなのに、気が重かった。坦々とご飯を食べ進め、気がつけばご飯がなくなっていた。それでも味はあった。美味しい夕食を食べられることに感謝する。
 食べ終わった後は、食器を流し台に持っていき、また机に戻る。そして、話の本題を切り出す。

「話があるんだけどさ」
「どうしたの」
「俺、彼氏がいるんだ」
「うん」
「ちょこちょこ泊まってるのも彼氏の家なんだよ」
「うん」

 特に動じることのない母。かなり淡白な返答が返ってくる。勇気を出して話しているのに、何一つ手応えがない。緊張感もあまりない。どうしたものか。

「別に20歳超えてるし、あなたの人生でしょ。決めたなら止めないわ。頑張りなさい」
「う、うん」
「20歳を超えてなければ難しいところもあったでしょうけど、大丈夫よ。何かあったら言いなさい」
「うん」

 母は強い。ということなのだろうか。それにしても予想外だった。反対されると思っていたから。それだけ自分に対して大人の自覚を持ちなさいということでもあるんだろうか。

「結婚とかできないと思うんだけど」
「結婚することだけが幸せな人生じゃないわよ」
「あ、うん」
「頑張ってみなさい。難しくても負けなきゃ大丈夫よ」
「うん」

 続く反応も淡白なものだったけど、力強い返答だった。話が終わったと思った母は、洗い物をするためにシンクへと吸いこまれていった。洗い物をしている母を見ながら思う。母はどんな恋をしてきたのだろうと。機会がある時に聞いてみたくなった。
 立ち上がり、自分の部屋に戻る。これから先、いろんなことがある。賢と二人で乗り越えることもあれば、仁が乗り越えなければならないこともある。
 明日は賢に報告する。何をいうべきか少し悩む。でも、少しずつ吐き出していければきっと大丈夫。そんなことを考えていた。
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