48 / 107
4章
昼
しおりを挟む
「昼はどこに食べに行く?」
「食堂かなぁ」
「よし行くか」
相変わらず昼食は食堂に決まる。楽だからいいのだが。しかし、話したいこととはなんだろうか。難しい話題であることは間違い無いだろう。
夏休みの食堂は思っていたより空いていた。もうちょっと人がいてもおかしく無いのだが。しかし食堂で出来る話なのかもわかっていない。とりあえず昼食は食堂という意味かもしれない。その意図は、仁にしか分からない。
いつもと同じ流れで券を買って、いつもと同じ流れでご飯をもらうところまではいつもと同じだった。2人でご飯を食べたあと、仁が話しかけてきた。
「俺、今悩んでることがあってさ」
「おう、どうした」
悩み相談であることはなんとなく分かっていた。中身までは分からないが、大事な話であることは分かる。やけに静かだったはずの食堂は、少しずつ喧騒を帯びていく。そんな状況でも、仁の話ははっきりと聞こえるほど、賢は集中して話を聞いていた。
「あのね、やっぱり俺不安なんだよ」
「どうしたの」
「俺の今の気持ちが正しいのかどうか」
「どういうこと」
「うーん、やっぱり大学きてても旅行に行っても、恋人といえば異性っていう価値観でこの国は作られてきたんだと思った。大多数が支配する社会ではなくなってきてるけど、それでもやっぱりこれから先のことが不安になる」
「そっか」
「賢は、これから先やっていけると思う?」
「まぁ、そうだね。仁との関係で不安に感じたことはない。何かがあったら乗り越えていくしかねえんじゃねえかなぁと思うよ」
「そっか」
言いたいことはわかるのだが、明確な回答と返事は難しかった。賢もかつては悩んだことだった。自分の立ち位置は正しいのか、という悩み。結局賢は悩んだところで仕方ないという方向になってしまったのだが、それはそれで一つの生きる道だと思っている。仁がこれからどんな選択をするかは分からない。それは賢に関わることであることもあるだろう。
「ごめんね」
「なんで?」
「いや、うん。なんかこんな話で」
「まぁ、それは俺も悩んだことあるよ」
「えっ、そうなの?」
「そうだね。遥か昔の日本は同性愛に厳しかったから」
「そっかぁ」
遥か昔とは言いつつも、まだまだ賢が中学生のころ。仁は2歳年下なので、もしかしたら中学生だったかもしれないくらいの話ではあるのだが。問題も、そんなに難しいことを考えていたわけではない。男のことも好きになる自分の存在について考えていた。それだけだ。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
「そっか。難しい問題だとは思うんだけどね。なんとかならないかなぁ」
「なんとかしたいと思うなら行動あるのみだな」
「例えば?」
「署名とか」
「あー」
賢が思っていたような反応は出てこなかった。賢も現実的ではないと思ったけれど。しかし仁の思いにはなんとかして答えたい。この気持ちに嘘はない。
「ありがと!スッキリした!俺もなんかできること考えてみる!」
「え?あぁ、おう」
「この後はまた研究室なの?」
「そうだなぁ」
「じゃあ横で勉強するー」
「はいよ」
流し忘れていた食器を流し台まで持っていき、返却してから研究室へと戻っていく。少しずつでも、歩み寄りながら、2人で成長していこう。その思いを胸に、研究室に戻った。
「ただいまー」
「おかえり」
賢の声がして、扉が開く。研究室に戻ってきた。そこには仁もいた。素知らぬ顔で賢の隣の空席に座る仁。そこで読書をする。賢はまた中間発表の資料作りを始めた。研究室の中はまだまだ喧騒に包まれていた。いままで研究をしてこなかった学生がバタバタしているようだった。
「賢は終わりそうなのか?」
「まぁ、今日あと2時間くらいかな」
「まじかよ」
「おうよ」
涼しい顔で返答する賢。他の学生とは全く違う様子で淡々とPCと向き合う。そんな横顔を見ながら仁も本を読む。賢がこちらを向いて聞こえるかどうかくらいの声で話しかけてきた。
「仁はあんな風になるんじゃないぞ」
「え、あ、うん」
すこしだけ意地悪な顔をしている賢を見てから、教授とバタバタしている学生を見る。あれだこれだという話であったり、論理的に穴があるものをひたすら指摘されているような気がする。
クーラーが効いているはずの研究室は、人口密度と議論の盛り上がりでかなり熱く感じた。そんな中でも涼しい顔をしながらパソコンと格闘する賢がいる。すこしだけ不思議な風景だった。仁も読書をしている。賢のパソコンが終われば一緒に何かがしたい。のんびりしながら部屋の涼しさが戻ってきたかと思う。時間の流れもゆっくりに感じる。のんびり本を読むことにしよう。
「今日、泊まっていくか?」
「え?いいの?」
「別に暇だしね」
「そっか」
唐突に賢からの提案。戸惑ったが、乗らない手はない。今日はお泊まり。服は賢の部屋にあるものを借りることにしよう。急遽決まった泊まりに心を踊らせながら、読書を続けた。
「食堂かなぁ」
