軌跡 Rev.1

ぽよ

文字の大きさ
上 下
42 / 107
3章

将軍の観光

しおりを挟む
 大都会だからこそ暑いのかもしれないが、やっぱり暑い。それでも歩いていられるのは横に恋人がいるからかな。のんびりと歩きながら街並みを見る。今日は一体何をしようか。

「今日は城でも見に行こうか」
「城かぁ。いいね」

    この街にも城がある。かつて天下統一をしようとした戦国武将の出身だ。城くらいあってもおかしくはない。かつて栄えた城下町は形として残っていないが、おまけに大都会が出来上がっていた。その城はここから少しだけ歩く。歩いた先には大きな城が待っていた。

「これかー!」
「でかいなぁ」
「大きいね」

    春には桜で視界が覆い尽くされるという城は、もはや聳えるという方が表現が正しいんじゃないかと思うほど。そんな城にも堀があり、本体もある。早速ながら、入っていくことにした。

「おー」
「仁は初めてか?」
「いや、地元の城には行ったことある。こんなに立派じゃなかった気がするけど」
「そうか」
「ま、これでも一応過去の戦国武将と同じ名字だからね」
「俺もそうだよ」

    豊臣と徳川。その名前は、日本なら知らない者はいないだろうというほど有名な戦国武将だった。その二人が、今こうして城の敷地内を歩く。改めて感じる自分の身長とは比べ物にならないほどの大きさの何か。いつかはこんな城が欲しい。なんて夢も子供の頃に見た。門を抜けて、しばらく歩けば城に入ることができる。

「いよいよか」
「楽しく誰かを討ち取るのか?」
「いやそういうわけじゃないけど」

    本物の戦国武将であるかのような会話をする。討ち取るなら大学の教授がいい。そんなことを考えながら歩く。中は立派だった。天守閣は大きいし、城そのものも見事だった。城巡りをしても楽しいかもしれない。中を見て回りながら感じたことだった。

「俺も城を回るのは久しぶりだ」
「賢は行ったことあるのか」
「他の城にはな」
「そっか」
「ここほど大きな城に来るのは初めてかもしれん」
「そうなのか」

    賢はいろんなことを知ってるなぁなんて呑気なことを考えながら、城を出て街に戻ってくる。時間はすでに13時を回っていた。

「いろんなところを回ると時間が経つのが早いな」
「そうだね」
「そろそろお昼にしよう」
「了解」

    二日目の昼食。特に何も決めていなかった。この辺りに美味しいご飯屋さんがあるのかどうかもわからない。こういう時はマップで検索。二人で色々と条件を変えて調べてみる。

「この辺はまぜそばが有名らしい」
「そうなんだ」
「行くか」
「うん」

    駅の方まで戻り、まぜそばの店を探す。観光もひと段落した。あとはグルメだけだ。まぜそばというものを食べたことがない二人は、ラーメンの延長にあるのか、なんてことをぼんやりながら考えていた。
 適当にマップを見ながら歩けば、看板も上がってない店が、その店だった。

「危うく見逃すところだった」
「マップはすごいね」
「本当だね」

    店に入るとそこは、世間一般に表現されるラーメン屋とは違う雰囲気だった。不思議な雰囲気の店に入り、メニューを見る。

「これだ」
「これだね」

    メニューを見て、一目でそれだと分かった。店主を呼んで、注文を済ませる。少ししてからまぜそばがくる。そのラーメンとは明らかに一線を画す麺類に、なぜかドキドキした。

「思ってたよりはラーメンじゃなかったな」
「そうだね」

 見慣れない見た目のそれをひとまず食べてみることにする。休みの日の昼にしては空いている店内は静かだった。

「おいしい」
「おいしいな」

    味も食感もラーメンとはやっぱり違った。気がつけば、食べることに夢中になっていた。

「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」

    食べ切ったあとは手早く会計して店を出る。時刻は14時だった。涼しい店内から出てみると一転、灼熱地獄の街が待っていた。やることがあるわけでもなく、観光もすでに終わった。何をしようと考えていた。

「そろそろ帰る準備するか」
「え、うん」
「一泊二日だとどうしても短くなるけど、多分今から帰ると家に着くのは16時ごろだ。そう思えばまぁ悪くない時間だし」
「なるほど」

    確かに、無理にやることを見つけて動くよりは、いいのかもしれない。

「駅まで歩くかぁ」
「そうしよう」

    デートも終盤。しかし、ちゃんと帰るまでがデートであることは間違いない。全力で楽しめたデートだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

捨てられ子供は愛される

やらぎはら響
BL
奴隷のリッカはある日富豪のセルフィルトに出会い買われた。 リッカの愛され生活が始まる。 タイトルを【奴隷の子供は愛される】から改題しました。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

処理中です...