軌跡 Rev.1

ぽよ

文字の大きさ
上 下
57 / 107
5章

研究室

しおりを挟む

「よっ、いらっしゃい」
「おじゃまします」

 扉を開けると、喧騒が広がっていた。その中で異質な程に相変わらず落ち着いた恋人の姿。その後ろに見えるはドタバタ劇。喧騒の正体はこれだった。

「授業は暇だったのか」
「ガイダンスみたいなのをちょろっとやって終わりだった」
「なるほどね」

 少しだけ会話をしてから、何事も無いかのように賢の横に座る。賢は色々と卒論の問題点について考えているようだ。相変わらずの後ろの喧騒は全く聞こえないかのような集中だった。
いたずらっぽい笑みを浮かべて賢が笑う。あの姿の先に卒論はあるのだろうか、なんてことを思いながらのんびりする。

「騒がしくてすまんな。アレにはなるなよ」
「あんな感じになるのって、今まで何もしてこなかったのかな」
「まぁそうだろうな」
「なるほど」
「ここにいるのも何だし、今日は帰るか」
「え、うん」
「騒がしくてな」
「まぁ、そうだね」

 苦笑いしかできないが、事実ではある。賢と2人で研究室を出てバス停まで歩いていく。その中で、仁が切り出した。

「あのさ」
「どうしたの」
「俺、彼氏がいること、家族に言おうと思うんだ」
「そうか、頑張れ」
「頑張る」

 思いの外淡白な反応だったが、それくらいがいいのかもしれない。歩きながら考える。この先の人生、もとより日本での結婚は諦めていた。しかし、そもそも同性の恋人ができるかどうかということも心配だった。
 一歩ずつ進んで、いい方向に持っていくことができたらいい。そんな淡い希望を抱きながら、バスに乗る。

「勇気がいるだろうけど、頑張れ」
「え?うん」
「まぁ、俺も通った道だ」
「そうなの?」
「そりゃそうよ」
「そっか」

 賢は過去に同性の恋人がいたことがあるのだろう。その時に打ち明けたのかもしれない。その時、どんな感じだったのだろうか。一人暮らしの理由は、そういうところにあるのだろうか。考えたところで聞かなきゃわからない疑問が次々に出てくる。バスに揺られながら、ポツリポツリと出てくる。自分もこれから、そこに飛び込む。何が起きるか分からないけれど、何かはきっと起きる。そんな不安を抱えつつ、恋人を見る。

「ん?どうした?」
「いや、なんでもない」

 今ここにいる恋人も、この関係が続いて欲しいと思っていて欲しい。そんな願いを込める。終点まで乗って、そこで賢と解散になる。少しずつ、前に進まないと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

捨てられ子供は愛される

やらぎはら響
BL
奴隷のリッカはある日富豪のセルフィルトに出会い買われた。 リッカの愛され生活が始まる。 タイトルを【奴隷の子供は愛される】から改題しました。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

処理中です...