「よし行くか」
相変わらず昼食は食堂に決まる。楽だからいいのだが。しかし、話したいこととはなんだろうか。難しい話題であることは間違い無いだろう。
夏休みの食堂は思っていたより空いていた。もうちょっと人がいてもおかしく無いのだが。しかし食堂で出来る話なのかもわかっていない。とりあえず昼食は食堂という意味かもしれない。その意図は、仁にしか分からない。
いつもと同じ流れで券を買って、いつもと同じ流れでご飯をもらうところまではいつもと同じだった。2人でご飯を食べたあと、仁が話しかけてきた。
「俺、今悩んでることがあってさ」
「おう、どうした」
悩み相談であることはなんとなく分かっていた。中身までは分からないが、大事な話であることは分かる。やけに静かだったはずの食堂は、少しずつ喧騒を帯びていく。そんな状況でも、仁の話ははっきりと聞こえるほど、賢は集中して話を聞いていた。
「あのね、やっぱり俺不安なんだよ」
「どうしたの」
「俺の今の気持ちが正しいのかどうか」
「どういうこと」
「うーん、やっぱり大学きてても旅行に行っても、恋人といえば異性っていう価値観でこの国は作られてきたんだと思った。大多数が支配する社会ではなくなってきてるけど、それでもやっぱりこれから先のことが不安になる」
「そっか」
「賢は、これから先やっていけると思う?」
「まぁ、そうだね。仁との関係で不安に感じたことはない。何かがあったら乗り越えていくしかねえんじゃねえかなぁと思うよ」
「そっか」
言いたいことはわかるのだが、明確な回答と返事は難しかった。賢もかつては悩んだことだった。自分の立ち位置は正しいのか、という悩み。結局賢は悩んだところで仕方ないという方向になってしまったのだが、それはそれで一つの生きる道だと思っている。仁がこれからどんな選択をするかは分からない。それは賢に関わることであることもあるだろう。
「ごめんね」
「なんで?」
「いや、うん。なんかこんな話で」
「まぁ、それは俺も悩んだことあるよ」
「えっ、そうなの?」
「そうだね。遥か昔の日本は同性愛に厳しかったから」
「そっかぁ」
遥か昔とは言いつつも、まだまだ賢が中学生のころ。仁は2歳年下なので、もしかしたら中学生だったかもしれないくらいの話ではあるのだが。問題も、そんなに難しいことを考えていたわけではない。男のことも好きになる自分の存在について考えていた。それだけだ。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
「そっか。難しい問題だとは思うんだけどね。なんとかならないかなぁ」
「なんとかしたいと思うなら行動あるのみだな」
「例えば?」
「署名とか」
「あー」
賢が思っていたような反応は出てこなかった。賢も現実的ではないと思ったけれど。しかし仁の思いにはなんとかして答えたい。この気持ちに嘘はない。
「ありがと!スッキリした!俺もなんかできること考えてみる!」
「え?あぁ、おう」
「この後はまた研究室なの?」
「そうだなぁ」
「じゃあ横で勉強するー」
「はいよ」
流し忘れていた食器を流し台まで持っていき、返却してから研究室へと戻っていく。少しずつでも、歩み寄りながら、2人で成長していこう。その思いを胸に、研究室に戻った。
「ただいまー」
「おかえり」
賢の声がして、扉が開く。研究室に戻ってきた。そこには仁もいた。素知らぬ顔で賢の隣の空席に座る仁。そこで読書をする。賢はまた中間発表の資料作りを始めた。研究室の中はまだまだ喧騒に包まれていた。いままで研究をしてこなかった学生がバタバタしているようだった。
「賢は終わりそうなのか?」
「まぁ、今日あと2時間くらいかな」
「まじかよ」
「おうよ」
涼しい顔で返答する賢。他の学生とは全く違う様子で淡々とPCと向き合う。そんな横顔を見ながら仁も本を読む。賢がこちらを向いて聞こえるかどうかくらいの声で話しかけてきた。
「仁はあんな風になるんじゃないぞ」
「え、あ、うん」
すこしだけ意地悪な顔をしている賢を見てから、教授とバタバタしている学生を見る。あれだこれだという話であったり、論理的に穴があるものをひたすら指摘されているような気がする。
クーラーが効いているはずの研究室は、人口密度と議論の盛り上がりでかなり熱く感じた。そんな中でも涼しい顔をしながらパソコンと格闘する賢がいる。すこしだけ不思議な風景だった。仁も読書をしている。賢のパソコンが終われば一緒に何かがしたい。のんびりしながら部屋の涼しさが戻ってきたかと思う。時間の流れもゆっくりに感じる。のんびり本を読むことにしよう。
「今日、泊まっていくか?」
「え?いいの?」
「別に暇だしね」
「そっか」
唐突に賢からの提案。戸惑ったが、乗らない手はない。今日はお泊まり。服は賢の部屋にあるものを借りることにしよう。急遽決まった泊まりに心を踊らせながら、読書を続けた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる