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5章
研究室
しおりを挟む「よっ、いらっしゃい」
「おじゃまします」
扉を開けると、喧騒が広がっていた。その中で異質な程に相変わらず落ち着いた恋人の姿。その後ろに見えるはドタバタ劇。喧騒の正体はこれだった。
「授業は暇だったのか」
「ガイダンスみたいなのをちょろっとやって終わりだった」
「なるほどね」
少しだけ会話をしてから、何事も無いかのように賢の横に座る。賢は色々と卒論の問題点について考えているようだ。相変わらずの後ろの喧騒は全く聞こえないかのような集中だった。
いたずらっぽい笑みを浮かべて賢が笑う。あの姿の先に卒論はあるのだろうか、なんてことを思いながらのんびりする。
「騒がしくてすまんな。アレにはなるなよ」
「あんな感じになるのって、今まで何もしてこなかったのかな」
「まぁそうだろうな」
「なるほど」
「ここにいるのも何だし、今日は帰るか」
「え、うん」
「騒がしくてな」
「まぁ、そうだね」
苦笑いしかできないが、事実ではある。賢と2人で研究室を出てバス停まで歩いていく。その中で、仁が切り出した。
「あのさ」
「どうしたの」
「俺、彼氏がいること、家族に言おうと思うんだ」
「そうか、頑張れ」
「頑張る」
思いの外淡白な反応だったが、それくらいがいいのかもしれない。歩きながら考える。この先の人生、もとより日本での結婚は諦めていた。しかし、そもそも同性の恋人ができるかどうかということも心配だった。
一歩ずつ進んで、いい方向に持っていくことができたらいい。そんな淡い希望を抱きながら、バスに乗る。
「勇気がいるだろうけど、頑張れ」
「え?うん」
「まぁ、俺も通った道だ」
「そうなの?」
「そりゃそうよ」
「そっか」
賢は過去に同性の恋人がいたことがあるのだろう。その時に打ち明けたのかもしれない。その時、どんな感じだったのだろうか。一人暮らしの理由は、そういうところにあるのだろうか。考えたところで聞かなきゃわからない疑問が次々に出てくる。バスに揺られながら、ポツリポツリと出てくる。自分もこれから、そこに飛び込む。何が起きるか分からないけれど、何かはきっと起きる。そんな不安を抱えつつ、恋人を見る。
「ん?どうした?」
「いや、なんでもない」
今ここにいる恋人も、この関係が続いて欲しいと思っていて欲しい。そんな願いを込める。終点まで乗って、そこで賢と解散になる。少しずつ、前に進まないと。
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